血液系

2016.09.20

CKDに潜む多発性骨髄腫 岩崎 滋樹 先生

2016年9月1日 
演題「CKDに潜む多発性骨髄腫 -外来で見落とさないコツ-」
演者:横浜市立市民病院腎臓内科 岩崎 滋樹 先生
場所:ホテルプラム
内容及び補足「
白い巨塔1978年6月~1979年1月にかけてフジテレビ系列で放送されたテレビドラマで田宮二郎が財前五郎役を演じ人気を博した。


最近は唐沢寿明が主演のリメイク版が放送された。

田宮二郎が演じた『白い巨塔』の後に1973年7月13日より10月12日まで放送された、渡部淳一の小説『無影燈』を原作としたドラマに『白い影』がある。

https://www.youtube.com/watch?v=ZYNi0__7G34
このドラマも田宮二郎主演で直江庸介役を、山本陽子が志村倫子役を演じ、1973年7月13日より10月12日までTBSで毎週金曜日10時に放送され、高視聴率を取っていた。このドラマも2001年に中井正広と竹内結子でリメイク版が放送され好評を博した。

https://www.youtube.com/watch?v=DsaxphJRFrE
この小説のあらすじは、『町の病院を舞台に、優れた技術を持つ一方、無愛想でどこか謎めいた外科医・直江庸介と、最初は彼を非難していた看護婦の志村倫子が惹かれあっていく物語で、徐々に直江の身体が病に蝕まれていく』というもので、主人公の疾患をなににするかという点で、医師であった渡部淳一が選んだのが、症状や検査異常値があって、すぐに診断がつかない疾患として多発性骨髄腫を選んだのではないかと考えている。
今回、市民病院で多発性骨髄腫に合併した三種類の腎障害症例を経験したので、多発性骨髄腫に合併する腎障害について述べる。

多発性骨髄腫
疫学:
2011年のデーターを図示すると下図のようになる。男女ともに20歳までの発症は見られておらず、40歳代から次第に増加し、5歳刻みで75歳まで倍加して、80歳代で男性10万人中35.3人、女性は22.5人のピークに達する。

年次変化は、50歳未満ではほぼ一定なのに、高齢になるにしたがって増加してきている。

2013年の多発性骨髄腫の死亡者数は、男性で3416人、女性で3444人、合計6860人である。
5年生存率は男性で34%、女性で31.2%、10年生存率は、男性で11.4%、女性で14.3%である。

多発性骨髄腫の罹患率には人種差が認められており、アフリカ系アメリカ人はヨーロッパ系アメリカ人の二倍の頻度有り、日本を含むアジア人の罹患率は、欧米白人よりも低いと推定されている。
近年の大規模調査研究によると、ほとんどの骨髄腫においてmonoclonal gammopathy of undetermined significance (MGUS)が先行していることが報告され、MGUSは骨髄腫の前ガン病変であると考えられている。

予後:
多発性骨髄腫は、現在でも根治不能な悪性腫瘍であるが、近年治療方法として、自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法がおこなわれるようになり、予後は改善しつつある。

プロテアソーム阻害薬ボルテゾミブ、免疫調節薬IMiDs(immunomodulatory drugs)であるレナリドミド、サリドマイドが寛解導入療法に使用されるようになった2005年以降、より顕著になってきたが、高齢者においては予後の改善は認められていない。日本骨髄腫学会の後方視的調査研究でも、全生存率(OS:overall survival)は2001年以降で著しい改善が認められている。

