脳神経系

2016年9月26日 月曜日

意識消失とてんかん 久保田 有一先生

2016年9月16日 
演題「意識消失とてんかん」
演者: 朝霞台中央総合病院 脳神経外科 脳卒中・てんかんセンターセンター長 久保田 有一先生
場所:ハイアット リージェンシー 東京
内容及び補足「
意識消失=失神:脳血流低下に基づく短時間の意識を失うことで自然に回復し完治する。心血管系の症候。
英語ではfaint, blackout, knockout, syncopeという。
意識=外界からの刺激を受け入れ、自己を外界に表出することのできる機能を意味する。
意識障害とは、この認知機能と表出機能が低下した状態である。
意識障害は、大脳皮質または皮質下の広範囲な障害、視床下部の病変、または脳幹の上行性網様体賦活系の障害により生じる。
意識障害の原因となる頭蓋内病変あるいは病態には、脳血管障害、脳髄膜炎、頭部外傷、精神科疾患などがあり、糖が意外病変あるいは病態には、ショックによる脳血流の低下、中毒、代謝異常、低酸素血症など多岐にわたる。

それぞれの疾患にはある程度特徴的な所見や経過がある。


『てんかん』は意識障害であり、意識消失ではない。一定時間の意識の障害であり。パタンと倒れることは少ない。

てんかんの発作時間を1400発作録画して測定した研究によると、それぞれの平均時間は、前兆:28秒、意識減損:64秒、痙攣:90秒であった。
2分以上にわたって発作が持続する状態をてんかんの重責状態という。

痙攣、意識消失、意識障害の患者さんの診察の際には、生命徴候Vital signをチェックし、必要に応じて痙攣の治療を行いつつ、理学所見の診察に加え神経学手診察を行いつつ、病歴を確認していき、必要に応じて幾つかの検査を行っていくことになる。


症状の特徴からのてんかんの種類を示唆する情報
前兆:既視感:déjà vu、未視感:jamais vu、上腹部不快感(epigastric rising sensation)などは内側側頭葉由来であると考えられる。
既視感と未視感は、親しみ(familiarity)という情動の変化であり、既視感はfamiliarityが増した状態であり、未視感はfamiliarityが低下した状態とみなされる。既視感は正常でも日常で自覚することはまれにあるが、未視感は診断特異度が高い症状である。
これらの症状は患者自身から訴えられることは少なく、「以前にもあったようななつかしい気分が急にしてこないか」「初めての状況にいるような真新しい感じが急にしてこないか」とfamiliarityの変化に関することを聞くことで初めてわかることも少なくない。そのほかに「匂い発作(内側側頭葉の鉤回)」も診断価値が高い。
前頭葉内側面に位置する「補足運動野」からの発作は、非対称性に四肢に強直発作を起こし、意識の減損をきたさない。
一版には四肢にけいれん発作が及ぶ場合には、両側大脳半球にてんかん性活動が波及したことを意味しているので意識は減損するため、補足運動野発作はてんかん発作ではないと誤診される場合がある。
意識が減損する部分発作を「複雑部分発作」と呼ぶ。
意識が減損する機序は、大脳皮質から出現したてんかん性活動が皮質下構造に伝播して、意識水準を調節する脳幹網様体賦活系に影響したためと理解される。意識が減損する部分発作は側頭葉内側由来の場合が多いこと、成人のてんかんでは側頭葉てんかんが多いため、側頭葉由来の部分発作を複雑部分発作と同義で使われていた。
精神運動発作は精神症状と運動症状が組み合わされて起こる発作を示し、精神症状は、既視感・未視感、他の感情症状などで、運動発作は、口部や手の自動症・ジストニア症状を示す。
運動野からの運動症状はけいれん症状(強直けいれん、間代けいれん)であるが、自動症・ジストニアはそれぞれ側頭葉の脱抑制症状と基底核の刺激症状である。つまり、精神運動発作は側頭葉特に内側由来の部分発作が同側の基底核に進展した症状と解釈される。
複雑部分発作は側頭葉由来が多いが、次いで前頭葉由来が多い。
前頭葉由来の場合は側頭葉由来のものに比べ、自動症の症状が激しい、持続時間が短い、発作後のもうろう状態が短い、夜間に出現しやすい、二次性全般化しやすい、群発化しやすいなどの特徴がある。
その他に、一側への持続する頭部回転(head version)は体側の外側前頭葉の前頭前野に発作が及んだことを示す。
全般強直間代発作では、発作中のチアノーゼ、口腔からの泡沫や流涎、咬舌・尿失禁・発作後の筋肉痛や頭痛の有無、発作のもうろう状態や発作後睡眠の有無を確認する。
脱力発作は突然に抗重力筋群の脱力が起こり、一気に地面に転倒し、外傷の原因となる。繰り返し発作を認める患者は顔面に傷が多く、外傷を防ぐためにヘッドギアをしている子も少なくない。
光刺激により発作が生じる場合には、光過敏てんかんや特発性全般てんかんを、テレビゲームや読書中の発作は機会関連てんかんを疑う。
特発性全般てんかんの1つである若年ミオクローニてんかんは、起床後30~60分以内の手足のミオクローニ発作(=電撃的な短時間の筋肉の収縮)が特徴的であり、睡眠不足時にミオクローニ発作も大発作も出現しやすい。
欠神発作は過呼吸により容易に誘発されることがある。
前頭葉てんかんは睡眠中に多く、覚醒直後に出現する大発作は覚醒時代発作転換を示唆する。

しかし、患者診察時にはけいれん発作は消失し、上気したような発作時の詳細情報は得られ難く、場合によっては不確かな情報しかない場合が少なくない。
そこで、当院においては、長時間ビデオ脳波室に一週間入院してもらい、薬をオフにし、寝不足、運動負荷などを行い、けいれん発作を誘発し確定診断を行うようにしている。
http://www.asakadai-hp.jp/neurosurg/epilepsy-center/e-inspection/
そうした取り組みの結果、朝霞台中央病院のてんかん治療の実力が読売新聞でも認められた。
http://www.asakadai-hp.jp/news/docs/tennkann2.pdf

てんかんの分類
1981年の分類では、部分発作と全般発作、その他に分類されていた。

1989年委「てんかん、てんかん症候群分類」が発表され、「特発性」と「症候性・潜因性」および「全般」と「部分」の組み合わせによる分類で、てんかんの大枠組みを理解しやすい分類となった。

その後、遺伝子診断や詳細な画像診断が可能となり、より詳細な病態が明らかとなり、2010に新たな国際分類が提唱された。



側頭葉てんかん
側頭葉てんかんは側頭葉外側の新皮質から起始する外側型と側頭葉内側辺縁系である扁桃体海馬から起始する内側型に分けられる。
外側型は、他の頭葉の新皮質に焦点を持つ新皮質てんかんに属し、むしろ側頭葉外てんかん(extra-temporal lobe epilepsy)の性質を強く持つ。内側側頭葉てんかん(mesial temporal lobe epilepsy:MTLE)は辺縁系を主座として起始するてんかんで、八さがたに関しても、その治療成績に関しても、独立したてんかん症候群と考えられている。焦点の定型的切除術が比較的効果的であり、てんかん外科の中で最も早く治療法が確立し、数多くおこなわれてきたのがMTLEに対する手術である。
Wiebeらの報告によると、海馬硬化を原因とする側頭葉てんかんのうち、40例の8%が薬物治療で発作消失を見たのに対し、40例の外科手術を行った症例の58%が一年後に発作消失した。
Salanovaらは手術後発作が全く見られなくなったClass1は、1年後に66%、5年後で60%にわずかながらも再発を起こしているが、術後2年間発作が見られなかった症例の92%は、その後も発作を認めなかったとしている。
MTLEの中で海馬硬化(hippocampal sclerosis:HS)の症例では、外科治療により60~80%発作抑制が得らえるので、確定診断が重要となる。
HSは神経細胞の脱落とグリオーシスによる海馬の萎縮を特徴としているが、海馬のみならず嗅内皮質や海馬傍回、扁桃体にも硬化所見が認められることから内側側頭葉硬化(mesial temporal sclerosis:MTS)とも呼ばれる。
MTLE-HSの臨床的特徴
症候群
1. てんかんの家族歴が多い
2. 熱性けいれんの既往が多い
3. 10歳までに初発することが多い
4. 一時的寛解がある
5. 難治性になりやすい
6. てんかん性精神病を伴いやすい
7. 週あるいは月単位の発作頻度で特徴的臨床発作を示す
8. 頭皮脳波でF7あるいはF8(国際10-20法)に高い棘波頻度
9. MRIで脳波と一致する側のHSの存在
発作症候
1. 信号症状(単純部分発作)が多くの症例で認められる。上部腹部不快感、恐怖感、既視感déjà vu、異臭、離人感。
2. 複雑部分発作(運動停止・凝視、瞳孔散大、複雑な運動自動症、口部自動症、焦点と反対側上肢のディストニー肢位(15~70%)が中核症状
3. 二次性全般化発作に移行することがある
4. 比較的長い発作後もうろう状態
5. 見当識障害や記憶障害がしばしば認められる
http://square.umin.ac.jp/jes/pdf/mtlesurg.pdf

:静岡てんかん・神経医療センターのスライドの抜粋
側頭葉てんかん発作の推移と問診で得られる情報量の推移



側頭葉てんかんの4型分類(1985年試案)
1. Mesiobasal limbic
2. Anterior polar-amygdalar
3. Lateral posterior temporal
4. Opercular

臨床発作が側頭葉のない測定部辺縁から起始する扁桃体海馬発作amygdalohippocampal seizure ⇒ 内側側頭葉てんかん mesial temporal lobe epilepsy
臨床発作が側頭葉外側の新皮質から起始する外側側頭葉発作 lateral temporal seizure ⇒ 外側(新皮質)側頭葉てんかん lateral neocortical temporal lobe epilepsy

内側側頭葉てんかん症候群 mesial temporal lobe epilepsy syndromeの臨床特徴
1. 5歳以前に熱性けいれん重責などの既往があり、その5~10年後の4~16歳(平均10歳)に発症する
2. てんかんの家族歴を有する
3. 発症後いったん寛解するが、再発すると難治化しやすい
4. 上腹部の感覚などの前兆が単独で起こりやすい
5. 発作症状の組み合わせと出現順序に特徴がある(例:前兆、無動、意識の変容、口部自動症、発作後健忘など)
6. 棘波は両側性が多い
7. 海馬以外の領域(扁桃体や海馬傍回など)の硬化性変化と側頭葉の広範な機能低下を認める
8. 素材特異性の記憶障害を伴う
9. 頭蓋内脳波の発作発射は、断続的棘波periodic spikesで始まり、徐々に進展して一定の拡延様式を摂ることが多い
10. 術後、前兆が残りやすく、再発することがある

