その他

2015年3月 9日 月曜日

SSI(手術部位感染症) 榎本武治先生 大毛宏喜先生

2015年2月25日 横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ
演題「当科における手術部位感染サーベイランスの変遷と結果について」
演者:聖マリアンナ医科大学 消化器・一般外科医長 榎本 武治 先生
演題「周術期をめぐるエビデンスと慣習」
演者:広島大学病院 感染症科 大毛 宏喜 先生
2講演内容のまとめ及び補足「
SSI: Surgical Site Infection:手術部位感染とは、切開部感染と臓器/腔感染のことをさす。「創外感染(手術部位以外の感染)」または「遠隔臓器感染症」とは呼吸器感染、尿路感染、カテーテル感染を含め手術補助療法によって発症してくる感染症を意味する。

術後感染の分類
手術部位感染(Surgical Site Infection)
手術創感染
表層切開創
深部切開創
手術対象臓器/体腔の感染
手術部位以外の感染
呼吸器感染、尿路感染、カテーテル感染、薬剤関連性腸炎など
術後耳下腺炎、術後胆嚢炎

手術創はその清潔度によって以下の四群に分類される。
手術創の分類
classⅠ/清潔:炎症がなく、気道・消化器・生殖器・未感染尿路に到達しない非感染手術創。
classⅡ/準清潔:管理された状態で気道・消化器・生殖器・尿路に達した異常な汚染のない手術創。
classⅢ/不潔:偶発的新鮮開放創。無菌手技に重大な過失のある手術創。あるいは胃・腸管からの著しい腸液の漏れ、内部に非化膿性の急性炎症のある切開創。
classⅣ/汚染-感染:壊死組織が残る古い外傷、感染状態または内臓穿孔のある手術創。

手術部位感染を減少させる方法は術前、術中、術後の抗生剤投与のみばかりでなく、患者の合併症、消毒、手術室環境、医療従事者の消毒・感染管理など手術全体に注意を払う必要がある。

SSIが起こる危険性のうち患者の特性は以下のものが挙げられている。
① 糖尿病:手術後48時間以内の血糖値が200mg/dL以上では、SSI発症リスクが増大する。HbA1cを術前に7%以下に低下させる。
② 喫煙:手術の30日前に禁煙するよう指導する。禁煙直後には咳・痰が増加するため。
③ ステロイド投与:クローン病で術前ステロイド投与患者のSSI発症率が高いとする報告があるが、関係ないとするものもある。
④ 栄養失調:栄養状態の改善はSSIの防止手段だけでなく、術後合併症の減少効果もある。プレアルブミンの測定や(基準値:22~40mg/dL)、小野寺スコアがある。

小野寺スコア:Prognostic Nutritional Index;PNI=10×血清アルブミン値(g/dL)+0.005×末梢リンパ球数(/mm3):45以上:手術可能、40~45:危険があり注意が必要、40未満:切除・吻合禁忌
⑤ 術前の黄色ブドウ球菌の鼻腔内定着:黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌とSSI発症との間には顕著な関連がある。
⑥ 周術期の輸血:血液製剤を必要とする手術患者にSSI発症減少の手段として投与を中止する科学的根拠はない。

SSI発症の危険性への患者の影響因子
① 年齢
② 栄養状態
③ 糖尿病
④ 喫煙
⑤ 肥満
⑥ 離れた部位の同時に存在する感染
⑦ 微生物の定着
⑧ 免疫反応の変化
⑨ 手術前入院期間

SSI発症の危険性への手術の影響因子
① 手洗い時間
② 患者の皮膚の消毒
③ 術前の剃毛
④ 術前の皮膚の準備
⑤ 手術時間
⑥ 術後感染発症阻止抗菌薬の投与
⑦ 手術室の換気
⑧ 手術機器の非適切な滅菌
⑨ 手術野の異物
⑩ ドレナージ
⑪ 手術手技

手術前の問題
◆ 除毛:いかなる方法でもSSI発症率増加に結び付くので、除毛を行わない。除毛の必要がある場合には手術直前に専用のクリッパー(バリカン)で行い、カミソリを使わない。
除毛の方法と時期とSSI発症率の関係
      時期  不定直前 前夜 24時間以上前
脱毛剤使用または除毛しない0.6% 
カミソリで剃毛    5.6% 3.1% 7.1%   >20%
電気クリッパー   1.8% 4.0% 

