脳神経系

2015年9月 7日 月曜日

認知症の理解と援助 杉山 孝博 先生

2015年9月5日 はまぎんホール ヴィアマーレ
演題「認知症の理解と援助」
演者: 川崎幸クリニック院長 杉山 孝博 先生
内容及び補足「手
公益社団法人『認知症の人と家族の会』を1980年に設立してから35年たちました。
2002年に実施した「家族を通じてぼけの人の思いを知る調査」でいろいろなことが分かりました。
特に強く思ったのは認知症の人は、もうダメになっているのではなく「ぼけても心は生きている」ということです。
以下にいくつかのコメントを載せます。
キリスト教会の牧師と付属幼稚園の園長をしており、音楽が好きでオルガンやピアノを弾いたり、コーラスの指導をするのが好きだった岩切健さんは1987年認知症と診断され、13年後68歳で天に召されました。診断されて2年後に書かれたのが下の詩です。
『僕にはメロディがない 和音がない 響鳴がない
頭の中に いろいろな音が 秩序を失って 騒音を立てる
メロディがほしい 愛のハーモニーがほしい
この音に響音するものはもう僕から去ってしまったのか
力がなくなってしまった僕はもう再び立ち上がれないのか
帰ってくれ僕の心よ 全ての思いの源よ
再び帰ってきてくれ あの美しい心の高鳴りはもう永遠に与えられないのだろうか
いろんなメロディがごっちゃになって気が狂いそうだ
苦しい 頭が痛い』
認知症の患者さんの苦悩が適切に表現されている詩です。
http://www.ceres.dti.ne.jp/~makotu/taikenki.htm

『夕方になるといつも泣き出していた。なぜ悲しいのかと聞くと、「こんなにバカになってしまって ・・・」という言葉が返ってきた。また、近所に一緒に出かけると、人が通りかかると物陰に隠れようとしていた。「こんなにバカになった姿を人に見られたくない」、そんな言葉が返ってきた。』
いろいろな刺激を与えたほうが良いと考え、つい外に連れ出そうとしがちであるが、認知症患者さんにとっては、自分の変わった姿を知り合いに見られたくないという気持ちがあるので、抵抗するのはこういった気持ちがわかると、当然の反応だと、理解できます。

『「母さん、3月になったら、レコードでも買うて、きれいな服を着いや」。夫はまじめな顔で、じっと私を見つめていった。呆けても失わない夫の優しさがうれしかった。』
物忘れがひどい状況でも、ふとよい状況になることがあり、優しい言葉が言えるんです。

『「お父さん、本当にありがとう。よく世話をしてくれてありがとう。本当にやさしいんだから。いろいろ心配かけてごめんなさいね。いつまでも元気でいてね。」と。前後、支離滅裂な内容を言い続けていたのに、これが妻が私に言った最初で最後の正気の言葉となりました。(略)私は、この時、最後まで、妻をやさしく介護してやろうと決心しました。』
突然的な試行に戻って発現されることがあり、この感謝の言葉が、家族の支え・癒しになっています。

『デイサービスに行ってきて、「今日はどんなことをしていましたか」と聞くと、「変な年寄りがいるで」と言う。時には「工場に行ってきた」とか言う。若い時、割り箸工場で働いていたころを思い出しているのかと思った。
最近の記憶が思い出せずに過去の自分の状況に戻っているのです。この時に、「そうじゃないでしょう。デイサービスで○○してきたじゃない」と訂正しようと繰り返すと、「この人は自分に現実にやっていないことをしたかのように思い込ませようとしている」と思い込んで拒否反応を示すようになることもあるので、昔にタイムスリップしてその時の話をしていると考え、話を合わせる方がよい。

『痛いリハビリに抗議して「イヤ、イヤといったらイヤ!しないというたらしない。人がこれほどイヤと言うものを、皆は、何の権利があって無理強いするのか、その理由を。言え人権無視じゃあ」
身体が固くなるのを予防するために行っている痛いリハビリは、本人がその目的を理解できて初めて意味のあるものになるのに、現状の体が硬くなっている理由も、これから行おうとする痛いリハビリの意味が分からなければ、それこと人権無視の行動と思われても仕方がありません。

しかし、実際介護する家族の負担は、大変なものです。
介護家族のたどる四つの心理ステップがあります。
第一ステップ:戸惑い・否定
認知症の人の異常な言動に戸惑い、否定しようとします。悩みを他の肉親にすら打ち明けられないで一人で悩む時期です。
第二ステップ:混乱・怒り・拒絶
認知症の理解が不十分なため、どう対応してよいいか分からず混乱し、些細なことに腹を立てたり、叱ったりします。精神的・身体的に疲労困憊して認知症の人を拒絶しようとします。一番つらい時期です。医療・福祉サービスなどを積極的に利用することで乗りやすくなります。
第三ステップ:割り切り、または諦め
怒ったり、イライラするのは自分に損になると思い始め、割り切るようになります。諦めの境地に至ります。同じ認知症の症状でも問題性は軽く感じるようになります。
第四ステップ:受容
認知症に対する理解が深まって、認知症の人の心理を自分自身に投影できるようになり、あるがままのその人を家族の一員として受け入れることができるようになります。

認知症の介護において最大の問題は、認知症の症状の理解が困難なことにあります。
今言ったことも忘れてしまう酷い物忘れ、家族の顔すら忘れてしまう失認、金銭・物に対する酷い執着、徘徊、失禁など多彩な症状を、介護者は理解できずに、振り回されてしまいます。認知症の症状を理解し、上手な対応が可能になるように工夫したのが『認知症を良く理解するための9大法則・1原則』です。最初は5大法則として発表しましたがその後改訂を重ね2009年8月以降現在の9大法則・1原則になりました。

第1法則 : 記憶障害に関する法則
*記銘力低下:話したことも見たことも行ったことも直後には忘れてしまうほどのひどい物忘れ。同じことを繰り返すのは毎回忘れてしまうため。
通常の物忘れは3回目に言っているとき、先に言ったことを思い出すので、4回目には言わなくなりますが、認知症があると4回目以上繰り返して言います。ここに差があると思います。
訂正してもまた繰り返されるので、今度は違った対応をしようとして、疲れていくのです。最初の対応も忘れているので、同じ返事を繰り返す対応で構いません。そう思うと少し疲れる程度が減ります。

*全体記憶の障害:食べたことなど体験したこと全体を忘れてしまう。
認知症の経過の中で食欲が亢進している時期があります。不思議とそういった時期は余分に食べても太りません。活動も亢進しているので、消費エネルギーが多くなっているからと思われます。その時には、『さっき食べたじゃない』と注意するのではなく、「今から作るので、それまでは、バナナ(おにぎり)を食べてできるまで待っていてください」といった対応をしましょう。この時期はお腹が空いているので、夜中におきだして、食べ物を探し回ることも起きます。その対応としては、軽食を寝る前に用意して、テーブルにおいておくのです。食べて食欲が満たされれば、寝てくれます。

*記憶の逆行性喪失:現在から過去にさかのぼって忘れていくのが特徴で、昔の世界に戻っています。
現在から記憶が遡って消失しているので、理解できません。その時は、年を取った伴侶のことも理解できません。
夕方になるとソワソワして落ち着かなくなったり、少しのことに声を荒げたり、「そろそろ家に帰らせていただきます」と徘徊を始めたりする『夕暮れ症候群』も、このために生じています。若いころの自分の記憶には、新しく家を建てたり、引っ越しをしたりした、記憶がないので、他人の家に行っている状況であり、この時間になると家に帰らなければいけないという考えになり、帰るためにそわそわしたり落ち着かなくなってくるのです。
そういう時には、一緒に一回りして帰ってくるのがよいでしょう。
鏡を見せて、現在の自分を認識させようとしても、若い自分が念頭にあるので認められません。暗くなって窓に映った年老いた自分を見て、「知らない年配の人がこちらを覗き見している。」と認識したり、注視していると「睨んでいる」と思い騒ぐことにもなります。窓を開けて人がいないことを示しても、また閉じると見えるので、不安収まりません。そうならないために、暗くなる前にカーテンを引きましょう。

第2法則 : 症状の出現強度に関する法則
より身近な者に対して認知症の症状がより強く出ます
幼児はいつも世話をしてくれる母親に対しては甘えたり、わがままと言ったりして困らせますが、他の人に対してはもっとしっかりした態度をとるものです。母親を絶対的に信頼しているから、わがままが出るのです。認知症の人も介護者を最も頼りにしているから認知症の症状を強く出すと考えるのは、類推のしすぎでしょうか?
そしてまた、私たち自身も、自分の家の中と他人の前とでは違った対応の仕方をするものです。よその人に対しては体裁を整えます。ですから、認知症の人が他人の前でしっかりした対応をするのを異常だと思うほうが、異常だと思いませんか。自分も相手も同じ立場だと理解できた時に初めて、相手にやさしくなれるのではないでしょうか。