前兆aura=信号症状Signal symptom
てんかん発作の前触れとして自覚される信号症状はauraと呼ばれ、けいれん発作のもっとも初期の段階と考えられ、脳の局在機能が表出されている。
新皮質起源が疑われるaura
幻聴
1. 要素性の幻聴:ブザー、電話、エンジン音の様な要素性の音=島に隣接した一次聴覚野(41野)の賦活
2. 複雑な幻聴:音の強弱、リズムの変化、人の声、音楽に似た複雑な音=一次聴覚野外側の二次聴覚野(42野、22野)の賦活
これらの幻聴は、Heschlの横側頭回(上側頭回の中心溝下端より後ろで、外側列に面した領域)の刺激で引き起こされる。刺激の対側優位に聞こえる。一側の聴覚野を切除しても、下丘や橋・延髄レベルで左右を結ぶ密な繊維連絡があるので、影響はほとんど起こらない。

めまい感
回転する、揺れるといった前庭性のめまい感は、かなり広い範囲の刺激で起こる。=その領域は、聴覚野を取り巻く、上及び内側頭回や頭頂弁蓋にも及ぶとされる。

経験反応
精神性前兆(夢様状態dreamy state、二重意識double consciousness):同様の内容が電気刺激で誘発された場合、過去の体験が再現されたものとみ無し、これを経験反応と呼んだ。
夢様状態dreamy state:既視感déjà vu、未視感jamais vu、フラッシュバック、恐怖感など
発作分類では、精神症状の中の記憶障害性、認知性、および感情性に該当する。
1963年Penfieldが27年間の1132例において術中刺激から得られた経験反応を発表した。
1. 経験反応は、側頭葉以外の領域の刺激(612例)では得られず、側頭葉が刺激された520例のうち40例(7.7%)に見られた。
2. 40例中の24例(60%)では、自発発作の際に感じた前兆の一部か、または、それと同じであった。
3. 経験反応が得られた部位は、ほとんどが上側頭回の外側上面であり、また右半球に多かった。
4. 経験反応は、言語野の領域の刺激では見られなかった。
5. 聴覚性の反応は、左右の上側頭回の領域に限局し、視覚性の反応は主に言語非有意側の側頭葉と側頭・後頭葉の領域に認められた。
6. 聴覚性と視覚性の反応が同時に誘発されることは稀であった。

1982年Gloorらは35例に深部電極を慢性留置して刺激する研究を行った。
経験反応は88回の刺激で得られ、82回は内側構造刺激で生じた。
外側皮質の刺激では6回のみでほとんど後発射を伴っていた。
経験反応には辺縁系、特に扁桃体の役割が重要で、外側皮質の関与を必要としない。

内側構造起源が疑われるaura
幻嗅olfactory hallucination
1. 生塵や腐った肉、ゴムの焼けるような不快な臭い
2. 幻嗅の頻度は低い:Acharya 1998 部分てんかん1423例中の13例(0.9%)
3. 腫瘍性病変に多い:13例中10例。8例が扁桃体または扁桃体と海馬の領域に限局
4. 幻嗅の発現には扁桃体の関与が強く推測されている

幻味gustatory hallucination
1. 苦い、塩っ辛い、あるいは金属のような感じを訴える
2. 幻味が刺激されたという報告は幻嗅以上に少ない
3. 幻味は、島前部から前頭頭頂弁蓋にかけての領域で起こると考えた←深部電極の刺激で幻味のみが誘発され、後発射をほとんど伴っていなかった7例の分析から

自律神経症状
発作症状の内容は多彩:腹部前兆、嘔気・嘔吐、流涎、発汗、立毛、熱感、冷感、腹鳴、心悸亢進、胸部圧迫感、頭重感など
腹部前兆abdominal aura
1. 側頭葉てんかん223例中52%に認める(Henkel 2002)
2. 上腹部上行性感覚epigastric rising sensation:季肋部のあたりから空気のようなものが胸やノドの方に上がってくる感覚。嘔気を伴うことも多い。
3. 扁桃体の刺激でも起こるが、後発射が島に波及したことによるもので、島の関与がより重視されている

自動症automatism
PenfieldやFeindelの術中の側頭葉刺激による観察
1. 37例中16例25か所から自動症が誘発された
2. 19か所は扁桃体の周囲に限局していた
3. 後発射が扁桃体や海馬を含む内側構造に留まっている段階では、自動症は起こらなかった
⇒自動症の際には、発作発射が内側構造以外の領域に波及している。
⇒自動症の際には、反応性が失われ健忘を伴っていることから、意識障害と共通した機序が推測される
⇒脳幹と新皮質を含むかなり広い範囲が発作反射に巻き込まれている

発作時における意識障害の指標
反応性responsiveness:反応性がある=発作中に外界から与えられた刺激、例えば命令に従って随意的な発語や運動ができる状態
自覚性awareness:自覚性がある=発作中の出来事を発作後に想起できる状態、自覚性がない=障害されている=健忘
意識障害がある状態は上記のいずれも、あるいはいずれかが障害されている(できない)状態であると定義される
⇒発作発射が側頭葉の内側構造、または外側皮質に留まっている場合は、意識は障害されない
⇒一側の内側構造と外側皮質がともに発作発射に巻き込まれると意識が障害される
⇒反応性が障害されている時点では、72発作中の26%(Gloor)、388発作中60%(Munari)で発作発射が一側に限局していた

一側性複雑部分発作unilateral complex partial seizure=発作発射が一側半球に留まって意識が障害されている発作
口部咀嚼性などの自動症やディストニー肢位がみられても反応性が多少は保たれており、発作後の回復も早いことが多い。この傾向は言語非有意側の発作でより顕著である。反応性という現象は、高次皮質機能の中でも言語機能とのかかわりがより強い。
両側性複雑部分発作bilateral complex partial seizure=両側半球が発作発射に巻き込まれえ知識が障害されている発作:無動凝視motionless stareがよくみられ、筋緊張の亢進が強く、発作後の回復も遅い場合が多い。前兆を訴えることが少ない(前兆を感じても両側の側頭葉が発作発射に巻き込まれると逆行性の健忘を生じるため)

非有意半球の右側頭葉起源の複雑部分発作
Oral automatism、右手の自動症、左上肢は強直dystonic、意識障害の程度は中等度で、意識の回復は早い

純粋健忘発作pure amnestic seizure
稀ではあるが、発作発射が左右の内側構造の診に終始限局し、それ以上に進展しない場合がある。発作中の反応性は良く保たれているが、発作中の出来事を自覚していない。

側頭葉固有の、または密接な関連を持つ発作症状
前兆
聴覚性:上側頭回後部内側
前庭性:上・中側頭回
嗅覚性:扁桃体
精神性:海馬傍回、新皮質、扁桃体
意識減損を伴わない口部咀嚼性自動症:扁桃体
外側側頭葉てんかんと内側側頭葉てんかんの症状の比較
前兆:
外側側頭葉てんかんでは、聴覚性、視覚性、経験性の前兆が多い
内側側頭葉てんかんでは、嗅覚性、味覚性、自律神経性(腹部前兆や恐怖感)が多い
器質病変を持つ側頭葉てんかん50例では、外側皮質に限局していた例では記憶障害性と言語障害性の前兆が多かった(臼井 2001)
Complex partial seizure:CPSでは、内側構造と外側皮質がともに発作発射に巻き込まれて意識が障害される
内側側頭葉てんかん:口部咀嚼性の自動症とディストニー肢位が多く、内側構造と基底核や間脳・嚢管との密接な繊維連絡があると考えられる
外側側頭葉てんかん:顔面・上肢の間代や二次性全般化が多く、外側皮質では発作発射が早期に前頭葉へ波及していると考えられる

発作性発語 Ictal speech
1. 発作時の発生vocalizatinoや発語speechは、側頭葉てんかんの半数以上に認められる
2. 了解可能な発語intelligible speechは、言語非優位側に起始する発作に多い(70~90%)
3. 言語優位側の発作では、発作発射が言語野に波及すると、その機能が抑制されるので発作性発語は少ない
4. 発作発射が両側化し、対側に波及した発作発射がより顕著になれば、発作起始は優位側であっても了解可能な発語がみられることがある

発作後失語Postictal ahasia:発作からの回復過程でみられる言語障害
発作後に失語症状が見られた場合60~90%は言語優位側に起始する発作
1分以内の回復⇒発作起始が非優位側の発作
1分以上後の回復⇒優位側に起始する発作(非優位側に起始した発作でも、発作発射が両側化すれば言語機能の回復に一分以上かかることがある)

ディストニー肢位Dystonic limb posturing
一側上下肢(ほとんどが上肢)の不自然な肢位。肘関節がやや屈曲し、前腕を凱旋させ、手首も屈曲し、筋緊張の亢進により手指は硬直し、ときに粗大な振戦を伴う
発作起始の対側に見られ、一致率は90%以上
対側の上肢に常同的な身振りや自動症を伴う場合にはさらに信憑性が高まる
発作中に体性運動症状が挿間される場合は、常にディストニー肢位が先行する
発作性一側麻痺unilateral ictal paresis:発作中に一側上下肢が麻痺したように見える=ディストニー肢位の不完全型
内側側頭葉てんかんの発作で高頻度に認める:発作発射が内側構造から基底核へ波及したことによる
発作時SPECT所見から、基底核、特に被殻または尾状核が高灌流に転じている

発作後に鼻を拭うpostictal nosewiping
1. 発作後に一方の手で鼻を拭うしぐさ
2. 発作発射の終了後、1分以内の時期に見られる
3. 側頭葉てんかんの50~60%、側頭葉外てんかんで10~30%にみられる
4. 使用した手は発作起始側と80%以上で一致
5. 鼻水の増加は発作発射により扁桃体や島が賦活された結果
6. 発作起始と同側の手の使用は、対側の手の運動機能が発作発射によって疲弊あるいは抑制されたことによると推測されている

同側性頭部旋回Ipsilateral head turing
1. 発作の比較的早期に見られ、背後に何か気配を感じて振り向くような自然な動き
2. 内側側頭葉てんかんの70~90%に見られる
3. 回旋の方向は、発作起始側である
4. 本症状の機序は、発作発射が起始した半球が、発作発射の波及により機能的に抑制され、半側空間無視のような現象が起こり、結果として対側半球の機能が相対的に優勢になると推測されている

前頭眼野の賦活による偏向発作Versive seizure
頭部と眼球が強直性あるいは間代性に強く偏倚し、顔面はやや上を向き、頸部の進展を伴い、不自然なほど極度に回旋する:変更の対側が発作起始側である

