その他

2017年9月14日 木曜日

帯状疱疹 浅田秀夫教授

2017年9月7日 
演題「帯状疱疹の病態、診断、治療、予防について」
演者: 奈良県立医科大学医学部皮膚科学 浅田秀夫教授
場所:横浜ベイホテル東急
内容及び補足「
帯状疱疹(Herpes Zoster)と水痘症は水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV:Varicella-zoster virus)による感染症である。


ヘルペスウイルスは長さ150kbp(15万塩基対)、全量180nmのDNAウイルスである。

ヒトヘルペスウイルスは、現在までに9種類が見つかっている。


初めてVZVに感染した時には、水痘症として発症し、水痘症治癒後も神経節に潜伏し、加齢やストレス、過労、基礎疾患の悪化により細胞性免疫力が低下すると、VZVが再活性化し、神経説を伝わって皮膚に到達し、帯状疱疹として発症する。したがって、水痘症の患者から水痘症が、帯状疱疹の患者から水痘症にかかったことない乳幼児に水痘症がうつるということはあるが、水痘症を発症した人から帯状疱疹が発症することも、帯状疱疹の患者から帯状疱疹がうつることはない。


帯状疱疹の活性化時期には体液中にVZVウイルスが存在している可能性があり、口腔内から検出されることもあり、体液(の接触による)感染や飛沫感染、物品を介しての感染、皮膚と皮膚の接触感染の可能性がある。
妊娠中に帯状疱疹を発症しても非妊娠時と経過は変わらないが、妊娠初期の8~20週頃までの感染の際には、先天性水痘症候群(CVS:Congenital Varicella Syndrome)を2%程度発症することがある。
症状としては、子宮内発育遅延、低体重出生、四肢形成不全、帯状疱疹に伴う皮膚瘢痕、小頭症、小眼球症や白内障および網脈絡膜炎のほか眼球の異常や発達障害などがみられる。また妊娠20週~分娩前21日の感染では、乳児早期の帯状疱疹が出現する。分娩前21日~分娩前6日の罹患では、生後0~4日に発症した場合には、母親から免疫の移行効果が残存しており軽症で済むが、分娩前5日~分娩後2日の弛緩では30~40%の児に出生後5~10日に水痘症を発症し重症化することがあり、死亡率は30%との報告もある。このため、この期間に罹患した母親から出生した児に対しては出生直後に静注用ガンマグロブリン投与と発症した場合にはアシクロビル投与がすすめられる。
http://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/1/13268/20160527200301364382/120_219.pdf

発症年齢は、60歳代を中心に高齢者に多くみられる疾患であるが、若年者においても発症する。


1997年から2011年の間宮崎県皮膚科学会に所属する皮膚科46施設を受診した帯状疱疹初診患者75789人(男性31,565人、女性44,224人)の検討をした宮崎スタディの結果では、宮崎県の人口は117万6000人から113万1000人と3.8%減少したが、帯状疱疹患者数は4232人から5654人と33.3%増加している。発症率は年間1000人当たり3.61人から5.00人と38.5%上昇し、15年間の平均発症率は4.38人であった。

発症数、発症率とも50歳以上で急激に上昇した。

この傾向は15年間同様であり、特に60歳以上で経年変化の増加が大きくなっている。

性差は40歳未満では小さいが、40~60歳台では女性の発症率は男性よりも優位に多かった。全体では年間1000人当たりの発症率は男性で3.87人、女性で4.82人であった。
帯状疱疹の発症は夏に多く、冬に少なかった(冬の1.22倍)が、これは水痘症の発症頻度とは逆の関係にある。子供に水痘症が発症している冬場は、子供からのVZVによるブースター効果があるために発症が少ないとする説もある。

日臨皮会誌 2012;29:799-804、J Med Virol 2009;81:2053-8

主な発症部位は、潜伏感染していた神経節の支配領域である身体の片側に帯状に水泡を伴う皮疹が出現する。胸から背中にかけて最も多く見られ、6割の人が上半身に発症する。


皮膚症状およびその経過
神経支配領域に帯状にやや盛り上がった赤い斑点が出現し、その後、水泡が出現する。大きさは粟粒大~小豆大でウイルスが原因となる水泡の特徴である中央部の窪みがみられる。
皮膚と神経の両方でウイルスが増殖して炎症が起こるため、皮膚症状だけでなく強い痛みが生じる。
   


合併症:
発熱や頭痛がみられることが多く、顔面の帯状疱疹では、角膜炎や結膜炎を合併し、失明のリスクも生じる。稀に耳鳴りや、難聴、顔面神経麻痺などが生じるハント症候群になることもある。

Ramsay Hunt Syndrome:VZVによって生ずる顔面神経麻痺を主張とする疾患。1907年にJames Ramsay Huntが自験例をまとめて報告したことに由来する。小児期に罹患した水痘の口腔粘膜疹からVZVが逆行性に、あるいはウイルス血症によって顔面神経の膝神経節に到着後潜伏し、後年それが再活性化することで神経炎が生じ、腫脹した神経が骨性顔面神経管の中で自己絞扼を生じ顔面神経麻痺(顔面半側の表情筋運動障害)が発症する。症状は周囲の脳神経にも波及し、耳介の発赤・水疱形成、耳痛、難聴、めまいなどを合併する。稀に下位脳神経炎や脳炎をきたし重篤化することもある。

https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/34/404/graph/df404a1.gif

後遺症
急性の炎症による神経損傷が強い場合に帯状疱疹後神経痛を生じることがある。

ZAP(Zoster-Associated Pain):臨床試験において痛みを評価する際の指標として、帯状疱疹に伴う痛みを、急性期、亜急性気、慢性期と連続的にとらえた概念である。


帯状疱疹後神経痛PHN:postherpetic neuralgia):帯状疱疹の皮疹が消失し、帯状疱疹が治癒した後も続く痛みのことで、帯状疱疹の合併症としてはもっとも頻度が多く、3ヶ月後で7~25%、6ヶ月後で5~13%に見られるという報告もある。
持続的に焼けるような痛み、一定の時間で刺すような痛みを繰り返す、ひりひり、チカチカ、ずきずき、締めつけられる、電気が走るなどと表現される。感覚が鈍くなる状態(hyperalgesia)や、触るだけで痛みを感じるアロディニアもよくみられる。

小豆島スタディ
小豆島(人口約3万人、面積153.30km2)在住の50歳以上の住民を対象に2008年12月~2009年11月に登録し、3年間12,522人の住民を対象に疫学調査を行った。
臨床所見から帯状疱疹の発症が疑われた症例は438人、そのうちウイルス学的検査により帯状疱疹と診断された患者は401名(DNA検出者396人、抗体価の上昇のみ5人)で検討を行った。
女性は男性と比較して1.5倍帯状疱疹になりやすく、70歳以上の者は50~69歳のものと比較して1.4倍帯状疱疹になりやすい結果となった。年齢層別の年間発症率は、50~59歳で0.93%、60~69歳で0.89%、70歳以上で1.23%であった。

水痘発症が少ない7~9月に帯状疱疹の発症が最も多い。


帯状疱疹の発症:
VZV特異的細胞性免疫を調べるために、水痘抗原を用いた皮内反応を5683人に施行した。
加齢に伴い反応が低下している。

水痘皮内反応が強い人ほど帯状疱疹発症率は低かった。

紅斑長径が10㎜以上と未満ではリスク比0.27という結果になった。


帯状疱疹発症後一日以内のVZV抗体値(=発症して抗体価が上がる前の抗体値)と帯状疱疹発症との間に差は認めなかった。つまり帯状疱疹発症には、細胞性免疫は密接に関与しているが、液性免疫は影響していない。


皮疹の大きさ:
帯状疱疹発症者の皮疹の大きさと発症以前の水痘皮内反応の紅斑長径との間には負の相関がみられる(皮内反応が大きいほど、帯状疱疹の皮疹が小さい)。


急性期の疼痛の強さ:
急性期・亜急性期の疼痛重症度と水痘皮内反応の紅斑長径との関係を見てみると、皮内反応の紅斑長径が5㎜以上と未満で有意な差が見られた(皮内反応が強いほど痛みが軽い)。