第3法則 : 自己有利の法則
自分にとって不利なことは絶対に認めないというものです。ものがなくなっていつもと違うところから見つかった際に、「ほらごらんなさい、ここにしまっておいたのを忘れたのよ。ここにしまうのはおじいちゃんしかいないんだから」といわれても、「いや自分はそんなところへしまった覚えはない。誰かがそこにしまったんだ。」と必ず言い返します。その際に、難しいことわざなどを交えて行ったりすると、周囲の人はおじいちゃんを認知症になっているとはとても思えません。しかし、詳細を知っている人からすると言い訳の内容に明らかな誤りや矛盾が含まれているので、「都合の良いことばかり言う勝手な人」「嘘つきだ」と本人を低い人格の持ち主と考え、介護意欲が低下します。
こうした認知症の人の言動には自己保存のメカニズムが本能的に働いているに違いありません。つまり、人は誰でも自分の能力低下や生存に必要なものの喪失を認めようとしない傾向があり、その発現なのです。認知症がなければ、推理力や判断力などの知的機能により、相手がいっていることがより正しそうだと思えば、自分の記憶違いの可能性を考え、考えを修正しますが、認知症の人はこの知的機能が低下するため、本能的な行動が表面に出てしまうのです。

第4」法則 : まだら症状の法則
正常な部分と認知症として理解すべき部分とが混在する。初期から末期まで通してみられます。常識的な人だったらしないような言動を、お年寄りがしているため周囲が混乱しているときには「認知症問題」が発生しているのだから、その原因になった言動は「認知症の症状」であるととらえましょう。
大事な着物がみあたらなくて隠したでしょう。と身に覚えのないことを、毎日責められると、誰でもパニックになるに違いありません。同じことを寝たきり全面介助が必要なおばあちゃんがいった場合には、「またおばあちゃんがおかしなことを言っている。どうせ本気で言っているわけではないので、聞き流しておこう。」と思えるはずです。一見元気な状況下で言われるので、辛いのです。実は、こういった些細な思い違い考え違いは、認知症のない普通の人でも、時に見られることなのです。会社で非常に有能で素晴らしい判断力や企画力を発揮する人が家に帰ると「粗大ごみ」扱いされるのですから。
普通の人にも見られるまだら症状が、認知症の人ではより強く高頻度に見られているだけなのだと理解すれば、広い気持ちで認知症の人と接することができるようになるのではないでしょうか。

第5法則 : 感情残像の法則
言ったり、聞いたり、行ったことはすぐ忘れます(記銘力低下の特徴)が、感情は残像のように残ります。理性の世界から感情の世界へ移行しているのです。
弱肉強食の世界に住む動物たちは、相手が敵か味方か、安心して気を許せる対象化、否かを速やかに判断し、感情として表現します。認知症の人も同じような存在であり、安全で友好的な世界から抜け出てしまったような状況にある認知症の人は、感情を研ぎ澄まして生きざるを得ない世界の中におかれているのです。
感情が残ると言っても、悪い感情ばかりが残るわけではないので、良い感情が本人に残るように接することが大切です。「本人の言うことを受け入れて、穏やかに対応するのが良いと先生は言われますが、介護をする身にもなってください。いうことを聞かず、迷惑なことばかりする人にいい顔はできませんよ」と介護の人は訴えられます。そいった人に対して、私は「毎日慣れない介護をし続けなければならないあなたの気持ちはよくわかります。しかし、この時期は介護者にとっても本人にとっても一番つらい時期なのです。良い感情を与えるようにした方が、結局あなたにとっても楽になるはずです。」と答えています。そのためには、四つのコツがあります。
1. ほめる、感謝する:「上手ね」「ありがとう。助かったわ」などの言葉を言い続けます。
2.同情(相槌をうつ):「ああ、そう」「そういうことがあったのですか」「大変ですね」のように相槌を打つことです。

3.共感:「よかったね」を話の終わりに付け加えます。「ご飯美味しかった?よかったね」「その着物よく似合いますよ。良かったね」「雨が上がって晴れましたよ。よかったね」というようにします。なぜか、「よかったね」を話し続けると本人は介護者との間に共感を持つようになり、穏やかな表情になってくるのは間違いありません。混乱の真っただ中にある介護者の方は「よかったね」から話してみてください。

4.謝る、事実でなくても認める、演技をする。認知症の人は『忘れたことは本人にとって事実ではない』『本人の思ったことは絶対的な事実である』という原則があります。食べたことを忘れてしまえば「食べていない」というのが本人にとっての事実になりますし、「お金を貸した」と思い込んでいれば、「借りた金を返さないのはけしからん。返してくれ」となります。この思いに対して「ご飯は食べたばかりでしょう」「借りてもいないのに変なことを言わないで」と言っても、通用しないばかりか、ますますこだわりが強くなって悪感情のみが残ってしまいます。そういった場合には、「今夕飯の支度をしているのでもう少し待っていてください」「今は手元にお金がないので、明日銀行で下してお返しします」と、本人の思い込みをいったん受け入れて、別の方向に結論を持っていく方が本人の納得を得やすいのです。本人の世界に合わせてセリフを考え、演技をする俳優になったつもりで対応するのが良いのです。
 「ごまかしたり、嘘をつくことは、良心がとがめて、とてもできません」と介護に慣れていない介護者は言います。そのような人に対して、私は、「ドラマで悪役を演じている俳優は、悪役を演じることを悩んでいないでしょう。あなたも認知症の世界で悪役を演じているつもりで割り切ってください」と話すことにしています。

第6法則 : こだわりの法則
ある一つのことに集中すると、そこから抜け出せなくなり、周囲が説明したり、説得したり、否定したりすればするほど、逆にこだわり続けるというのが特徴です。本人が安心できるようにもってゆくことが大切です。そのための方法として、
1.そのままにしておく:箪笥から着物を出して並べる人に対して、そのままにしておくのです。大事な着物がなくなったかもと不安になりだしているのであれば、見えなくなるとまた心配になり、出して広げることになります。落ち着くまで、そのままにしておけばよいのです。
2. 第三者に登場してもらう:「身近な人に激しい症状を指名、他人にはしっかりした言動をする」という特徴を応用するのです。家にこもりっきりで、数か月間入浴や洗髪をしない女性がいました。家族が「お風呂に入らないと病気になるよ」とお風呂を勧めても入らず、家人から相談を受けました。私が訪問診療をするようになると、私の訪問を心待ちにされるようになり、訪問の前日には、入浴して清潔な下着に着替え、さらには美容院にもいくようになりました。
3. 場面転換をする:関心を別に向けることです。夜中に大きな声を出す人に対して、「真夜中だし、近所迷惑になるので静かにしてください」と説得しても効果がありません。それよりも「お父さんの大好きなおまんじゅうがあるので食べませんか」とすすめ、「美味しいものを食べると眠くなるわね。私は休みますから、お父さんも寝てくださいね」という風に話を持っていくと寝てくれることもあります。
 昔の思い出の場面に切り替えることも有効です。趣味や興味があることを話してもらうのも手ですが、話が止まらなくなることもあるのは了解しておきましょう。
4.地域の協力理解を得る:夜間の騒音、ごみだし、隣人への被害妄想など、地域社会とかかわりを持つ認知症の症状は少なくないので、「明日は我が身」「お互い様」という理解が地域に根付いていれば、「認知症になっても安心して暮らせる地域づくり」が可能になると確信しています。
5.一手だけ先手を打つ:失禁が始まると介護者の負担が極端に増えます。「タイミングを合わせてトイレに誘導することは、介護の視点ではよいことですが、24時間一人で実行することは大変です。それでも失敗が起こることがあります。畳の上に水を通さない上敷きを強いたらどうでしょう。始末が楽になり、イライラが軽くなりますよ」と話しています。失禁を抑え込むことができなくても、後始末が簡単だと思えるだけで精神的なストレスは軽くなるものです。
 手に付いた大便をトイレの壁やタオルなどに塗り付けて汚すことを弄便(ろうべん)といいます。わざと便を塗り付けているのではなく、手に付いたべっとりしたものをぬぐってしまおうとして行動しているのです。しかもやったことを覚えていないので、叱ったり責めても行動は変わりませんし、介護者の怒りが増すだけです。トイレの壁に紙を貼っておき汚れたら取り替えるようにし、汚れてもよい布やタオルをかけておき、家族が使うタオルは別においておくようにする方が良いでしょう。
6.お年寄りの過去を知る:かつての体験が背景にある問題行動もあるので、強烈な体験やこだわりを理解し、不安感を解消するような対応をしてみましょう。例えばハイキングに行って子供を見失って必死に探し回った体験があり、歩き続けなければ気持ちがおさまらない人がいました。「心配でしたね。でも子供さんが見つかっておかったですね」と繰り返し話しかけることによって、徘徊がおさまった場合がありました。
7.長期間は続かないと割り切る:金銭やモノに対する執着のように生存に直結する症状は何年も続くことがありますが、ほとんどの症状は、半年から一年程で別の症状に変わっていきます。「1~2年前に困っていた症状は何ですか」と聞きますと、現在悩まれている症状とは別の答えが返ってきます。「1~2年前に困っていた症状は、今は消えているでしょう。同じように、現在の症状も、半年から一年程で消えると思います。何年も続くものと決めつけないで、気楽に考えませんか」と話すようにしています。

第7法則 : 作用・反作用の法則
認知症の人に対して強く対応すると、強い反応が返ってきます。認知症の人と介護者の間に鏡を置いて、鏡に映った介護者の気持ちや状態が、認知症の人の状態です。そのままにしても差し支えないものであればそのままにしてみましょう。

