脂質代謝系

2015.05.19

小型LDLの重要性 平野勉教授

2015年5月12日 ホテルニューグランド
演題「2型糖尿病患者の脂質異常症の治療の最新知見 ~小型LDLの重要性~」
演者:昭和大学医学部内科学 糖尿病・代謝・内分泌内科学部門教授 平野勉 先生
内容及び補足「
2002年から2004年にMIを起こして昭和医大のICUに入院した男性326人の基礎疾患を見てみると、高血圧は約1/3、脂質異常症は約1/4の症例に認めた。糖代謝の状態は、1/3が正常、1/3が耐糖能異常、1/3が糖尿病の状態だった。
重症度で基礎疾患の頻度を見てみると、舌の項目において有意な差が認められたものは、糖尿病の罹患率であった。
             軽症     重症
糖尿病罹患率    34%    52%
高血圧罹患率    81%    83%
喫煙率         23%    22%
HbA1c 平均値    5.7     6.2
LDL平均値      112     120
それでは、糖尿病の治療をしっかり行うと心筋梗塞になりにくくなるのかというと、ACORD研究やADVANCE研究、VADT研究結果を見てみても、血糖値の厳格な治療が心血管死亡を減らしてはいない。ACCORD試験においては強化治療群で死亡例が多く出たために、試験途中で中止となっている。

しかし、コレステロールに関しては、CARDS試験において2型糖尿病患者にリピトールを平均4年間投与すると、プラセボ群に比較して心血管イベントが37%も有意に抑制されることが報告された。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/special/athero/gl2012/201208/526373.html

動物実験においてアポEノックアウトマウスと動脈硬化発症Rabbitに0.5%のコレステロール食を食べさせると、100%動脈硬化を起こすことが知られている。
実際の血液データを見てみると、TCのみが異常に上昇していることがわかる。

これらの動物の、冠動脈の病理像は、動脈硬化巣にコレステロールの沈着が豊富にみられる。
炎症細胞であるマクロファージを染めてみると、この動脈硬化巣のコレステロールの沈着部位と一致している。
一方、糖尿病発症マウスにおいて高血糖のみであれば、動脈硬化を起こすことはない。そこに高コレステロール血症が合併すると、動脈硬化が発症する点は興味深い。
家族性高コレステロール血症(FH)がないスタチン投与がされていない人の冠動脈疾患の危険因子を1とすると、FHの患者さんは、スタチン治療を行っていないと13.2倍のリスクになる。スタチンの治療により10.3程度となる。

FHの患者で、スタチンの治療がされた群とスタチンの治療がされていない群の生存曲線は明らかに異なる。コレステロールを下げるためにスタチンの投与の有用性は確立されている。

http://eurheartj.oxfordjournals.org/content/early/2013/08/15/eurheartj.eht273

健常人と冠動脈疾患(CAD)患者でのLDLコレステロール値とHDLコレステロール値の分布を比較してみると、LDLコレステロール値は、ほぼ同じ分布を示す。

HDLコレステロールで見てみるとCAD患者において左にシフトしていることがわかる。

http://ac.els-cdn.com/073510979290520W/1-s2.0-073510979290520W-main.pdf?_tid=9f1fd6a4-faee-11e4-81bd-00000aab0f27&acdnat=1431686530_5f4f0e692fba450170237b5229d44cca
確かに、LDLコレステロールはCADの原因物質ではあるが、リスクマーカーとしては鈍感な指標であり、それに比較すると、低HDLコレステロールは、より鋭敏なリスクマーカーといえる。

実際、虚血性心疾患で入院してきた人の血清脂質と一般健康人との血清脂質を比較してみるとLDLコレステロール濃度に差はなく、差があるのは、TGやApo B、HDLコレステロールであり、前2者が高くHDLが虚血性心疾患患者で低いことが数多く報告されている。
この中のApo Bは、LDL粒子に一つ含まれるアポ蛋白であるため、臨床的意義としては、LDL粒子数を反映していると考えられている。ある解析によると、LDL粒子数の90%近くがApo B値で説明できるといわれている。
脂質プロファイルを考えてみよう。LDLコレステロールが140㎎/dL(講演では120mg/dL)で同じ症例であっても、Apo Bが70mg/dLと130㎎/dL(講演では80と120mg/dL)とこなると、実際の血液中のリポ蛋白は下図のようなリポ蛋白の集まりとなる。

LDLコレステロールが140mg/dLであった場合、Pattern Aの健常者はLDL粒子径の大きなものが多く、LDL粒子径の小さなものが多いPattern Bに比べて、LDL粒子数が少ない。
http://www.singulex.com/assets/uploads/pdf/FATS_Spring_2009.pdf
血液中に、疎水性の脂質は、粒子の表面にアポ蛋白を伴いリン脂質膜につつまれたリポ蛋白の構造で存在する。粒子径が大きいほど、軽く比重が小さく、成分としてはトリグリセリドを多く含んでいる。血管内皮に存在するlipoprotein lipaseにより代謝されながら小さな刑の粒子となり徐々に小さな比重の重い粒子となっていく。


通常サイズのLDL粒子と小型高密度LDL(small dense LDL)粒子の特徴を下図に示す。
終止形が25.5nm以下のものをsmall dense LDLと呼んでいる。