PHNの発症頻度:
水痘皮内反応長径が5㎜以上だったり、皮内反応で浮腫が認められた症例においてはPHNの発症が少ないことが分かった。

帯状疱疹発症後1日以内のVZV抗体価はPHN発症者とそうでない人の間には有意な差を認めなかった。

以上のことをまとめると、帯状疱疹の液性免疫は効果がなく(抗体価が高くても予防効果はない)、細胞性免疫が重要であり、ワクチン作成においてはこのことを重視する必要がある。

予防:
過労や加齢、体力低下などでリンパ球数が減少すると、ヘルペスウイルスが活性化し、神経の炎症と神経に沿って支配領域の皮膚に皮疹を作る。


38546人の60歳以上を対象とした3年間追跡調査で957名の帯状疱疹が発症したが、Oka株をもとに作成されたZOSTAVAXを使用したワクチンを接種した群では51.3%、PHNは66.5%抑制することができた。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa051016#t=article

ZOSTAVAX接種後の発症阻止効果の持続性については、接種後4~7年間では、帯状疱疹発症とPHN発症が、それぞれ39.6%、60.1%減少し、疾病による死亡や損失した生活の質を示す疾病負荷は50.01%減少することが明らかにされた。また、接種後7~11年間では、帯状疱疹とPHN発症が、それぞれ21.1%、35.4%減少し、疾病負荷が37.3%減少したと報告されている。さらに、60歳以上の176,078人を対象とした研究では、ワクチン接種後1年以内の帯状疱疹発症阻止効果はワクチン非接種者と比較して68.7%で、接種8年目ではその効果は4.2%であったと報告されている。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000151542.pdf

治療:
現在帯状疱疹に対して用いられる経口薬はアシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルの核酸類似体のみであったが、2017年7月3日ヘリカーゼ・プライマーゼ阻害薬であるアメナビルの製造販売が承認された。

DNAポリメラーゼ阻害薬は、ウイルスDNAポリメラーゼの基質の1つであるデオキシグアノシン3リン酸化体(dGTP)と競合拮抗し、DNAポリメラーゼの働きを阻害する。DNAポリメラーゼ阻害薬はヘルペスウイルス感染細胞内でウイルス由来チミジンキナーゼによってリン酸化される必要があるため、ヘルペスウイルスに非感染細胞には影響を与えにくい。
ヘリカーゼ・プライマーゼ阻害薬はDNA複製開始の際に、二重らせん構造をほぐす際に働くヘリカーゼ・プライマーゼ複合体を阻害することで、2本鎖DNAの開裂を防ぎ、DNA複製を開始させるRNAプライマーの合成を抑え、ヘルペスウイルスのDNA複製を阻害する。

参考:
マルホ製薬 帯状疱疹
帯状疱疹ワクチン ファクトシート 平成29年2月10日 国立感染症研究所
帯状疱疹・水痘 予防時代の診療戦略 Medical Tribune 2016年12月15日発行

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2017年7月29日 土曜日

高齢者の心と睡眠 山口隆之先生

2017年7月14日 
演題「高齢者の心と睡眠」
演者:あしがらクリニック 院長 山口隆之 先生
場所: ホテルモントレ横浜
内容及び補足「
睡眠障害の現状:日本人の1/5が睡眠障害を経験し、1/20が睡眠薬を服用しているといわれている。
生理的(正常)な睡眠
朝起きて夜寝るサーカディアンリズムがあり、このリズムを作っているものの一つにメラトニンというホルモンがある。
メラトニン:光刺激により分泌が抑制され、暗くなると分泌が促進される。
 
メラトニンの分泌は、日中、光を浴びている時間帯は抑制され、起床後約14~16時間後にあたる睡眠時間帯に上昇を開始し、深夜にピークを迎えるので下図のような血中濃度の変化となる。

メラトニンは脈拍、体温、血圧などを低下させることで睡眠に導く作用があり、抗酸化作用もあり、生殖細胞の保護・活性化作用、ホルモンバランス改善作用もあるといわれており、不妊治療にも有効であるとの報告があるが、性腺刺激ホルモン抑制作用もあり、メラトニン過剰摂取により月経が止まったり、メラトニンの減少により思春期早発をきたす可能性も指摘されている。また、免疫系に対する効果から発癌を抑制する効果も確認されている。
メラトニンは、トリプトファン→セロトニンを経由して合成されるので、トリプトファンを多く含む肉、魚、マネ、種子、ナッツ、豆乳などの摂取を心がけるとよい。
メラトニンの分泌を減らすもの、強い光、ブルーライト(スマホ、パソコン、テレビなどから出る)、一部のLED、交感神経系の興奮、ストレス、自律神経系の乱れ、などがある。
メラトニンの副作用:悪夢、血圧低下、吐き気、腹痛、睡眠障害

体温と睡眠の関係:
深部体温が下がるときに、非とは眠くなり、上昇するときには眠れません。一般的には体温が正午過ぎと、起床してから15~16時間後に低下してくるので眠くなる時間となる。昼食後に眠くなる理由の一つが正午過ぎの体温低下なのである。
逆にいつも寝る時間の3~4時間前は体温が高く眠ることが困難な時間帯なので、この時間帯に寝ようとする努力を続けると、無駄な努力をすることになるし、布団の中が眠れない場所だという習慣をつけることにもなりかねない。


睡眠時間と睡眠の深さの関係:
通常の睡眠のパターンでは、睡眠について最初の3時間ほどの間にステージ3~4の深いノンレム睡眠に移行する。

この睡眠の深さは年齢とともに変わってくる。

高齢になると睡眠の浅いところがより浅くなってくるので、ちょっとした物音などで目覚めやすくなってくる。これは加齢に伴う変化であり、『中途覚醒による不眠』とは異なるものである。したがってこの時点での目覚めに対して、持続時間の長い眠剤に変更してしまうと、起床時の目覚めが悪くなり、朝のフラツキの原因になる。目覚めた後すぐに寝つければ問題なく、もし寝つきが少し悪いのであれば、超短時間作用型の睡眠導入剤をこの目覚めた時に飲むという方法もある。
睡眠の質は睡眠時間と睡眠の深さの積:「睡眠の質」=「睡眠時間」×「睡眠の深さ」であり、加齢に伴ってこの両者は短く、浅くなる。つまり睡眠の質は加齢とともに悪化してくる。
ここまでのまとめ:
生理的な睡眠の特徴
睡眠のほとんどは最初の3時間で十分
眠りの質が最も良いのは20歳。後は下降線。
高齢者の中途覚醒は当たり前、再入眠できるか否かがポイント

良質な眠りを得る方法:太陽光によってメラトニンの分泌リズムを規則正しくし、適度な運動で深部体温を上げること
朝決まった時間に布団から出る
午前中の早い時間帯に日光浴をする
午後から夕方にかけて適度な運動をする
夜は明るいところで過ごさない

手術室の明るい光の下よりも、曇りがちの外の方が、光の量は多い。
 

睡眠障害
入眠困難:寝つきが悪い
中途覚醒:途中で何度も目が覚めてしまう
早朝覚醒:通常の起床時間よりも早く目覚める
熟眠障害:寝た感じがしない
⇒いずれの症状も「眠れない」と訴えることが少なくない。

睡眠障害の原因
【身体的要因】
 ・痛み   → 疼痛コントロール
 ・夜間頻尿 → 糖尿病、前立腺肥大症
 ・かゆみ  → 掻痒症状への治療
 ・ムズムズ → レストレスレッグ症候群
【精神的要因】
 ・不安   → 不安障害など
 ・抑うつ  → うつ病など
 ・神経過敏 → 統合失調症など