第8法則 :認知症症状の了解可能性に関する法則
第1~7法則でまとめたような認知症の特徴を考えれば、認知症の症状のほとんどは、認知症の人の立場に立ってみれば十分理解できるものであるという内容の法則です。
 夜中に目を覚まして家族の名前を呼んで起こすことは時に見られます。私たちが旅館に泊まって夜中に目を覚ました時を考えてみてください。自分の寝ている所がいつもの部屋と様子が違うので、誰でも一瞬不安を感じます。次の瞬間に旅館に泊まっていることを思い出して安心し、再び何事もなかったかのように眠ることができますが、診指自分がいくら考えても、なぜここにいるのかがわからなかったとしたらどうでしょう。「いったいなぜこんな知らないところにいるのだろう」「家族は自分を置き去りにして、どこかへ行ってしまったのではないか」「眠っている間に誘拐されて、ここに閉じ込められているのではないか」などと様々なことが頭に浮かんできて、数分後にはひどい恐怖に襲われることになるでしょう。そうなったとき誰もいなければ一番頼りになる人の名前を呼んでその人が来てくれるまで呼び続ける気持ちになることは理解できると思います。
 大切なことは、夜中に目が覚めた時に、今いる場所が自分の部屋だとわかるようにしてあげることです。部屋や廊下を明るくしておき、いつも使っている洋服やたんすなどがすぐにわかるようにしておくことや家族の声や好きな音楽を録音したテープを流すなど、いろいろな音が聞こえるようにしておくのも一つの方法です。

第9法則 :衰弱の進行に関する法則
認知症の人の老化の速度は非常に速く、認知症になっていない人の約3倍のスピードです。正常の高齢者の4年後の死亡率が28.4%であるのに、認知症高齢者の4年後の死亡率は83.2%と聖マリアンナ医大長谷川名誉教授が報告されています。


介護に関する原則:認知症の人の形成している世界を理解し、大切にし、その世界と現実とのギャップを感じさせないようにすることが原則です。

参:公益社団法人:認知症の人と家族の会
「認知症」の人のために家族が出来る10ヵ条
があります。参考に上げておきます。
1.見逃すな「あれ、何かおかしい?」は、大事なサイン
2.早めに受診を。治る認知症もある。
3.知は力。認知症の正しい知識を身につけよう。
4.介護保険など、サービスを積極的に利用しよう。
5.サービスの質を見分ける目を持とう。
6.経験者は知恵の宝庫。いつでも気軽に相談を。
7.今できることを知り、それを大切に。
8.恥じず、隠さず、ネットワークを広げよう
9.自分も大切に、介護以外の時間を持とう。
10.往年のその人らしい日々を。

参考サイト:
認知症の理解と援助~行動・心理症状(BPSD)の理解と対応~
認知症をよく理解するための9大法則・1原則」工夫と発展の経緯f

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2015年8月20日 木曜日

頭痛治療のコツ 坂井文彦先生

2015年6月16日 横浜市健康福祉総合センター
演題「頭痛治療のコツ ~生活習慣病包括治療を含んだ現場報告~」
演者:埼玉精神神経センター 埼玉国際頭痛センター センター長 坂井文彦先生
内容及び補足(含質疑応答)「
慢性頭痛は片頭痛、緊張型頭痛など、頭痛そのものが病気と考える。痛みを取れば治るものではなく、MOHを作りかねない。

参:MOH:medication overuse headaches
薬物乱用頭痛(MOH)の診断基準
1. 頭痛は1ヵ月に15日以上存在し,CおよびDを満たす
2. 8.1「急性の物質使用または曝露による頭痛」に示す以外の薬物を3ヵ月を超えて定期的に乱用している
3. 頭痛は薬物乱用のある間に出現もしくは著明に悪化する
4. 乱用薬物の使用中止後、2ヵ月以内に頭痛が消失、または以前のパターンに戻る
エルゴタミン乱用頭痛: 3 ヵ月以上の期間、定期的に1 ヵ月に10 日以上エルゴタミンを摂取している
トリプタン乱用頭痛:3 ヵ月以上の期間、定期的に1 ヵ月に10 日以上トリプタンを摂取している
鎮痛薬乱用頭痛:3 ヵ月を超えて、1 ヵ月に15 日以上単一の鎮痛薬を服用している
オピオイド乱用頭痛:3 ヵ月を超えて、1 ヵ月に10 日以上オピオイドを服用している
複合薬物乱用頭痛:3 ヵ月を超える期間、1 ヵ月に10 日以上複合薬物を摂取している
薬物乱用頭痛の治療
治療の原則は、以下の3つです。
1. 原因薬物の中止
2. 原因薬物中止後に起こる頭痛(反跳頭痛)に対する治療
3. 予防薬の投与
まずは乱用の原因となった薬物を中止し、その後に起こった頭痛は別の治療薬で対処する。頭痛ダイアリーを記録し、頭痛が起こった日数、薬物使用日数を正確に把握することが重要。
https://www.jhsnet.org/ippan_zutu_kaisetu_05.html

国際頭痛群類第二版の分類は以下のようになっている。片頭痛は一次性頭痛の中に分類されている。

https://www.jhsnet.org/guideline_GL2013.html

片頭痛は国や人種によって頻度に差があり、日本人は8%程度で先進国の中では、それほど多くない。

片頭痛患者は、高血圧性疾患や糖尿病患者よりも多い。

Sakaiらによる調査では、日本人に多い頭痛は緊張型頭痛(反復発作性緊張型頭痛20.6%、慢性緊張型頭痛1.6%)が多く、国際頭痛学会の診断基準すべてを満たす片頭痛の有病率は6.0%、疑診例を含むと8.4%というデータを報告している。

片頭痛の有病率を性別に見てみると、男性が3.6%、女性が12.9%と女性が3.6倍も高率である。緊張型頭痛では男性18.1%に対して女性が26.4%、群発頭痛の男女比は逆に男性に多く男女比は5~6.7:1である。
年代別では、片頭痛、緊張型頭痛とも、男性で20~30歳代、女性で30~40歳代の有病率が高く、群発頭痛も20~40歳代で多いといわれている。

性別、年齢層別片頭痛有病率

前兆のない片頭痛は、男性で2.1%、女性で9.3%、前兆のある片頭痛は男性で1.4%、女性で3.6%という調査結果があり、前兆のない片頭痛が女性に多くみられ、月経との関連が指摘されている。

片頭痛患者の医療機関受診率は、定期的な受診が2.7%、時々通院が12.3%であるが、受診したことがない症例が47割近くもいる。

Cephalalgia. 1997 ; 17 : 15-22.
http://www.eisai.jp/medical/products/maxalt/guidance/epi.html

田島小中学校148例に対する調査では、頭痛で休学したことがある割合は3割近くあり、保健室を利用する学童は2/3近くに上った。

頭痛の診断に病態の理解が重要である。
片頭痛:慢性頭痛で悩む人の約1/4が片頭痛。
時々起る頭痛で毎日は起こらない。頭痛がない時はケロッとしているが、頭痛が始まると1~3日続き、ひどくなると脈打つような頭痛で、動くとつらい(動くと痛みがまぎれる緊張型頭痛とは対照的)。吐き気やおう吐を伴うことがある。片側が痛むことが多いが、両側痛むこともある。ストレスの最中よりもストレスから解放されたときに頭痛は起こりやすく、前兆や予兆を伴うことが良くあり、働き盛りの女性に多く、月経の前や途中に起こりやすく、10~15歳ころから始まり年齢とともにひどくなる。
片頭痛チェック項目、三つ以上あればほぼ確実:
・ 頭痛は時々おこり、月に1~2回、多いときは週に1~2回程度
・ 1回の頭痛は数時間から1~3日間続き、つらくて寝込むこともある
・頭痛がひどくなると、ズキンズキンと脈打つように痛む
・ 体を動かしたり、いきんだりすると痛みがひどくなる
・ 頭痛が起こったら、静かで、暗く、においのない部屋で横になっていたい
・吐き気がしたり、吐くこともある
・ 頭の片側が痛むことが多いが、両側が痛むこともある
・ 頭痛が起こる直前に、視界にギザギザしたものが拡がるように見えることがある
・ 頭痛が起こる1~2日前に、あくび、イライラ、むくみ、食欲亢進などの予兆が現れることがある
・ ストレスの最中より、解放されてほっしたときに起こりやすい
・月経に関連して起こることが多い
・家族(とくに母親)に頭痛もちがいる

誘発因子:ストレス、天気、ホルモン、食物(グルテン、人工甘味料アスパルテーム、グルタミン酸ナトリウム、チラミン、ココア、赤ワイン、チョコレート、チーズ、イチジク、ヒスタミン、硝酸塩を含む食品[ハム、ベーコン、ホットドッグ、サラミ]、ナッツ類、ピーナッツバター、アボカド、バナナ、シトラス、ニンニク:一部のものは因果関係がないとの報告もある)、月経、光、騒音、食事を抜く、脱水、喫煙あるいは副流煙の吸入、ある種の香水の匂い
予兆:生あくび、情緒不安定、浮腫、空腹感
前兆:閃輝暗点、失語、感覚障害、片麻痺
頭痛随伴症状:拍動性、片側性、悪心・嘔吐、睡眠で寛解、消耗感、利尿

