脳神経系

2014.03.22

知っておきたい高齢者の不眠診療  井上雄一教授

2014年3月12日 MMパークビル6Fエーザイ株式会社横浜コミュニケーションオフィス
演題「知っておきたい高齢者の不眠診療 -対応と処方のコツ-」
演者:東京医科大学睡眠学講座教授 井上雄一先生
内容「
年齢とともに睡眠時間のうちの、生まれたばかりはほぼ半分をして目ているレム睡眠が主として減少してくる。10台を超えるとノンレム睡眠も都市とともに減少してくる。

Roffwarg, HP., Muzio, JN., Dement, WC. 1966 Ontogenic development of the human sleep-dream cycle. Science 152: 604-19. を一部改変
参: レム睡眠とノンレム睡眠
レム睡眠の特徴としては、
①急速眼球運動があらわれること、
②脳波が入眠期から軽睡眠期に似たパターンを示すこと、
③身体の姿勢を保つ筋肉(抗重力筋、姿勢筋)の緊張がほとんどなくなること、などです。その他の特徴として、
④感覚刺激を与えても目覚めにくい。
⑤レム睡眠には脈拍、呼吸、血圧など自律神経機能が不規則に変化し、この時期には性器の勃起が起こるため、自律神経系の嵐とも呼ばれる。
⑥この時期に眠りについている人を起こすと80%以上の人が夢を見ているなどがあげられます。レム睡眠はヒトでは全体の睡眠の約20%を占めますが、新生児では50%にも達しており、成長するに従って減少していきます(図9)。このことからレム睡眠の役割として中枢神経系の発達に関連すると考える説もあります。また、昼間に多く学習した日は、夜にレム睡眠が増加することなどから、記憶情報処理などに重要な働きをしていると考えられています。このように脳は働いているが、身体の筋肉がゆるんでいることから、身体の睡眠ともよばれています。
 これに対してノンレム睡眠の特徴としては、
①入眠期の浅い睡眠段階ではゆっくりと揺れるような眼球運動がみられるが、その後、睡眠が深くなると眼球の動きは停止する。
②脳波は活動が低下し、周波数が遅くなる。
③身体の筋肉の緊張は保たれ、
④脈拍、血圧、呼吸が安定し、
⑤この時期に眠っている人をおこすと、目覚めが悪く、夢を見ていることは少ない。またこの時期には後に述べるように成長ホルモン分泌や蛋白同化が行われ、また、免疫増強作用がある。このようなノンレム睡眠は大脳の睡眠ともよばれます。
 レム–ノンレム睡眠は併せて疲労、ストレスが回復する役割を果たしているといえましょう。
ノンレム睡眠(徐波睡眠)    レム睡眠(夢見睡眠)
  大脳の睡眠     
  成長ホルモン分泌     身体の睡眠
  体温低下           記憶の固定、消去、学習
  蛋白同化
  免疫機能増加        情報処理?
         疲労、ストレスの回復

睡眠の段階別にみてみると、深い睡眠といわれているStage3+4(SWS)が高齢者になると著減し、65歳を超えるとStage4はほとんどみられる、70歳を超えるとStage3もほとんど見られなくなってくる。


それ以外の特徴としては、下記の図にある黒く塗られている覚醒段階が増えてきて、睡眠が浅くなって、中途覚醒が増えることになる。

三島和夫 1998.老年者の睡眠 井上昌次郎(監)
「眠りのバイオロジー」 メデイカル・サイエンス・インターナショナル P12-14
生体のリズム周期のひとつとして体温の変化があるが、若年健康人は体温の高低差が大きく高齢者になると体温変化が小さくなる。このことが夜の眠りが浅いことに関係しているといわれている。その上体温低下の時間帯が前倒しになり、寝る時間もそのれに応じて早寝早起きになっている。


(講演で提示された図表はこのグラフが一体化したもの)
この体温変化を担っている一つの物質としてメラトニンがあげられる。

このメラトニンであるが、下図にあるように高齢者においては分泌量が低下しており、この変化が体温低下にも影響していると考えられている。

また、メラトニンの分泌は日中少なく、真夜中にピークを迎える。光を浴びてから14時間以上たたないとメラトニンの分泌が起こらない。

不眠の原因としては以下のような原因がある。
① 心理学的原因:ストレス、重篤な疾患、人生の大変化などが原因で起こる不眠。
② 身体的原因:さまざまな身体的疾患や、その症状(痛み、かゆみ、咳、頻尿、発熱)が原因で起こる不眠。
③ 薬理学的原因:アルコールやカフェインなどの嗜好品に含まれる成分や、治療のため服用している薬(降圧剤、アレルギー薬、ステロイド薬など)が原因で起こる不眠。
④ 生理学的原因(概日リズムの乱れ):ジェット時差(時差ぼけ)、交代勤務、短期の入院などが原因で起こる不眠。(*呼吸調節系の老化:睡眠時無呼吸症候群4-5%に見られるが、60歳以上では10%を超えるといわれている。 *上位脊髄の運動・感覚抑制系の障害:ムズムズ足症候群など)
⑤ 精神医学的原因:アルコール依存症、不安、パニック障害、大うつ病などが原因で起こる不眠。
これらの要因が相互に関連しあって、不眠が生じ、より悪化させている。

不眠症には4つのタイプがあり、下記のような症状が、1ヵ月以上続き、社会生活に支障がある場合を「不眠症」という。
入眠障害:床に入ってもなかなか寝つけない、眠りにつくのに30分~1時間以上かかり、それを苦痛と感じる。
中途覚醒:夜中に何度も目が覚めて、その後、なかなか寝つけない。
早朝覚醒:朝早く目が覚めて、もう一度眠ることができない。
熟眠障害:睡眠時間は十分なのに、ぐっすり眠った感じが得られなかったり、眠りが浅いと感じたりする。
年代別の睡眠障害の頻度を見てみると