不眠症:俗に言う「不眠症」とは、身体的要因、一部の精神的要因が除外されてもなお、何らかの睡眠障害が持続することで、さらに日中の集中力低下や強い眠気などが問題となって日常生活や社会生活に著しい支障をきたしてしまう病気。

問診のポイント
睡眠障害の診療を行う上では、ただ単に夜間の睡眠障害だけに注目してはいけない。
人間の生理的な睡眠、良質な睡眠は一日の生活を通して得られるものであり、「眠れない」という患者の訴えに対して、身体的要因、精神的要因を除外した上で、一日の生活について問診する必要がある。

問診の手順
・なぜ眠れないんですか?
 痛みや頻尿、痒みやムズムズなどの身体的 要因の有無を確認する。
 また不安や抑うつ、神経過敏などの精神的 要因の有無を確認する。
身体的要因や精神的要因が除外されれば、次は一日の生活について確認する。
・朝は何時に起きていますか? ⇒起床時間が一定か確認する。
・午前中はどのようにして過ごしていますか? ⇒日光浴の習慣や機会があるか確認する。
・昼間の眠気はないですか? ⇒昼間に耐えがたい眠気がなければ睡眠時間は足りている可能性が高い。
・昼寝をしますか? ⇒長時間の昼寝や夕方の睡眠は不眠の元。
・運動する習慣はありますか? ⇒午後の適度な運動は睡眠の質を高める。
・お酒は飲みますか? たばこは吸いますか? ⇒飲酒と喫煙は睡眠の質を落とす。また緑茶や紅茶、コーヒーなどのカフェイン類も睡眠の質を落とす。
・寝る前はどのようにして過ごしていますか? ⇒寝る直前までテレビを見ていたり、寝る前に熱いお風呂に入ると寝つきが悪くなる。
・床に就いてから寝つくまでどれくらい時間がかかりますか? ⇒床に就いてから1時間以上寝つけないような人は入眠困難が疑われるが、眠くないのに布団に入っても眠れない。就床時間や睡眠時間にこだわる必要はなく、眠くなったら布団に入れば良く、朝決まった時間に起きるようにしよう。
・寝た後に途中で目が覚めますか? 
・目が覚めた後にまた眠ることはできますか? ⇒中途覚醒の中には生理的なものがある。途中で目が覚めることが問題なのではなく、その後に全く眠れなくなることが問題なのであり、特に高齢者は中途覚醒するのが当たり前という部分もある。
・朝早く目が覚めますか?
・その時の目覚めはどうですか? ⇒朝早く目が覚めても、すっきりとしたお目覚めであれば特に問題ない。睡眠相が前倒しになっているだけの可能性もあるので、それを修正したければ定時までは布団で過ごし、そこから規則正しい生活を送るようにする。

治療
「眠れない」という言葉に対して安易に睡眠薬を処方していると、依存や耐性、認知機能障害など様々な有害事象を生み出すことになる。精神科医のみならず、一般診療科の医師も安易に睡眠薬を処方しすぎない啓蒙が必要である。
①  非薬物療法
 生理的な睡眠についてきちんと説明する。
 生活指導を行うだけでも睡眠障害が改善したり、薬物療法の効果を高める効果がある。
②  薬物療法
 生活指導だけでは睡眠障害が改善しない場合、薬物療法を検討する。

非薬物療法:
<生活指導のポイント>
・朝は決まった時間に布団から出ましょう。
・午前に30分日光浴をしましょう。
・午後に30分早歩きをしましょう。
・昼寝は午後3時まで30分以内にしましょう。
・規則正しい食生活を心掛けましょう。
・お風呂はぬるま湯にゆっくりつかりましょう。
・寝酒、寝る前の一服は避けましょう。
・夜はリラックスできる方法を見つけましょう。
・眠くなったら布団に入りましょう。
・枕の高さは自分に合ったものにしましょう。

適切な枕の高さ
仰向けでも横向きでも自然な姿勢になるものが最適な枕の高さと言われている。
まず仰向けに寝てみて、次に寝がえりを打ってみて首が上下しない高さに調節する。
ちなみに枕の幅は、寝返りをうつので、頭3個分は必要である。
  
枕が低いときは、の下にタオルを敷き、枕が高いときは、肩の下にタオルを敷く。

  

薬物療法:
・バルビツール酸系: 基本的には使用禁止!
・ベンゾジアゼピン系: 依存、耐性、せん妄(特に高齢者)に注意
・非ベンゾジアゼピン系: 筋弛緩作用が少なく、高齢者に使いやすい
・メラトニン受容体作動薬: メラトニンに作用して自然な睡眠
・オレキシン受容体拮抗薬: 覚醒に関与する神経系を遮断する

ベンゾジアゼピン系睡眠薬
ほとんどの睡眠薬がベンゾジアゼピン系である。
依存する薬だとか耐性ができて効かなくなるとか、認知機能が低下するなどと心配しているが、ベンゾジアゼピン系薬剤はとても安全性に優れた薬である(バルビツール酸系に比べれば)。
【身体依存】薬剤への耐性から服用量の増量、乱用などの問題を生じ、離脱症状が出現する。
【精神依存(常用量依存)】常用量の服用であっても、薬剤中止や不眠の再燃に対する不安などから睡眠薬の減量や中止ができなくなる。
【認知機能障害】(≠認知症)長期の服用で認知機能は低下する。
これらの副作用は、処方の仕方、薬の説明の仕方が悪い医原性であることが少なくない。
薬剤の効果を実感しやすい薬の場合、効果が切れた感じを実感しやすく、依存性が高くなりやすい。
処方に注意する薬剤:ハルシオン、ナックス、デパス、セルシン
処方の際の注意点:
・高齢者ではFirst choiceにしない
・長時間作用型は基本的に使わない
・特に一般診療科の医師には超短時間作用型、短時間作用型だけを使ってほしい
・依存性、耐性、認知機能障害に注意する
・睡眠時無呼吸症候群を見逃さない!!

睡眠時無呼吸症候群を見抜くポイント
・いびき、朝の口の渇き、昼間の眠気
・寝つきは良いが中途覚醒、熟眠障害がある、中途覚醒に対してベンゾジアゼピン系睡眠薬を投与すると悪化する。
・上気道が狭い


服薬指導:
就前というあいまいな時間帯で処方するのではなく、普段寝る時間の30分前に服用を指導するようにする。
私の薦める睡眠薬(非精神科医向け):
非ベンゾジアゼピン系(超短時間型):マイスリー、アモバン、ルネスタ
ベンゾジアゼピン系 (短時間型):レンドルミン、エバミール、リスミー
メラトニン受容体作動薬: ロゼレム(早い時間の服用で睡眠相の前方移動、遅い時間の服用で睡眠相の後方移動)
オレキシン受容体拮抗薬:ベルソムラ

睡眠障害に呕下使い分けの私見

まとめ
・睡眠薬は睡眠補助薬と心得ましょう!
・医原性の依存症を作ってはいけません!
・とりあえず薬で解決しようとせずに、生活指導なども行いましょう!