興奮性亢進(セロトニン、ザブスタンスP)→視床下部
予兆は大脳皮質で起こる、頭痛は三叉神経で起こる

片頭痛発生メカニズム:
血管説はGrahamおよびWolffにより提唱された、片頭痛発作の原因は、頭蓋血管の反応性の異常によるとする考え方で、前兆期に脳血管が収縮し、その後さまざまな血管作動性物質の放出に伴い血管の異常な拡張が起こり血管に分布している痛覚神経が刺激された結果、拍動性の頭痛が生じるとする考え方。
しかし、Olesenらにより、片頭痛患者の発作中の局所脳血流測定で、片頭痛発作前兆期に脳血流は低下しているが、この血流減少期にすでに片頭痛発作が始まっていることが示され、血管反応性の異常のみで片頭痛の病態を指摘できないことが示された。
また、この血流低下は20%程度であり、通常の虚血を呈する50%の低下に満たないため、乏血を意味するoligemiaという単語を用いて、この血流低下の状態をspreading oligemiaと表現した。
Leaoが1944年にウサギの大脳表面への物理的な刺激や、高濃度のK+を作用させると脳神経細胞に脱分極が生じる現象を発見し、大脳皮質拡延性抑制(cortical spreading depression:CDS)として報告した。
このCDSは、約2~3mm/分の速さで周囲に伝播し、さらにCSDに伴い脳血流は一過性に上昇し、その後数時間の血流低下を示すことが動物実験において明らかにされた。
CDSとspreading oligemiaは血流低下領域の拡大する速度がほぼ等しいことおよびspreading oligemiaの伝播が、血管の支配領域とは無関係であることから、spreading oligemiaはCSDの結果生じるような大脳皮質神経細胞由来の変化を反映していると考えられた。
前兆のある片頭痛患者に診られる脳血流低下の程度は軽度であり、閃輝暗点などの前兆が出現するためには神経細胞自体の異常がはじめに起こる必要あると考えられ、片頭痛の機序としてCSDが有力な候補とされ、神経説が提唱された。
Hadjikhaniらのfunctional MRIを用いた研究で、視覚性前兆にCSDが関与することが示された。
前兆のない片頭痛においても神経症状を呈さない領域で神経細胞の活動性が変化する(clinically silent aura)ことも、この部位でCSDが生じている可能性が考えられるようになってきた。

三叉神経血管説は血管説に三叉神経の関与を加えた考え方である。
脳底部の主幹動脈から大脳皮質表面の軟膜動脈および硬膜血管には、三叉神経説由来の無髄神経線維が分布しており、頭蓋内の痛覚を中枢へ伝えている。
Moskowitzらは、三叉神経説を電気的または科学的に刺激して、硬膜に無菌性炎症である神経原性炎症を生じさせ、片頭痛発作にこの変化が関与している可能性を指摘し、三叉神経血管説を提唱した。
CDSが大脳に生じ前兆が生じる。その後、何らかの機序により硬膜の血管周囲に存在する三叉神経の軸索に作用し、神経終末からsubstance P(SP)、calcitonin gene-related peptide(CGRP)および、ニューロキニンAなどの神経伝達物質であり、血管作動性物質の神経ペプチドが放出されると考えらえる。その結果、硬膜周辺で、肥満細胞の脱顆粒や血管透過性の亢進、血漿蛋白の流出、血管拡張などの神経原性炎症が惹起され疼痛が生じ、さらに順行性の伝導により、三叉神経脊髄路核にいたり、同部位でのc-fosの産生を促し、悪心、嘔吐、自律神経の活性化、痛みなどを生じる。一方、三叉神経の逆行性の伝導はSPやCGRPの遊里を促進し、血管拡張や炎症をさらに助長すると考えられている。
家族性片麻痺性片頭痛患者において明らかにされた3つの遺伝子異常は、CSD誘発の閾値を低下させることにより片頭痛発作に関与していると考えられている。
P/Q型電位依存性Ca2+チャンネルα1Aサブユニット遺伝子(CACNA1A)のミスセンス変異は、Ca2+チャンネル機能の亢進とそれに伴う細胞内Ca2+の上昇を誘発し、CSD誘発閾値低下や伝播速度上昇を招くと考えられている。
Na+/K+ATPaseα2-subunit(ATP1A2)のミスセンス変異は、Na+/K+ATPaseの機能低下を起こし、細胞外K+濃度の上昇などを促進させ、CSDの出現や神経細胞の脱分極をきたすと考えられている。
2q24のSCA1A(神経型電位依存性ナトリウムチャンネルα1-subunit)遺伝子の変異は、脱分極後のチャンネル不活性化からの回復を促進し、神経細胞の興奮性を上昇していると考えられている。
発痛物質であるカプサイシンは侵害受容体神経に対して感受性を持ち、様々な臓器に作用し痛みを誘発するが、その情報伝達に、侵害刺激受容体であるtransient receptor potential cation channel, subfamily Ⅴ member 1 (TRPV1)受容体を介することが解明された。この情報伝達にはMAPキナーゼのサブファミリーの一つであるERK1/2(extracellular signal-regulated kinase)のリン酸化を介することも示された。
脳硬膜の感覚神経線維の中に、三叉神経節を起源としたTRPV1を含有する神経線維が存在することをSimizuらが報告し(Brain Res 2007;1173:84-91)、カプサイシン刺激で三叉神経節においてERKリン酸化が起こることを示し、脳硬膜のTRPV1受容体が、脳硬膜に生じた侵害刺激の情報伝達に関与することを示し、片頭痛の病態にも関与している可能性を示した。
脊髄神経では、炎症、外傷及び侵害刺激を加えると脊髄後角でmicrogliaおよびastrocyte肥大化が生じ、TRPV1受容体が、このような器質的変化を生じることで片頭痛に関与しているとSimizuらは考えている。

http://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/051020103.pdf

片頭痛―視床:神経伝達物質
図AはNoseda Rが提唱した片頭痛の発症機序において、視床に存在する三叉神経血管系の神経と様々な神経伝達物質との関係を示した図である。Bは様々な神経伝達物質の管を示している。

赤:グルタミン酸
硬膜の知覚が三叉神経脊髄路尾状亜核で、二次ニューロンに伝えられ視床に達する際の二次入論の伝達物質である。

茶:ドーパミン
視床下部を介して、欠伸や嘔気などの予兆を引き起こす物質。また、薬物依存、感情、dicision making、薬剤使用過多による頭痛(MOH)にも関与し、ネガティブな考え、怒り、イライラ感のコントロール、認知作業などによる片頭痛に関与すると考えらえている。

緑:セロトニン
視床と大脳皮質間の三叉神経血管系に抑制的に働く。ストレス、不安、抑うつ、睡眠、食欲、学習などと密接にかかわっている。
青:ノルアドレナリン
視床神経、三叉神経血管系神経を興奮させ、高血圧を引き起こす。β1受容体拮抗薬が視床の三叉神経血管系神経を抑制し、片頭痛予防薬として使用されている。

オレンジ:ヒスタミン
ヒスタミンH1受容体を介して血管が拡張し、その結果遅発性の頭痛を引き起こすもとと考えられてきた。一方、ヒスタミンの三叉神経血管系の資料神経への影響は、H1受容体を介して、遅発性脱分極を引き起こし、burstからtonicの状態へ変化させると考えられる。この変化は、覚醒と睡眠に大きな役割をしていて、睡眠によって頭痛が軽快することに重要な役割を果たしていると考えられている。

紫:MCH  Melanine Concentrating Hormone
視床下部から生じるMCH systemはGABAを含有し、エネルギー消費、覚醒、運動、性、自律神経系の修飾/抑制に関与していると考えられる。
食後血糖値の上昇によりMCHニューロンは活性化され、大脳皮質、皮質下、脳幹、脊髄でGABAをリリースし、睡眠を誘導したり、摂食を中止する。
摂食により、片頭痛が改善する機序は、血糖上昇により、視床下部MCHニューロンが活性化され、視床三叉神経血管系を抑制すると考えられている。逆に食事をとらないで片頭痛が惹起される機序は、欠食により、MCH系が抑制され、GABA系が減少し、GABA系の抑制により、硬膜からの三叉神経血管系が興奮するためと考えられる。

黒:オレキシン
オレキシンは外側視床下部より大脳皮質、視床、脳幹、脊髄や他の視床下部に投射している。オレキシンAとオレキシンBがあり、受容体も1と2が存在する。受容体1はオレキシンAに選択的に、受容体2はオレキシンAとBに非選択的に結合し、摂食、覚醒や交感神経系を介する発熱、心拍数、血圧に関与すると考えられている。
MCHとは逆に、血糖が降下するとオレキシン神経は活性化され、摂食、覚醒状態が引き起こされる。食事によって片頭痛が減るのは、MCHによるGABAリリースの減少だけでなく、オレキシンの抑制も関与していると考えられ、欠食による片頭痛の惹起も、血糖低下によるオレキシン神経の活性化も関与していると考えられている。

CGRP:Calcitonin gene-related peptide
血管拡張作用を有する37個のアミノ酸よりなる神経ペプチドで、頭蓋内及び外動脈に対して拡張作用を有し、さらに頸静脈的に投与すると片頭痛用の発作を誘発することが下れており、片頭痛発作時に血中CGRP濃度の上昇が報告されている。
一酸化窒素やTRPV1受容体を介して放出が促進されることもわかってきた。
CGRP受容体が視床VPMに存在し、CGRP受容体拮抗薬が視床三叉神経血管系を抑制することも示され、新たな片頭痛薬として期待されている。