2006年以降新規薬剤(Novel agents)が使用されるようになり、予後が改善している。

しかし患者さんの年齢別効果を見てみると、65-74歳までの人で近年予後の改善が見られてきたが75歳以上においてはその効果は見られていない。

日本における治療効果においても、2001寝に高予後の改善が見られてきており、高齢者においても同様の傾向を認めている。

診断基準:
従来の症候性骨髄腫の診断には骨髄腫診断事象(myeloma-defining events:MDE)である高カルシウム血症(calcium)、腎障害(renal)、貧血(anemia)、溶骨性骨病変(bone)の4症状(CRAB)が必要であった。これは、無症候時期に治療介入を行っても臨床的利益が得られなかったことによるが、検査法の進歩や新規薬剤の導入により、高リスクくすぶりがた骨髄腫(smoldering multiple myeloma:SMM)の一部に治療を行うことによる利益が明らかになってきた。
単クローン性ガンマグロブリン血症(monoclonal gammopathy of undetermined significance:MGUS)
MGUSは、Non-IgM-MGUS、IgM-MGUS、light-chain-MGUSの三種類に分類された。
MGUSは血清M蛋白は3g/dL未満、骨髄中の形質細胞が10%未満、臓器障害を認めないもの。
Non-IgM-MGUSは、骨髄腫、孤発性形質細胞腫、免疫グロブリン血症、免疫グロブリン関連アミロイドーシスなどへの進展が1年で1%とされる。
IgM-MGUSはマクロ風呂部リン血症、免疫グロブリン関連アミロイドーシスなどへの進展が1年で1.5%とされる。
Light-chain-MGUSはlight-chain-MM、ALアミロイドーシスへの進展が1年で0.3%とされる。

孤発性形質細胞腫(solitary plasmacytoma)
レントゲン検査で孤発性骨病変を認め、生検や摘出によりクローナルな形質細胞腫と診断された症例で、骨髄に形質細胞の増加を認めない患者を孤発性形質細胞腫、骨髄でクローナルな形質細胞の増加を10%未満認める患者を孤発性形質細胞腫-微小骨髄浸潤と定義した。孤発性形質細胞腫からMMへの進展は3年で10%、孤発性形質細胞腫-微小骨髄浸潤からMMへの進展は3年以内に骨に60%、軟部組織に20%と報告されている。

MMの類縁疾患:POEMS、全身性ALアミロイドーシス
POEMS(polyneuropathy, organomegaly, endocrinopathy, M protein, skin changes)症候群
1956年、Crowらにより末梢神経炎、皮膚色素沈着及び形質細胞腫を伴う2例が報告され、POEMS症候群と呼ばれるようになった。発症年齢は、50~60歳で骨髄腫より約10歳若く、アジアでの発症頻度が高い。血管内皮細胞増殖因子VEGFの上昇が目立ち、血管透過性亢進、血管新生作用により、浮腫、胸腹水、皮膚症状が認められ、IL-1β、TNFα、IL-6などのサイトカンにより神経障害や内分泌異常などの病態が進行する。多発神経炎、モノクローナル形質細胞増殖障害、VEGF上昇の3台症状を認め、かつ硬化性骨病変、Castleman病、臓器腫大のうち一つ以上を認め、他の疾患が否定された場合に確定診断される。

ALアミロイドーシス
異常形質細胞が単クローン性に増殖し、その産物である免疫グロブリン(M蛋白)の軽鎖(L鎖)に由来するアミロイド蛋白FLC(free light chain)が全身の臓器に沈着して臓器障害をきたす疾患。光学顕微鏡で集塊として見られるアミロイド沈着は電子顕微鏡的観察ではアミロイド細線維構成され、これらは特有のβsheet構造を有しており、不要性で通常の蛋白分解酵素では分解されない。ALアミロイドーシスは、多発性骨髄腫などに合併するものと明らかな基礎疾患が見つからない原発性に分類される。
診断基準を下表に上げる。

検査所見
血清電気泳動でM蛋白を認める。

血清免疫固定法、尿免疫固定法で判定を行う。

その他に検査としては、スクリーニング検査、診断確定のための検査、腫瘍量や予後評価のための検査、臓器障害の評価のための検査などに分けられる。

骨病変:
多発性骨髄腫においては、骨髄腫細胞が産生するmacrophage infoammatory protein-1(MIP-1)の作用により破骨前駆細胞の形成が促進される。また、MIP-1は骨髄腫細胞の接着分子であるvery late antigen-4(VLA-4)を活性化し、骨髄間質細胞のvasculat cell adhesion molecule-1(VCAM-1)との接着が高まることによりreceptor activator of nuclear factor-κB Ligand(RANKL)の発現亢進やosteoprotegerin(OPG)の産生抑制が引き起こされ成熟破骨細胞が過剰に誘導される。一方、骨髄腫細胞はsecreted frizzled-related protein-2(sFRP-2)やDickkopf-1などの骨芽細胞阻害因子を産生することにより、骨芽細胞の分化を抑制している。さらに、骨吸収に伴い、骨から放出されたtransforming growth factor-β(TGF-β)やactivin A、sclerostinなどの因子は、骨の石灰化を抑制し、骨形成を阻害する。