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2017年6月19日 月曜日

ドライマウスの原因と対処法 斎藤 一郎 先生

2017年6月8日 
演題「ドライマウスの原因と対処法」
演者:鶴見大学歯学部教授 斎藤 一郎 先生
場所: ホテル横浜キャメロットジャパン
内容及び補足「
シェーグレン症候群は1933年にスウェーデンの眼科医ヘンリック、シェーグレンの発表した論文にちなんで名づけられた疾患である。
2003年の厚生労働省の調査によると、1年間で日本においてシェーグレン症候群で医療機関を受診した人は7800人と報告され、近年では15000~20000人とされている。潜在的な患者数を含めると、アメリカのデータを当てはめて計算すると10~30万人いると推計されている。

1994年の疫学調査での年齢分布は50歳前後の女性が多く、男女比は1:14と女性に合った圧倒的に多い疾患である。

http://www.ss-info.net/kisotishiki/kisotishiki04.html

鶴見歯科大学にドライマウス外来を開設して15年たち、その間初診患者さんとして7200名の患者さんを診察しました。ドライマウス症状を訴える患者さんの92%は薬剤ン副作用やストレス、更年期障害による症状で、シェーグレン症候群によるものは8%程度でした。

本疾患は主として中年女性に後発する涙腺と唾液腺が主にやられる自己免疫性疾患で、膠原病に合併する二次性シェーグレン症候群と、これらの合併のない、原発性シェーグレン症候群に分類される。
臨床的には、
ドライアイ、口腔乾燥症状の診の患者(約45%)
全身性の自己免疫性疾患に合併するグループ(約50%)
悪性リンパ腫や原発性マクログロブリン血症を合併しているグループ(約5%)
シェーグレン症候群患者調査:斎藤先生は2008年度の報告で講演されましたが、株式会社Q Lifeから2017年4月26日に最新版の報告がありましたのでこちらも合わせて記載します。
自覚症状:
眼の乾燥症状:ドライアイ( 涙が出ない、目がころころする、目がかゆい、目が痛い、目が疲れる、物がよくみえない、まぶしい、目やにがたまる、悲しい時でも涙が出ないなど)
口の乾燥症状:ドライマウス(口が渇く、唾液が出ない、摂食時によく水を飲む、口が渇いて日常会話が続けられない、味がよくわからない、口内が痛む、外出時水筒を持ち歩く・夜間に飲水のために起きる、虫歯が多くなったなど)
鼻腔の乾燥症状:(鼻が渇く、鼻の中にかさぶたが出来る、 鼻出血があるなど。)
その他症状:(唾液腺の腫れと痛み、息切れ、熱が出る、関節痛、毛が抜ける、 肌荒れ、 夜間の頻尿、紫斑、皮疹、レイノー現象、アレルギー、日光過敏、膣乾燥(性交不快感)など、全身症状として:疲労感、記憶力低下、頭痛は特に多い症状、めまい、集中力の低下、気分が移りやすい、うつ傾向などもよくある。)


(おそらく2008年のもの)
http://www.ss-info.net/kisotishiki/kisotishiki05.html

シェーグレン症候群が原因と思われる症状で、初めて医療機関を受診した科はどこですか?
一般内科が26%で最も多く、次いでリウマチ科18%、膠原病内科は16%であった。
2008年では、内科が67%、次いで歯科17.3%、耳鼻科13.6%と異なり、シェーグレン症候群を専門で診る科を受診した患者が増加していることがわかる。

シェーグレン症候群と最終診断されたかについては、膠原病内科が約半数を占めていた。

現在の症状での生活への影響度は、ドライアイ、ドライマウスといった感想症状が9割を超えていた。

「初めて医療機関を受診した時の年齢」-「症状が初めて出た時の年齢」は、平均1.83年で受診までの期間はそれほど長いものではなかった。

「診断された時の年齢」-「初めて医療機関を受診した時の年齢」は平均1.24年で以前よりは短縮されている。

「診断された時の年齢」-「初めて症状が出た時の年齢」は平均3.07年であった。

現在診断されている疾患についての回答は、関節リウマチが23%と最も多く、次いで、高血圧12%、全身性エリテマトーデス(SLE)が9%、脂質異常症7%、糖尿病が2%であった。関節リウマチ患者の約20%にシェーグレン症候群が発症するといわれている。


診断:1999年厚生省班のシェーグレン症状の診断基準
1. 生検病理組織検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)口唇腺組織で4mm²あたり1focus(導管周囲に50個以上のリンパ球浸潤)以上
B)涙腺組織で4mm²あたり1focus(導管周囲に50個以上のリンパ球浸潤)以上
2. 口腔検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)唾液腺造影でStage I(直径1mm未満の小点状陰影)以上の異常所見
B)唾液分泌量低下(ガム試験にて10分間で10mL以下、またはサクソンテストにて2分間で2g以下)があり、かつ唾液腺シンチグラフィーにて機能低下の所見
3. 眼科検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)シルマー試験で5分に5mm以下で、かつローズベンガル試験(van Bijsterveldスコア)で3以上
B)シルマー試験で5分に5mm以下で、かつ蛍光色素試験で陽性
4. 血清検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)抗Ro/SS-A抗体陽性  
B)抗La/SS-B抗体陽性
【診断基準】
上の4項目のうちいずれかの2項目以上が陽性であれば、シェーグレン症候群と診断する。

Apple tree appearanceを示す。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsg/25/3/25_3_307/_pdf

症状:
1. 乾燥症状(眼、口腔、気道乾燥、皮膚乾燥、腟乾燥など)
2. 唾液腺・涙腺腫脹
3. 関節症状(関節痛、関節炎)
4. 甲状腺(甲状腺腫、慢性甲状腺炎)
5. 呼吸器症状(間質性肺炎、慢性気管支炎、嗄声など)
6. 肝症状(原発性胆汁性肝硬変症、自己免疫性肝炎)
7. 消化管症状(胃炎)
8. 腎症状(遠位尿細管性アシドーシス、低カリウム血症による四肢麻痺、腎石灰化症)
9. 皮膚症状(環状紅斑、高ガンマグロブリン血症による、下肢の網状皮斑や紫斑)
10. その他(レイノー現象、筋炎、末梢神経炎、血管炎、悪性リンパ腫など)

http://www.kawamoto-dental.com/dry/index.html

ドライマウスの原因
1. ストレスによる唾液分泌量の低下:緊張で瞬間的に唾液分泌が止まる
2. 加齢による唾液分泌量の低下
3. 食生活の変化による咀嚼回数・咀嚼時間の低下(1日30分未満となった)
4. 薬剤に頼る生活(欧米の40倍の服薬量)
5. シェーグレンや自己免疫性疾患としての症状や糖尿病、腎不全などの疾患による影響

唾液の役割
唾液は唾液腺と呼ばれる分泌腺から口腔内に分泌される液体である。左右両側の耳下腺、顎下腺、舌下腺の三種類の大唾液腺から全唾液量の90%が分泌される。

唾液の分泌は自律神経によりコントロールされている。
サラサラ唾液:主に副交感神経により支配され、食事の時に多く分泌され、唾液アミラーゼなど消化を助ける酵素を多く含み、食べ物を湿らせて飲み込みやすくするなど、消化吸収を助ける役割を担っている。
ネバネバ唾液:おもに交感神経に支配されており、緊張した時などによく働き、納豆やオクラに含まれるムチンというネバネバの成分が含まれており、細菌を絡めとし身体への侵入を防ぐほか、口腔内の粘膜を保護したり保湿する体を守る役割を担っている。

https://lidea.today/articles/499

通常健康人で一日1~1.5L程度(安静時唾液で700~800ml程度)分泌され、血液をもとに作られ、99.5%が水分で、残りの半分ずつを無基質と有機質が占めている。
作用ごとに物質を上げると以下のようになる。


http://www.kawamoto-dental.com/dry/index.html

ドライマウスを悪化させる要因
1. 糖尿病
2. シェーグレン症候群
3. 腎不全・透析
4. 更年期障害:Dry Vaginaも伴う、卵巣摘出でDry Mouth出現し、女性ホルモン補充で改善する
5. ストレス
6. 筋力低下
7. 薬剤の副作用
8. 老化
9. 喫煙
10. 飲酒

口渇症状を出す薬剤








J Health Care Dent. 2005;7:46-54

ドライマウスにより派生する症状・悪化する疾患
1. 上部消化管障害
2. 感染症:誤嚥性肺炎など
3. 口臭
4. 摂食障害
5. 口腔内の不快感
6. 口内炎等の粘膜疾患
7. 齲歯・歯周病
8. 舌痛症
9. カンジダ感染
10. 異常乾燥感

治療
生活指導:ガムをかむなどして唾液分泌を促すとともに口腔ケアを行う
人工唾液(サリベート、2%メチルセルロース)
薬剤療法
粘液融解薬:ビソルボン
漢方薬:白虎加人参湯、人参湯、麦門冬湯
M3ムスカリン作動薬:塩酸セビメリン(エポザック、サリグレン)、塩酸ピロカルピン(サラジェン)


https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatopharyngology/24/1/24_1_39/_pdf