Noseda R:Neurochemical pathways that converge on thalamic trigeminovascular neurons: potential substrate for modulation of migraine by sleep, food intake, stress and anxiety.PLoS One 2014 Aug4;9(8):e103929.doi:10.1371

片頭痛は脳血管の痛みが発生源で、筋緊張型頭痛は首、肩の筋肉が痛みの発生源である。
片頭痛は後頚部の鈍痛から始まることが少なくない。
後頚部の強い締め付け感が続き、その後、同側の目の奥、側頭部あるいは全体に進展・増悪する。
体動、お辞儀、いきみで増悪し、暗い静かな部屋でじっとしていると改善。
増悪すると拍動性となり、1-2日持続し、トリプタン製剤が効果なくなってくる。
三叉神経血管系と頚髄神経筋系のクロストークがあり、中枢性痛みが感作され、脳内に痛み増幅系の経路が記憶されてしまう状態で、Pain Matrixが形成されると考えられている。

参:Pain Matrix
1991年にTalbotらやJonesらのPETによる研究以来、脳内の離れた多くの部位が同時に疼痛認知にかかわっている可能性が明らかになってきた。すなわち第一次感覚皮質(Primary Somatosensory Cortex:S1)、第二次感覚皮質(Secondary Somatosensory Cortex:S2)、島皮質(Insular Cortex:IC)、前帯状皮質(Anterior Cingulate Cortex:ACC)、前頭皮質(Prefrontal Cortex:PFC)などである。
これらの部位は"Pain Matrix"と総称される。
MeIazckらが分類した、疼痛の三要素をそれぞれ担う形で疼痛という現象を成立させていると考えられている。
感覚弁別要素sensory-discriminateiv component:痛みの位置、強さ、性質:S1,S2及びIC
情動動機要素affective-motional component:痛みの不快感、いやさ:ACC
認知評価要素cognitive-evaluative component:痛みの評価:PFC
S1,S2及びIC:外側視床核からの投射を受けlateral nociceptive systemを、ACC,PFCは内側視床核からの投射を受けmedical nociceptive systemを構成する。

疼痛関連脳活動のネットワーク"Pain Matrix"の典型例

トリプタン系薬剤の作用
脳血管に作用し、広がりすぎた脳の血管を元に戻し、三叉神経からの神経ペプチドの放出を抑え、三叉神経が受けた刺激の情報が大脳に伝達されるのをブロックする作用がある。
このため、片頭痛だけでなく、嘔気・嘔吐、光過敏、音過敏などの症状も抑える。
トリプタン系薬剤の適切な服薬タイミング
トリプタン系薬剤は、前兆期に服用しても効果は期待できない。頭痛が始まり、それが片頭痛の痛みであると確信した軽度のうちに服用すると高い効果が得られる。しかし、さらに時間が経過しひどくなってアロディニア(通常なら痛みを感じない程度の刺激で痛みを感じる現象)にまでなると薬剤の効果はほとんど見られなくなる。
「片頭痛と確信したそのとき」は人によって異なるので、自分自身の片頭痛が起こる前の状況を思い出し、自分に合った服用タイミングを習得していく必要がある。「いつもは大丈夫だが、お辞儀をした際に頭痛をかじるようになった後に片頭痛が起こる」や、「普段は首を振ってもなんともないが、首を振って頭が重くなった後に片頭痛が起こる」など。

http://www.sukkirin.com/therapy/triptan.html

片頭痛治療のコツ

胃腸停滞の気配がしたら、ドンペリドン10㎎、プリンペラン㎎内服し胃腸の蠕動を正常化する。
片頭痛が始まったら、早めに(できれば4時間以内に)トリプタン1-2錠内服(時には自己注射)を行い、血管拡張を抑え、血漿漏出を治療し火元を消す。
一般的な鎮痛薬では、ボヤを消すことはできても、火元を消しきれない。
痛みが続いたら(月経時片頭痛に多い)、消炎鎮痛薬(アセトアミノフェン)を内服、または坐薬で投与し、痛みの延焼を止める。

片頭痛治療の基本的な流れ
下図のように負のスパイラルが形成され、症状をよりひどいものにしているので、不安を和らげ、安心感と希望を持たせる。


頭痛ダイアリーの利用
併用薬の工夫、自己注射の活用など
予防薬により、片頭痛発作の頻度、程度を軽減する。
カルシウム拮抗薬:ロメリジン(テラナス、ミグシス):脳血管の攣縮と拡張の差を小さくして興奮状態を鎮静化する。
β遮断薬:プロプラノロール(インデラル):脳に直接働きかけて鎮静化する。
抗てんかん薬:バルプロ酸ナトリウム(デパケン、デパケンR、セレニカR)脳の校風を抑え、片頭痛の前兆をフロックする。
抗うつ薬:アミトリプチリン(トリプタノール)片頭痛の発生にかかわる三叉神経の活動や脳の興奮を抑える。

頭痛体操:Exercise to relieve headache and stiff shoulders
片頭痛:脳内の頭痛回路が首の後ろにまで伝わり、痛みのしこりを作っている。体操により後頚筋群をほぐし、脳の痛み調節系によい刺激を送ることを目的としている。
緊張型頭痛:ストレス頭痛とも呼ばれ、首の付け根から肩にかけて筋緊張を伴う。頭を支えている頚から肩への筋肉に、ストレスによる負担がさらにかかり頭痛の原因になるといわれている。

上手な頭痛体操のコツ
頭痛体操は片頭痛の予防、特に慢性化の予防や治療に効果的です。片頭痛の結果起生じた首の後ろのしこりが続くと片頭痛が起こりやすくなります。首のしこりをストレッチ体操でほぐすと、脳の痛み調節系に良い刺激が送られます。朝夕一回ずつ、それぞれ2分間程度の体操で首の硬さがほぐれます。

片頭痛の最中に体操をすると頭痛がひどくなるので注意して下さい。一般に、脳内で起こる頭痛は動いたり息んだりすると強くなります。運動により脳の圧が上昇するためです。片頭痛は脳の血管が痛む病気ですので、軽い運動でも頭痛や吐き気が悪化します。逆に、緊張型頭痛は軽い運動で痛みの紛れるのが特徴で、片頭痛と対照的です。

頭痛の時、ちょっと体操をしてみて、ひどくなるのは片頭痛、少し紛れるのは緊張型頭痛ともいえます。自分で片頭痛を識別する方法の一つです。

腕を振る体操:
① 腕、肩の力を抜いて行う。
② 背骨(頸椎)を軸にして体を左右に回す。
③ 腕の遠心力で体を回すイメージで行う。
④ 身体をひねる目安としては、背中の約1/3が見えるように行う。

肩を回す体操:
肩だけでなく、肩甲骨も動かすよう意識する。
手が後ろに来たとき胸を張るように、肩甲骨同士が近づくように動かす。
手が前に来たとき、猫背のように肩甲骨同士が離れるように動かす。


片頭痛間欠期の筋・圧痛点に注目 (Sakai 2008)
1)片頭痛患者の後頸部に筋硬結・圧痛点
2)検者が指で圧迫すると
 -鈍痛(強い)、ときにするどい痛みを感ずる
 -患者は逃避するほど
3)するどい痛みは頭部にも放散する
4)ストレッチにより筋硬結・圧痛が消失する
Exercise to relieve headache:
The muscles around the neck support the head as well as moving it. Since these muscles have to hold up both the neck and head for a long time, they get tired and become hardened. These stiff muscles are one of the causes of headache.
This exercise stretches the muscles (inner muscles) which support the head and neck. When these muscles are stretched, their stiffness and fatigue disappear and the headache may be relieved.
1) Stand upright facing forward, keep your head still. Without moving your head, swing both shoulders to the right and the left as far as you can. Keeping the neck still as the axis, swing your shoulders. This motion will stretch the muscles (inner muscles) which support the head and neck.
2) If you do this exercise sitting in a chair, make sure that you swing your shoulders far enough so that you feel that the muscles behind your neck stretching.
http://www.mdsakai.jp/20090904cp.html

僧帽筋の静的ストレッチ:手首を後ろ手に固定し、肩が上がらないようにして、手首をつかんでいる方へ首をゆっくり倒していく。

http://www.saitama-ni.com/pdf/no33-zutuu-report.pdf

片頭痛のツボ:
完骨(かんこつ):耳の後ろにある骨のふくらみである乳様突起の下の部分から指一本分上に位置する。指に頭の自重をかけ、指も上に押し込む要領で刺激する。
天容(てんよう):完骨ツボと同じ筋上で、下あごの角の下に位置する。天容のある金全体をマッサージする。

その他の頭痛を和らげるツボ
天柱(てんちゅう):首の後ろにある筋肉の外側で、髪の生え際を刺激する。親指の先をツボに当て、残りの指で頭を包むようにして頭部の自重を親指で支えるような体勢で強めに刺激する。
風池(ふうち):天柱ツボのさらに指一本分外側にある窪みに位置する。親指の先をツボに当て、残りの指で頭を包むようにして頭部の自重を親指で支えるような体勢で強めに刺激する。

肩井(けんせい):
首と肩先の真ん中にあって、肩の筋肉の中心にあたる。
反対の手の指を広げて方においた時に丁度中指が当たる位置。体の中心に向かって長く強めに刺激する。

頭の血流を増やすツボ:
合谷(ごうこく):親指と人差し指の骨の付け根の間に位置する。
頭の血流を促す効果があり、頭痛やめまいの他、胃腸の不調にも効く万能ツボ。
気持ちよくなるまで3~5分押す。