◆ 患者皮膚消毒
グルコン酸クロルヘキシジン:血液や血清蛋白で不活化されない。一回の使用で皮膚菌数の減少が顕著。
コードホール:血液や血清蛋白で不活化される。
アルコール:CDCのSSI予防ガイドラインドラフト版2014年で推奨されているが、電気メスなどを使用する際の引火性に注意が必要。アルコールの火は、は無影灯下では、人間の目に見えにくいので、火が出ても気が付きにくい。
◆ 術者の術前の手指衛生:適切な消毒液で肘まで消毒する。爪は短く保ち、付け爪はしない。
◆ 感染・定着のある手術室職員の管理:排膿のある皮膚疾患を有する外科系職員は治癒するまで業務から外す。
◆ 術後感染予防抗菌薬(AMP:antimicrobiral prophylaxis)投与
AMPの目的:宿主の防衛機能が十分機能できる微生物の数まで手術中の汚染微生物を減少させる目的で、抗生剤を投与するものである。
AMPの効果を高めるために次の四原則に従う。
① AMPは臨床試験の結果、SSI発症防止効果が認められた手術全部、または手術後に切開部・臓器/体腔が縫合不全などにより破局的になった場合に使用する。
② もっとも汚染が予測される菌に有効なAMPを選択する。
③ 皮膚切開時にAMPの血中もしくは組織内濃度が殺菌濃度に達するよう、時間を計算し投与する。整形外科領域などで駆血帯を使用する場合は装着前に抗菌薬投与を終了する。帝王切開では臍帯クランプ後に投与するのが一般的である。
④ AMPの治療濃度を手術中及び手術数時間は維持する。
◆ 手術部位による想定される原因菌とAMP選択
① 心臓血管外科、乳腺・甲状腺手術など(清潔手術):グラム陽性菌に強い第一世代セフェム系のセファゾリン(CEZ)、第二世代のセフェム系のセファマンドール(CMD)やセフォチアム(CTM)、セファマイシン系のセフメタゾール(CMZ)、セフォキシチン(CEX)
② 上部消化管手術:黄色ブドウ球菌、腸球菌、グラム陰性桿菌などが対象。第一世代のセファゾリン(CEZ)や、広域ペニシリンのピペラシリン(PIPC)などが第一選択。嫌気性菌への抗菌力を考えて第二世代セフェム系、セファマイシン系も選択肢の一つとなる。
③ 下部消化管手術:嫌気性菌にも有効なセファマイシン系のセフメタゾール(CMZ)やセフォキシチン(CEX)が第一選択。日本ではオキサセフェム系のフロモキセフ(FMOX)もよく使われる。大腸手術においては術前の腸管処置が重要で効果が高い。施設によりさまざまなColon preparationが行われている。代表的なもので、カナマイシン+メトロニダゾール、トブラマイシン+クリンダマイシン、ポリミキシンB+メトロニダゾールなどがある。
④ 腹腔鏡手術:腸液・胆汁の漏れがほとんどない場合は、落下菌や皮膚常在菌も極めて少ないと考え、第一世代セフェム系抗菌薬の一日投与でよい。
⑤ 汚染・感染手術:多くの菌種が存在し、多臓器不全に移行させないためにも初めから強力に細菌数を減らす必要がある。初回より広域スペクトラムを持つ第四世代セフェム系や、カルバペネム系呼応おきん薬を使用する。
βラクタム薬にアレルギーがある場合には、ClassⅠ(清潔手術)では、クリンダマイシンやバンコマイシン、ClassⅡ以上(準清潔、不潔、汚染・感染手術)では、アミノグリコシド系薬またはキノロン薬とクリンダマイシンの併用投与を行う。
◆ 投与開始時期:術野が露出した時に抗菌薬濃度が血中や組織中で高濃度となるように、通常は手術開始0~30分前に投与を開始し、3時間を超える手術では、濃度維持のために追加投与を行う。βラクタム系の抗菌薬の殺菌作用は時間依存性であり、追加投与による濃度維持は特に重要である。バンコマイシンおよびフルオノキノロン投与の場合は、手術開始2時間以内の開始でよい。
◆ 投与開始期間:CDCのSSI予防ガイドライン2014年版では、清潔・準清潔手術ではドレーン留置の有無に関係なく、閉創後の抗菌薬追加投与は、コストベネフィットの観点からするべきではないと記載されているが、日本感染症学会・日本外科感染症学会:感染症治療ガイドライン2011では術後48時間以内の追加投与を推奨しているが、エビデンスに基づいたものではない。
◆ SHEA/IDSAガイドラインでは術後感染予防抗菌薬について、以下の4つの提案による手術感染防止共同計画(Surgical Infection Prevention Collaborative: SIPC)を明らかにし、腹式子宮摘出術、膣式子宮摘出術、股関節置換術、膝関節置換術、心臓手術、血管手術、結腸直腸手術に焦点を絞りこの提案を遵守した病院でSSI発生率が低下したと報告している。
1.  執刀前1時間以内に予防抗菌薬を静脈投与する(バンコマイシンおよびフルオノキノロン投与の場合は2時間以内でよい)
2.  ガイドラインに基づいて抗菌薬を選択する
3.  術後24時間内に予防抗菌薬の投与を中止する(成人で心臓胸部手術を行った場合、中止は48時間以内でも可)
4.  2日以内と比較し、3日以上の予防抗菌薬投与は耐性菌発生リスクになるため、48時間以内投与を推奨する。