参:
シェーグレン症候群情報サイト
日本シェーグレン症候群学会
難病情報センター
ドライマウス研究会

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2017年6月19日 月曜日

ドライアイの診断と治療 藤島 浩 先生

2017年6月8日 
演題「ドライアイの診断と治療」
演者:鶴見大学歯学部眼科教授 藤島 浩 先生
場所: ホテル横浜キャメロットジャパン
内容及び補足「
ドライアイ:涙の量や質に変化が起き、目を守るために必要な涙の量が不足したり、瞬きが検証したりして涙が均等にいきわたらなくなる疾患。高齢化、エアコンの使用、パソコン、スマートフォンの長時間の使用、コンタクトレンズ装着により増加し、現在日本人で2200万人いるといわれている。

https://www.santen.co.jp/ja/healthcare/eye/library/dryeye/

涙は、眼球外上側にある涙腺で作られ、瞬きで目の表面に広がります。大半は、目頭にあるある「涙点」という小さな穴から鼻の奥に排出され、一部は目の表面から蒸発する。

http://www.nichigan.or.jp/public/disease/img/dryeye1.jpg

涙液のダイナミクス:
涙は、涙腺から1~2μl/min分泌され、10%ほどが蒸発する。残りの90%は涙点より排出される。
眼球の上方の結膜嚢に4.5μl、眼球露出部表面に1.1μl、涙液メニスカス(三日月部分)に2.9μl分布しているといわれている。
瞬目は平均14.3回/分行われており、この瞬目により、涙液は眼表面にいきわたる。


涙の機能としては、乾燥防止、洗浄、殺菌、栄養補給、鮮明な画像が結べるように同行の表面を滑らかに保つことなどが挙げられる。
涙の最表面層は油層で乾燥を防ぐ働きがあります。その下にムチンを含んだ液層がありこれらが目の表面の細胞を覆っている。

https://www.santen.co.jp/ja/healthcare/eye/library/dryeye/

ドライアイの定義
2006年のドライアイ研究会による定義
『ドライアイとは、さまざまな要因による涙液および角膜上皮の慢性疾患であり、眼不快感や視機能異常を伴う。』と定義され、1.自覚症状、2.涙液異常、3.角結膜上皮障害の三つを満たした場合、ドライアイの確定診断としていました。
ドライアイ診断における確定例と疑い例
自覚症状:あり 涙液異常:あり 角結膜上皮障害:あり...ドライアイ確定
自覚症状:あり 涙液異常:あり 角結膜上皮障害:なし...ドライアイ疑い
自覚症状:なし 涙液異常:あり 角結膜上皮障害:あり...ドライアイ疑い
自覚症状:あり 涙液異常:なし 角結膜上皮障害:あり...ドライアイ疑い
であったが、判断が少々込み入っているので、2016年に『BUt5秒以下かつ自覚症状(含不快感、視機能異常)を有する』という定義に変更となった。この為、ドライアイと診断される患者数は増加している。
http://www.dryeye.ne.jp/public_dryeye/teigi/img/definition.png

参:角膜上皮障害の検査
シルマー試験:
専用のろ紙を眼瞼の縁にはさんで、5分間でどのくらいの長さがぬれるかを調べる検査

BUT(Tear Break Up Time)検査:フルオレセインという染色液を少量点眼し、瞬きを止め、眼の乾燥とともに色素が消える時間を測定する検査。10秒以上が正常、5秒以下ならドライアイの可能性が高い。


症状:


ドライアイの危険因子:
(1)年齢:
 加齢による涙の分泌量の量や質の低下。
(2)性別:
 女性のほうが男性よりドライアイになりやすい。
(3)過度のVDT(visual display terminals)作業
 パソコン、スマートフォンなど、モニターを長時間見つめる作業。
(4)乾燥した環境
 冬の乾燥した季節やエアコンの吹き出し口に当たるところなどの環境。
(5)コンタクトレンズ:
 特にソフトコンタクトレンズ装用者で多い。
(6)喫煙
 たばこの煙に曝されると、涙の質が悪くなる。
(7)内服薬
 降圧薬や向精神薬など「抗コリン作用」を持つ薬で、涙の分泌量が減少する。また、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(商品名:ティーエスワン)などの抗癌剤でも涙の分泌量が減少。
(8)点眼薬
 点眼薬の中には、涙の安定性を低下させたり、角膜に障害を与えやすくなる成分が含まれていることがあり、点眼薬の中に含まれる防腐剤などによる障害も起こりやすくなる。
(9)マイボーム腺機能不全(MGD)
 加齢に伴う眼瞼の縁にあるマイボーム腺の詰まりによる、油成分分泌低下。
(10)結膜弛緩症
 加齢に伴う、結膜部分(白目の部分)の弛みのため、眼表面で涙が留めにくくなること、また、弛んだ結膜と眼球の摩擦により眼表面に傷つきやすくなること。
(11)全身の病気に伴うもの
 涙腺、唾液腺に対する自己免疫疾患であるシェーグレン症候群では、強いドライアイを生じることがしばしばみられる。

病態:
涙液層と表層上皮の間に悪循環(コア・メカニズム)が生じること
悪循環には、さまざまな要因(上記危険因子)が関与すること
症状(眼不快感、視機能異常)があること
つまり、リスクファクターがコア・メカニズムをひきおこしてドライアイが生じると考える。
その橋渡しのメカニズムとして、1.涙液減少、2.涙液層の水分蒸発、亢進3.表層上皮の水漏れ性の低下、4.瞬目時の摩擦の亢進、が挙げられる。

京都府医大誌 122(8)、549-558.2013

治療
ドライアイの理想的な治療は、この橋渡しのメカニズムを想定しながら、リスクファクターを見つけ、それぞれにたいして治療を行うことである。

涙液層は開瞼後に眼表面に形成されるが、その過程は大きく二つに分けられる。
1つ目は、開瞼時の角膜表面への涙液の水分の塗り付け過程であり、2つ目は、開瞼後の油層の情報進展によってもたらされる角膜上方への水分移動に基づく涙液層の形成過程である。
この二つの過程は、BUT検査では測定できないものであるが、これらの過程を考えながら、涙液層の破壊を観察することは重要である。
京都府立医科大学の横井らは、涙液層の破壊パターンが4つに分類可能であると提唱している。
Spot break(下図左上):開瞼直後に見られる特徴的な類円形の涙液破壊であり、角膜上皮の水漏れ性低下が原因と考えられる。
Area break(下図右上):涙液の水分が極端に少ないために油層の上方伸展が得られない場合に、油層の上方伸展でもたらされるはずの水分の上方移動が得られず、角膜の広い範囲にわたって開瞼直後から涙液層の形成が得られないもの。
Line break(重度-下図左下、軽度-下図右下):油層の上方伸展によってもたらされる水分の上方移動の途中で、角膜下方に見られる線状の涙液層の破壊である。軽症~中等症の涙液の水分減少がそのメカニズムとして考えられる。

シェーグレン症候群の角膜上皮障害に対する3%軸あほソルナトリウム点眼効果(左:点眼全、右:3か月点眼後)人口涙液の頻回点眼では、改善のない角膜障害が著明に改善している。

難治性の糸状角膜炎に対する2%レバミピド点眼液の効果(左:点眼全、右:1ヵ月点眼後)。人口涙液の頻回点眼および低力価ステロイド点眼液では、全く改善が得られなかった角膜糸状物が、レバミピド点眼により消失しているのがわかる。