一側性瞬目Unilateral blinking
1. 瞬きが一側の眼瞼に見られ、ウインクに似ている
2. 顔面や口周囲の間代性菌攣縮は伴わない
3. 複雑部分発作の症例に見られ、瞬目側は蝶形骨誘導による発作発射の起始側と一致
4. 発作時脳波2914例中の14例(1.5%)にみられる稀な発作症状
5. 瞬目側は80%の症例で発作起始側
6. 側頭葉てんかんに特異的ではなく、半数以上は側頭葉外てんかん

発作性嘔吐ictal vomiting, ictus emeticus
1. 意識が減損した段階に、嘔吐し、患者はそのことを自覚していない
2. 長時間脳波測定した450例中発作性嘔吐は9例で認め、全例側頭葉てんかんで、右側頭葉が発作起始側であった
3. 嘔吐の際の頭蓋内脳波記録から言語非優位側の発作発射で起こることが分かった
4. 皮質レベルの領域としては、島が最も想定されている

一側性立毛(鳥肌)unilateral piloerection
1. 発作時脳波測定した3500例中14例で認める稀な現象で12/14例が側頭葉てんかんであった
2. 一側性立毛19例中16例でてんかん原性焦点は同側であった
3. 側頭葉底部に留置した硬膜下電極を刺激すると後発射を伴って刺激束に立毛が観測された
4. 自律神経系のネットワークの関与によるもので帯状回などでも起こるが、側頭葉てんかんでは、島や扁桃体の可能性が高い

笑い発作gelastic seizure
視床下部過誤腫でよくみられるが、てんかん原性が側頭葉や前頭葉に存在する例でも見られる(側頭葉61%、前頭葉10%)
http://plaza.umin.ac.jp/~s-epinet/archive/TLE-semiology.pdf


高齢者のてんかん
てんかんは、特発性の場合も症候性の場合も小児・若年者電発症が多い。一方加齢に伴う様々な中枢神経系の病態は、高齢者で新たに発症する症候性てんかんの原因となり、若年者とは異なる病態とそれに基づく治療が必要なる。
全世界のてんかんの病因は、外傷・中枢神経感染症・周産期障害の順であり、高齢人口の多い先進諸国では、頭部外傷・脳血管障害・脳腫瘍の順である。70歳以上ではてんかんの発症率も急激に増加する。

Epilepsia 34:592-596, 1993
過去の多数の疫学研究では、てんかんの年間発症率は、全年齢で1年間人口10万人当たり25~70人であり、欧米諸国の統計では、70歳以上では発症率は10歳以下よりも高く、70歳以上では100人以上、80歳以上では150人以上となる。60歳以上のてんかん有病率は1.5%で、加齢とともに増加する。

Lancet Neurol 4:627-634, 2005
病因として、脳血管障害(30~40%)、頭部外傷、アルツハイマー病(神経変性疾患)、脳腫瘍、薬剤性などの症候性が主体で、特に脳血管障害が重要である。

Epilepsia 34:453-468, 1993
脳血管障害発症から1年以内の発作の発症の危険率は、一般人口の23倍になる。
発作症状は、非けいれん性が多く、軽微でかつ多彩であり、意識障害、失語、麻痺などを呈する。発作後もうろう状態が遷延することがある。
初回発作後の再発率が高い(66~90%)ため、初回発作から抗痙攣役を使った治療を開始することが多い。
全般強直間代発作に伴う急性肝不全の合併に注意する。
http://square.umin.ac.jp/jes/pdf/aged_epilepsy.pdf
高齢者てんかん発作と紛らわしい病態に以下のものがあり、鑑別を要する。


Sudden unexpected death in epilepsy(SUDEP)
てんかん患者1000人当たり年間0.9~2.3人の割合で、原因不明の突然死をおこし、一般人口における突然死の20倍以上の高頻度であることがわかってきた。てんかん患者の死因の18%を占めるといわれている。
まだ機序は不明であるが、危険因子として、全身性強直間代発作、男性、16歳以前の発症、15年以上の罹患歴、アルコールの多飲、睡眠不足、薬の中断、腹臥位などが考えられている。

Sudden Unexpected Death in Epilepsy. LANCET, 378, 2028-2038, 2011
SUDEPは20から45歳までの若い人で全身性強直間代発作のあとベッドで、うつぶせで寝ていた後に死亡している状態で発見されることが多い。


Sudden unexpected death in epilepsy epidemiology (A) Estimated annual sudden unexpected death in epilepsy incidence in different epilepsy patient populations. 5,17 (B) Distribution of sudden unexpected death in epilepsy cases by age. Error bars reflect 95% CIs. 5 VNS=vagus nerve stimulation. 
現時点においては下図の様な関連が考えられている。

Model of sudden unexpected death in epilepsy pathophysiology Suppression of brainstem function, arousal, and respiration seem to be crucial mechanisms, along with many other factors that can contribute to risk of sudden unexpected death in epilepsy. 
http://www.thelancet.com/journals/laneur/article/PIIS1474-4422(16)30158-2/fulltext?rss=yes

てんかんと意識消失の鑑別:てんかん特異的症状

J Am Coll Cardiol. 2002 3;40:142-8

幾つかのてんかん発作の動画を示してくださいましたが、その画像を入手できなかったので、You-tubeから以下の画像を拾ってきました。
欠神発作
ミオクローヌス発作
ジストニア
バリスム

てんかんinfo
動画で見るてんかん解説



日本内科学会雑誌 2016;105:1345-1406
高齢者てんかんの治療ガイドライン
標準的神経治療:高齢者発症てんかん

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2016年7月 5日 火曜日

パニック障害 海老澤 尚先生

2016年6月21日(火) 
演題「うつと睡眠障害」
演者: 医療法人和楽会 横浜クリニック 海老澤 尚 先生
場所:ホテル横浜キャメロットジャパン
内容及び補足「
パニック障害:
突然生じる予期しないパニック発作によって始まる。本能的な危険を察知する扁桃体が活動しすぎて、必要もないのに戦闘態勢に入り、呼吸や心拍数が増加し、その症状を自覚する。その後、その発作が再発するのではないかと恐れる『予期不安』と、それに伴う症状の慢性化が生じる。さらに長期化するにつれて、症状が生じる場面を回避するために生活範囲を限定する「広場恐怖症」が生じる。

診断基準:DSM-V
A.繰り返される予期しないパニック発作。パニック発作とは、突然、激しい恐怖または強烈な不快感の高まりが数分以内でピークに達し、その時間内に以下のうち4つ以上が起こる。
1.動悸・心悸亢進・心拍数の増加
2.発汗
3.身震い・震え
4.息切れ感・息苦しさ
5.窒息感
6.胸痛・胸部不快感
7.嘔気、腹部不快感
8.めまい感・ふらつく感じ・頭が軽くなる感じ・気が遠くなる感じ
9.寒気・熱感
10.異常感覚(間隔麻痺・うずき感)
11.現実感消失・離人感(自分が自分でない感覚)
12.抑制力を失う恐怖・「どうにかなってしまう」ことに対する恐怖
13.死ぬことに対する恐怖
B.パニック様の症状や、その他のたえられない当惑するような症状が起きた時に、脱出は困難で援助が得られないかもしれないと考え、これらの状況を恐怖し回避する。
C.広場恐怖症の状況は、ほとんどいつも恐怖や不安を誘発する。
D.広場恐怖症の状況は積極的に避けられ、仲間の存在を必要とし、強い恐怖や不安を伴って耐えられている。

100人に一人ぐらいの頻度で診られ、欧米では女性が男性よりも2倍ほど多いが、日本においてはほぼ同数で、男性では25~30歳にピークがあり、女性は35歳前後の発病が最も多い。
多くの人では1回目の発作から1週間以内に2回目の発作が起こり、週に数回認めるようになる。

予期不安:
パニック発作が起こると患者にとっては生命の危機をひしひしと感じられるものであるので、発作に対する恐怖感は計り知れないほど強く、しかも不意に突然起こるので、いつあの恐ろしい発作が起こるのかという不安感を常に心の底に持ち続けることになる。このためリラックスした気分にはなれず、知らぬ間に行動は防衛的になり、行動範囲が狭くなります。その典型例が広場恐怖です。
予期不安を分類してみると次のようになります。
・発作症状そのものに対する恐れ
・発作により病気になるおそれ
・発作により死亡する恐れ
・発作により失神する恐れ
・発作により気がくるってしまう恐れ
・発作により事故を起こす恐れ
・発作を起こしても助けてくれる人がいないことに対する恐れ
・発作を起こした場所からすぐさま逃げ出せない恐れ
・発作により人前で自分が取り乱してしまう恐れ
・発作により人前で倒れたり吐いたり失禁したりする恐れ
・発作を起こして人に迷惑をかける恐れ

広場恐怖:
パニック発作が起こることを恐れ、助けが求められない場所やすぐに逃げ出すことのできない場所にいることに不快を強く感じたり、またはそのような場所を避ける状態。パニック発作を起こした患者の3/4に程度の差はあれ広場恐怖を認める。
新幹線、航空機、地下鉄、電車、トンネル、エレベーター、橋などの狭い場所や倉庫や窓のない部屋といった閉鎖空間、美容院、歯科医、会議、行列に並ぶといった束縛された状態などがあり、高速道路や渋滞を恐れたり、自宅から遠く離れた場所や、家で一人での留守番が苦手な人もいます。

軽症:外出には多少不安を感じて、どうしても必要な場所にだけ行く
中等症:一人で外出できないことが多く、行動に制限がある
重症:ほぼ完全に家にいて、付添なしでは外出できない
パニック発作があるうちは広場恐怖はよくなることはめったになく、発作が消失すると約半数の人は自然に広場恐怖がなくなる。イミプラミンが使われますが、スルピリドも有効。

患者・家族のための10章
1 パニック障害は、患者当人には死を決意するほどのつらい病気であるが、決して死を招くような病気ではないことを確認する
2 パニック障害は気持ちの持ち方が悪いから起こる病ではない。ましてや、都合が悪いのでわざと起こしている病気でもないことを確認する
3 パニック発作が起こってもあわてふためかない。かえって不安が増強するので、静かに慎重に対処する
4 パニック障害の治療の根本はまず発作を完全に消失させること
5 発作が起きてから薬を飲んでも効果発現時には発作は終わっているので意味がない。発作を起こさないようにきちんと服薬することが肝要
6 広場恐怖に対しては、どんどん薬を使い、どんどん行動する
7 「併発うつ病」は早期発見、早期治療
8 パニック障害は完全にコントロ-ル出来る病気であることを確認する
9 パニック障害は頑固な病であるので、勝手な断薬は禁物
10「パニック障害」という診断名を使う専門医に治療を受けること
貝谷久宣著「不安・恐怖症 -パニック障害の克服」講談社、1996より

