脳神経系

2014.06.02

不眠症患者さんへの対応と睡眠薬の使い方 谷口充孝先生

3014年5月26日 横浜医療センター 2F 大会議室
演題「不眠症患者さんへの対応と睡眠薬の使い分けのポイント」
演者:大阪海性病因睡眠医療センター部長 谷口充孝先生
内容及び補足「
不眠症は、眠る機会や環境が適切であるにもかかわらず、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害の症状を週3回程度経験し、それが1カ月以上続く場合不眠症の可能性が高くなる。
 
睡眠障害国際分類第2版(ICSD-2)による不眠症の一般的基準を下に示す。
 
アメリカにおいては、1983年において不眠症は原発性の障害ではなく症状の一つであり、治療としての睡眠薬は短期間のみの原則使用が謳われていた。
というのはそのころ使われていた眠剤には、2~3週間継続して使用すると耐性(薬剤の増量が必要)が出現したり、習慣性があったり、反跳性睡眠(ンゾジアゼピン系睡眠薬を服用することによって、ほぼ 満足できる睡眠が得られるようになった段階で、突然服用を中止すると服用前より強い 不眠が現れるようになること)が見られたからである。
2005年に不眠症は障害(syndrome)であり、他の疾患を合併することが多いとの概念に変更され、『睡眠薬の使用により不眠症の改善は他疾患の改善につながる場合があるばかりでなく、より最近の睡眠薬の方が副作用の頻度や重症度が少ない』との見解に至った。
現在アメリカは『Healthy People 2020』と題した取り組みをしており、その中でSleep Healthとして、
① 感染と闘う
② 糖尿病の予防のために糖代謝のサポート
③ 学校でよく活動する
④ 効率的かつ安全に作業する
という項目を挙げて取り組んでいる。
睡眠障害により、以下の状態の危険度が上昇することが知られている。
① 心疾患
② 高血圧
③ 肥満
④ 糖尿病
⑤ 全ての死因の死亡率

Ohayon 2002のデータからは
不眠症の症状を有する割合は30~48%
週3夜以上に症状を認める頻度は16~21%
中程度から高頻度は10~28%
不眠症状+日中への影響9~15%
睡眠の質と量に対する不満足は8~18%
診断基準に当てはまる不眠症は6%と報告されている。

我が国において一般人口の10~30%に認められ、1997年の血行・体力づくり事業団が行った全国調査で21.4%に不眠症が認められた。
平成20年度のこころの健康科学研究事業で行われた不眠症の疫学調査においては、不眠症の有病率は13.5%、で不眠症に加え日中の障害を認める症例は3.8%であった。
入眠障害は9.8%、中途覚醒+再入眠困難は7.1%、早朝覚醒+再入眠困難6.7%、日中障害は7.3%であった。

不眠症はDSM-5でSleep-Wake DisordersのところでInsomnia Disorder不眠障害として扱われている。
定義としては
不眠症(入眠困難、睡眠の維持障害:中途覚醒や早朝覚醒)をもち、睡眠の量や質に関する不満足間の訴え
睡眠の障害が日中の生活上(社会生活や仕事、学校の生活など)の支障を招いている
週に3晩以上、3ヶ月以上の持続
睡眠をとる機会が十分にある
不眠の慢性化(しばしば慢性疾患を合併)
短期間の不眠であっても再燃を繰り返す

診断に関しては二次性不眠の鑑別が重要である。
一過性の過度なストレスによる影響がないか、疼痛などのために不眠が生じていないか、生活習慣の乱れがないか、薬剤の影響、精神疾患の影響、睡眠関連呼吸障害・運動障害の存在の有無などの除外が必要である。

治療のアルゴリズムを示す。
高血圧の治療のアルゴリズムと同じように、薬物使用による不眠の治療が早急に必要な状況であるのか、生活習慣の指導や認知行動療法による効果出現まで待てる状況であるかの判断は重要である。