点眼液で効果が得られない場合には、涙点閉鎖による治療を行う。涙の排出口である涙点を閉鎖して、涙の流出を抑え、眼の表面に涙をためる治療である。シリコンや合成樹脂性ン涙点プラグを挿入する。

https://www.santen.co.jp/ja/healthcare/eye/library/dryeye/


シェーグレンの口腔内乾燥症治療薬のサラジェンなどの投与でも、ドライアイの改善がみられる。

参考サイト
ドライアイ研究会
日本眼科学会
Santen:A Clear Vision For Life

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2017年6月12日 月曜日

開業医も知っておきたい輸入感染症 天野 皓昭 先生

 2017年6月3日 
演題「開業医も知っておきたい輸入感染症」
演者: 湘和会 湘南記念病院 在宅診療部長 天野皓昭 先生
場所:保険医協会
内容及び補足「
島国である日本であるから使われている言葉であり、世界的には輸入感染症という言葉はない。
内容で考えると以下のような表現となる。
Infectious disease originating overseas entering the country through an infected traveler or goods.
国立感染症研究所は『すべてが、あるいは主に海外で感染して国内に持ち込まれる感染症』としている。
独協医科大学の春木先生はその特徴を
1. 日本にはなく、海外で流行している感染症が国内に持ち込まれる場合
2. 日本にもある感染症が海外から持ち込まれる場合
3. 日本にも存在する病原体(細菌)が多剤耐性化したものが国内に持ち込まれる場合
4. 食品や動物など輸入品に付着した感染症が国内に持ち込まれる場合
に分類している。

これとは少し立ち位置が異なるが、『新興、再興感染症』という分類がある。
新興感染症:『かつて知られていなかった新しく認識された感染症で局地的、あるいは国際的に公衆衛生上問題となる感染症』で
SARS(重症急性呼吸器症候群)、鳥インフルエンザ、ウエストナイル熱、エボラ出血熱、MERS(中東呼吸器症候群)、クリプトスポリジウム症、クリミア・コンゴ出血熱、HIV(後天性免疫不全症候群)、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)、腸管出血性大腸菌感染症、二パウイルス感染症、日本紅斑熱、VRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)感染症、マールブルグ病、ラッサ熱
があるが、HIVはすでに新興感染症の範疇では考えられていない。
再興感染症:『既知の感染症ですでに公衆衛生上問題とならない程度までに患者数が減少していた感染症のうち、再び流行し始め患者数が増加したもの』で
狂犬病、デング熱、自家熱、マラリア、ペスト、ジフテリア、結核、サルモネラ感染症、これら、黄熱、リーシュマニア症、エキノコックス症
がある。
2001年の沖縄サミットで国際機関が協力して『The Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria』を設立し、三大感染症に取り組むことを宣伝した。
この時点でHIV/AIDSの患者数3330万人、死亡者数180万人、結核年間発生数940万人、死亡者数170万人、マラリア年間発生数2億2500万人、死亡者数78万人であった。
NTDs:Neglected Tropical Disease
しかし、これら以外の感染性疾患は多数あり、WHOは顧みられない熱帯病(NTDs:Neglected Tropical Disease)も提唱した。
NTDsとは、WHOが「人類の中で制圧しなければならない熱帯病」と定義している17の疾患群の。こと
世界149の国と地域で蔓延し、感染者数は約10億人にも上り、深刻な社会問題となっており、この内100の国と地域では2種類のNTDsが蔓延し、30の国と地域では、6種類以上ものNTDsが蔓延しているといわれている。
NTDsは主に貧困による劣悪な衛生環境などが主な原因となって蔓延しており、このことがまた労働力や生産性の低下を招き、貧困から脱出できない原因にもなっている。これらの疾患にかかると、重度の身体障害が残る場合もあり、経済活動や社会生活を送る上での大きな足かせとなっている。また最悪の場合には死に至ることもある。開発途上国や新興国では,NTDsの蔓延が経済成長の妨げともなっており、国が抱える重大な課題の一つになっている。
NTDsは三大感染症と比べて、世界からあまり関心が向けられておらず、十分な対策が取られてこなかった。2008年のG8北海道洞爺湖サミット首脳宣言を契機として、焦点が荒れられるようになってきた。

2012年のロンドン宣言で表明された10のNTDsの患者数であるが、統計の取り方により、実際の疫学を反映しているとは言えないものの、おおよその広がり具合がわかる。
特に土壌伝播寄生虫の回虫症としての数は、どのような視点から計算されているかは不明である。土壌伝播寄生虫は、靴を履く習慣を広めることにより感染者は激減している。
生活習慣が、これらの感染症の分布にも影響しており、糞尿を農業の肥やしとしていない、アフリカにおいて回虫症はほとんど見られず、東南アジアでよくみられる感染症となっている。

輸入感染症の重要性とその変化
日本からの海外旅行者数は1997年以降大きな変化はないが、日本への外国人旅行者数はここ10年で3倍に増加している。

また外国人労働者及びその家族の増加が顕著である。

 
これらの人たちが住んでいた環境で感染した慢性疾患の知識も必要となることがある。
出身国別で見てみると、韓国・朝鮮からの人は減少し、ブラジル人は頭打ちとなり、中国やフィリピンからの人が増加している。
ブラジル人であれば、シャーガス病による特発性心筋症や巨大結腸症、中国人であれば、有鉤条虫による嚢虫症からくる痙攣や麻痺があり、基礎疾患としての寄生虫疾患を念頭に置く必要がある。

その他に生鮮輸入食品の増加や交通システムのスピード化・国際便の増加がこういった感染症の拡大に拍車をかけている。
しかし、日常診療においてこれらの疾患の絶対数が少なく、関心も少ないため、医師の知識が不足していることが問題であるばかりでなく、容易に相談・対応できる医療機関・専門家が少ないことも問題である。
これらの疾患の多くは、根本的な治療薬が存在せず、あったとしても入手困難なものが多く、適切・迅速な治療が困難な状況にある。
また、迅速な感染拡大防止対策が困難であり、現在行われている、国際空港における水際作戦(体温の上昇を調べ対象者を絞り込む)の有効性に疑問がある。
海外から一日に700機来ている。30000人ほどになる人対象に行って年300件ほど検出されているという。デング熱など不顕性感染(感染しているけれど発熱していない)場合には検出不可能であり、サーモグラフィーによる検出には疑問が呈されている。

そこで重要になってくるのが、旅行歴・暴露に関する問診である。国立感染症センターの笏那先生は以下の問診を進めている。
1. 渡航の出発日と帰国日
2. 渡航先と経由国
3. 田舎か都市部か
4. 現地の気候、季節
5. 咬傷の有無;蚊、ダニ
6. 動物暴露
7. Sick contact
8. 現地での性交渉
9. 食事や水の摂取
10. ワクチン接種歴
11. 旅行の種類:ツアー、ビジネス、バックパック
12. 外傷歴
症状が出るまでの潜伏期間も重要な情報となる。


デング熱 Dengue Fever
デングウイルスはフラビウイルス化フラビウイルス族のRNAウイルスである。

デングウイルスゲノムは約11000の塩基からなっており、血清型でDENV-1~4の四つのウイルス型に分類される。ある血清型に感染するとその血清型に対する終生免疫を獲得するが、他の血清型に対する防御は短期間に留まる。また、二度目の感染が他の血清型の場合に重篤化することが報告されている。この機序がデング出血熱のおきる機序として唱えられているが、小児では初回感染でも出血熱の発症があり、強毒株がデングウイルスの中に存在し、その感染によって発症すると唱えている人もいる。


WHO地域事務所別に見たデング熱患者数は以下のようになっている。

しかし、アフリカ各国の集計データがないので、正確な感染者数を反映しているものではない。2016年デング熱の流行があったところは下記のようにしめされている。

デング熱はネッタイシマカやヒトスジシマカにより媒介される。

ネッタイシマカ

したがってこれらの過の生息地域がデング熱のリスクのある地域になる。

http://www.forth.go.jp/useful/infectious/name/name33.html

地球の温暖化に伴いヒトスジシマカの分布地域が北へ拡大することが予測されている。


デング熱の臨床像
デングウイルスに感染しても8割は無症状で、それ以外でも軽症が多い。しかし、5%の感染者では重症にまで発展し、さらに極一部で生命を脅かすこともある。