治療:
三環系抗うつ薬:イミプラミン
SSRI:ジェイゾロフト、パキシル
抗不安薬:アルプラゾラム、ロラレパム、クロナゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬剤
レクサプロ、メイラックス、ドグマチール、ワイパックス
認知・行動療法

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投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2016年7月 5日 火曜日

双極性障害と睡眠障害 海老澤 尚先生

演題「うつと睡眠障害」
演者: 医療法人和楽会 横浜クリニック 海老澤 尚 先生
場所:ホテル横浜キャメロットジャパン
内容及び補足「
双極性障害:
躁状態とうつ状態を繰り返す精神疾患で、うつ状態とそう状態を繰り返す精神疾患で、うつ病とは異なる躁うつ病とよばれていたが、アメリカ精神医学会による国際診断基準のDSM-5で双極性障害として取り扱われるようになり、わが国でも双極性障害といわれるようになった。
うつ病は男性で10人に1人、女性で5人に1人が一度は経験すると考えられているが、双極性障害は100人に1人は一生のうちになるといわれ男女差はない。
うつ病では「うつを良くする」ことが治療目標であるが、双極性障害では、「躁・うつの波をどうやってコントロールするか」が最大の治療目標となり、治療法が異なるので、的確な診断が大切になる。
双極性障害は以前稀な疾患と考えられていたが、近年はもっと頻度の多いものとしてとらえられるようになってきた。


躁状態から発症すれば診断は容易だが、躁状態から発症する頻度は1/3程度との報告もあり、抑うつ状態での受診であれば、うつ病との区別が困難であり、双極2型障害は軽躁状態と正常内の気分の高揚との区別が困難であるため、反復性うつ病との鑑別が困難である。
うつ病と双極障害のうつ状態との鑑別点として以下のものが挙げられている。
中核症状(抑うつ気分、興味と喜びの喪失、疲労感)のいずれかがない(うつ病は全て揃っていることが多い)
過眠・食欲亢進がある(うつ病は不眠・食欲減退が多い)
・ 気分反応性がある(うつ病は落ち込みのみである事が多い)
・  身体的な訴えが少ない(うつ病は痛み・しびれなど身体的な訴えも多い)
・ 精神病症状(幻覚・妄想など)が多い(うつ病は少ない)
・  双極性障害の家族歴がある
・ うつ状態を何度も繰り返している
・ うつ状態の発症が早い(25歳未満)
・ 産後うつ状態での発症
・  抗うつ剤によって躁状態に転じやすい(躁転)
・ 抗うつ剤の効きが途中から悪くなる

自殺リスクが高く、20年後の自殺率は6%以上、生涯では10%以上、自傷行為は30~40%のケースで認め、不安障害や薬物乱用などの精神的問題の併発率も高い。
好発年齢は25歳、初回発病は15~19歳で、12歳以下はまれ、一卵性双生児における一致率は50~80%、二卵性双生児の5~30%よりも高いことから遺伝要因の関与が高いとされてきた。

診断基準 DSM-5
躁エピソードを認めれば双極1型障害、軽躁病エピソードに抑うつエピソードを伴なえば双極2型障害と診断される。
躁病エピソード
A.気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的となる。加えて、異常にかつ持続的に亢進した目標志向性の活動または活力がある。このような普段とは異なる期間が、少なくとも1週間、ほぼ毎日、1日の大半において持続する(入院治療が必要な場合はいかなる期間でもよい)。
B. 気分が障害され、活動または活力が亢進した期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)(気分が易怒性のみの場合は4つ)が有意の差をもつほどに示され、普段の行動とは明らかに異なった変化を象徴している。
(1)自尊心の肥大、または誇大
(2)睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけで十分な休息がとれたと感じる)
(3)普段よりも多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感
(4)観念奔逸、またはいくつもの考えがせめぎ合っているといった主観的な体験
(5)注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でないまたは関係のない外的刺激によって他に転じる)が報告される、または観察される
(6)目標指向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加、または精神運動焦燥(すなわち、無意味な非目標指向性の活動)
(7)困った結果につながる可能性が高い活動に熱中すること(例:制御のきかない買いあさり、性的無分別、またはばかけた事業への投資などに専念すること)
C.この気分の障害は、社会的または職業的機能に著しい障害を引き起こしている、あるいは自分自身または他人に害を及ぼすことを防ぐため入院が必要であるほど重篤である。または精神病性の特徴を伴う。
D.本エピソードは、物質(例: 乱用薬物、医薬品、または他の治療)の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。
注: 抗うつ治療(例:医薬品、電気けいれん療法)の間に生じた完全な躁病エピソードが、それらの治療により生じる生理学的作用を超えて十分な症候群に達してそれが続く場合は、躁病エピソード、つまり双極Ⅰ型障害の診断とするのがふさわしいとする証拠が存在する。
軽躁病エピソード
A.気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的となる。加えて、異常にかつ持続的に亢進した活動または活力がある、普段とは異なる期間が、少なくとも4日間、ほぼ毎日、1日の大半において持続する。
B. 気分が障害され、かつ活動および活力が亢進した期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)(気分が易怒性のみの場合は4つ)が持続しており、普段の行動とは明らかに異なった変化を示しており、それらは有意の差をもつほどに示されている。
(1)自尊心の肥大、または誇大
(2)睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけで十分な休息がとれたと感じる)
(3)普段よりも多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感
(4)観念奔逸、またはいくつもの考えがせめぎ合っているといった主観的な体験
(5)注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でないまたは関係のない外的刺激によって他に転じる)が報告される、または観察される
(6)目標指向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加、または精神運動焦燥(すなわち、無意味な非目標指向性の活動)
(7)困った結果につながる可能性が高い活動に熱中すること(例:制御のきかない買いあさり、性的無分別、またはばかけた事業への投資などに専念すること)
C.本エピソード中は、症状のないときのその人固有のものではないような、疑う余地のない機能の変化と関連する。
D.気分の障害や機能の変化は、他者から観察可能である。
E.本エピソードは、社会的または職業的機能に著しい障害を引き起こしたり、または入院を必要とするほど重篤ではない。もし精神病性の特徴を伴えば、定義上、そのエピソードは躁病エピソードとなる。
F.本エピソードは、物質(例: 乱用薬物、医薬品、または他の治療)の生理学的作用によるものではない。
注: 抗うつ治療(例:医薬品、電気けいれん療法)の間に生じた完全な軽躁病エピソードが、それらの治療により生じる生理学的作用を超えて十分な症候群に達して、それが続く場合は、軽躁病エピソードと診断するのがふさわしいとする証拠が存在する。しかしながら、1つまたは2つの症状(特に、抗うつ薬使用後の、易怒性、いらいら、または焦燥感)だけでは軽躁病エピソードとするには不十分であり、双極性の素因を示唆するには不十分であるという点に注意を払う必要がある。
抑うつエピソード
A. 以下の症状のうち 5 つ (またはそれ以上) が同じの2週間の間に存在し、病前 の機能からの変化を起している。これらの症状のうち少なくとも1つは、(1)抑うつ気分、または(2)興味または喜びの喪失である(注: 明らかに他の医学的疾患に起因する症状は含まない)。
(1)その人自身の言葉 (例:悲しみ、空虚感、または絶望感を感じる)か、他者の観察(例:涙を流しているように見える)によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分。(注:子供や青年では易怒的な気分もありうる)
(2)ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退(その人の説明、または他者の観察によって 示される)。
(3)食事療法をしていないのに、有意の体重減少、または体重増加 (例:1 ヶ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の、食欲の減退または 増加。(注:子供の場合、期待される体重増加が見られないことも考慮せよ)
(4)ほとんど毎日の不眠または過眠。
(5)ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ単に落ち着きがな いとか、のろくなったという主観的感覚ではないもの)
(6)ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退。
(7)ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感 (妄想的であることもある。単に自分をとがめること、または病気になったことに対する罪悪感ではない
(8)思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる。(その人自身の言葉による、または他者によって観察される)
(9)死についての反復思考(死の恐怖だけではない)。特別な計画はないが反復的な自殺念慮、または自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画。
B.その症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
C.そのエピソードは物質の生理学的作用、または他の医学的疾患のよるものではない。

双極障害の躁状態、うつ状態はほとんどの場合回復するが、90%以上再発するので気分安定薬による治療継続と、生活習慣の改善が必要である。
双極性障害の経過を見てみると、双極1型の人で1/3が、双極2型の人で約半分の時期をうつ状態で過ごしている。


双極性障害は以下のような精神疾患の合併が多い。
AD/HD(注意欠陥性多動性障害)
不安障害
パーソナリティ-障害
自閉症スペクトラム障害

双極障害の患者の留意点
1) 医学的な治療を充分に受けること
双極障害は状態によって治療が異なる。
躁状態:入院し、薬剤(気分安定薬、抗精神病薬)で気持ちを穏やかにすることが必要:本人は入院の必要はないと考えているが、放っておくと怪我をしたり、他人を傷つけたり、社会的信用を失ったり、浪費してしまう危険があり、本人や家族が不利益をこうむりやすい。
安定期:再発予防のため、服薬(気分安定薬、一部の抗精神病薬)を続行する。
うつ状態:うつの治療(気分安定薬、一部の抗精神病薬、抗うつ薬)を行う。
薬を飲みながら可能な限りストレスを避け、自殺を予防する。「元気になろう」と焦らず、むしろ「気持ちが楽になる」ことをまずは目指す。100%を目指さず、今は調子が割るのだから悪いなりにやっておこうとすること、認知療法の考えを身に付け、ストレスを軽く受け止められるようにする。
不眠:睡眠薬、一部の抗精神病薬
気分安定薬:リチウム、カルバマゼピン、バルプロ酸、ラモトリギン
抗精神病薬:シルペリドン、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール
2) 自分の今の気分の状態をよく知ること
ひどい躁やうつになると自分が双極性障害の症状が出ていることを認識できなくなることがあり、安定している状態から躁になったらどうなるか、うつになったらどうなるかを書き出し、家族と認識を共有しておくことが重要。
3) 治療目標の設定を明確にすること
自分の現在の状態が、躁状態なのか、うつ状態なのかわからなくなる。その結果、周りからみると「丁度良い状態」であるのに、双極性障害の患者は「まだ不十分である」と判断し、むしろ躁状態のときを、「元気な本来の自分」と考え、それを目標にしてしまい、その結果、焦って、疲れて、うつ状態になってしまうか、上げすぎた目標に突き進んで躁状態になってしまうことがあり、治療目標を明確にし、主治医や家族とともに共通認識しておくことが大切である。
4) 生活のリズムを整えること
睡眠時間が短くなると躁状態になり易いので注意が必要。自分の睡眠のリズムを認識するために、睡眠覚醒リズム表を付け、気分の波と、睡眠覚醒リズムの関係や日常行動との関係を知っておくことは重要である。可能であれば、家族にも自分の気分と行動の部分を記載してもらい、自分の評価と家族の評価の違いを確認することも病状を確認するうえで役立つ。

