循環器系

2014年8月11日 月曜日

心疾患治療におけるRAASの重要性  瀬在明 先生

2014年7月28日 横浜ベイホテル東急
演題「心疾患治療におけるRAASの重要性 ~心保護、腎保護をいかに行うか~」
演者:日本大学医学部外科学系 心臓血管・呼吸器・総合外科学分野講師 瀬在明 先生
内容及び補足「
手術時においては、神経系の刺激のみならず様々なホルモンが分泌されており、各種臓器への血流変化が生じ、代謝変化も生じている。


これらの結果生体機能の変化が生じ、その上に、麻酔薬の効果が上乗せされる。

1216例の急性冠不全症候群症例に対して緊急PCI療法を行った直後からカルペリチド(hANP)を追加投与した群とそうでない群の比較試験J-WIND試験が行われ、急性期の心筋梗塞サイズの縮小と、慢性期の有意な心機能改善を認めた。
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(07)61634-1/fulltext
心臓の手術中から少量のhANPを持続的に投与することにより、血中のレニンやアンジオテンシンⅡの濃度を抑制し、GFR量を維持し、尿量を確保するので、術後に投与する利尿剤の必要量が減少し胸水量も減少することが示された。
 


人工心肺装置cardiopulmonary bypass (CPB)を回す心臓手術の際にレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系を抑制するhANPの少量持続投与により、早期や長期の死亡率には差が出なかったが、5から8年の心臓死はhANOP投与群で1.5%に対し、コントロール群では14.5%と有意な差を認めた。

(A) The overall survival rate showed no significant difference between the 2 groups. (B) The cardiac death-free rate was significantly higher in the human atrial natriuretic peptide (hANP) group than in the placebo group. (C) The cardiac event-free rate was significantly higher in the hANP group than in the placebo group. Solid lines = hANP group; dashed lines = placebo group.
http://www.annalsthoracicsurgery.org/article/S0003-4975(99)01305-3/fulltext
冠動脈バイパス術を行った症例においてhANPを投与するとクレアチニンクリアランスの悪化を予防できた。

Creatinine clearance was significantly higher in the human atrial natriuretic peptide (hANP) group from post-operative day 0 to week 1. *p < 0.05.
hANPの投与により、血中のレニンの分泌が抑制され、アンジオテンシンⅡの濃度及びアルドステロンの濃度も抑制された。

Atrial natriuretic peptide (ANP) increased rapidly in the human atrial natriuretic peptide (hANP) group and was significantly higher than in the placebo group until post-operative day 3, but there was no significant difference between the 2 groups at post-operative week 1. Renin was significantly lower in the hANP group excluding day 1. *p < 0.05.

The levels of angiotensin-II and aldosterone increased post-operatively in the placebo group, and reached a peak at the time of the return to intensive care unit. Angiotensin-II and aldosterone were significantly lower in the human atrial natriuretic peptide (hANP) group throughout the study. *p < 0.05.
http://content.onlinejacc.org/article.aspx?articleID=1140048
慢性腎臓疾患CKDがある患者さんにおいてCABG手術を施行した際にhANPの投与は、死亡率には影響しなかったが、術後早期に透析に至る症例が減少し、血清クレアチニン値の上昇を抑制できた。

The dialysis-free rate was significantly higher in the human atrial natriuretic peptide (hANP) group (solid line) than in the placebo group (dashed line).

(A) The overall survival rate showed no significant difference between the 2 groups.
(B) The cardiac event-free rate was significantly higher in the human atrial natriuretic peptide (hANP) group (solid lines) than in the placebo group (dashed lines).

Creatinine increase was 21.6 ± 42.8% in the human atrial natriuretic peptide (hANP) group and 71.1 ± 130.6% in the placebo group, being significantly higher in the placebo group.
http://content.onlinejacc.org/article.aspx?articleID=1206903
実際に突然の胸痛と左下肢麻痺を認めた大動脈解離の症例を提示する。術後にmyonephropathic metabolic syndromeに進展した。術後6日までは0.1μg/kg/minのスピードでhANPの投与を行い、その後漸減した。2日目にはCK濃度は118380U/Lにまで上昇したが、hANPの投与により、尿量は10,000ml確保でき、血清Creatinine値も5日目に3.76mg/dlをピークに血液透析を行うこともなくその後低下し、正常域にまで改善した。
下肢のチアノーゼ、腫脹、感覚異常、動作障害は徐々に改善し、30日後には後遺症もなく退院できた。

