その他

2014.09.25

ガンのワクチン療法  下平滋隆先生

2014年9月16日 横浜市健康福祉総合センター
演題「樹状細胞及び腫瘍抗原ペプチドを用いたがんワクチン療法」
演者:信州大学医学部付属先端細胞治療センター センター長 下平滋隆先生
内容及び補足「
免疫(疫病を免れる術)
この言葉が最初にできた時には、ある特定の病原体に一度感染して回復した際にその病原体に対して抵抗性を持ち、同じ病気にかからなくなることを意味していた。
その後医学の発達とともに、この言葉の持つ意味合いが若干変化してしまい、現在では『病原体や毒素、外来の遺物、自己の体内に生じた不要成分を肘こと識別して排除しようとする生体防御機構の一つ』という意味になった。
免疫を分類すると、生まれた時から持っている自然免疫と、成長の過程で獲得する適応免疫に分けられる。自然に獲得する方法としては、母親からもらいうける受動的免疫と、成長過程で観戦して獲得する能動免疫に分けられる。人為的に摂取する方法としては、抗体を体に入れる受動的免疫と、ワクチンを接種して獲得する能動的免疫に分けることもできる。
免疫機構としては、細胞性免疫と液性免疫の両者が働く。

最初に免疫処置を行った人物としては天然痘のワクチンを作製したエドワード・ジェンナーが有名であるが、歴史をさかのぼってみると、すでに西暦1000年ごろの中国で、天然痘のかさぶたから作った粉末を乾かして吸い込むという治療方法を行なわれていた。
この免疫応答にかかわっている細胞は多種あるが、その中で司令塔の様な働きをしているのが樹状細胞である。
この細胞は1973年ラルフ・スタインマン教授が発見し、2011年ノーベル医学生理学賞を授与されたが、彼は受賞発表の3日前に自信の発見した免疫療法を4年半続けた膵臓ガンのため死去していた。

(DCとT細胞:ウニのような突起を出した大きな細胞の上に3つの丸い小さなリンパ球が付着しているところを走査電子顕微鏡で撮影)

ガンの免疫療法はがん患者のリンパ球を体外で増幅・活性化させたのちに、患者さんの体内に戻して行っている。治療内容としては、能動的免疫療法と受動的免疫療法に分けられる。
① 能動的免疫療法:ガン抗原や樹状細胞を用いたワクチン療法である特異的免疫療法と、免疫賦活剤やサイトカインを用いた非特異的免疫療法に分けられる。
② 受動的免疫療法:免疫細胞あるいは抗体を用いて直接的な抗腫瘍作用を発揮させる方法であるがLymphocyte-activated killer(LAK)細胞やNatural killer(NK)細胞、腫瘍特異的な細胞障害性T細胞(Cytotoxic T cell:CTL)を用いた非特異的免疫療法や抗体製剤を用いた特異的免疫療法に分けられる。

ガン細胞に対する免疫応答としては、ガン細胞の成分を樹状細胞が貪食し、抗原提示を行い、T細胞やB細胞を活性化するが、生体においては、免疫抑制因子や免疫抑制細胞が働き、ガン細胞を保護するような働きもある。

樹状細胞がガン細胞から抗原を取り込んでペプチドという形で目印を提示する。そのペプチドを介して表面に目印を提示する。HLAの型があったものどうしで、病気を認識する成分を、リンパ球に教育する。HLAクラスⅠはCD8+キラーT細胞を、HLAクラスⅡはCD4+ヘルパーT細胞刺激する。その際に、骨髄由来抑制細胞(MDSC)や抑制性T細胞Tregなどが免疫応答を抑制する。つまり、治療を行う際には、免疫抑制性細胞を抑えることが、ガン治療においても重要な問題となっている。
放射性療法や抗がん剤は、単純に考えると免疫治療においては、邪魔になるように思われるが、これらの治療は、先ほどの抑制細胞を排除する作用が獲得される。特異的能動免疫が誘導され、獲得免疫の記憶さることが重要であるので、放射線療法や、化学療法が重要となる。

Ipilimumabの第二相試験においての生存曲線である。

生存曲線は、通常は50%の人が生存できる期間:MDSで評価して、この期間が延びることにより評価されるが、免疫療法は、記憶される治療の意義は、この後のdelayed separationが伸びてくることで評価される。

http://annonc.oxfordjournals.org/content/23/suppl_8/viii47.full

樹状細胞を作る際には単球からTND-α、IL-6、IL-1βなどのサイトカインを使って作成される。

標的にする癌抗原の代表で、WT1というものがある。もともとは子供の腎細胞ガンで見つかったが、いろいろなガン細胞でも発現されている。二番目のアミノ酸を改変したものをガン抗原として認識させる。