http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/sokyoku/pdf/suimin_kakusei_rhythm.pdf
5) ストレスとの付き合い方を学ぶこと
ストレスをきっかけに調子を崩して、うつ状態や躁状態に陥ることが少なくない。うつ状態になる状況で多いのは、(1)「あれもこれもやらなければならない」と考え、優先順位がつかず、無理なプランを立て得て実行し疲労をためる、(2)「自分がやらなければならない」という意識が強すぎて、一人で抱え込む状況です。
その対応策は、(1)優先順位を付けて、「これはやるが、これはおいておく」と決めること、(2)自分一人で問題を抱え込まず、身近な人に相談すること、である。
6) これまでの経過を理解すること
今までの治療の経過を振り返り、(1)「躁やうつのきっかけ」になりがちな事柄をあげ、(2)躁やうつによってどんな結果になったか、(3)抜け出すのに何が効果的であったかを書き出すことが大切である。
(1)の躁やうつのきっかけになりがちな事柄としては、「薬の飲み忘れ」、「睡眠覚醒の乱れ」、「高すぎる設定目標」、「人との関係から生じるストレス」、「季節の変わり目(冬はうつ状態、夏は躁状態)」、「生理の周期(月経前にうつになりがち)」がある。
7) 治療の仕上げにリハビリを
8) 社会からの援助(福祉制度)を活用すること


参:
概日リズム睡眠障害の分類
外因性:
時差ボケ
交代勤務性睡眠障害
内因性:
睡眠相後退症候群(Delayed Sleep Phase Syndrome:DSPS):睡眠相が望ましい時間帯から遅れて固定し、前進させることが困難な状態。
睡眠相前進症候群(Advanced Sleep Phase Syndrome:ASPS):睡眠相が望ましい時間帯から慢性的に前進しており、後退させることが困難な状態。
非24時間睡眠覚醒症候群:24時間周期の環境で生活しているにもかかわらず、入眠・覚醒の時刻が次第に遅れ、24時間より長い周期で推移する状態。
不規則型睡眠・覚醒パターン:睡眠や覚醒の出現が不規則に起こり、一日に数回睡眠する。
時計や日光のない時刻情報となるものを排除した状況で生活をしてもらった際の人の概日リズムの「自由継続周期」は以前約25時間といわれていたが、被験者が人工的な照明を自分でコントロールすることを許されていたので、主観的夜に付けていた位相の後退を起こしていた可能性があった。近年行われた研究では、すべての年齢の成人で自由継続周期が平均24時間11分であることが示された。
一般人200名を対象とした調査で、夜型の人は朝方の人より2.83倍、中間型の人に比べ5.01倍うつになる危険性が高いことが示されている(Hisalgo MP, et. Al. Psychiatry Clin Neurosci 63:283-290, 2009)。
Kitamuraらは日本人一般成人1170名を対象として、クロノタイプごとの抑うつ状態(CES-d得点16以上)の出現を検討した。強い夜型(EE群)では、約半数が抑うつ状態を示した。
また、平均CES-D得点も、夜型嗜好性が強いほど高く、強い夜型ではカットオフ値に近い平均得点15.85点を示した。

睡眠は夜型指向性が強まるにつれて、実際の入眠および覚醒時刻は有意に後退した。
いずれのクロノタイプでも入眠時刻は希望入眠時刻とさほど差がなかったのに対し、実際の覚醒時刻は夜型指向性が強いクロノタイプほど希望覚醒時刻と大きくかい離して早い時間帯に収束した。その結果、強い朝方に比較して強い夜型は平均約睡眠時間が希望時間よりも一時間ほど短くなっていた。

http://chronobiology.jp/journal/JSC2012-2-068.pdf
(クロノタイプ=朝型夜型:朝方=二歩で頃に目覚め、早い時間帯に活発に活動し、夜は早々と床に就く人、夜型=日が高くなってからようやく置きだし、昼間はなかなか元気が出ず、夜になってから目が冴えてきて、深夜遅くにようやく眠りにつく人)

うつ病患者の90%以上は不眠を訴え、不眠を中心に訴える患者の20%(中高年では50%)がうつ病を発症しており、糖尿病患者の20%、高血圧患者の30%がうつを合併しているとの報告があり、不眠のあった人の3年後にうつになる確率は20歳代で4倍、高齢者で3倍とされている。
島らが行った、2000年保健福祉動向調査で睡眠時間と抑うつ状態を検討した結果では、睡眠時間が減少するとともに抑うつ状態は強くなり、6時間以上の睡眠の確保が望ましいことがわかった。

別の睡眠時間とうつ病の頻度を調査した研究では、7~8時間睡眠の人がうつの頻度が一番少なく、それ以上でも、それ以下でもうつ症状の頻度は増加していた。

年齢別に睡眠時間とうつ状態(CES-D調査票:抑うつ状態自己評価尺度での評価点)との関係を調べた結果 J Affect Disord. 2008 Apr;107(1-3):181-186

国や文化、習慣により、適正な睡眠時間は異なる可能性があるが、アメリカ医学部男子学生1053名の追跡量差で、不眠経験者と未経験者では40年後のうつ病発症頻度は3倍強であり、34年後の時点で13名の自殺者を認めており、不眠があることにより、精神的なストレスが増加することは事実のようである。

http://www.e-kensa.org/aroma/sleep/article_09.html

睡眠不全の原因
1. 心理的原因:ストレス、過重労働、夜更かし、ハラスメント、人間関係
2. 身体的要因:外傷、関節リウマチなどの痛みを伴う疾患、湿疹や蕁麻疹などの痒みを伴う疾患、喘息発作、頻尿、花粉症など
3. 精神医学的原因:不安、抑うつ
4. アルコール、カフェイン、ニコチン、抗がん剤、自律神経・中枢神経に作用する薬剤、ステロイド剤などの服用薬剤
5. 生理学的原因:海外旅行や出張による時差ボケ、受験勉強や職場の勤務シフトなどによる生活リズムの昼夜逆転などのライフスタイルの変化

気分障害に含まれるメランコリー神話型の従来のうつ病、双極性障害2型、気分変調症に加え、適応障害やパーソナリティー障害などの多くの疾患を一連のものとして捉えることができ、抑うつ症状を認める疾患群を、抑うつスペクトラムとして、厳密に区別することができない疾患群としてとらえられるようになってきた。

林直木、坂元薫、ほか:精神科診療における説明とその根拠。専門医のための精神科臨床リュミエール9、初版:40-55、中山書店、2009より引用
ICD-10の診断基準も気分障害の診断コードF3領域だけでもF30の躁病エピソードからF39の特定不能の気分障害まであり、これ以外の不安障害を主とする神経症性障害F4や統合失調症F2でも抑うつ状態を生じるので、明確な臨床所見がない場合には診断が困難である。

http://yaplog.jp/ayukko/archive/498

双極障害(躁うつ病)とつきあうために 2015年10月12日日本うつ病学会 双極性障害委員会

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2016年7月 5日 火曜日

うつと睡眠障害 海老澤 尚 先生

2016年6月21日(火) 
演題「うつと睡眠障害」
演者: 医療法人和楽会 横浜クリニック 海老澤 尚 先生
場所:ホテル横浜キャメロットジャパン
内容及び補足「
うつ病患者は年々増加してきており、男性よりも女性に多く認められる。男性においては30-50歳代に多くみられるが、女性においては、30歳代以降高齢者においても多くみられる。

うつ病と診断された患者さんの初診時に受診した科は、精神科は5.6%と少なく、半数以上は内科を受診している。

そして、うつ病患者が初真意を受診した時に、うつ病・うつ状態と診断・説明されたのは11%しかなく、異常なしと診断された患者は9%もいた。プライマリ・ケア医でうつ病の基準を満たす患者がうつ病と正しく診断された頻度は50%に過ぎないとも言われている。

正しく診断するためには、身体症状、精神症状を訴えてくる患者においてまず、うつ病と疑うことが重要である。

うつ病を疑うコツとして以下のような特徴がある。
1. 多彩な訴え
2. とらえどころのないあいまいな症状
3. 身体所見や検査結果に比べて症状が強い
4. すでに行われた様々な検査に異常を見ず、しかも長く持続する症状
5. 「この症状さえ取れたら、元気でやれそうな気がします」との答え
6. 調子が悪いのに「休むことができません」とのこたえ

診断が困難な理由の一つに、患者自身が自らの症状を上手く伝えられないという点もある。
下の図は患者自ら訴えの有ったものと、医師が問診で引き出した症状との割合である。最初にどの科を受診するかによって、この症状の訴える頻度は異なってくるが、多くの場合、疲労感や倦怠感の自覚はあるが、精神症状については医師に訴えることが少ないことに注意する必要があり、医療従事者の方から問いかけていく必要がある。

うつ病に伴う身体症状の出現率は統計により数値は異なるが、睡眠障害がかなりの率で認められ、体重減少も半数以上で認められている。

うつ病と不安障害は共通の症状が多いが、うつ病と不安障害を見分けて適切な治療を行う必要がある。
睡眠障害であっても、うつ病によくみられるのは早朝3、4時に目が覚める早朝覚醒が特徴的であり、不安障害では頭に浮かぶ心配事で睡眠が妨げられる入眠障害が多い。
集中困難では、うつ病では気力・意欲、興味・関心の低下のためであるが、不安障害では、頭に浮かぶ心配事のために集中して考えることが妨げられている。これらの違いを問診で確認する必要がある。


うつ病を合併する率は基礎疾患によって異なるが、身体疾患の重症度が増すにつれて、うつ病の合併率も高くなる。


うつ病の診断は
ICD-10の診断基準

DSM-4の診断基準

がよく使われる。
うつ病の症状は、「抑うつ気分」「興味または喜びの消失」のどちらかが現れ、その他にもいろいろな精神症状と身体症状を伴う。
憂鬱な気分や何もやっても楽しくないという状況が二週間以上続いた時には、うつ病を疑って問診を試みる必要がある。