Preoperative computed tomography scan shows acute aortic dissection (arrow, right iliac artery)


http://www.annalsthoracicsurgery.org/article/S0003-4975(09)00356-7/fulltext

1999年にアルドステロン受容体拮抗薬の左室収縮機能低下心不全患者に対する予後と死亡率への影響を検討したRandomaized Aldactone Ebaluation Study:RALESの結果が報告された。
6か月以内にNYHAのClass Ⅳを呈したことがあり、エントリー時にⅢまたはⅣの1663例、左室駆出率35%以下のACE阻害薬とループ利尿剤で治療を受けている慢性心不全患者にスピロノラクトン追加投与とプラセボ群での比較試験である。
プラセボ群では372名(44%)の死亡に対し、スピロノラクトン群では283名(34%)の死亡が確認され、27%の死亡減少効果が認められた。非致死的再入院は、プラセボ群で764名(91%)、スピロノラクトン群で663名(81%)、入院はそれぞれ1317回と1088回で22%の入院減少効果を認めた。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM199909023411001
不安定狭心症に対して緊急CABGを行った154名の患者の長期世簿を規定する因子を検討した。手術死亡は1.9%、女性、慢性腎不全、血液透析、hANPの非使用治療、ARBおよびアルドステロン阻害薬の非使用治療、3か月後のBNP≧200pg/ml、3か月後のアルドステロン濃度≧100pg/mlが後の心イベントの危険因子であった。術中のhANPの使用、および、術後のARB及びアルドステロン阻害薬の使用により、レニンア・ンジオテンシン系の抑制が、心筋のリモデリングを予防し、更なる心筋梗塞を減少させ、心機能を改善させ、長期予後を改善したと考えられる。
http://www.ajconline.org/article/S0002-9149(10)00851-9/abstract

ACE阻害薬で治療を行っていても、アルドステロン値は治療当初は低下するが、その後次第に上昇してくる、エスケープ現象が認められる。

非RASを介したアルドステロン産生因子としては、RAS抑制によって上昇したカリウムに伴うアルドステロンの産生、ACTH、ノルエピネフリン、エンドセリン、セロトニンなどの様々な因子が想定されている。

Spat A et al. Physiol Rev 84: 489-539, 2004より一部改変
注)アルドステロン・ブレイクスルーの要因として、 1)非RASによるアルドステロン産生に加えて、2)不十分なACE活性阻害、3)非ACE経路を介したアンジオテンシンII産生(ACE阻害薬の場合)、4)アンジオテンシンIIのブレイクスルー、5)AT2受容体を介したアルドステロン・ブレイクスルーなどが考えられ、ACE阻害薬とARBとではアルドステロン・ブレイクスルーの要因が異なる可能性もある。
実際のアルドステロン・ブレイクスルー現象の頻度を調べた報告がある。
6か月以上の使用で10%以上、一年以上の使用で50%以上とも報告されている。

http://www.nature.com/nrneph/journal/v3/n9/full/ncpneph0575.html
ARBのCandesartanからOlmesartanへの変更で血圧を含めどのように変わるかを検討してみた。アンジオテンシン2もアルドステロンも、1年たっても減少したままであり、アルドステロン・ブレイクスルー現象はOlmesartanでは認められないと考えられる。

左室重量やBNPの値も低下したままである。

左室の重量とアンジオテンシン2は相関はないが、アルドステロンと相関があり、アルドステロンの低下を維持することが、心筋の肥大抑制になる可能性がある。

血圧もOlmesartanに変更後、一年たっても有意に低下していることが示された。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/atcs/17/5/17_oa.11.01691/_pdf
近年レニン・アンジオテンシン系はいろいろと新しい知見が構築されてきた。昇圧系として作用しているACE-angiotensin 2-AT1 receptor系と強力な昇圧物質であるアンジオテンシンの代謝物であるアンジオテンシン(1-7)とそれを代謝するACE2の系であるACE2-angiotensin-(1-7)-Mas receptor系は、逆の働きをする系として概念的に確立された。




http://www.nature.com/hr/journal/v32/n7/full/hr200974a.html

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2014年8月 5日 火曜日

動脈硬化の成因 石上友章准教授

2014年7月22日 横浜市健康福祉総合センター
演題「高血圧UPDATE-JSH2014から尿細管レニンまで」
演者:横浜市立大学附属病院循環器内科准教授 石上友章 先生
内容及び補足「
今回の講演内容は、いくつかのテーマが盛り込まれていて、情報を追加しないとうわべだけのものになるため、かなりの部分石上先生の意向に沿うように勝手に判断して補っています。内容が膨大になったので、いくつかのパートに分けて掲載します。
Part 4 動脈硬化の成因