2012年9月1日現在、先進医療として樹状細胞療法の適応は、膵臓癌、乳癌、肺癌、胃癌、大腸癌の5疾患である。この5疾患で樹状細胞療法の8割を占めている。
実際は7回繰り返して治療を行っている。抗がん剤療法や放射線療法を併用が基本である。
信州大学での樹状細胞療法適格基準は
年齢:20~70歳
全身状態が比較的良好、重篤な臓器障害、感染症、血液異常、出血傾向がない
心血管系の障害がなく、血液処理量(合計採血する量)4000ml、外来通院での約3時間のアフェレーシスに耐えられる
PS(performance status)0/1
推計予後6か月以上の見込み(通える人)
で行っている。
成分採血をして、1週間で樹状細胞を作製し、2週間で全身検査を行い、2週間ごとに7回投与を行う。

免疫が付いたかどうかを、WT1を認識しているかどうかを確認し、IFNγができているかどうかの2つの方法で確認している。

実際に、治療を始めてから4.8%、治療が終わってからも13%、治療終了1年後も10%こういうクローンが残っている。

さらに、インターフェロンを出す成分があるかどうかを見ている。下の段がコントロールであり、上の段がWT1で刺激したものである。

平成24年10月から26年6月までに、膵臓癌25(2回目2例)例、大腸癌24例、肺癌21例、乳癌17(2回目2例)例、胃癌8(2回目1例)例
中止3%、脱落8%であり、90%弱が治療を続けられている。
副作用としては、打った場所に紅斑ができる頻度が40%あり、発熱が半数起こる。間質性肺炎やひどいアレルギー反応が1例に見られている。

膵臓癌の患者で手術ができない人が8割、化学療法の評価ができた人50%生存期間が6から8ヵ月が、16か月に伸びが。

皮膚の反応が3㎝を超えた人は、生存曲線が解離している。

62例の非小細胞肺癌では、MSTは13ヶ月が27ヶ月と伸びていて、樹状細胞開始からでも12ヶ月と伸びている。

貧血がない人、WT1のペプチドを使用した人の方が良かった。

普段通りの生活ができるPSの良い人や、画像で大きさが小さくなったり、大きくならなかった人でよかった。

樹状細胞ワクチン療法をおこなうためには、樹状細胞によるガン抗原の提示を起こす必要がある。
樹状細胞がガン細胞を取り込み分解し、抗原を提示して、その抗原を受け取った細胞障害性T細胞とヘルパーT細胞は、ガンの攻撃目標を記憶して活性化される。ヘルパーT細胞の攻撃開始合図を受けて活性化した細胞障害性T細胞が管抗原を目印にガン細胞を攻撃することになる。

免疫担当細胞の一覧を示す。

http://www.medinet-inc.co.jp/patient/immunecelltherapy/response.html

より細かくみてみよう。
ガン抗原が同定されていてガンの蛋白質由来のペプチドが利用可能であったり、手術などで摘出した腫瘍組織から腫瘍抗原溶解液(ライセート)を作成ができれば、これらのペプチドやライセートを抗原として投与することにより、ガンに対する抗原特異的な細胞障害性T細胞(CTL)を誘導できる。このような樹状細胞を皮内や静脈に投与し、体内の主要特異的免疫反応を惹起させ、ガン細胞のみを殺傷しようとする治療法を樹状細胞ワクチン治療という。

樹状細胞には多様なサブセットが存在し、病原体特有の分子パターン(pathogen associated molecular pattern:PAMP)を認識して活性化され、リンパ節へと遊走して免疫応答を開始する役割を担う過程で、多彩な免疫応答の制御に関与していることが明らかになった。

樹状細胞はmyeloid/conventional(mDC/cDC)とplasmacytoid(pDC)の二つのサブセットに分けられる。
血液中に存在するpDCはウイルス感染に対して大量のタイプⅠインターフェロンを産生する。獲得した抗原をMHCクラスⅠ&Ⅱ分子上に抗原提示する。
mDC/cDCの局在は皮膚と血液/二次リンパ器官に分けられる。皮膚cDCは表皮のランゲルハンス細胞(LC)と真皮に存在するCD14+DCとCD1a+DCの三つのサブセットに区別される。
LCはとりわけCD8+T細胞に対する抗原提示(クロスプレゼンテーション)能力に優れており、CD4+T細胞を刺激してTh2タイプのサイトカイン産生を促す。一方CD14+DCはCD4+T細胞を濾胞ヘルパーT細胞へと分化させ、抗体産生に深く関与している。
ヒト血液/二次リンパ器官中に存在する樹状細胞はBDCA1(CD1c)、BDCA2(CD303)、BDCA3(CD141)の発現で3つのサブセットに識別される。
BDCA3+DCの細胞表面にあるXCR1はNK細胞や活性化CD8+T細胞が産生するケモカインXCL1に対する受容体であり、NECL2はNK細胞や活性化CD8+T細胞表面上に存在するClass-Ⅰ-restricted T-cell-associated molecule(CRTAM)と結合する。
そしてNK細胞やCD8+T細胞から放出されたIFN-γによりBDCA3+DCはIL-12の産生を亢進する。