うつ病の成因としては、遺伝的訴因に、環境因や身体要因が作用し発病すると考えられている。

うつ病になりやすい病前性格としては
循環気質(Kretschmer 1921)
1. 人付き合いが良い
2. 気立てが良い
3. 親切
4. 朗らか
5. ユーモアに富む
6. 元気
7. 激しやすい
8. 物静か
9. 落ち着きがある
10. 苦労性
執着性格(下田 1950)
1. 仕事熱心
2. 凝り性
3. 徹底的
4. 正直
5. 几帳面
6. 正義感が強い
7. 責任感が強い
メランコリー親和型性格(Tellenbach 1961)
1. 秩序を重んじる
2. 他人に気を遣う
3. 頼まれるといやといえない
4. 真面目
5. 正直
6. 仕事熱心
7. 過度に良心的・小心
8. 消極的・保守的
9. 頑固
10. わがまま(近親者に)
などの性格的傾向があると考えられている。
うつ病を発症する誘因や状況としては、個人・家庭に関係する出来事や職業に関係する出来事として以下のようなものがある。

病態としては、神経伝達物質であるセロトニンが減少すると、不安や焦燥感、落ち込みといった症状が出やすく、ノルアドレナリンが減少すると、気力や行動力が減少し、ドパミンが減少すると楽しみが喪失するといわれている。

Leonard, B. E. et al.: Differential Effects of Antidepressants, 1999, pp.81-90, Martin Dunitz Ltd, London
治療:
1. ストレスの量を軽減する
職場環境・仕事量を調節する
仕事に優先順位をつける
アサーション(Assertion:自分と相手を大切にする表現方法)トレーニングを行う
http://www.nsgk.co.jp/sv/kouza/at/beginner.html
適切な自己表現をする
叱責と励ましは避ける
周囲との相談、良好な人間関係を築く
2. ストレスの受け止め方を変えて過剰にストレスを受け取らないようにする
認知行動療法:物の受け取り方や考え方を変えて気持ちを楽にする精神療法
http://www.ncnp.go.jp/cbt/about.html
3. 脳のアンバランス、機能不全を改善する
休養、睡眠、薬物療法、精神療法がある

うつの治療経過は、下表のように「反応」、「寛解」、「回復」、「再燃」、「再発」の五つに分けられ、下図のように経過するが、臨床において明確に判断することは困難なことが多い。


鬱の薬物治療においては概念的に3つの治療期に分けられる。
急性期:治療開始から寛解まで
継続治療期:寛解から回復まで
維持治療期:回復後の再発予防
急性期治療による症状消失後の8週間は再燃しやすく、中等度以上のうつ病の場合、寛解した後も再燃防止のため、4~9か月にわたる継続治療を行うべきであり、さらに、複数回の再発を繰り返した患者では再発予防のために、数年から障害にわたる維持治療が求められる。
http://www.jcptd.jp/medical/point_10.pdf

薬物療法:下記のように多くの種類があり、個々の患者に応じた選択肢がある。
SSRI(選択的セロトニン再取り込阻害薬)
うつ病患者では神経伝達物質の一つであるセロトニン量が減少しているので、神経終末におけるセロトニンの再取り込を阻害して神経細胞間のセロトニン量を増やし、抗うつ効果を発揮すると考えらえている。
フルボキサミン(ルボックス、デプロメール)、パロキセチン(パキシル)、セルトラリン(ジェイゾロフト)、エスシタロプラム(レクサプロ)。
SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込阻害薬)
セロトニンとノルアドレナリンの両方の取り込みを阻害することで抗うつ効果を発揮すると考えられている。
ミルナシプラン(トレドミン)、デュロキセチン(サインバルタ)、ベンラファキシン(イフェクサー)
NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)
セロトニンとノルアドレナリンの放出を促進させて抗うつ効果を発揮すると考えられている。
ミルタザピン(リフレックス、レメロン)
ノルアドレナリンが作用するα受容体にはα1とα2があり、α1受容体を刺激して意欲や活力を上昇させ、ノルアドレナリン放出抑制をしているα2受容体を阻害してノルアドレナリンの放出を促進させて効果を発揮する。また、ノルアドレナリンがセロトニン細胞体上に存在するα1受容体を刺激してセロトニン(5-HT)神経の発火促進をするDual actionがある抗うつ薬と考えられている。

また、5-HT神経はGABA神経細胞体の5-HT2受容体を介してGABA神経を活性化しているが、このGABA神経はNA神経細胞体に存在するGABAA受容体を介してNA神経の活性化を抑制している。ミルタザピンは5-HT2受容体を遮断することによって、このGABA神経を介したNA神経に対する抑制系調節を解除して、効果を発揮している。

http://medical.radionikkei.jp/suzuken/final/090910html/

三環系抗うつ薬:脳内で分泌されるセロトニンとノルアドレナリンの再取り込を阻害し増加させる薬剤。その他にも、シナプス後部のヒスタミンH1受容体、M受容体、α1受容体なども遮断するので、便秘、口渇などン副作用が多い。
クロミプラミン(アナフラニール:脅迫症状や不安により作用するノール:抗不安作用が強いイミドール、トフラニンール)、ノルトリプチリン(ノリトレン:意欲低下の改善が強いキサン)、ドスレピン(プロチアデン)、ロフェプラミン(アンプリット)

四環系抗うつ薬:三環系抗うつ薬より抗コリン作用が弱いため、便秘や口渇などの副作用が少ないが、眠気が強く、抗うつ作用が弱い
マプロチリン(ルジオミール:パニック症状には効果ない)、セチプチリン(テシプール)、アンセリン(テトラミド)

軽症・中等症の治療アルゴリズムでは、抑うつのみならず、不安、恐怖などの他の症状への作用や副作用を考慮して、SSRIやSNRIが第一選択薬とされる。

その他に抗不安薬や睡眠導入剤も併用することが少なくないが、ベンゾジアゼピン系の薬剤は、8か月以上の長期使用により1/3が依存症になるといわれており、状態に応じて減量、休薬すべきである。
プライマリ・ケア領域では、軽症例にスルピリドを投与すると比較的早期に著明に改善することが多くよく用いられている。
スルピリド(ドグマチール):統合失調症治療薬としても使用されるドパミン受容体阻害薬であるが、軽症うつ病では50~150㎎の低用量で使用され、この量であれば、ドパミンを遊離する作用が認められ、抗うつ効果を発現する。しかし、漫然とした長期使用の際には、振戦や小刻み歩行などの錐体外路症状や肥満などの副作用が発現することがあり、高齢者に発現しやすく、注意が必要である。また、高プロラクチン血症のために、乳汁漏出、月経異常、男性での女性化乳房といった副作用も起こる。

投与量は、下表にある初期投与量を参考に決め、副作用、反応を考慮しながら漸増する。高齢者の場合には、初回投与量や維持量を成人よりも少なめ(半量を目安)にする。
薬剤中止時は、薬剤中止に伴う再燃や、断薬症候群などの副作用を防止するために漸減することを心がける。


認知行動療法:うつ病に対する代表的な精神療法である。
認知とは「ものの考え方」、「受け取り方」であり、うつ病患者では、自分に対する認知、自分を取り巻く世界に対する認知、将来に対する認知にゆがみある。よく見られる認知のゆがみとして以下のようなものがある。
・過度の一般化(ある悪い出来事が起きたら、それがいつも起きるだろうと考えてしまう)
・破局的思考(ちょっとした困難を大変な災難のように考える)
・恣意的な推論(証拠がないのに、独断的に推論・判断してしまう)
・「~すべし」という思考(「~すべき」と考えてしまうので自分を常に追い込んでしまう)
・誇張と矮小化(自分にとって良くないことを過大に考え、良いことを過小評価してしまう)
・全てか無かの思考(100%できていないとだめだと考えてしまう)
・個人化(自分に関係ないことも、自分に関連付けてしまう)
・選択的抽出(自分の考えを指示するような、数個の論拠だけを選び出し、他の論拠を無視してしまう)
こうした認知のゆがみが、うつ病患者に多く見られ、その思考のために患者自身を苦しめ、うつ病を悪化させたり、回復を遅らせている。そのことを指摘し、認知の是正をしようというのが認知療法である。
患者の考え方の証拠を探し・検討して、推論に飛躍がないか、他の考え方がないかを探してもらったり、思考の記録をつけてもらい、患者自身の陥りやすいものの見方、考え方のパターンに気付いてもらい、是正していく方法を身につけてもらう。
うつ病患者の行動の変容を目的とするのが行動療法である。症状が現れたり悪化したりするような様々な場面でどのようにふるまえばよいかを考え、患者自身がその場面に適応できる行動を身につけてもらうよう援助していく。具体的には日常の活動記録をつけてもらい、症状に応じて段階的な行動の課題を割り当てて実行してもらったり、ロールプレイなどを通して、行動のシミュレーションをしたり行動の変容をはかる。
場合によっては、リラクゼーション、呼吸法の訓練なども行う。

参:
一般的な副作用:
セロトニン受容体の阻害:眠気、鎮静作用など
ムスカリン受容体の阻害:口渇、便秘、頻脈、視力調節障害、失見当識、記憶障害など
アドレナリン受容体の阻害:起立性低血圧、めまい、失神など
セロトニン受容体の刺激:悪心、嘔吐、便秘など

セロトニン症候群:
SSRIやSNRIなどのセロトニン作動薬投与により、脳内の細胞外セロトニン濃度が極端に高まることによって発症し、ときにより致死的な状態になることがあり、MAO阻害薬やセロトニン再取り込阻害作用の強いクロミプラミンやトラゾドンなどやセトロ人濃度を上げるリチウムとSSRIの併用時に起きやすい。
多くは原因薬剤の開始・増量から24時間以内に置きやすく、原因薬剤の中止徒歩駅などにより多くは予後良好で、症例の70%が24時間以内に回復するとされている。
セロトニン諸侯群の診断基準

Sternbach, 1991

断薬症候群(中断症候群):
SSRIの退薬症状は特異的で、依存による退薬症状ではないので、断薬症候群Discontinuation syndromeといわれており、平衡感覚の異常、近くの異常、衝動的な行動があらわれ、同じSSRIの再投与により、72時間以内に症状は消失する。
断薬症候群の診断基準試案