1型糖尿病患者に対して行われたDCCT研究の追跡調査において、強化療法群はStudy中HBA1cが7.1%で、通常治療群が8.9%で終了したが、その後の経過を見た研究中に両群の血糖コントロール状況は、1年で差がなくなってしまった。

そのような血糖のコントロール状況においても、網膜症が進行した人や新たに発症した人は、従来療法群のほうが多かった。

経年変化でみても、両群間の差が広がっていった。

MACE(心血管死,非致死的心筋梗塞[MI],入院を要する不安定狭心症・心不全・脳卒中・その他の心血管イベント)の頻度も、年を経るごとに差が広がっていった。

2型糖尿病患者においてSU薬/インスリンによる厳格な血糖コントロール群と標準コントロール群の予後を検討した研究では、介入試験時においては微小血管合併症の進展は抑制したが、大血管障害の抑制効果については有意差を認めなかった。
介入試験終了後10年間の追跡調査が行われており、この間両群のHBA1cの差が消失したにもかかわらず、大血管障害の発現頻度の差が顕著になり、抑制効果が遅れて認められることが分かった。


持続的な微量アルブミン尿を認める2型糖尿病患者160例を、HbA1c値<6.5%,空腹時血清総コレステロール値<175mg/dL,空腹時血清トリグリセリド値<150mg/dL,SBP<130mmHg,DBP<80mmHgを目標とする強化療法群と、デンマーク医師会が作成したガイドラインを治療目標とした標準療法群に分け、集中的多因子治療による全死亡および血管氏に対する有効性を検討した試験Steno-2の結果が報告された。
13.3年間における全死亡は、強化療法群24例に対し、標準療法群は40例であった。

また、心血管イベントも有意に低下していた。



血圧に関してはLegacy Effectは認められず、血圧値の現時点での厳格な管理が必要である。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa0806359

動脈硬化発症させる血管壁炎症の永続性をもたらす生物学的基盤について。
今まで見てきたように、動脈硬化の基盤には、高血圧、糖尿病、脂質異常症があるが、これらの治療をきちんと行ってさえ、動脈硬化の進行を抑えきることはできない。喫煙による影響などの炎症が関与していると考えられるようになってきた。

そこで我々は、この炎症の一部に、自己免疫性機序がかかわる可能性を考え研究をしてきた。
自己免疫疾患に関与する無数の蛋白質を高感度かつ効率に検出する方法として、無細胞タンパク質合成家により発現させた哺乳動物由来の蛋白質を、自己免疫疾患患者由来の資料と接触させることにより、自己抗体算出を検出し、その検出したデータを統計的分析処理、さらに遺伝子オントロジー解析およびパスウェイ解析を行うことにより、自己免疫疾患に関与するたんぱく質を網羅的に解析する手段:cell-free protein synthesis systemで検討を行った。
http://www.google.com/patents/WO2012067165A1?cl=ja&hl=ja
結果としてはIgG抗体を検出し、19種類のたんぱく質を同定した。その中で、Th2サイトカインである抗インタロイキン5(IL-5)抗体患者血清中に有意に高値であることが分かった。

http://www.fasebj.org/content/27/9/3437.abstract
FASEB J fj.12-222653; published ahead of print May 22, 2013, doi:10.1096/fj.12-2226532013
抗IL-5抗体の投与で、マクロファージの泡沫化を抑制することもできたので、今後動脈硬化のマーカーとしてだけでなく、治療薬の開発にも寄与できる可能性が出てきた。

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2014年8月 5日 火曜日

冠動脈ステント(PCI)とCABG 石上友章 准教授

2014年7月22日 横浜市健康福祉総合センター
演題「高血圧UPDATE-JSH2014から尿細管レニンまで」
演者:横浜市立大学附属病院循環器内科准教授 石上友章 先生
内容及び補足「
今回の講演内容は、いくつかのテーマが盛り込まれていて、情報を追加しないとうわべだけのものになるため、かなりの部分石上先生の意向に沿うように勝手に判断して補っています。内容が膨大になったので、いくつかのパートに分けて掲載します。
Part 3  冠動脈ステント