目の痛みを伴う頭痛のツボ:
攅竹(さんちく):左右の眉頭のすぐ横にあるツボで、目の機能を調節する働きがある。


慢性連日性頭痛Chronic Daily Headache:CDH
1日4時間以上の頭痛が1ヵ月に15日以上あり、その状難いが3か月以上続いているもの。
ゴールデンウイーク明けや、夏休み後、新学期などに発症しやすく、『頭痛さえ治れば学校へ行けるはず』と考えがちで、初期のうちはそれほど頭痛の回数は多くないものの、薬を飲んでいるうちにだんだんと頭痛のパターンが変化し、回数が増加してくるとこが良くみられる。
5~17歳の平均2.2%に見られていて、12~14歳の男女に多くみられ、クラスに一人いるような状況である。
緊張型頭痛、片頭痛、両者の混合型の場合があり、一日の生活のリズムができていないことが悪化の要因と考えられ、入院させて、朝決まった時間に起きて運動させることにより、改善される。思春期のストレスなどの心理的な要素が大きな頭痛で、カウンセリングの際には、親子一緒に行うことが有効である。ヨガを行う場合にも、親子で実施している。

発作性片頭痛:他のNSAIDで効果がないのに、インドメタシンが絶対的な有効性を示す疾患。
片側性で、頭痛と同じ側に流涙、目の発赤などの自律神経症状を伴うことから群発頭痛類似の頭痛として報告された。
診断基準:
3.2 発作性片頭痛 (ICHD-2)
A. B~Dを満たす発作が20回以上ある
B. 一側性の重度の痛みが眼窩部、眼窩上部または側頭部に2~30分間持続する
C. 頭痛と同側に少なくとも以下の1項目を伴う
(ア) 角膜充血または流涙(あるいはその両方)
(イ) 鼻閉または鼻漏(あるいはその両方)
(ウ) 頑健浮腫
(エ) 前頭部及び顔面の発汗
(オ) 縮瞳または眼瞼下垂(あるいはその両方)
D. 発作頻度は大半で5回/日を超えるが、これよりも頻度が低い期間があってもよい
E. 発作は治療容量のインドメタシンで完全に予防できる
F. その他の疾患によらない

3.2.1 反復性発作性片頭痛
A. 3.2発作性片頭痛の診断基準A~Fを満たす発作がある
B. 7~365日続く発作期が1か月以上の寛解を挟んで2回以上ある
3.2.2 慢性発作性片頭痛(CPH)
A. 3.2発作性片頭痛の診断基準A~Fを満たす発作がある
B. 1年以上を超えて発作が繰り返され、寛解期がないか、または寛解期があっても1か月未満である。
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/series/takeshima/201404/535976.html

慢性頭痛の診療ガイドライン2013
頭痛体操PDF

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2015年6月 8日 月曜日

高齢者の嚥下障害と認知症 西山耕一郎 先生

2015年6月4日 ホテルプラム
演題「高齢者の嚥下障害と認知症」
演者:西山耳鼻咽喉科医院 西山耕一郎 先生
内容及び補足「
誤嚥とは食物が誤って気管から肺に入ってしまうこと。
嚥下障害による肺炎を嚥下性肺炎、誤嚥性肺炎と呼ぶ。

誤嚥はなぜ起こるのか?
呼吸の際空気は、鼻→鼻腔→咽頭→気管→肺と流れ、食事摂取の際食物は、口→口腔→咽頭→食道→胃へと流れていく。この際、咽頭が共通路であることから、この部分の機能が正常に機能しない際に誤嚥が起こる。

誤嚥とは、食物が声帯を超えて気道に流入することで、放置すると肺炎を誘発する可能性が生じる。

(嚥下の仕組みとその障害への対応:国際医学出版株式会社 兵頭政光監修)

嚥下運動を分けると、口腔期、咽頭期、食道期に分けられる。
口腔期終末に、舌が口蓋前方に押し付けられて、食塊を咽頭に向けて絞り出す。
咽頭期初めに、鼻咽腔が閉鎖し、舌骨と喉頭が前上方に移動して喉頭蓋が下方に移動し喉頭を閉鎖して、誤嚥を防ぎ、輪状咽頭筋が弛緩して、食道入口部が開く。
食道期に、食塊は食道入口部から蠕動運動にて胃へ運ばれる。
誤嚥を防ぐには喉頭前上方への移動、咽頭収縮、輪状咽頭筋の弛緩が大切である。


参:嚥下に関与する筋肉及びその支配神経を下記に上げる。

(臨床リハ vol.4 no.8725~730,1995)

75歳以上の在宅外来症例81例で嚥下機能をチェックしてみると、誤嚥群が1/3に見られ、体重減少が27%に見られた。喉頭流入群も1/4に見られた。


誤嚥の原因は、脳梗塞、廊下、体力低下、廃用など多彩である。
神経系の機能低下、筋肉の収縮力低下、嚥下運動のタイミングの異常、嚥下反射の誘発部位の減少、喉頭知覚の低下などに分けてられる。
嚥下障害の原因疾患を見てみると脳血管障害が24%、体力低下例が23%、加齢変化16%、重度の認知量が15%、神経筋疾患が14%であった。


加齢に伴い喉頭の位置が下垂してくる。70歳以降に顕著に低下することが分かった。喉頭の低下がみられない症例では誤嚥も少ない。

喉頭の下垂の改善で、誤嚥性肺炎の減少がみられる症例もあるので、メンデルソン法も有効である。

(西山耕一郎著 中外医学社 高齢者の嚥下障害診療メソッドP57)

嚥下反射の惹起遅延も誤嚥の発症リスクを上昇させる。
喉頭拳上遅延時間(Delay time of Laryngeal Elevation:LEDT)がその指標として用いられている。造影剤の先端が梨状陥凹底部に達してから喉頭拳上菌が最大異に達するまでの時間で正常値は0.35秒以内とされている。
嚥下反射が起こるまでの時間であり、遅延すると誤嚥のリスクが増大する。臨床的にはこの遅延によるものが最多であり、偽性球麻痺(皮質延髄路・末梢知覚入力の障害)により起こる。

誤嚥を防ぐためには、嚥下運動時に、喉頭が前上方に移動して喉頭蓋が倒れ、咽頭が収縮し、舌根が咽頭後壁に密着して、声帯が閉鎖してから、タイミングよく、食道入口部が開くことが重要である。

誤嚥を防ぐために一般的によく言われていることで間違えている情報を以下に列挙する。
① 嚥下する際に上を向いたほうが良い
② 水はムセにくい
③ 飲み込みにくい場合には水で流し込む
④ ムセた時にはお茶を飲ませる
⑤ 良く噛めばムセない
⑥ 麺類はムセにくい
⑦ 口腔ケアで誤嚥性肺炎は全て防げる
⑧ 食塊を形成しない時点で飲み込むと誤嚥する
いずれも間違いである。

誤嚥を疑わせる症状
食事中のムセ:ただし知覚障害があるとムセない。ムセのない誤嚥を不顕性誤嚥といい誤嚥全体の30~70%を占める
食事中の咳払い:湿性嗄声
食事後に痰が増える
食事摂取に関連した発熱
錠剤が飲みにくい
食事内容の変化:お茶や汁物を飲まなくなった
発熱(肺炎)を繰り返す
食事量が変わらないのに体重が減少してくる

誤嚥群の影響度の高い症状
食事時間の延長 オッズ比:255.5
嚥下時の頸部前屈 オッズ比:146.3
痰がのどに絡む オッズ比:39.7
のどに違和感がある オッズ比:16.7
痰が増えた オッズ比:5.1
食事中にムセる オッズ比:4.2
食事中に咳が出る オッズ比:0.4
口腔内が汚い オッズ比:0.2
(西山耕一郎 日耳鼻2010;113:542-8)

嚥下障害紹介受診例92例(重複例あり)を解析してみると
49例53%に誤嚥性気管支炎を発症→去痰薬&気管支拡張薬の投与
誤嚥性肺炎を発症し、抗菌薬投与で外来経過観察例が21例23%、緊急入院例が4例4%であった。
パイナップルが気道に入って窒息していた症例が一人、低栄養を認めた症例が7例あり、栄養管理が重要である。

誤嚥物質によって分けてみると
① 食物誤嚥(昼間):食事が原因であり、禁食で肺炎は改善する。食形態の変更、嚥下リハビリテーションが有効であり、口腔ケアの直接的効果は乏しい。
② 唾液誤嚥(夜間、体力低下例では昼間も):体力低下が原因であることが多く、禁食ハム国であり、原疾患の改善が有効である。口腔ケアはある程度効果がみられる。
③ 胃食道逆流誤嚥(GERD):食後すぐに横にならない、30度仰臥位を取る、左を下に寝ることが有効。