睡眠の質としての自覚は、目覚めた時の感覚がかなり決め手となる。その要因の一つとして、睡眠効率=睡眠時間/寝床にいる時間×100がある。睡眠効率が80%以上にならないと熟眠感が生じないといわれている。
例えば、夜10時にベッドに行き、夜中0時から朝6時までの睡眠の場合6/8×100=75%で熟眠感がない場合、夜11時半にベッドに行って何時ものように、夜中0時から朝6時まで睡眠がとれた場合6/6.5×100=92.3%となり、熟眠感が生じうる。
非薬物治療として以下のような生活指導を勧めてみることも有用である。
*** 睡眠衛⽣生のための指導内容 ***
睡眠薬の適正な使⽤と休薬のための診療ガイドライン」より
定期的な運動:なるべく定期的に運動しましょう。適度度な有酸素運動をすれば寝つきやすくなり、睡眠が深くなるでしょう。
寝室環境:快適な就床環境のもとでは、夜中の⽬目が覚めは減るでしょう。⾳音対策のためにじゅうたんを敷く、ドアをきっちり閉める、遮光カーテンを⽤用いるなどの対策も⼿手助けとなります。寝室を快適な温度度に保ちましょう。暑すぎたり寒すぎたりすれば、睡眠の妨げとなります。
規則正しい⾷食⽣生活:規則正しい⾷食⽣生活をして、空腹のまま寝ないようにしましょう。空腹で寝ると睡眠は妨げられます。睡眠前に軽⾷食(特に炭⽔水化物)をとると睡眠の助けになることがあります。脂っこいものや胃もたれする⾷食べ物を就寝前に摂るのは避けましょう。
就寝前の⽔水分:就寝前に⽔水分を取りすぎないようにしましょう。夜中のトイレ回数が減ります。脳梗塞塞や狭⼼心症など⾎血液循環に問題のある⽅方は主治医の指⽰示に従ってください。
就寝前のカフェイン:就寝の4時間前からはカフェインの⼊入ったものは摂らないようにしましょう。カフェインの⼊入った飲料料や⾷食べ物(例例:⽇日本茶茶、コーヒー、紅茶茶、コーラ、チョコレートなど)をとると、寝つきにくくなったり、夜中に⽬目が覚めやすくなったり、睡眠が浅くなったりします。
就寝前のお酒:眠るための飲酒は逆効果です。アルコールを飲むと⼀一時的に寝つきが良良くなりますが、徐々に効果は弱まり、夜中に⽬目が覚めやすくなります。深い眠りも減ってしまいます。
就寝前の喫煙:夜は喫煙を避けましょう。ニコチンには精神刺刺激作⽤用があります。
寝床での考え事:昼間の悩みを寝床に持っていかないようにしましょう。⾃自分の問題に取り組んだり、翌⽇日の⾏行行動について計画したりするのは、翌⽇日にしましょう。⼼心配した状態では、寝つくのが難しくなるし、寝ても浅い眠りになってしまいます。

日本人の不眠症の有病率は20%強と考えられている。
薬物療法:1950年頃に開発されたいバルビツール系薬剤は治療域が狭く、耐性や習慣性、依存性があり、かなり問題であった。
1960年代にベンゾジアゼピン系薬剤が開発され、数多く使用されるようになったが反跳性不眠(薬剤の量を急激に減らしたり中断したりした際に服用以前よりも強い不眠が出現すること)や筋弛緩作用のためのふらつきや転倒が問題となった。
救反跳性不眠は作用時間が短いもので生じ、ひどい場合には、不眠症状がひどくなるだけでなく、不安感・焦燥・振戦が生じたり、過度の発汗、せん妄、痙攣などの退薬症候が生じたりすることもあるので、作用時間が長いものに変更するなどして薬剤の漸減法を行う必要がある。

2000年になりZ drugといわれるZolpidem、Zopiclone、Eszopicloneといった薬剤が開発され、副作用の心配がかなり減少してきた。
薬物治療の際には、患者の睡眠障害のパターンを考え、作用時間や、副作用を考慮して薬物を選択していくことになる。

ベンゾジアゼピン系薬物は神経系に抑制的に働くGABA(γアミノ酪酸)作動性神経の活動を亢進させ、興奮した神経系を鎮めることで薬理作用をもたらす。GABAが結合するGABAa受容体とベンゾジアゼピン系薬物が結合するBZP受容体は同一膜状に存在し、神経細胞の電気的興奮を調節するCl-チャンネルとともに一つの複合体を形成している。

BZP系薬物がBZP受容体に結合するとGABAのGABAa受容体への親和性が高まり、Cl- チャンネルの開口頻度が増加して細胞内へのCl-流入が促進されて細胞膜の過分極や膜コンダクタンスの増大をともなる抑制性シナプス後電位が生じ、神経細胞の興奮が抑制される。

GABAa受容体には5つのサブユニットからなるヘテロ5量体であり、19種類の構成サブユニット(α1~6、β1~3、γ1~3、δ、ε、θ、π、ρ1~3)が同定されている。中枢神経系のGABAa受容体の多くはα1β2γ2から構成される。GABAa受容体にはαとβサブユニット間にGABAの結合部位があり、ほかにBZP系薬物(BDZ)、バルビツール系薬物、アルコール類、ニューロステロイド類の結合部位がある。αとγのサブユニットからなる細胞外ドメインにBZP系薬物の結合部位(BZP受容体)がある。
BZP受容体には高親和性のω1受容体、低親和性のω2、末梢型のω3受容体がある。
ω1受容体は大脳皮質、脳幹、小脳に広く分布し、ω2受容体は、大脳辺縁系と脊髄に、御ω3受容体は腎臓に発現している。
ω1受容体はα1を含んだGABAa受容体、ω2受容体はα2、α3、α5を含んだGABAaに対応すると考えられている。
GABAa受容体のサブユニットの作用を示すと以下のようになる。

したがってω1受容体選択性の高いものは筋弛緩作用が少なく、ω2受容体選択性の高いものは抗不安作用や筋弛緩作用を示す。

BZP系薬剤はω1ω2に作用し、Z drugはω1に作用するとされている。
Z drugであるマイスリーとルネスタの違いを細かくみると
α1とα2の作用に差がありその違いがルネスタン抗不安作用として出ている。

うつ病症例においてルネスタを追加投与した際に、中途覚醒やそう睡眠時間の改善効果のみでなく、ハミルトンうつ病尺度スコアでの改善効果を認めている。

マイスリーもよい薬剤であるが、薬剤の代謝が高齢者や女性においてかなり高値になる点や症例によってもばらつきが多い薬剤であることは、注意して使用する必要がある。

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