話は変わって、冠動脈ステントの話に移る。
ステントという名称は、1900年歯科医のStent博士が歯に鉄鋼をかぶせたことによる名前であるが、最初にヒトの冠動脈にステント植込み術を施行したのは、1986年Sigwartであり、1987年NEJMに発表されたが、術後の閉塞例が多いので、否定的な見解であった。
N Engl J Med 316:701-706, 1987
1991年にSerruysらの報告で再評価され、ほぼ同じころバルーン型の拡張型ステントも開発された。
バルーンによる狭窄部の拡張はアテローマの圧縮と血管内膜~中膜に至る鈍的な裂開の結果である。したがって下腿病変では拡張できないこと、どの部位に裂開が入るかは術者の意図とは関係なく生じる。この裂開が深くなりすぎて、冠解離による急性冠閉塞がある一定頻度生じることが避けられなかった。

1985年ごろから、ニューデバイスが開発され、1990年代半ばから硬い病変を削り取るrotablator、アテローマそのものを切り取るdirectional coronary atherectomy:DCAなどの器具と、冠解離を生じてもその部位を覆って急性冠閉塞を回避するステントと、バルーンの長軸に沿って、3枚~4枚の刃を接着し、低圧で血管内壁に切開創を入れることにより冠解離を起こしにくくしたカッティングバルーンが実用化された。
どの方法を選んでも狭窄部位に対し傷をつけることに変わりなく、PCI施行食いには治癒反応が生じ、血管中膜から遊走してくる平滑筋細胞の増殖量が多ければ、血管内腔の再狭窄が生じ、狭心症を再発することになる。

バルーンとステントを除くニュー・ディバイスの再狭窄発生率は30~50%であった。その予防的対策としてステントが作成されたが、ステントの再狭窄も20~30%の症例に認められた。
再狭窄を減らす試みとして、1990年代中ごろから冠動脈内放射線照射療法の臨床治験が始まったが、短期的には有用であったが、長期的には新生内膜が遅れて増殖するLate catch up減少が明らかとなり、普及しなかった。1990年代後半から薬物溶出ステント:DESの臨床治験が始まった。シロリムス溶出ステントとパクリタキセル溶出ステントである。
RAVEL試験では、ステント挿入後、遠隔期の損失径がゼロとの報告がされ、その後のSIRIUSや認可後のデータでも、遠隔期損失径は0.17~0.26㎜と従来のステントに比べ、新生内膜増殖量は激減した。
金属ステント(BMS)の再狭窄規定因子は、闘病であり、病変因子では2.5mm径ステントしか留置できない小血管病変、20mm以上のび漫性狭窄病変、分岐部病変の四つである。
DESのこれらの再狭窄規定因子の再狭窄率は一桁と低く著明に再狭窄が改善され、予後も改善すると期待された。

再狭窄の心配がないと考えられていたため、2005年ごろには、DESの浸透率は80~90%にもなっていたが、2006年にスイスから、2007年にはスウェーデンからDESは留置後半年以降の死亡と心筋梗塞発生頻度がBMSよりも増加するとの報告がなされ、長期予後の安全性が問題視されるようになった。


留置後一年以上たっても発症する血栓症がその原因と考えられ、Very late stent thrombosis:VLSTと定義され、欧米で年0.6%、日本で年0.25%の増加率であった。

この数字は、従来ステント時代の再狭窄症例の9.5%が心筋梗塞となり、0.7%に死亡例が出たことに比較すれば、非常に低い数字ではある。
 
DES留置後何年たってもリスクが無くならないので、精神衛生上よくない状況であった。実際抗血小板剤を減量したり中止したりした例は、欧米で約30%、日本で10%程度であった。

CABGとPCIのどちらが良いかという遠隔成績の比較が2005年に報告された。長期予後に関しては、ステントよりもCABGのほうが良いというものであった。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa040316
BMSでの再狭窄の問題がDESで解決すれば、この差はなくなると考えられていた。
小倉記念病院からBMS留置症例を10年追跡したデータが報告された。
10年間にステント留置部位にイベントが再発する頻度は0.2%程度であり、新規病変がイベントの原因となる頻度は0.7%程度であり、BMS留置部は長期的に安定していると考えることもできる。DES症例においても新たな病変の発生頻度は変わらないのであるから、動脈硬化病変の進展を予防するための積極的な治療が必要であるといえる。

急性冠不全病変の病理研究から致死性プラークの性状は以下の3点である。
① 線維性被膜の薄さ
② 脂質コアの大きさ
③ マクロファージの浸潤
であり、血管内空の狭窄率は問題にならなかった。→PCIなどの治療を行って血流を改善しても予後は改善しないのでは?