財団法人健康・体力づくり事業財団:平成8年度健康づくりに関する意識調査、報告書(1997)

米国で実施された調査(1982-1988年、女性636095人、男性480841人の睡眠時間と6年後の死亡率の関連を検討したものが、下記の図であり、59歳以下の場合には睡眠時間が短いほど予後が悪いが、高齢になってくると、長時間睡眠者の死亡率の上昇が顕著となってくる。

Kriple, D.F. Archives of GeneralPsychiatry 1979;36:103-116

不眠症により以下の弊害や障害が生じやすくなってくる。
① QOLの低下
② うつ病発現のリスク上昇
③ 認知機能障害
④ α-synucleinopathy(パーキンソン病、レビー小体病、多系統委縮症を総称した言葉)への発展
⑤ 転倒・受傷リスクの上昇
⑥ 心血管系合併症・死亡率の増加
などがみられる。
不眠治療のアルゴリズムを以下の表に示す。
先ずは患者さんの病態を把握することが大切である。身体的な要因やその他の睡眠障害の因子を評価し、睡眠衛生指導を行う。

*** 参:睡眠衛⽣生のための指導内容 ***
定期的な運動:なるべく定期的に運動しましょう。適度度な有酸素運動をすれば寝つきやすくなり、睡眠が深くなるでしょう。
寝室環境:快適な就床環境のもとでは、夜中の⽬目が覚めは減るでしょう。⾳音対策のためにじゅうたんを敷く、ドアをきっちり閉める、遮光カーテンを⽤用いるなどの対策も⼿手助けとなります。寝室を快適な温度度に保ちましょう。暑すぎたり寒すぎたりすれば、睡眠の妨げとなります。
規則正しい⾷食⽣生活:規則正しい⾷食⽣生活をして、空腹のまま寝ないようにしましょう。空腹で寝ると睡眠は妨げられます。睡眠前に軽⾷食(特に炭⽔水化物)をとると睡眠の助けになることがあります。脂っこいものや胃もたれする⾷食べ物を就寝前に摂るのは避けましょう。
就寝前の⽔水分:就寝前に⽔水分を取りすぎないようにしましょう。夜中のトイレ回数が減ります。脳梗塞塞や狭⼼心症など⾎血液循環に問題のある⽅方は主治医の指⽰示に従ってください。
就寝前のカフェイン:就寝の4時間前からはカフェインの⼊入ったものは摂らないようにしましょう。カフェインの⼊入った飲料料や⾷食べ物(例例:⽇日本茶茶、コーヒー、紅茶茶、コーラ、チョコレートなど)をとると、寝つきにくくなったり、夜中に⽬目が覚めやすくなったり、睡眠が浅くなったりします。
就寝前のお酒:眠るための飲酒は逆効果です。アルコールを飲むと⼀一時的に寝つきが良良くなりますが、徐々に効果は弱まり、夜中に⽬目が覚めやすくなります。深い眠りも減ってしまいます。
就寝前の喫煙:夜は喫煙を避けましょう。ニコチンには精神刺刺激作⽤用があります。
寝床での考え事:昼間の悩みを寝床に持っていかないようにしましょう。⾃自分の問題に取り組んだり、翌⽇日の⾏行行動について計画したりするのは、翌⽇日にしましょう。⼼心配した状態では、寝つくのが難しくなるし、寝ても浅い眠りになってしまいます。
日本人の不眠症の有病率は20%強と考えられている。

不眠の割合は国によっても異なるし、年齢によっても異なってくる。概して、高齢者女性に多い傾向にある。

不眠の訴えの国際比較

不眠の年齢比較
高齢になると、睡眠薬の服用頻度も上昇してくる。

睡眠薬の使用率
日本においては、医師のもとを訪れて、睡眠薬を処方してもらうことを選択するよりも、アルコールに頼っている場合が少なくない。

睡眠薬にはいくつかの種類がある。以前はベンゾジアゼピン系薬剤しかなかったが、近年、アモバン、マイスリー、ルネスタといった非ベンゾジアゼピン系薬剤(ベンゾジアゼピン系薬剤の中で筋肉の弛緩作用が弱いタイプのもの:ふらつき転倒が少ない)、メラトニン製剤であるロゼレムが発売され、治療薬に幅が出てきた(バルビツール系薬剤は、一般的にはほとんど使われていない)。

睡眠薬に対する不安としては、依存性がありやめられなくなることや飲み続けることにより薬の効果が減弱・消失すること、翌日への持越しが多い。

2006年の内村の報告によると、翌日の眠気・倦怠感、ふらつき・転倒がそれぞれ1/4程度見られた。

ルネスタの投与では、高齢者においても日中の活動機能が向上し、軽民といった副作用は3.7%と低率であった(味覚障害が多いのがこの薬剤の特徴で、ある患者さんは、服用するときにすぐに呑み込むようにされている)。

ルネスタとプラセボ投与の比較では、長期間服用した群と途中から投与した群では睡眠潜時に変化はほとんど見られず、有害事象も両群間で差がなかった(見方を変えると、プラセボのみの投与期間においても、睡眠潜時は明らかに改善していることからもわかるように、寝る前の精神状態が、不眠に大きく影響している)。

突然の睡眠薬の中止によっても、一過性に睡眠潜時はやや伸びるが、その後すぐに、元の状態に移行しているので、反跳性不眠の少ない薬剤といえる。

参:不眠への対処法

http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-001.html

早川 達郎CLINICAL NEUROSCIENCE 22(1):51-54,2004、臨床精神医学34:45-51,2005

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