Black K, et al:Psychiatry Neurosci. 25:225-261, 2000

セロトニン神経の細胞体は脳幹の線条核に存在する。

ノルアドレナリン神経のほとんどの細胞体は脳幹の青斑核に存在する。

神経伝達物質で考えると、神経終末から分泌されたセロトニンがシナプス間隙に少ないために症状が出ていると考えられている。

日本うつ病学会
うつ病診療の要点-10
うつ病の病態・診断・治療 鍋島俊隆先生

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2015年9月 7日 月曜日

認知症の理解と援助 杉山 孝博 先生

2015年9月5日 はまぎんホール ヴィアマーレ
演題「認知症の理解と援助」
演者: 川崎幸クリニック院長 杉山 孝博 先生
内容及び補足「手
公益社団法人『認知症の人と家族の会』を1980年に設立してから35年たちました。
2002年に実施した「家族を通じてぼけの人の思いを知る調査」でいろいろなことが分かりました。
特に強く思ったのは認知症の人は、もうダメになっているのではなく「ぼけても心は生きている」ということです。
以下にいくつかのコメントを載せます。
キリスト教会の牧師と付属幼稚園の園長をしており、音楽が好きでオルガンやピアノを弾いたり、コーラスの指導をするのが好きだった岩切健さんは1987年認知症と診断され、13年後68歳で天に召されました。診断されて2年後に書かれたのが下の詩です。
『僕にはメロディがない 和音がない 響鳴がない
頭の中に いろいろな音が 秩序を失って 騒音を立てる
メロディがほしい 愛のハーモニーがほしい
この音に響音するものはもう僕から去ってしまったのか
力がなくなってしまった僕はもう再び立ち上がれないのか
帰ってくれ僕の心よ 全ての思いの源よ
再び帰ってきてくれ あの美しい心の高鳴りはもう永遠に与えられないのだろうか
いろんなメロディがごっちゃになって気が狂いそうだ
苦しい 頭が痛い』
認知症の患者さんの苦悩が適切に表現されている詩です。
http://www.ceres.dti.ne.jp/~makotu/taikenki.htm

『夕方になるといつも泣き出していた。なぜ悲しいのかと聞くと、「こんなにバカになってしまって ・・・」という言葉が返ってきた。また、近所に一緒に出かけると、人が通りかかると物陰に隠れようとしていた。「こんなにバカになった姿を人に見られたくない」、そんな言葉が返ってきた。』
いろいろな刺激を与えたほうが良いと考え、つい外に連れ出そうとしがちであるが、認知症患者さんにとっては、自分の変わった姿を知り合いに見られたくないという気持ちがあるので、抵抗するのはこういった気持ちがわかると、当然の反応だと、理解できます。

『「母さん、3月になったら、レコードでも買うて、きれいな服を着いや」。夫はまじめな顔で、じっと私を見つめていった。呆けても失わない夫の優しさがうれしかった。』
物忘れがひどい状況でも、ふとよい状況になることがあり、優しい言葉が言えるんです。

『「お父さん、本当にありがとう。よく世話をしてくれてありがとう。本当にやさしいんだから。いろいろ心配かけてごめんなさいね。いつまでも元気でいてね。」と。前後、支離滅裂な内容を言い続けていたのに、これが妻が私に言った最初で最後の正気の言葉となりました。(略)私は、この時、最後まで、妻をやさしく介護してやろうと決心しました。』
突然的な試行に戻って発現されることがあり、この感謝の言葉が、家族の支え・癒しになっています。

『デイサービスに行ってきて、「今日はどんなことをしていましたか」と聞くと、「変な年寄りがいるで」と言う。時には「工場に行ってきた」とか言う。若い時、割り箸工場で働いていたころを思い出しているのかと思った。
最近の記憶が思い出せずに過去の自分の状況に戻っているのです。この時に、「そうじゃないでしょう。デイサービスで○○してきたじゃない」と訂正しようと繰り返すと、「この人は自分に現実にやっていないことをしたかのように思い込ませようとしている」と思い込んで拒否反応を示すようになることもあるので、昔にタイムスリップしてその時の話をしていると考え、話を合わせる方がよい。

『痛いリハビリに抗議して「イヤ、イヤといったらイヤ!しないというたらしない。人がこれほどイヤと言うものを、皆は、何の権利があって無理強いするのか、その理由を。言え人権無視じゃあ」
身体が固くなるのを予防するために行っている痛いリハビリは、本人がその目的を理解できて初めて意味のあるものになるのに、現状の体が硬くなっている理由も、これから行おうとする痛いリハビリの意味が分からなければ、それこと人権無視の行動と思われても仕方がありません。

しかし、実際介護する家族の負担は、大変なものです。
介護家族のたどる四つの心理ステップがあります。
第一ステップ:戸惑い・否定
認知症の人の異常な言動に戸惑い、否定しようとします。悩みを他の肉親にすら打ち明けられないで一人で悩む時期です。
第二ステップ:混乱・怒り・拒絶
認知症の理解が不十分なため、どう対応してよいいか分からず混乱し、些細なことに腹を立てたり、叱ったりします。精神的・身体的に疲労困憊して認知症の人を拒絶しようとします。一番つらい時期です。医療・福祉サービスなどを積極的に利用することで乗りやすくなります。
第三ステップ:割り切り、または諦め
怒ったり、イライラするのは自分に損になると思い始め、割り切るようになります。諦めの境地に至ります。同じ認知症の症状でも問題性は軽く感じるようになります。
第四ステップ:受容
認知症に対する理解が深まって、認知症の人の心理を自分自身に投影できるようになり、あるがままのその人を家族の一員として受け入れることができるようになります。

認知症の介護において最大の問題は、認知症の症状の理解が困難なことにあります。
今言ったことも忘れてしまう酷い物忘れ、家族の顔すら忘れてしまう失認、金銭・物に対する酷い執着、徘徊、失禁など多彩な症状を、介護者は理解できずに、振り回されてしまいます。認知症の症状を理解し、上手な対応が可能になるように工夫したのが『認知症を良く理解するための9大法則・1原則』です。最初は5大法則として発表しましたがその後改訂を重ね2009年8月以降現在の9大法則・1原則になりました。

第1法則 : 記憶障害に関する法則
*記銘力低下:話したことも見たことも行ったことも直後には忘れてしまうほどのひどい物忘れ。同じことを繰り返すのは毎回忘れてしまうため。
通常の物忘れは3回目に言っているとき、先に言ったことを思い出すので、4回目には言わなくなりますが、認知症があると4回目以上繰り返して言います。ここに差があると思います。
訂正してもまた繰り返されるので、今度は違った対応をしようとして、疲れていくのです。最初の対応も忘れているので、同じ返事を繰り返す対応で構いません。そう思うと少し疲れる程度が減ります。

*全体記憶の障害:食べたことなど体験したこと全体を忘れてしまう。
認知症の経過の中で食欲が亢進している時期があります。不思議とそういった時期は余分に食べても太りません。活動も亢進しているので、消費エネルギーが多くなっているからと思われます。その時には、『さっき食べたじゃない』と注意するのではなく、「今から作るので、それまでは、バナナ(おにぎり)を食べてできるまで待っていてください」といった対応をしましょう。この時期はお腹が空いているので、夜中におきだして、食べ物を探し回ることも起きます。その対応としては、軽食を寝る前に用意して、テーブルにおいておくのです。食べて食欲が満たされれば、寝てくれます。

*記憶の逆行性喪失:現在から過去にさかのぼって忘れていくのが特徴で、昔の世界に戻っています。
現在から記憶が遡って消失しているので、理解できません。その時は、年を取った伴侶のことも理解できません。
夕方になるとソワソワして落ち着かなくなったり、少しのことに声を荒げたり、「そろそろ家に帰らせていただきます」と徘徊を始めたりする『夕暮れ症候群』も、このために生じています。若いころの自分の記憶には、新しく家を建てたり、引っ越しをしたりした、記憶がないので、他人の家に行っている状況であり、この時間になると家に帰らなければいけないという考えになり、帰るためにそわそわしたり落ち着かなくなってくるのです。
そういう時には、一緒に一回りして帰ってくるのがよいでしょう。
鏡を見せて、現在の自分を認識させようとしても、若い自分が念頭にあるので認められません。暗くなって窓に映った年老いた自分を見て、「知らない年配の人がこちらを覗き見している。」と認識したり、注視していると「睨んでいる」と思い騒ぐことにもなります。窓を開けて人がいないことを示しても、また閉じると見えるので、不安収まりません。そうならないために、暗くなる前にカーテンを引きましょう。

第2法則 : 症状の出現強度に関する法則
より身近な者に対して認知症の症状がより強く出ます
幼児はいつも世話をしてくれる母親に対しては甘えたり、わがままと言ったりして困らせますが、他の人に対してはもっとしっかりした態度をとるものです。母親を絶対的に信頼しているから、わがままが出るのです。認知症の人も介護者を最も頼りにしているから認知症の症状を強く出すと考えるのは、類推のしすぎでしょうか?
そしてまた、私たち自身も、自分の家の中と他人の前とでは違った対応の仕方をするものです。よその人に対しては体裁を整えます。ですから、認知症の人が他人の前でしっかりした対応をするのを異常だと思うほうが、異常だと思いませんか。自分も相手も同じ立場だと理解できた時に初めて、相手にやさしくなれるのではないでしょうか。

第3法則 : 自己有利の法則
自分にとって不利なことは絶対に認めないというものです。ものがなくなっていつもと違うところから見つかった際に、「ほらごらんなさい、ここにしまっておいたのを忘れたのよ。ここにしまうのはおじいちゃんしかいないんだから」といわれても、「いや自分はそんなところへしまった覚えはない。誰かがそこにしまったんだ。」と必ず言い返します。その際に、難しいことわざなどを交えて行ったりすると、周囲の人はおじいちゃんを認知症になっているとはとても思えません。しかし、詳細を知っている人からすると言い訳の内容に明らかな誤りや矛盾が含まれているので、「都合の良いことばかり言う勝手な人」「嘘つきだ」と本人を低い人格の持ち主と考え、介護意欲が低下します。
こうした認知症の人の言動には自己保存のメカニズムが本能的に働いているに違いありません。つまり、人は誰でも自分の能力低下や生存に必要なものの喪失を認めようとしない傾向があり、その発現なのです。認知症がなければ、推理力や判断力などの知的機能により、相手がいっていることがより正しそうだと思えば、自分の記憶違いの可能性を考え、考えを修正しますが、認知症の人はこの知的機能が低下するため、本能的な行動が表面に出てしまうのです。