冠動脈疾患を合併した糖尿病患者における早期血行再建術+積極的薬物療法と積極的薬物療法単独を比較したBARI-2D試験が報告された。PCIかCABGのいずれかを選択するのは主治医に治療の判断をゆだねられていること、血糖コントロールだけでなく、スタチン、ACE阻害薬、アスピリンを中心とした積極的薬物療法を徹底して行うことが特徴であった。5年間で血行再建術を施行した症例は42%いたが両群間で死亡を一時エンドポイントとした予後には差がなかった。本症例においては血行再建術の背景はCABG群でより重症冠動脈病変であり、薬物療法との比較では非致死的心筋梗塞の抑制効果が大であった。従って、血行再建術を行う上で積極的な薬物療法は不可欠であり、その上に糖尿病症例においては冠動脈病変が重傷化した場合には、CABGの方がPCIに優れるという結果であった。



http://circ.ahajournals.org/content/121/22/2450.full

SYNTAX研究という欧米85施設の冠動脈の3枝病変か左主幹部病変の患者さんを無作為にカテーテル治療(PCI)か冠動脈バイパス手術(CABG)に割り振り、その治療成績を比較したもので,PCIは第一世代のパクリタキセル徐放ステントが使用されている。赤がPCIで青がCABGである。
脳血管系事故は、CABGでは26.9%に対しPCIは37.3%と多く、心筋梗塞発症も、CABGで3.8%に対しPCIは9.7%と差があり、血行再建術もCABGでは13.7%に対し、PCIが25.9%と差が認められた(CABG:PCI=全死亡は11.4%:13.9%、脳卒中は3.7%:2.4%で有意差なし)。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcoron/advpub/0/advpub_19.520/_pdf
この研究は、第1世代のDESでの結果なので、第2世代のDESで予後を改善できる可能性があること、心臓バイパス術も患者さんへの侵襲が少ないoff pump CABGが確立されたこともあり、さらなる研究がまたれる。

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2014年8月 5日 火曜日

新しいRAA系の話 石上友章准教授

2014年7月22日 横浜市健康福祉総合センター
演題「高血圧UPDATE-JSH2014から尿細管レニンまで」
演者:横浜市立大学附属病院循環器内科准教授 石上友章 先生
内容及び補足「
今回の講演内容は、いくつかのテーマが盛り込まれていて、情報を追加しないとうわべだけのものになるため、かなりの部分石上先生の意向に沿うように勝手に判断して補っています。内容が膨大になったので、いくつかのパートに分けて掲載します。
Part 2 新しいRAA系の話

人が陸上の生活をするようになり、身体からNaをできるだけ喪失しないシステム:レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が発達してきた。
食塩摂取量が減少し、体液量が減少してくると、原尿のNa+、Cl-濃度が減少し、マクラデンサ細胞がこの変化を感知すると、レニン分泌が増加し、ATⅡを介して、アルドステロンが分泌され、遠位尿細管や集合管で、原尿からNa+再吸収が増加し、受動的に水やCl-の再吸収も増加する。
そしてレニン・アンジオテンシン系で産生されるATⅡは、糸球体の輸出細動脈を輸入細動脈より強く収縮させるため、糸球体内圧が上昇し、糸球体濾過率(GFR)が保たれる。
腎臓からレニンの分泌が亢進し続けていると高血圧となる。腎動脈に狭窄があると、傍糸球体装置の輸入細動脈の圧受容体で感知する圧が低く、レニン分泌が亢進し、高血圧が発症する。また、高血圧は、糸球体内圧を上昇させ、腎機能障害を進行させるため、悪循環に陥ることになる。
腎臓は血圧が上昇すると、尿中へのNa+排泄量を増やして体液量を減らし、血圧を下げようとする。腎臓は、『正常人』では、過剰に食塩を接種しても血圧を上げずに排泄している。
つまり以下の機構により、傍糸球体装置は、糸球体濾過率(GFR)を一定に保ち、水・電解質の調節と血圧の調節を行っている。

http://hobab.fc2web.com/sub4-RA.htm
この機能のレニン・アンジオテンシン系を図示してみると、下図のようになる。
アンジオテンシノーゲンがレニンでアンジオテンシン(1~10)に切断され、アンギオテンシンコンバーテイングエンザイム(ACE)によりアンジオテンシンⅡ(1~8)に変換され、AT1受容体やAT2受容体に作用する。AT1受容体に作用するところをブロックする薬剤がARBである。