潜伏期間は、3~14日であるが、ほとんどの場合4~7日である。帰国後14日以上経過した後で発症する可能性は極めて低い。子供の場合、風邪や胃腸炎(嘔吐や下痢)とよく似た症状がたびたびあらわれ、症状は大人よりも軽いが、ときに重度の合併症をきたす。
症状は、突然の発熱、頭痛(目の奥の痛みと表現されることが多い)、筋肉や関節の痛み、発疹である。

40度以上の発熱となることがよくあり、全身の痛みや頭痛を伴う。このような症状が2~7日持続し、この時期に50~80%の人に発疹が認められる。1~2日目に紅斑が現れるか、4~7日の頃にはしかに似た発疹が現れる。また、点状出血や毛細血管の破綻が現れることもある。口や鼻の粘膜から軽度の出血を認めることもある。1~2日で急に熱が上がって下がるという二相性を示す。
デング出血熱:感染者の中には重篤化する人もいる。高熱から回復した後に悪化する。
毛細血管の透過性が増、し水分の漏れが増加し、胸腔や腹腔に多量の水分貯留を認め、循環血液量の減少により、循環性ショックが生じることがある。この段階で、臓器障害や大量出血が消化器系で起きることがある。
デングショック症候群と呼ばれる循環性ショックやデング出血熱が発症する割合は5%未満である。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%B3%E3%82%B0%E7%86%B1


デング熱の国内報告者数の推移を見てみると、2014年代々木公園で国内感染拡大があったがそれ以外はほとんどが輸入例である。

海外感染者が代々木公園イベント参加した人から広がったと一部で報道されたが、発症直前にインドネシア舞踏団の講演があり、その人たちからの感染の可能性を指摘している人もいる。

デング熱ワクチンが開発されている。違う方の再感染の際に重篤化するので開発が困難と思われていたが、四種類同時にワクチンを接種することにより、重篤化を避けられるとの発想で作成された。60%以上に予防効果が認められ、第三相試験まで進んでおり、2015年からメキシコ、2016年からフィリピンなど10か国で9歳以上に使用が開始されている。

マラリア

マラリアは世界90か国以上の国々で公衆衛生上大きな問題であり、これらの地域は世界人口の40%24億人がその感染症と向き合っている。WHOの最新データによると毎年3~5億の人が罹患し(その90%はサハラ以南のアフリカの人々)、年間の死亡者数は100万人を超えている。

マラリアはマラリア原虫が人体に寄生することによって引き起こされる。

ピンク色の丸い形のものが赤血球、矢印で示した輪状(左図)または鎌状(右図)のものが赤血球に感染したマラリア原虫
媒介動物はハマダラカである。


細胞内寄生の原虫で、ヒトの体内では無性生殖、媒介蚊であるハマダラカの体内で有性生殖で増殖する、人に寄生するマラリア原虫は以下の四種類で、下記の潜伏期間である。
1. 熱帯熱マラリア原虫:Plasmodium falciparum 7~14日
2. 三日熱マラリア原虫:Plasmodium vivax 12~17日あるいはそれ以上
3. 卵形マラリア原虫:Plasmodium ovale 11~18日あるいはそれ以上
4. 四日熱マラリア原虫:Plasmodium malariae 18~40日あるいはそれ以上
注意すべき点は、熱帯熱マラリア以外のマラリアの場合、潜伏期が長期化する例が少なくないことであり、抗マラリア薬を内服していた場合はさらに長期化する例がある。海外寄りの帰国時には全然症状がなく、その後に発熱が出現するという経過をたどることが多い。流行地に滞在しなくても、熱帯地より航空機とともに運ばれてきたハマダラカに刺され発症する場合もあり、空港マラリアと呼ばれている。輸血や針刺し事故による伝播や経胎盤感染も稀にある。

マラリアの生活史と形態:
マラリア原虫はハマダラかによって媒介され、吸血時に蚊の唾液腺から感染型のスポロゾイトが人の血液中に注入される。スポロゾイトは数分以内に肝細胞に侵入し、そこで分裂を繰り返す。肝細胞内で増殖を終えると、寄生細胞を破壊し、メロゾイトを放出する。メロゾイトは数十秒以内に次の赤血球に侵入し、ヘモグロビンを摂取して成長する。侵入48時間後には20~30個のメロゾイトが形成され、このメロゾイトは赤血球を破壊して、次の赤血球に侵入する。なお、三日熱マラリア原虫と卵形マラリア原虫では、一部の肝細胞内原虫が休眠型(ヒプノゾイト)を取り、数か月~数年後に増殖し、マラリア再発の原因となる。
マラリア原虫はヒトの体内での発育のほとんどを細胞内で過ごすので、免疫が容易には成立しない。
赤血球内の虫体の一部は雌雄のガメトサイト(生殖母体)に分化する。ガメトサイトはハマダラ化の吸血によって蚊に移ると、その中腸で雌雄の生殖体(ガメート)になり、受精して接合体を形成する。接合体(ザイゴート)はオーキネートになって中腸壁に侵入し、そこでオーシストを形成する。その中で虫体は分裂を繰り返し、多くのスポロゾイトを形成する。スポロゾイトは唾液腺に移行して成熟し、次の感染の機会を待つ。なお、ゲノムが2倍体になるのは接合体の時期だけで、その後すぐに減数分裂が起こり1倍体となる。ヒト体内でのマラリア原虫の全発育期は核相は1倍体である。ヒトでは1倍体の時期は精子と卵子の時期なので、発育史におけるゲノムの倍数性はヒトとはかなり異なる。

http://www.biken.osaka-u.ac.jp/biken/BioScience/page22/index_22.html#04
発育を繰り返すうちに一部は雄性と雌性の生殖母体となる。生殖母体は蚊に吸われることで有性生殖するが、人体内では死滅する。三日熱および卵形マラリアでは、肝細胞内で休止期に入ったヒプノゾイトが、数か月後に分裂を開始し、再発する。一方、熱帯熱および四日熱マラリアはヒプノゾイトが存在しないため再発しない。


         輪状体 アメーバ体 分裂体 生殖母体(雌) 生殖母体(雄)
熱帯熱マラリア  
三日熱マラリア         
四日熱マラリア         
卵形マラリア         
http://www.idimsut.jp/didai/kansensho_09.html

マラリアの三大主徴は、特有の熱発作、貧血、脾腫であるが、これらの症状が認めらえるときは病状がかなり進行している状況にあり、一刻を争って適切な治療を行わないと救命が困難な場合がある。
悪寒期:不定の前駆症状の後に悪寒、戦慄、体温上昇が出現、1~2時間持続する。
灼熱期:悪寒は消失し、つぎは熱感を感じ、頭痛、顔面紅潮、結膜充血、関節痛、悪心、嘔吐を伴う高熱が4~5時間持続し、この間、うわごとや意識障害を呈することもある。
無熱期:大量の発汗とともに解熱、臨床症状も軽快し気分爽快となる。
熱発作のパターンは初期には不規則であるが、熱帯熱マラリア以外は、次第に以下の表のような規則的な熱型になる(熱発作の周期は分裂体の破裂する周期に一致する)。熱帯熱マラリアでは、毎日もしくは1日に2~3回不規則に発熱する。
熱帯熱マラリア:不規則、三日熱マラリアおよび卵形マラリア:48時間、四日熱マラリア:72時間
マラリアの経過は、熱帯熱マラリアとそれ以外とで大きく異なる。熱帯熱マラリアの場合は、発熱に伴う症状が強く、不規則に発熱し、解熱時も健康感がない。早期に治療を開始しないと血中の原虫数は急激に増加し、脳性マラリア、ARDS、急性腎不全、代謝性アシドーシス、重症貧血を併発し死亡する。そのほかのマラリアは比較的ゆっくりとした経過を摂り、一般的に良性マラリアともいわれる。