頻度を見てみると
食物誤嚥: 26/26例 100%
唾液誤嚥: 2/26例 7.7%
胃食道逆流誤嚥: 5/26例 19%
であった。


嚥下下内視鏡検査(Videoendoscopic Evaluation of Swallow:VE)は、検者により診断結果に差が出ること、検査中に痛みがあると正しい所見がわからない欠点があるが、がベットサイドで施行でき被爆もないので、よく実施されている。
嚥下機能の評価は、兵頭スコアが良く用いられている。
検査は通常座位で行われるが、自力での体幹保持困難例ではリクライニングで60度にして行う。着色水3mlをいったん口腔内に保持させた後、指示嚥下をさせて嚥下前後の咽頭及び喉頭所見を観察する。
① 喉頭蓋谷や梨状陥凹の唾液貯留
② 声門閉鎖反射や咳反射の惹起性
③ 嚥下反射の惹起性
④ 着色水嚥下による喉頭クリアランス
を0~3点の4段階評価して合計点で評価する。
4点以下は、経口摂取はおおむね問題なく行える。5~8点は、経口摂取は可能だが誤嚥リスクがあり、食事内容の制限、気道管理、補助栄養の併用が必要、9点以上は経口摂取困難または不可と判断する。

(西山耕一郎著 中外医学社 高齢者の嚥下障害診療メソッドP41)

軽症例の対応:兵頭スコア:0~4点
嚥下指導で誤嚥のリスクを減らすことが可能である
食べ難い食物は避ける
ながら食いをやめさせる
頸部前屈嚥下・一口量を少な目に指導する
背もたれのあるイスに深く座る
ムセたら十分に咳をして出す
義歯不適合の改善、口腔ケアを行う
日ごろからの運動尾を推奨する


中等症例の対応:兵頭スコア5~8点
誤嚥が疑われた際には、去痰薬・抗菌薬を処方
お粥かミキサー食、液体にはトロミをつける
頸部前屈嚥下
一口は少なめに
ムセたら十分に咳をして出す
息こらえ嚥下
食前後に口腔ケア
呼吸排痰訓練
体幹角度調整:リクライニングで60~90度

トロミの付け方には嚥下ピラミッドを参照に考える。

息こらえ嚥下は以下のように訓練をしてもらう。

(西山耕一郎著 中外医学社 高齢者の嚥下障害診療メソッドP56)

呼吸排痰訓練を行う。
声門か圧が高いと気道に食塊が侵入しにくい
誤嚥した際に喀出できないから肺炎となる→喀出できれば肺炎が減少・軽減する→吹き伸ばし・呼吸排痰訓練をおこなう

咳よりハフィングが有効
ハフィングとは、喉元に上がってきた痰を外へ出すための重要な方法で、「ハッ!ハッ!」と声を出さずに勢い良く息を吐く方法。息を吐く際に胸部を圧迫するとより強く息を吐くことができる。

http://xn--mdki1ec0036bwla.com/haitan.html

発声機能は嚥下機能に関連していて、発声を促せば、呼吸機能&嚥下機能が改善し肺炎を減少させることができるので、カラオケや音読を推奨している。

重症例の対応:兵頭スコア8~9点
誤嚥性肺炎の管理は線も施設を紹介
肺炎を繰り返す際禁食は必要であるが、胃瘻の適応ではない
ミキサー食→ヨーグルト・プリン・ゼリーに変更しだめなら禁食とし、必要カロリー摂取不能な際には経管栄養も考慮する
ムセたら十分に咳をして出す
一口ごとに咳をして出すことも場合によっては必要
体幹角度調整:リクライニング30~45度
息こらえ嚥下訓練

一回呼気流量を誤嚥有無で比較してみると有意な差があった。

体力の違いを見るために握力を測定したが、これも有意な差があった。

これらを指標としてみると、1回呼吸流量:100L/min以下&握力:10㎏以下が4症例いて、そのうちの3例が数か月以内に嚥下性肺炎にて死亡した。

参:嚥下機能のスクリーニング検査
① 反復唾液嚥下テスト(repetitive saliva swallowing test:RSST):患者さんに空嚥下を30秒間反復してもらい、喉仏の上昇回数を測定し、嚥下反射の随意的な惹起能力を評価する方法。6回以上正常、3~5回要注意、2回以下以上と判定(感度:0.70、特異度0.88)
② 改訂水飲みテスト:冷水3mLを嚥下させて、嚥下できるか、ムセるか、呼吸切迫するか、湿性嗄声がないかなどを観察し、5段階で評価する方法。
③ 食物テスト:小さじ一杯のプリンを舌背前部におき,それを嚥下させて、改訂水飲みテストと同様に嚥下の状態を観察して評価する。
④ 頸部聴診法:飲水や食事の前に、肺と頸部の呼吸音と嚥下音を聞いておいてから、水や食物を飲み込んだ時の音や食後の音と比較する。頸部や肺で「ゴロゴロ聞こえるようになった」「呼吸音が聞こえない場所ができた」などの音の変化があれば誤嚥を疑う。
⑤ 血中酸素飽和度モニター:嚥下時に酸素飽和度が3%以上下がると誤嚥と判断する方法。呼吸状態が悪いと姿勢変化や咳でも容易に低下するので、有用性は低い。

明らかな食物誤嚥を認めても、全身状態が良ければ、肺炎を発症せずに1~2年外来通院している症例もある。

従って体力強化、嚥下筋力・機能強化が重要となってくる。
シャキアー訓練:横になって喉頭拳上菌を鍛える運動であるが、嚥下障害が出てきた患者さんにおいては実施困難である。

そこで進めているのが、嚥下おでこ体操である。
手でおでこを後ろに押すようにして、おへそを覗き込むように首に力を入れる体操である。

頸部等尺性収縮手技:親指で顎を上に押し上げ下を向いて顎を引く体操である。

こういった指導は医師のみで実現不可能であり、多職種の協力が必要である。
各職種が得意とする分野を担当し、患者さんの嚥下機能の改善を実現するようチーム医療の構築が必要である。


嚥下運動の異常所見とその対応法を一覧に示す。

(西山耕一郎著 中外医学社 高齢者の嚥下障害診療メソッドP110)

ムセた時や窒息時の対応として、ハイムリック法があるが、実施が困難である。実臨床においては、前屈位や横向きに寝かせて叩くことが実施されている。

認知症がないか軽い人においての誤嚥防止の10か条を以下に上げる。





(西山耕一郎著 中外医学社 高齢者の嚥下障害診療メソッドP112-113)

嚥下障害のキーポイント
嚥下障害の症状は、食事に関連したものが多く、不顕性誤嚥には注意が必要である。
肺炎を発症するかどうかは、誤嚥物の種類、量、体力に左右される。
誤嚥により肺で炎症が起こることにより体重減少が出現する。
誤嚥リスクを減らす食物形態と姿勢などの環境設定が重要である。

認知症例の食べムラへの対応法
① 明るい笑顔で声掛け、ボディタッチ
② 一品ずつ、好きなものを、一回量は少なめに
③ 味付けはしっかり、熱く、冷たく、色合いの工夫を
④ 口を無理にこじ開けず、唇をやさしく触る
⑤ 認知症の症状の一つである注意障害に誤嚥のリスクが増えるので、そのような状況下においては、ワンランク下の食事形態を選択する。

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2015年6月 8日 月曜日

認知症における摂食・嚥下障害 渡部廣行 先生

2015年6月4日 ホテルプラム
演題「認知症における摂食・嚥下障害」
演者:諸星クリニック 渡部廣行 先生
内容及び補足「
嚥下運動は、口腔期、咽頭期、食道期に分類される。

(西山耕一郎著 中外医学社 高齢者の嚥下障害診療メソッドP9)
しかしこの前段階として、先行期(認知期)があり、認知症患者の場合には、この段階に問題がある場合が少なからずある。
これから接触する食べ物の性状を認知し、過去の摂食した際の記憶と比較検討を行い、食べ物の量、食べ方、食べる速さなどを決定し、食べる姿勢を決定し、唾液の分泌量などを決定し、口に運ぶ適切なペースを決め、そのペースに合わせて、口唇を構えて受け入れる準備を行う段階である。
この動作の際に、知覚、注意、記憶、判断、言語といった機能が使われる。

摂食障害・嚥下障害の原因は四つの面から考えられる
① 口腔面:歯牙の欠損、義歯の不適合、口の動きの低下、歯周病、口内炎、舌炎、唾液分泌減少(食道炎、胃潰瘍)
② 身体面:座位保持困難、上肢機能低下、体力低下
③ 精神面:食欲低下、食欲異常亢進、注意障害、意識障害
④ 環境面:椅子・机の高さ、嗜好・摂食能力に合わない食事提供

認知症の各疾患における摂食・嚥下障害の特徴
アルツハイマー型認知症:
① 摂食開始困難 中期:食べ物を認知できない(失認)、どのように食べてよいか分からない(失行)
② 摂食中断 中期:注意障害のため食事以外の刺激により中断
③ 食べ方の乱れ 中期:空間認識障害や失行のため箸がうまく使えず食べこぼす
末期:ずっと口腔内に食べ物をとどめる、口を開けない
④ 嚥下障害 末期においてはほとんどの症例において認める

血管性認知症:
① 嚥下障害 発症時から起こることが多い。仮性球麻痺や球麻痺による可能性が高い
② 摂食開始困難 記銘・再生に時間がかかるため
③ 摂食中断 局所神経症状により、疲れてしまうため食事を中断する
④ 食べ方の乱れ 半側空間失認(無視)がある場合片側半分の食事を残す。口腔機能低下側に食物残渣、誤嚥あり

レビー小体型認知症:
① 嚥下障害 パーキンソニズムによるドーパミン不足から生じる嚥下反射の低下
② 食べ方の乱れ 認知機能の変動
③ 摂食開始困難 幻視:食べ物に虫がいるなど
④ 摂食中断 注意障害やパーキンソニズムによる振戦・無動による摂食動作に支障をきたす、視空間障害により食べ物までの距離が正確に認識できず手が届かない