ACE=angiotensin-converting enzyme 1, ACE2= angiotensin-converting enzyme 2, AT1=angiotensineⅡ type 1 receptor, AT2=angiotensineⅡ type 2 receptor, AT4=angiotensineⅡ type 4 receptor, AP=aminopeptidase (-A, -B, -M, -N), B1/B2=bradykinin receptor type 1 and 2, CAGE=chymostatin-snesitive ANG Ⅱ-generating enzyme, DPAⅢ=dipeptidylamoinopeptidase Ⅲ, Mas-receptor=ANG(1-7)-binding receptor, NEP=neprilysin, PEP=polyl endopeptidase, POP=prolyl oligopeptidase, TOP=thimet oligopeptidase, tPA=tissue-type plasminogen activator. Vaajanenらの図表を改変 2008

アンジオテンシン(1-7)【Ang-(1-7)】は、強力な昇圧物質であるアンジオテンシンⅡの分解産物の一つであるが、さようはその逆で、血管拡張、血圧低下、Na利尿、血管平滑筋の増殖抑制、心機能保護作用である。その合成酵素が2000年に同定されたアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)である。また2003年にプロトオンコジーンのMas受容体が、Ang-(1-7)の受容体であることも同定された。
ACE2ノックアウトマウスが心不全や腎障害を呈すること,Mas受容体ノックアウトマウスが血圧変動や心拍変動の変化を呈すること,ACE2過剰発現マウス,ACE2の遺伝子治療は降圧や血管内皮機能の改善作用などを有することが明らかになった。
これ以降、ACE2/Ang-(1-7)/Mas受容体系は、従来のAng変換酵素/AngII/AT1R系の昇圧系に拮抗するシステムであるという新しい概念が確立された。

http://www.ishiyaku.co.jp/magazines/ayumi/AyumiArticleDetail.aspx?BC=924305&AC=11953
この新しいレニンアンジオテンシン系は脳内にも存在しており、神経性循環調節において重要な役割のになっている。

https://www.ishiyaku.co.jp/magazines/ayumi/AyumiArticleDetail.aspx?BC=286200&AC=7888
異常の関係を簡単にまとめると以下の図のようになる。

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2014年8月 4日 月曜日

高血圧UPDATE-JSH2014 石上友章准教授

2014年7月22日 横浜市健康福祉総合センター
演題「高血圧UPDATE-JSH2014から尿細管レニンまで」
演者:横浜市立大学附属病院循環器内科准教授 石上友章 先生
内容及び補足「
今回の講演内容は、いくつかのテーマが盛り込まれていて、情報を追加しないとうわべだけのものになるため、かなりの部分石上先生の意向に沿うように勝手に判断して補っています。内容が膨大になったので、いくつかのパートに分けて掲載します。
日本高血圧治療ガイドライン2014が作成されたが、2009年版と比べ、いくつかの改正点がある。
http://www.jpnsh.jp/data/jsh2014/jsh2014v1_1.pdf