手術中の問題
◆ 手術の環境
人数制限、室内用圧の保持・粉塵除去、手術機器の滅菌への配慮
◆ 手術時の服装・覆布
手術着・マスク・手袋・ガウン・覆布についての配慮
手袋の交換時期については、一番汚れた時の吻合直後に行う方法と、腹腔内洗浄するときに行う方法が行われている。
◆ 無菌操作及び手術手技
① 無菌操作の徹底、フラッシュ滅菌器の使用は最小限にする
② 手術手技の熟練、十分な止血、縫合糸・炭化組織・壊死片の残留を抑える、組織の損傷を抑える、感染に強いものフィラメントの縫合糸や抗菌吸収糸を選択
③ ドレナージ:手術切開創とは別に作成し、出来るだけ早期に抜去する。基本的に閉鎖式吸引ドレナージを使用

ドレーンの挿入
ドレーンの挿入は予防的ドレナージと治療的ドレナージに分けられる。
ドレーンの使用は、体内に異物を留置することであるから、SSIの危険因子の一つであり、瘻孔形成、周囲組織のびらんの原因にもなる。
CDCのガイドラインでは使用するなら閉鎖性吸引ドレーンの使用し、手術創とは別の部位から入れ、できるだけ早期のドレーン抜去を勧めている。
http://minds.jcqhc.or.jp/n/medical_user_main.php

手袋の交換時期については、一番汚れた時の吻合直後に行う方法と、腹腔内洗浄するときに行う方法が行われている。
予防的抗生剤の使用を行っていない状況下ではSurgical globe perforationはSSIの発生頻度を上昇させる(Arch Surg 2009.144:553)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19528389
ので、二重手袋の使用をコクランでも薦めている。
Microperforationでは気がつかない。
手術時間が長くなるとperforation rateが上昇する。
2-4時間:12.6%、4-6時間:28.6%、6-8時間:33.4%(手術医学26 : 64-67, 2005.)

術中の管理
術中の低体温はSSI発生を助長するので体温を36.5℃以上に保つ(NEJM1996,334:1209)、術中および術後2時間の酸素投与はSSI発生を減少(NEJM 2000,342:161)

手術創管理
術後48時間以内は徹底した滅菌措置が必要。48時間以降の創部の管理については必ずしも消毒・被覆は必要ではない。創部の消毒についてはグルコン酸クロルヘキシジン及びヨードホールを用いる。
ヨードホールは細胞障害が強く、術後早期には手術創面の皮下組織障害の可能性があるので基本的には使用しない。グルコン酸クロルヘキシジンには、それが粘膜などから吸収された場合アナフィラキシーショックを起こす可能性がある。濃度は0.5-1.0%以下にし、高濃度を避ける。どちらも創の内部には使用しない。
手術創創縁の保護のためリトラクターを使用することでSSI予防の報告が1968年に224例に対して使用例で2.4%に対して対照群では15%にSSIが発症し、SSI予防に有効であるという報告がされたが、1977年の140例に使用された報告では10%:9%と有意差を認めなかった。腹水がしみこむことがその理由と考えられている。
創部リトラクターの使用で、創部の乾燥を防ぎ、創の挫滅を防ぐ効果が認められる。