樹状細胞は単球やマクロファージのような強い貪食作用は認めないが、細胞外の物質を細胞膜で取り込むようにして細胞内へ取り込み、その物質を細胞内で分解処理する能力に優れている。

MHCクラスⅠやクラスⅡ分子を発現し、それを介してT細胞への強力な抗原提示をする。細胞内で産生された内因性抗原は、細胞質内でユビキチン化された後にプロテアソームで分解され、TAPというトランスポーターにより小胞体内へと輸送され、ペプチドに分解され、MHCクラスⅠ分子に結合する。MHCクラスⅠと結合したペプチド複合体は、細胞表面でCD8陽性T細胞に抗原提示される。
一方エンドサイトーシスによって取り込まれた細胞外に存在する外因性抗原は、エンドソーム内で分解され、MHCクラスⅡ分子に結合し、MHCクラスⅡ/ペプチド複合体は、細胞表面でCD4陽性T細胞に抗原提示される。

細胞外から取り込んだ外因性抗原を抗原提示分子であるMHCクラスⅠ分子に提示する機能はクロスプレゼンテーションと呼ばれ、抗腫瘍免疫において中心的な役割を担っている。

http://immunoth.umin.jp/execution/dc/

このような理論に基づいているので、今までの治療法で効果がなかったガンの治療や、早期のガンの治療においては、理想的な治療のように思われる。確かに非常によく効く症例があり、一部の医療機関で、ガンのこれからの主流となる最先端治療として喧伝されているが、多くの場合、ガンの手術療法、化学療法、放射線療法、ホルモン療法などの補助的な治療法として考えておくべき治療法である。
下の図は千葉県がんセンターでの肺がん手術後の免疫細胞治療効果の図で免疫細胞療法を行った82人は5年後も半数以上が生存しているのに対し、併用しなかった88人では1/3程度しか生存せず、免疫細胞療法により、再発・転移および進行の抑制効果があったとされている。

しかし、半数の人が5年後に亡くなっているのである。治療効果が得られない人がいるのも事実である。
ガンワクチン療法の効果が推定理論通りに効果がない=T細胞の標的となる腫瘍細胞が排除されにくい機序として、腫瘍細胞自身による機序としては、
① 腫瘍の抗原性が変化すること
② 腫瘍から産生されるTransforming growth factor-β(TGF-β)という免疫抑制因子の影響
③ 可溶性MHCクラスⅠ鎖関連分子(soluble MHC classⅠchain-related molecule)が免疫からの逃避に作用する
腫瘍特異性が低いCTLでは、標的腫瘍細胞を排除できないが、特異的CTLが慣用的に作用する機序として
④ 活性化T細胞上のcytotoxic T lymphocyte antigen-4(CTLA-4)を介した抗原提示細胞の抑制
⑤ CD4+CD25+制御性T細胞(regulatory T cell:Treg)によるTCLの抑制
⑥ CD4+NKT(natural killer T cell)によるCTLの抑制
⑦ 腫瘍辺縁ストローマ細胞がリンパ球浸潤の組織構造的な障壁となっている
などの機序が示唆されている。
https://soar-ir.shinshu-u.ac.jp/dspace/bitstream/10091/3706/1/Shinshu_Med55-3-03.pdf

2009年9月に米国のFDAは、がんワクチン開発にあたってガイダンス(ドラフト段階)
 がんワクチンの臨床試験デザインでは、
 1.小さいガンor術後を対象にするのがよい
 2.Double blind testをすべきだ
 3.腫瘍サイズの縮小では効果は測れない(←抗がん剤との違い)
 4.効果(全生存率, etc.で測る)が出るまで時間がかかる
  → 転移がんがある場合、投与開始から病状悪化までの期間が短いため、従来の抗がん剤の場合のような評価方法では、効果が出るまでの時間が確保できない可能性がある。
  → 遅延効果があるため、Logrank testのように観察期間を通じてHazard ratioが一定という仮定がおけない。当初のうちはHR=1であり、以後HRが1以下に変化する(delayed separation of curveが起こる)。この統計解析にはHarrington-Fleming法が必要、

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