日本における輸入マラリア患者数の変遷は、平成14年以降は下げ止まりの感があり、年間70-80人程度罹患している。

平成18年から26年までの輸入マラリアの特徴を以下に上げる。
男性76%、女性24%で男性に多く、
年齢は20代が34%、30代が31%と若年者に多く、職業は学生15%、会社員13%、国際協力関係の人が7%、教育研究職の人が6%でした。
出身地は、日本国籍が183例、外国籍の人が132例で死亡例は1例の診でした。
熱帯熱マラリア58%、三日熱マラリア30%、卵形マラリア4%、四日熱マラリア2%不明が6%。
症状は、発熱99%、悪寒58%、頭痛57%、関節痛26%、脾腫23%、貧血17%。
感染地域は、アフリカが63%、アジア27%、オセアニア6%、南米2%であった。

下記のような急激な症例があり、3回目の発熱時においてはどんな治療も無効であり、感染が疑われる地域に旅行し、蚊に刺された事実があって、発熱、悪寒などの症状が認められた際には、マラリアを疑うべきであり、その可能性が少しでも強く考えられる場合には、集中して治療できる施設、この近くであれば、横浜市民病院への相談・診察依頼を考えるべきである。

マラリアが中等度から高度に流行している地域では、その人の免疫が感染に関して重要な要素となる。長年、マラリアに暴露されていると部分的に免疫がでる。完全に感染を防ぐことはできないが、重症化するリスクを下げることができ、アフリカではマラリアによる死亡者は、ほとんどが免疫を持っていない子供で、大人は重症化を防げている。

しかし、マラリア撲滅に対しては、この抵抗性を有していることが足かせになっているのも事実。ナイジェリアの症状のない普通に登校している学生の血液検査でマラリアの保有率を見たものが下の表です。約1/4の人はマラリア感染がありながら、無症状で生活している。症状があれば、病院受診し治療が行われるが、症状がないので普通に生活をしており、これらの人を刺した蚊から他の人へ、マラリア感染が広がっていく。

実は現地の医療水準も、マラリア感染撲滅の足かせになっている。ケニアで現地の医師によりマラリアと診断された患者の血液標本を作成してみた結果、マラリア原虫の感染した赤血球は一例も見つからなかった。血液標本でマラリア虫を検出して臨床診断をしているので、この事実は無視できない問題点である。

マラリアの治療
治療の選択は、合併症のない熱帯熱マラリア、重症マラリア、非熱帯熱マラリアに分けて考える。
1975年クロロキン、2010年ファンシダールが発売中止になっており、2013年12月現在わが国で使用できる抗マラリア薬は塩酸キニーネ末、メフロキン塩酸錠、アトバコン・プログアニル配合錠の三種類である。国外で標準治療薬とされている、クロロキン、アーテミシニン配合錠(ACT)、プリマキン及び注射薬(アーテスネート及びキニーネ)の入手が困難なことからこれらのギャップをうめるため,アーテメター・ルメファントリン配合錠,グルコン酸キニーネ注射薬,アーテスネート座薬,リン酸クロロキン錠,塩酸プリマキン錠が必要時に速やかに使用できる体制が厚生労働科学研究費補助金(熱帯病治療薬研究班)によりとられている.なお,これらの未承認薬の使用は臨床研究として行われており,対象となる患者は,1)承認薬の禁忌に該当する場合,2)経口薬が使用できない場合,3)重症マラリアに相当する場合,に原則限られる.
日本寄生虫学会 マラリア情報:マラリア治療の手引き(2014年版)
http://jsp.tm.nagasaki-u.ac.jp/wp-content/uploads/2015/12/tebiki_2014ver82.pdf

2016年12月19日ノバルティス・ファーマ―から抗マラリア薬「リアメット配合錠」製造販売認可が取れたとプレスリリースされた。
これは漢方薬の一種でヨモギ属植物(artemisia annua)の抽出化合物であるアルテミシニン誘導体とそれとは作用機序の異なる薬剤を組み合わせた併用療法(artemisinin-based combination therapy:ACT)の配合剤で、作用機序は明確にはなっていないが、赤血球内に侵入したマラリア原虫に対して作用していると考えられている。

マラリアの薬剤耐性は非常に問題となっており、クロロキンやスルファドキシン-ピリメサミンに対する耐性熱帯熱マラリアが1970年代と1980年代に広がった。
したがってクロロキンなどの耐性マラリア感染危険地域に行かれる場合の予防内服に疑問視している医師もいる。
アルテミシニン耐性原虫が近年、カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナムの五か国から報告されているが、ACTの場合は他剤も使用しているのでほとんどの患者が治癒しているが、問題である。
蚊対策
マラリア撲滅対策のもう一つの方法として、マラリア感染を広めている蚊に対する対策も進められている。
現在使用されている殺虫剤は主にピレスロイドが使われており、近年このピレスロイド耐性蚊が増加している。
住友化学株式外社がポリエチレンにピレスロイドを織り込んだ蚊帳:オリセット・ネットを開発しUNICEF(国連児童基金)などを通じて80以上の国々に供給している。
https://www.sumitomo-chem.co.jp/csr/olysetnet/initiative.html


狂犬病Rabies:ラブドウイルス科リッサウイルス属の狂犬病ウイルス(Rabies virus)を病原体とするウイルス性の人獣共通感染症。水を恐れるようになる特徴があるため、恐水病、恐水症と呼ばれることもある(水以外にも、音や風など感覚器に刺激が与えられると痙攣を起こす)。
毎年世界中で約5万人の死者を出しており、その95%以上はアフリカとアジアである。
感染した動物に噛まれた人の40%は15歳未満の子供である。人から人への伝播はなく大流行になる恐れはないが、ワクチン接種を受けずに発症するとほとんどが死亡し、有効な治療法がない疾患である。
感染:一般には感染した動物の咬み傷から唾液とともにウイするが伝染する場合が多いが、傷口や目・唇などの粘膜部を舐められた場合も危険性が高い。犬の他に、猫や蝙蝠などの動物も感染源となっている。ヒトからヒトへの感染はないが、角膜移植や臓器移植による感染報告例がある。
潜伏期間:咬傷の部位や大きさによって異なる。咬傷から侵入した狂犬病ウイルスは、神経組織に到達し、日に数~数十ミリ移動し、脳組織に到達し発症する。早ければ2週間で、場合によっては数か月以上かかり、二年という報告例もある。
前駆症状:風邪に似た症状の他、咬傷部位の皮膚の治癒後の「痒み」、「チカチカ」などの違和感、熱感がみられる。
症状:急性期には、不安感、恐水症状(水などの液体の嚥下によって嚥下筋が痙攣し、強い痛みを感じるため、水を極端に恐れるようになる症状)、恐風症(風の動きに過敏に反応し避けるようなしぐさを示す症状)、興奮性、麻痺、精神錯乱などの神経症状があらわれるが、脳細胞は破壊されていないので意識は明瞭である。腱反射、瞳孔反射の亢進も見られる。その2~7日後には脳神経や全身の筋肉が麻痺を起こし、昏睡期に到り、呼吸障害によって死亡する。
症例によっては、典型的な恐水症状や脳炎症状がなく、最初から麻痺状態に移行する場合もあり、この場合には、ウイルス性脳炎やギランバレー症候群との鑑別が困難である。
予防:有効な治療法がないため、感染前のワクチン接種が有効である。
暴露前接種:初回接種を0日とすると0-28-180の三回接種が一般的である。
暴露後接種:感染の機会があった場合にもその発症を予防する目的でワクチンを接種する。
WHOでは、0-3-7-14-28日(必要に応じて90日)の摂取を勧めている。そのほかにもいくつかの方法が提唱されている。

流行地は多く、逆に狂犬病清浄地は、日本、イギリス、アイルランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、ハワイ、グァム、フィジー、オーストリア、ニュージーランドと非常に少ない。
 


参考サイト:
検疫所で探知された湯集感染症の現状:成田航空検疫所検疫化検疫医療専門職 磯田貴義
東京大学医学研究所 附属病院・感染免疫内科

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

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