http://leaders.co.jp/product_maker/applied_medical/wound_retractor.html

手術時の手洗い
流水と石鹸による手洗いの後擦式消毒用アルコール製剤を用いたラビング法を基本とする。ブラシは皮膚損傷の恐れがあるため、爪先の汚れを除去するのに用いる程度にとどめる。

手術部位感染(SSI)の定義の規準
表層切開創のSSI
感染は手術後30日以内に発症して、かつ感染は切開部の皮膚または皮下組織に限定され、かつ少なくとも下記の1項に該当するもの:
1.表層切開創からの膿性排液
2.表層切開創から無菌的に採取した液体または組織培養で微生物が分離される。
3.疼痛または圧痛、局所的な腫脹、発赤または発熱のうち、少なくとも1つの感染の徴候または症状があって、しかも外科医が切開部表層を慎重に開放して、切開部の培養が陰性でない場合。
4.外科医または介助の医師が、切開部表層のSSIであると判断した場合。

次のような状況をSSIと報告してはならない。
1.縫合部の膿瘍(炎症は僅かで、排膿は縫合個所に限られる)
2.会陰切開術または新生児の環状切除術部位の感染
3.感染した熱傷
4.筋膜及び筋層まで広がった切開部のSSI(切開部深層SSI参照)
注:会陰切開術、環状切除術部位、及び熱傷の感染の認定については特別な規準を用いる。

深部切開創のSSI
手術手技により手術後30日または90日以内に感染が発生し、切開創の深部軟部組織(筋膜及び筋層など)に及び、かつ下記の少なくとも1項に該当するもの:
1.深部切開創から膿性排液がある
2.深部切開創が自然離開した場合、あるいは手術医によって意図的に開放され培養が陽性か未検、さらに、38℃をこえる発熱、限局した疼痛の感染の徴候や症状が少なくとも1つある場合。培養陰性の場合はこの判定基準を満たさない。
3.深部切開創の関係する膿瘍その他の感染の証拠が、直接的な検査、再手術の際組織病理学的または放射線医学的な検査で見出せる。
4.手術医または主治医による切開部深層のSSIであるとの診断
注:1.切開部位の表層、深層の双方に及ぶ感染は、切開部深層SSIとして報告する。
2.切開部から排膿する臓器/腔SSIは深部切開創SSIとして報告する。

臓器/体腔のSSI
手術手技により手術後30日または90日以内に感染が発生し、手術時に開放または操作された部分(皮膚切開創・筋膜・筋層を除く)におよび、かつ下記の少なくとも1項に該当するもの:
1.臓器/体腔に留置されているドレーンからの排膿がある。
2.無菌的に採取したその臓器/体腔からの体液または組織の培養で、微生物が分離される。
3.その臓器/体腔の関係する膿瘍その他の感染の証拠が、直接的な検査、再手術の際組織病理学的または放射線医学的な検査で見出せる。
4.手術医または主治医による臓器/体腔のSSIの診断。

SSIの発生を診断する際のチェックの仕方として以下のものがある。
1. 時期を決めて創部をチェック(術後4-5日目)
2. その部が発赤をした際
3. 発熱や血液データでの変化がみられた際
4. 患者の自覚症状が出てきた際
SSIが発赤や疼痛を伴わない軽い状況で発見するほうが良いので、術後4-5日目に創部を軽く圧迫してみることにしている。他の場所よりも柔らかく軽い圧痛がある場所を探す。見つかったらゾンデを挿入して液を排膿する。

SSI発生時にしてはいけないこととして以下のことがある。
① 圧迫
② 鉗子の挿入
③ タンポンガーゼの挿入:きれいな肉芽ができない

参考サイト
http://www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/~ict/yobousaku/SSImanual.htm
http://www.beppu.hosp.kyushu-u.ac.jp/pdf/nst_sem/nst_sem_02.pdf

投稿者 川村内科診療所

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