LDLの粒子径を4分割して心筋梗塞の危険度を検討した多くの研究では、LDL粒子径が小さいものほど危険度が高いことが示されている。

(Stampfer.MJ et al:JAMA 1996;276:882-888)
https://www.nof.co.jp/business/food/special/policosanol/con01-2.html
虚血性心疾患患者とコントロール群で比較した時LDLコレステロールは、119±26に対して116±33と両者の群で差はなかったが、Apo Bは104±24に対して、90±24と有意に差が認められ、虚血性心疾患患者にお手は4人中3人にSmall dense LDLを認めた。
つまり、Small dense LDLを認めるPattern Bの頻度が、コントロール群は33%なのに対して、虚血性心疾患患者においては75%であった。
http://annals.org/article.aspx?articleid=713455
http://www.medscape.com/viewarticle/446747
Samll dense LDLがどうして超悪玉コレステロールと言われるかというと、
① 血液中に滞在する時間が、通常のLDLの場合は平均2日なのに比べ、5日と長いこと
② 血管壁のプロテオグリカンに付着しやすいこと
③ 小型の粒子なので血管内皮下に侵入しやすいこと
④ 通常のLDL粒子に比較してコレステロール含有量が少ないが、それ以外にも脂溶性の抗酸化ビタミンなどの抗酸化物質が乏しいため酸化されやすい
⑤ 酸化されるとマクロファージに取り込まれ、泡沫化し、動脈硬化層へと進展していく

Small dense LDLを直接測定する方法が今まではなかったのでその指標として用いられていたのが、中性脂肪の濃度である。中性脂肪濃度が高いとLDL粒子径が小さくなることが示され、計算上LDL粒子径の説明変数の50%を中性脂肪濃度が示していることになる。

http://denka-seiken.jp/jp/content/files/pdf/lipid_journal/LipidJournal-small_dense_LDL_all.pdf#search=’%E5%B9%B3%E9%87%8E%E5%8B%89+Apo+B’

脂質の代謝を見てみると、消化管から吸収されたカイロミクロンCMは血管内皮にあるLipoprotein Lipase(LPL)により代謝され、カイロミクロンレムナントCMRとなり肝臓に取り込まれる。肝臓からエネルギー源としてVLDL粒子が作られ血中に放り出される。その際にTGが高いとTGリッチなVLDL1が、通常であればVLDL2が放出される。
VLDL2は血管内皮細胞にあるLPLにより代謝されLDL粒子となるが、TGリッチなDLVL1の粒子は、HDL粒子との間でCholesterol Ester Transfer Protei:CETPによりHDL粒子からCholesterol Ester:CEをもらいTriglyceride:TGを積極的に受け渡したり、肝性リパーゼ:HLにより中性脂肪が代謝されたりして、小型のSmall dense LDLになっていく。

http://www.jc-angiology.org/journal/pdf/2006/441.pdf
Small dense LDL粒子の所だけを取り出してみると、二つの段階がある。最初の段階はCETPによりCEとTGの受け渡しである。次いで、LPLやHLによるTGの分解である。

内臓脂肪と蓄積とLDL粒子のサイズを見てみると、Large LDLは内臓脂肪が増えると減少するが、Small LDLやVery Small LDLは著明に増加していることが示された。

http://synapse.koreamed.org/DOIx.php?id=10.12997/jla.2012.1.1.1
インスリン抵抗性があるとLPL活性が低下し、TGの加水分解が抑制され、血中TGの上昇を来す。それとは別の機序で、インスリン抵抗性があると、血中の遊離脂肪酸:FFAや血糖値が上昇し、肝臓におけるTGの合成が亢進することにより血中のTGが上昇する。その結果、IDLやレムナント分画の停滞,Small dense LDLの出現,HDLの低下が生じる。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/sbk1951/45/2/45_2_159/_pdf

日本人940人の二型糖尿病患者の冠血管疾患のない患者さんを7.86年経過観察した際の、虚血性心疾患の危険因子は、LDLコレステロールの上昇とTGの上昇が独立した危険因子であり、その両者の異常がよりリスクを上昇させることが示されている。

http://press.endocrine.org/doi/full/10.1210/jc.2011-0622
Small dense LDL濃度は、LDLコレステロールの他に、著しい高TG血症を除くTG濃度と正の相関を、HDLコレステロールとは負の相関を認める。

http://atvb.ahajournals.org/content/24/3/558.full

治療薬によりSmall Dense LDLは下げることができるが、薬剤により脂質プロファイルの変化が異なる。Pitavastatin投与ではSmall Dense LDLを低下させ、Large Buoyant LDLも低下させるが、FenofibrateではSmall Dense LDLは低下させるが、Large Buoyant LDLは逆に増加し、TotalのLDLには変化が見られない。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jat/14/3/14_3_128/_pdf

心血管疾患の既往がない一般人2034名において、Small Dense LDLが存在すると、心血管疾患のリスクは、1.21倍、脳卒中は1.17倍、脳梗塞は1.15倍、冠動脈疾患は1.29倍に増加する。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jat/20/2/20_14936/_pdf
実際には、Small Dense LDL測定は容易ではない。
LDL粒子径が25.5nm以下のものがSmall Dense LDLであるが、それに該当する一般的な検査で目安となるものとしては、LDL/Apo Bの数値1.2が該当する。

冠動脈疾患の危険度を推計するパラメーターとしてLDL粒子数とLDL粒子サイズで四分割して考えると、下図のような状況になる。

http://eatingacademy.com/nutrition/the-straight-dope-on-cholesterol-part-v

LDL粒子径の代わりにLDL/Apo Bを用いることができる。

Apo Bの測定が一般的でないので、代わりの指標として役立つものが、Apo B濃度に対してはnon-HDL-C=Total Cholesterol:TC-HDLcを用いることができ、LDL/Apo Bに対してはTG濃度を用いることができる。

http://dm-rg.net/contents/complication/018.html?pr=dmrg001

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