前頭側頭型認知症:
① 摂食中断 脱抑制や被影響性の亢進のため食事途中で立ち去る
② 食べ方の乱れ どんどん食べ物を口の中に詰め込む。早食い。常同行動により、いつも同じ時刻に同じ料理を作り同じ場所で食べることへの固執。口唇傾向・食嗜好の変化の結果過食・濃い味付けを好むようになり肥満や糖尿病発症・合併リスクの上昇

参考サイト:
認知症高齢者の食行動関連障害支援ガイドライン
作成および検証に関する調査研究報告書(平成23年度 厚生労働省 老人保健健康増進等事業)

認知症の人の摂食嚥下障害:北中城若松病院 認知症カフェ 2015年2月14日講演

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2015年3月23日 月曜日

歯周病菌感染症は脳梗塞に影響する? 細見直永先生

2015年2月27日 ハイアット・リージェンシー
演題「歯周病菌感染症は脳梗塞に影響する?」
演者:広島大学病院 脳神経内科 診療准教授 細見直永 先生
内容及び補足「

歯周病は歯を支える歯肉や歯槽骨が破壊される疾患である。
歯の根の表面にあるセメント質と歯槽骨との間に歯根膜という線維組織があり、葉が抜け落ちないように支えている。

日本人の40歳以上の約8割がこの疾患にかかっており、生活習慣によりこの疾患が起こりやすくなるため生活習慣病の一つとして考えられている。

歯周病の原因は細菌性プラーク(バイオフィルム菌と歯周病原細菌)の形成から始まる。
プラークは細菌塊で0.1㎎の中に1億を超える細菌が棲みついていて、便の中の菌と同等か10倍の数に達するといわれている。

唾液成分中の糖蛋白質が歯の表面にペリクルという薄い皮膜を作る。
その皮膜状に付着したミュータンス菌がショ糖を利用してグリコカリックスを作り、菌数が増殖してくる。この状態を細菌性プラークまたはバイオフィルムと呼んでいる。
バイオフィルムの中に菌種は500種類を超えてコミュニティーを作っている。

バイオフィルムの中は、水分、栄養分も十分であり、37度の温度であり、細菌の培養に好的であり、悪玉菌が産生する毒素で歯肉が腫脹し、出血や、膿が産生されたり、歯の周りの骨を溶かす原因となる。
このプラークが唾液や血液の無機質成分を吸って固まったものが歯石である。

http://www.jda.or.jp/park/trouble/

口腔内の菌数は、起床時が一番多く、食事の摂取で減少し、口腔清掃後はより減少するはずであるが、きちんと磨けなくて、歯磨きをすることによってかえって、歯を浮かせるだけになっている人も少なくない。

http://panasonic.biz/healthcare/saikin_c/nikkei/

口腔内菌の増殖カーブを総合して一本に表示すると下図の黒い線となり、2→4→8→16→32→64→128と2錠で増加する。

デンタルフロス&歯ブラシのジャストケア(ブルーカーブ)
良く噛んで食べることにより、歯のプラークに対して「噛むクリーニング」を行うことができ、それに毎食後にデンタルフロスを行って、歯の隣接面ポケットからコンタクトエリアまでこすると、プラーク除去率は90%を越えることができる。

歯間ブラシ&歯ブラシ(イエローカーブ)
歯ブラシと歯間ブラシでの毎日のケアによる除去率は70%ぐらい。毎食後のケアでなければ菌の層は分厚くなり除去が困難となる。
食後の菌の増殖力はすごく、1時間で1万倍になる。
食後の手入れは3分以内のケアが大切。就前まで放置すると歯の表面はカルシウムの溶けだしで弱くなっていて(特に歯根面はエナメル質よりも脱灰が進んでいる)、歯ブラシでごしごし磨くことによりどんどん削れ、知覚過敏となる。

歯ブラシのみ(レッドカーブ)
効果的な軽い毛先磨きで10分以上磨いても、プラークの除去率は70%位までにとどまる。
多くの人が行っているごしごし磨く場合には、それ以下の効果しかない。歯周ポケットの長さが、毛先が届かない場合には50%も磨けてないことになる。

http://www.white-family.or.jp/htm/youtube.htm

歯周病の発生原因としては、
① 微生物因子(歯周病菌)
② 環境因子
  (ア) 喫煙
  (イ) 口腔内清掃状況
  (ウ) 初診時のポケットの深さ
  (エ) プラークの付着量
  (オ) ストレス
  (カ) 口腔清掃教育の達成率
  (キ) 食生活・専門医への受診回数
  (ク) 入れ歯や差し歯などの状況
  (ケ) 口呼吸
③ 宿主因子
  (ア) 年齢
  (イ) 人種
  (ウ) 歯数
  (エ) 糖尿病
  (オ) 歯肉浸出液中の物質
  (カ) 白血球機能
  (キ) 遺伝
④ 咬合因子(分類によっては環境因子に入れられる)


脳卒中入院患者の30日以内の合併症の頻度が報告されているが、肺炎は、入院早期においては、痙攣に次いで多く、その中でも嚥下性肺炎が重要である。

http://stroke.ahajournals.org/content/27/3/415.full
脳卒中患者急性期においては29-67%の頻度で嚥下障害が認められており、肺炎や、敗血症、死亡につながることが数多く報告されており、急性期脳卒中患者の二番目に多い原因が肺炎である。
誤嚥性肺炎となってから一年間に脳卒中に関連する嚥下障害となった患者の20%以上が死亡しているとの報告がある。

嚥下障害のための管理戦略として、以下のものが挙げられている。
● 経口摂取の安全性を増加させるため調整された食事や液体
● 誤嚥や息詰まりのような合併症を予防するためにリスクが低い食事の実践と訓練
● 脱水を予防するため経口摂取をモニターする
● 適切な栄養分を維持するため食事の供給
● 嚥下できない患者のために経腸栄養法を実施
● 特異的な生理学的嚥下機能障害の再建のための嚥下治療の実行
http://www.kio.ac.jp/~a.matsuo/pdf/a15.pdf

誤嚥性肺炎再発予防には
① 口腔ケア
② 耳鼻咽喉科による変化機能評価
③ 嚥下補助食品の利用
④ 適切な姿勢保持
が有効である。

http://www.omichikai.or.jp/park/drstalk_50.htm

歯肉炎で1.24倍、歯周病で2.11倍、心血管疾患が上昇するリスクファクターであることが報告されるようになってきた。
http://archinte.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=485468
また、口腔ケアを行うことにより血管内皮機能の改善が認められることも報告された。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa063186


歯周病の菌が腹部大動脈瘤の組織から高頻度に見つかることが報告され、
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15465379
東京医科歯科大学との共同研究で腹部大動脈に塩化カルシウムを塗布しで大動脈瘤を誘発する実験モデルにおいて、歯周病菌の一つであるP. gingivalis(Pg)を注入することにより歯周病原細菌感染を誘導し腹部大動脈系を調べた。


塩化カルシウムを塗布し、Pgを感染させたCa+Pg+群は、塩化カルシウムを塗布し、Pg を感染させないCa+Pg-群に比べ腹部大動脈径は有意に拡大した。

歯周病原因菌のうちP. gingibalis(Pg)、P. intermedia(Pi)、A. acinomycetemcomitans(Aa)に対するIgG抗体価を測定してみると、アテローム血栓性脳卒中患者は、ラクナ梗塞性脳卒中患者や心原性脳塞栓症患者に比べてPiの抗体価が有意に高く検出された。
歯周病原細菌の関与によりアテロームが形成され、血栓の影響によって生じる脳卒中の原因となっている可能性が示唆された。

https://www.m3.com/clinical/kenshuusaizensen/202137


抗菌剤投与を行わず、抜歯をした際に口腔内細菌は血液中に入り込み、5分後にピークを迎え、20分後にはほとんどの菌が殺菌されるが、Amoxicillinを事前に投与すればかなりの菌量を減らすことができる。
実は、一回歯をブラッシングするだけでも1.5分後に菌血症が起こっているが、20分後にはほとんど消失している。
通常血液が体の中を巡回するのに2~5分といわれているので、歯磨きによって体中に菌が運ばれている可能性があることになる。

Incidence and Duration of Bacteremia at Six Time Points from Infective Endocarditis-Related Bacterial Species
Numbers at the baseline represent the time points for the 6 blood draws: 1) baseline; 2) 1.5 min. and 3) 5 min. following initiation of brushing or extraction; and 4) 20 min., 5) 40 min., and 6) 60 min. following completion of the brushing or extraction.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2746717/figure/F3/

血小板が多く存在する中にPgを投与して培養すると、5分後に小さな血小板凝集塊ができ、10分後には大きな血小板凝集塊となり、その中にPg が入りこむことを岩井らのグループが示している。

血小板で守られた歯周病原細菌が血液中に存在し、血管壁に付着して、動脈硬化や動脈瘤の形成に関与していると考えられる。

https://www.m3.com/clinical/kenshuusaizensen/202137
適切なタイミングで、適切な歯磨き、デンタルフロスなどを使用した口腔ケアを実施することにより、歯周病原細菌を介した動脈硬化の発症を予防できる可能性が高い。

参:糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン
http://www.perio.jp/publication/upload_file/guideline_diabetes.pdf

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

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