1)家庭血圧を定義(朝夕2回,1機会で2回測定し平均値を評価)し、診察室血圧よりも家庭血圧を優先。
2回の血圧差が大きい場合など3回目を測定したときは3回の平均値をとって評価するが、不要な不安を助長するとの理由から4回以上の測定は推奨しないことも明記された。血圧値の信頼性は「24時間自由行動下血圧 > 家庭血圧 > 診察室血圧」の順。
(問題点:血圧が変動する患者さんへの対応が考慮されていない)
2)『正常血圧』を『正常域血圧』と変更し、混乱を緩和
至適血圧(<120/80mmHg)、正常血圧(120~129/80~84mmHg)、正常高値血圧(130~139/85~89mmHg)を「正常域血圧」に改称。
3)合併症のない場合の第一選択薬からβ遮断薬を除いた
β遮断薬は依然として主要降圧薬の一つであるが、とくに脳卒中抑制に関して他剤に劣るとの国内外のエビデンスから、合併症のない場合の第一選択薬からは除外された。ただし,狭心症、心筋梗塞後、心不全などの心疾患合併患者に対しては積極的な適応となる。
(問題点:交感神経が下活動状況にある若い行動的な人にも、β遮断薬は有効であるし、心拍数が多くなることによる心血管系イベントや死亡リスクの軽減が考慮されていない)
4)降圧目標は、糖尿病・CKD(蛋白尿[+])で<130/80mmHg、若年・中年・前期高齢者・脳卒中・心疾患で<140/90mmHg、後期高齢者で<150/90mmHg
2009年版までのガイドラインでは高血圧基準値(診察室血圧≧140/90mmHg)と降圧目標値(若年・中年者の場合、同<135/85mmHg)のかい離をなくした。
糖尿病合併患者の降圧目標については、欧米の高血圧のガイドラインであるASH/ISH2013、JNC8では<140/90mmHgに引き上げられた。しかし、欧米とは異なり、日本では高血圧の合併症としては、心筋梗塞よりも脳卒中の発生率が高く、脳卒中予防に対しては厳格な降圧の有効性が認められていることから、JSH2014の目標値は引き続き<130/80mmHgとされた。
5)妊娠高血圧の第一選択薬にCa拮抗薬を追加。授乳期に使用可能な降圧薬を記載
妊娠高血圧について、従来はメチルドパ(中枢作動薬)とヒドララジン(血管拡張薬)、ラベタロール(αβ遮断薬)の保険適用が認められていたが、いずれも降圧作用が弱く、大きな課題とされていた。2011年からCa拮抗薬ニフェジピンが保険適用として認められ、本ガイドラインでもこれが第一選択薬に追加記載された。
参:おくすり110番
http://www.okusuri110.com/kinki/ninpukin/ninpukin_00top.html
また2009年版では母乳移行性を考慮して降圧薬使用時の授乳は原則禁忌としていたが、NPO法人日本母乳の会や小児科学会からの要請を受けて検討し、国際的な視点で授乳が可能と考えられる降圧薬について記載された。
参:国立成育医療研究センター
http://www.ncchd.go.jp/kusuri/lactation/druglist.html
参:おくすり110番
http://www.okusuri110.com/kinki/ninpukin/ninpukin_02-05.html
6)認知症合併高血圧の章を新設

4番目のところで述べたが、今回の改定は、世界の動向と少し異なるところがある。
2009年にBritish Medical Journalに今までの147件の疫学データのメタアナライシスが報告されているので見てみよう。
この解析は1966年から2007年までの、冠動脈疾患と脳卒中予防のための降圧治療薬の有用性を検討したものである。
実薬とプラセボの比較が108試験、薬剤間比較が46試験、3つの無作為化集団の7つの試験はプラセボと薬剤間比較の試験である。
血管疾患の既往がないもの、冠動脈疾患の患者、脳卒中の患者に分けられた464000人を解析対象とした。

結果は、βブロッカー以外の降圧効果によるイベント抑制効果が15%であるのに、βブロッカーは29%のイベント抑制効果があり、降圧効果以外の効用があると推定された。
この効果は、心筋梗塞後の数年間に限定して見られた。

降圧による冠動脈疾患及び脳卒中のイベント抑制効果は、既往歴がない人も、冠動脈疾患の既往がある人、脳卒中の既往がある人においても同等に認められた。


サイアザイド系利尿剤、βブロッカー、ACEI、ARBとカルシウム拮抗薬の間では大きな差はなかった(脳卒中においてはβブロッカーの効果が弱かった)。
この研究で意外だったのは、ARBの臓器保護効果が叫ばれている中、研究数が少ないことも影響している可能性があるが、ARBの冠動脈疾患の抑制効果が、0.53~1.4と1をまたいでいることである。


ほかの4剤との降圧効果の比較を見たものが下の図である。脳卒中の予防はカルシウム拮抗薬でより強いことが分かった。
 

血圧の値によってのイベント抑制効果を見たものが下の図である。収縮期血圧で110mmHg、拡張期血圧で70mmHgを目標としている。血圧値にかかわらず、降圧によりイベント抑制が認められている。