第4」法則 : まだら症状の法則
正常な部分と認知症として理解すべき部分とが混在する。初期から末期まで通してみられます。常識的な人だったらしないような言動を、お年寄りがしているため周囲が混乱しているときには「認知症問題」が発生しているのだから、その原因になった言動は「認知症の症状」であるととらえましょう。
大事な着物がみあたらなくて隠したでしょう。と身に覚えのないことを、毎日責められると、誰でもパニックになるに違いありません。同じことを寝たきり全面介助が必要なおばあちゃんがいった場合には、「またおばあちゃんがおかしなことを言っている。どうせ本気で言っているわけではないので、聞き流しておこう。」と思えるはずです。一見元気な状況下で言われるので、辛いのです。実は、こういった些細な思い違い考え違いは、認知症のない普通の人でも、時に見られることなのです。会社で非常に有能で素晴らしい判断力や企画力を発揮する人が家に帰ると「粗大ごみ」扱いされるのですから。
普通の人にも見られるまだら症状が、認知症の人ではより強く高頻度に見られているだけなのだと理解すれば、広い気持ちで認知症の人と接することができるようになるのではないでしょうか。

第5法則 : 感情残像の法則
言ったり、聞いたり、行ったことはすぐ忘れます(記銘力低下の特徴)が、感情は残像のように残ります。理性の世界から感情の世界へ移行しているのです。
弱肉強食の世界に住む動物たちは、相手が敵か味方か、安心して気を許せる対象化、否かを速やかに判断し、感情として表現します。認知症の人も同じような存在であり、安全で友好的な世界から抜け出てしまったような状況にある認知症の人は、感情を研ぎ澄まして生きざるを得ない世界の中におかれているのです。
感情が残ると言っても、悪い感情ばかりが残るわけではないので、良い感情が本人に残るように接することが大切です。「本人の言うことを受け入れて、穏やかに対応するのが良いと先生は言われますが、介護をする身にもなってください。いうことを聞かず、迷惑なことばかりする人にいい顔はできませんよ」と介護の人は訴えられます。そいった人に対して、私は「毎日慣れない介護をし続けなければならないあなたの気持ちはよくわかります。しかし、この時期は介護者にとっても本人にとっても一番つらい時期なのです。良い感情を与えるようにした方が、結局あなたにとっても楽になるはずです。」と答えています。そのためには、四つのコツがあります。
1. ほめる、感謝する:「上手ね」「ありがとう。助かったわ」などの言葉を言い続けます。
2.同情(相槌をうつ):「ああ、そう」「そういうことがあったのですか」「大変ですね」のように相槌を打つことです。

3.共感:「よかったね」を話の終わりに付け加えます。「ご飯美味しかった?よかったね」「その着物よく似合いますよ。良かったね」「雨が上がって晴れましたよ。よかったね」というようにします。なぜか、「よかったね」を話し続けると本人は介護者との間に共感を持つようになり、穏やかな表情になってくるのは間違いありません。混乱の真っただ中にある介護者の方は「よかったね」から話してみてください。

4.謝る、事実でなくても認める、演技をする。認知症の人は『忘れたことは本人にとって事実ではない』『本人の思ったことは絶対的な事実である』という原則があります。食べたことを忘れてしまえば「食べていない」というのが本人にとっての事実になりますし、「お金を貸した」と思い込んでいれば、「借りた金を返さないのはけしからん。返してくれ」となります。この思いに対して「ご飯は食べたばかりでしょう」「借りてもいないのに変なことを言わないで」と言っても、通用しないばかりか、ますますこだわりが強くなって悪感情のみが残ってしまいます。そういった場合には、「今夕飯の支度をしているのでもう少し待っていてください」「今は手元にお金がないので、明日銀行で下してお返しします」と、本人の思い込みをいったん受け入れて、別の方向に結論を持っていく方が本人の納得を得やすいのです。本人の世界に合わせてセリフを考え、演技をする俳優になったつもりで対応するのが良いのです。
 「ごまかしたり、嘘をつくことは、良心がとがめて、とてもできません」と介護に慣れていない介護者は言います。そのような人に対して、私は、「ドラマで悪役を演じている俳優は、悪役を演じることを悩んでいないでしょう。あなたも認知症の世界で悪役を演じているつもりで割り切ってください」と話すことにしています。

第6法則 : こだわりの法則
ある一つのことに集中すると、そこから抜け出せなくなり、周囲が説明したり、説得したり、否定したりすればするほど、逆にこだわり続けるというのが特徴です。本人が安心できるようにもってゆくことが大切です。そのための方法として、
1.そのままにしておく:箪笥から着物を出して並べる人に対して、そのままにしておくのです。大事な着物がなくなったかもと不安になりだしているのであれば、見えなくなるとまた心配になり、出して広げることになります。落ち着くまで、そのままにしておけばよいのです。
2. 第三者に登場してもらう:「身近な人に激しい症状を指名、他人にはしっかりした言動をする」という特徴を応用するのです。家にこもりっきりで、数か月間入浴や洗髪をしない女性がいました。家族が「お風呂に入らないと病気になるよ」とお風呂を勧めても入らず、家人から相談を受けました。私が訪問診療をするようになると、私の訪問を心待ちにされるようになり、訪問の前日には、入浴して清潔な下着に着替え、さらには美容院にもいくようになりました。
3. 場面転換をする:関心を別に向けることです。夜中に大きな声を出す人に対して、「真夜中だし、近所迷惑になるので静かにしてください」と説得しても効果がありません。それよりも「お父さんの大好きなおまんじゅうがあるので食べませんか」とすすめ、「美味しいものを食べると眠くなるわね。私は休みますから、お父さんも寝てくださいね」という風に話を持っていくと寝てくれることもあります。
 昔の思い出の場面に切り替えることも有効です。趣味や興味があることを話してもらうのも手ですが、話が止まらなくなることもあるのは了解しておきましょう。
4.地域の協力理解を得る:夜間の騒音、ごみだし、隣人への被害妄想など、地域社会とかかわりを持つ認知症の症状は少なくないので、「明日は我が身」「お互い様」という理解が地域に根付いていれば、「認知症になっても安心して暮らせる地域づくり」が可能になると確信しています。
5.一手だけ先手を打つ:失禁が始まると介護者の負担が極端に増えます。「タイミングを合わせてトイレに誘導することは、介護の視点ではよいことですが、24時間一人で実行することは大変です。それでも失敗が起こることがあります。畳の上に水を通さない上敷きを強いたらどうでしょう。始末が楽になり、イライラが軽くなりますよ」と話しています。失禁を抑え込むことができなくても、後始末が簡単だと思えるだけで精神的なストレスは軽くなるものです。
 手に付いた大便をトイレの壁やタオルなどに塗り付けて汚すことを弄便(ろうべん)といいます。わざと便を塗り付けているのではなく、手に付いたべっとりしたものをぬぐってしまおうとして行動しているのです。しかもやったことを覚えていないので、叱ったり責めても行動は変わりませんし、介護者の怒りが増すだけです。トイレの壁に紙を貼っておき汚れたら取り替えるようにし、汚れてもよい布やタオルをかけておき、家族が使うタオルは別においておくようにする方が良いでしょう。
6.お年寄りの過去を知る:かつての体験が背景にある問題行動もあるので、強烈な体験やこだわりを理解し、不安感を解消するような対応をしてみましょう。例えばハイキングに行って子供を見失って必死に探し回った体験があり、歩き続けなければ気持ちがおさまらない人がいました。「心配でしたね。でも子供さんが見つかっておかったですね」と繰り返し話しかけることによって、徘徊がおさまった場合がありました。
7.長期間は続かないと割り切る:金銭やモノに対する執着のように生存に直結する症状は何年も続くことがありますが、ほとんどの症状は、半年から一年程で別の症状に変わっていきます。「1~2年前に困っていた症状は何ですか」と聞きますと、現在悩まれている症状とは別の答えが返ってきます。「1~2年前に困っていた症状は、今は消えているでしょう。同じように、現在の症状も、半年から一年程で消えると思います。何年も続くものと決めつけないで、気楽に考えませんか」と話すようにしています。

第7法則 : 作用・反作用の法則
認知症の人に対して強く対応すると、強い反応が返ってきます。認知症の人と介護者の間に鏡を置いて、鏡に映った介護者の気持ちや状態が、認知症の人の状態です。そのままにしても差し支えないものであればそのままにしてみましょう。

第8法則 :認知症症状の了解可能性に関する法則
第1~7法則でまとめたような認知症の特徴を考えれば、認知症の症状のほとんどは、認知症の人の立場に立ってみれば十分理解できるものであるという内容の法則です。
 夜中に目を覚まして家族の名前を呼んで起こすことは時に見られます。私たちが旅館に泊まって夜中に目を覚ました時を考えてみてください。自分の寝ている所がいつもの部屋と様子が違うので、誰でも一瞬不安を感じます。次の瞬間に旅館に泊まっていることを思い出して安心し、再び何事もなかったかのように眠ることができますが、診指自分がいくら考えても、なぜここにいるのかがわからなかったとしたらどうでしょう。「いったいなぜこんな知らないところにいるのだろう」「家族は自分を置き去りにして、どこかへ行ってしまったのではないか」「眠っている間に誘拐されて、ここに閉じ込められているのではないか」などと様々なことが頭に浮かんできて、数分後にはひどい恐怖に襲われることになるでしょう。そうなったとき誰もいなければ一番頼りになる人の名前を呼んでその人が来てくれるまで呼び続ける気持ちになることは理解できると思います。
 大切なことは、夜中に目が覚めた時に、今いる場所が自分の部屋だとわかるようにしてあげることです。部屋や廊下を明るくしておき、いつも使っている洋服やたんすなどがすぐにわかるようにしておくことや家族の声や好きな音楽を録音したテープを流すなど、いろいろな音が聞こえるようにしておくのも一つの方法です。

第9法則 :衰弱の進行に関する法則
認知症の人の老化の速度は非常に速く、認知症になっていない人の約3倍のスピードです。正常の高齢者の4年後の死亡率が28.4%であるのに、認知症高齢者の4年後の死亡率は83.2%と聖マリアンナ医大長谷川名誉教授が報告されています。


介護に関する原則:認知症の人の形成している世界を理解し、大切にし、その世界と現実とのギャップを感じさせないようにすることが原則です。

参:公益社団法人:認知症の人と家族の会
「認知症」の人のために家族が出来る10ヵ条
があります。参考に上げておきます。
1.見逃すな「あれ、何かおかしい?」は、大事なサイン
2.早めに受診を。治る認知症もある。
3.知は力。認知症の正しい知識を身につけよう。
4.介護保険など、サービスを積極的に利用しよう。
5.サービスの質を見分ける目を持とう。
6.経験者は知恵の宝庫。いつでも気軽に相談を。
7.今できることを知り、それを大切に。
8.恥じず、隠さず、ネットワークを広げよう
9.自分も大切に、介護以外の時間を持とう。
10.往年のその人らしい日々を。

参考サイト:
認知症の理解と援助~行動・心理症状(BPSD)の理解と対応~
認知症をよく理解するための9大法則・1原則」工夫と発展の経緯f

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

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