骨病変のスクリーニング検査としては、全身の単純X線検査を行い、溶骨性病変の有無を検討する。主に、頭蓋骨、肋骨、脊椎骨、骨盤、法腕骨、大腿骨の検査が行われる。多発性骨髄腫に特徴的な所見として頭蓋骨の打ち抜き像(punched-out lesion)が知られている。

診断時には約80%において骨病変が認められ、脊椎骨65%、肋骨45%、頭蓋骨40%、肩甲骨40%、骨盤30%の頻度で認められる。
MRIは骨の内部構造の描出に優れており、T1強調像低信号、T2強調像やSTIR像で高信号として見られる。


従来の抗ガン剤治療では骨病変の改善は認められなかったが、プロテアソーム阻害薬であるボルテゾミブは初回寛解導入療法や再発後のサルベージ療法として広く使用されているが、奏功例では骨病変の改善が認められている。

ビスホスホネート製剤はピロリンさん構造類似体であり、骨組織のリン酸カルシウム結晶に結合する。骨吸収の際に成熟破骨細胞に取り込まれると、メバロン酸経路の阻害により破骨細胞のアポトーシスを誘導する結果、骨吸収が抑制される。

多発性骨髄腫の腎病変
新規発症の多発性骨髄腫の約2~4割に腎障害が認められており、約1割において透析が必要になり、経過中に半数の症例において腎障害CKDを認める。
一番頻度が多く認められ腎病態は円柱腎症で、骨髄腫腎とも呼ばれ急性腎障害で発症する。
遠位尿細管付近で過剰な軽鎖と正常でも存在するTamm-Horsfall蛋白(THP)が結合して円柱が形成され、尿管閉塞をきたし乏尿となる。
また、通常のγグロブリン産生の他に、過剰に産生された遊離軽鎖(free light chain:FLC)自体の腎毒性による直性障害も考えられている。本来血液中のFLCは低分子蛋白であり容易に糸球体から濾過されるが、健常者の場合には近位尿細管細胞で再吸収され、ライソゾームで分解されるためほとんど尿中には検出されない。しかし、多発性骨髄腫では、大量のFLCが糸球体でろ過され、近位尿細管細胞で過剰な再吸収が生じ、その結果酸化ストレスが発生し、NFκBなどを介して炎症サイトカインが産生され、尿細管間質の炎症や線維化、アポトーシスを誘導し、腎障害が進展していく。これにより、近位尿細管の水・電解質、酸塩基の調節が崩れ、尿細管性アシドーシスや腎性糖尿、汎アミノ酸尿を呈するFanconi症候群に進展する。(Fanconi症候群は、M蛋白の沈着や結晶蓄積による尿細管細胞への障害などあらゆる原因で起こりえる。)

その他に、ALアミロイドーシスやmonoclonal immunoglobulin deposition disease(MIDD)のように糸球体が主に障害される場合は蛋白尿がメインで、ときにネフローゼ症候群で発症する。腫瘍細胞から産生されたM蛋白やその一部の断片化した蛋白が沈着したり、結晶を形成し蓄積したりすることで腎障害を起こす。

多発性骨髄腫の腎障害の三タイプを表にまとめてみると以下のようになる。

軽鎖に注目してみると、κ型は円柱腎症タイプ、尿細管間質障害タイプをきたすことが多く、λ型はアミロイド沈着により腎障害が出てくるので血清総蛋白上昇、血清アルブミン低下例が多い。
特殊なタイプの多発性骨髄腫で非分泌型はガンマグロブリンの過剰分泌がないため多発性骨髄腫に特徴的な症状が少なく、骨病変が進行して腰痛や血清カルシウム高値、貧血の進行などで発見されることが多く、これらの症例では血清総蛋白定値、血清アルブミン値は基準値内のことが多い。

日本内科学会雑誌 2016;105:1199-1260
日本血液学会、造血器腫瘍診療ガイドライン 第三章 骨髄腫

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