50-59、60-69,70-79歳の三群において、標準的な量での単剤の治療と、3種類の標準投与量の半量の併用投与での治療の比較である。併用投与のほうが拡張期で75mmHg、90mmHg、105mmHg 、収縮期で120mmHg、150mmHg、180mmHgそれぞれにおいてよりイベント抑制効果を認めている。


http://www.bmj.com/content/338/bmj.b1665
臓器保護効果がうたわれていたACEI(Ramipril)とARB(Telmisartan)の併用療法の効果を見た試験としてONTAGET試験では、イベント抑制効果には変わりなく、併用投与分において、低血圧、失神、腎不全といった副作用がより多くみられたため、両者の併用は望ましくないとの見解に至った。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa0801317#t=articleDiscussion
マクロアルブミン尿がなく、心不全がない心血管患者や糖尿病患者5927人に対して、Telmisartan 80㎎投与2954人と、プラセボ投与の2972人を平均56ヶ月治療して検討した研究がある。論文では、あまり重要な差はなかったとしているが、透析移行例や血清クレアチニンが値倍増した症例は、Telmisartan 58例(1.96%)に対し、プラセボ46例(1.55%)であった。


追跡期間中の推定GFRは明らかにTelmisartanにおいて低下が大きかった。

血圧の低下が大きい群においてよりeGFRの低下が顕著だった。

特にマクロアルブミン尿(urinary albumin-creatinine ratio [UACR] >33.9 mg/mmol)の患者やeGFRが60以上の患者において、プラセボのほうがより良い結果が出たことは、今までの情報とは異なり、今後治療を行う上において、注意していく必要がある。


治療群のサブグループ解析を見てみるとKaplan-Meier曲線は、経過年数とともに、マクロアルブミン尿を認める患者において、より悪化していっている。

http://annals.org/article.aspx?articleid=744561
正常域の血圧でアルブミン尿を認めない1型糖尿病患者においてACEIのEnalapril(20㎎/日)とARBのRosartan(100㎎/日)、プラセボでの比較試験がある。90%の患者で腎生検を行っている。5年間の経過観察においてプラセボ群6%とEnalapril群4%においては差を認めなかったが、Losartan群においては17%と明らかに微量アルブミン尿の症例が増加していた。(網膜症においてはプラセボ群よりも治療両群において有意に悪化が減少。)腎機能が悪くない、アルブミン尿を認めない症例においてARBを使用することは一考を要するかもしれない。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa0808400

DCCT研究で1441人の一型糖尿病患者に6.5年の強化療法を行った後、22年間の経過で、腎機能の悪化の危険度を50%減少させることができたとしている。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1111732#t=article
微量蛋白尿を認める2型糖尿病患者にACEIの一つであるIrbesartanを投与した際の尿中のアルブミン量とGFR,血圧の変化を見てみると、血圧の低下でタンパク尿は減少するが、投与を中止し、血圧が上昇うると再度尿中微量アルブミン量は増加する。

http://care.diabetesjournals.org/content/26/12/3296.full.pdf+html
ARBの一つであるOlmesartanとそれ以外の薬剤で130/80以下に血圧を下げた(80%の症例で達成)際の微量アルブミン尿の変化を見てみた。微量アルブミン尿の発現した患者の頻度は、Olmesartan群で8.2%、プラセボ群で9.8%であり、微量アルブミン尿発現までの時間が23%延長した。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1007994
収縮期血圧160mmHg以上または降圧治療中でハイリスク群(心血管疾患、腎疾患、臓器障害既往者)1万1506例をACEIであるベナゼプリルとアムロジピンの治療群(B+A群)とチバセンとヒドロクロロチアジド治療群(B+H群)に分けて、心血管複合イベント抑制効果を比較した試験がある。
こうある効果は、B+A群では131.6/73.3mmHg、B+H群では132.5/74.4mmHgで差はなかった。

主要転帰イベントは、B+A群で552例(9.6%)に対して、B+H群では679例(11.8%)に発生し、絶対リスク減少率2.2%、相対リスク減少率19.6%と有意差を持ってカルシウム拮抗薬の効果が確認された。


The New England Journal of Medicine 359: 2417-2428、2008
Lancet 375:1173-1181、2010
減塩効果に関しても減塩するほど予後が悪いとする報告
JAMA 305:1777-1785、2011、JAMA306:2229-2238、2011
と減塩すると長生きできるとする報告がある。
https://jyx.jyu.fi/dspace/bitstream/handle/123456789/21791/URN_NBN_fi_jyu-200909203920.pdf?sequence=1

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

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