脳神経系

2017年5月13日 土曜日

日本脳炎 旭中央病院 北澤 克彦 先生

2017年5月11日 
演題「2015年夏に千葉県で発生した日本脳炎の乳児例」
演者: 独立行政法人総合病院国保旭中央病院 小児総合診療部長 北澤 克彦 先生
場所: 横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ
内容及び補足「
症例:10ヵ月男児
主訴:発熱、ずっと左を見ている
現病歴:8月18日38度台の発熱あり、近医で抗菌薬処方。
20日解熱なく、再診。抗菌薬変更。帰宅後、ウトウトして左を見ていることが多くなった。
21日同院を再度受診し、当院紹介となる。意識障害、左共同偏視を認め、脳炎疑いで入院。経口摂取不良、尿量減少有るも、嘔吐下痢はなし。
入院時所見:体温38.6℃、心拍数144/分、呼吸数48/分、SpO2=96%、呼吸音清、心音純、腹部平坦・軟、下腿を中心に虫刺痕(陳旧性)多数
神経学的所見:項部硬直なし、意識傾眠:痛み刺激で弱く啼泣、追視なく両側眼球は左方偏位、対光反射intact、四肢麻痺あり(右上下肢1/5、左上下肢4/5)、四肢深部腱反射亢進、Babinski徴候陽性、Chaddock反射陽性
血液検査:異常なし
髄液検査:細胞数 43/μl(単核93%、多核7%)、蛋白33mg/dl、糖70mg/dl、圧180mmH2O




入院後ステロイドのパルス療法で意識障害が改善してきたので、7日目に再度行い、10日目よりリハビリテーションを開始した。22日目に髄液の日本脳炎ウイルスのRNA陽性との連絡をもらい、日本脳炎の確定診断に到った。

日本脳炎HI抗体価は、8月22日(第2病日)で10倍、31日で80倍、11月7日で160倍であった。
頭部MRIでは、経過とともに両側視床の破壊、両側大脳の萎縮が認められた。

現在も重度の神経学的後遺症(四肢麻痺、知的障害)があり、リハビリでわずかに回復している状況である。

日本脳炎:おもにコガタアカイエカによって媒介される、フラビウイルス科の日本脳炎ウイルスによっておこる感染症。1935年に人の感染脳から初めて分離された。
 
下図のように、極東から東南アジア・南アジアにかけて分布。
年間3~4万人の患者報告がある。日本と韓国はワクチンの定期接種によりすでに流行が阻止されている。

https://www.cdc.gov/japaneseencephalitis/maps/index.html

2009~2011年の世界における発生状況を見ると、10万人当たり罹患率が0.4を超えたのはインドとネパールだけであり、0.1を超えたのは中国、スリランカ、台湾、韓国の4か国に過ぎない。


日本脳炎感染者はワクチン接種前の1967以前は1000人前後であったが、ワクチン接種が行われるようになってから100人以下となり、1991年にワクチンが改良されてからは10人未満となった。

http://idsc.nih.go.jp/disease/JEncephalitis/QAJE02/fig01.gif


http://www.htv.jp/kansensho/program2/menu5.html

近年の日本脳炎発症患者数は、圧倒的に60‐70台に多い。

小児では7~8歳で多かった。


ワクチンの接種により抗体価の上昇が見られ、30歳後半までは高抗体価が維持されているが40歳代以降は抗体価が激減しており、成人に対してもワクチン接種がすすめられる。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/7175-je-yosoku-serum2016.html

6歳までの抗体保有率が2008年までは低かったがその後、ワクチン接種が行われるようにあり2012年からは2歳以上で抗体保有率は上昇してきた。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/7194-je-yosoku-year2016.html

日本脳炎ウイルスの増幅動物である豚における感染状況を見ると、毎年西日本を中心に広い地域で抗体陽性の蓋が確認されている。

http://idsc.nih.go.jp/disease/JEncephalitis/QAJE02/fig02.gif

2015年においても同様の傾向であり、千葉での感染率が高いことが見てとれる。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/6734-je-yosoku-swine2015.html


豚における日本脳炎ウイルスの感染時期は、6~7月頃に吸収、中国、四国地方から始まり、8~9月にかけてそれ以外の地域に広がっていくのがわかる。

http://idsc.nih.go.jp/disease/JEncephalitis/QAJE02/fig03.gif

豚で増幅したウイルス吸った蚊が、人を刺し感染が広まるため、豚の抗体保有率が高い地域に感染者数が多いのが見て取れる。小児の日本脳炎の月別発生数を見てみると8月9月に多くなるので6月頃までに摂取することがすすめられる。


https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/JEncephalitis/QAJE2016/img07.png

日本脳炎予防接種状況を見てみると、20歳以下でワクチン接種頻度が高くなっているが、3歳時点ではまだ摂取数が少なく、法律上6ヶ月から摂取可能であるので、感染頻度が多い地域では早期からの摂取が望ましい。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/6414-je-yosoku-vaccine2015.html


抗体価が高くなる3回以上の摂取が推奨される。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/6739-je-yosoku-serumvac2015.html


参:水田で発生するコガタアカイエカが媒介し、熱帯ではその他数種類の過が媒介することが知られている。小型アカイエカはデング熱のヒトスジシマカと違って風に乗ると20㎞位移動したという記録もあり、いろいろな場所にいる可能性があるが、患者発生数が少ないのは予防接種のおかげである。

http://www.htv.jp/kansensho/program2/menu5.html
人から人への感染はなく、増幅動物である豚の体内でいったん増えて血液中に排出されたウイルスを蚊が吸血し、その後、人を刺した時に感染する。自然界の終末の宿主はヒトであるが、ヒトの血液中で検出されるウイルスは一過性であり量もきわめて少ない。感染しても日本脳炎を発病するのは100~1000人に1人程度でほとんどが無症状で終わる。潜伏期間は6~16日で、定型的な病型は髄膜脳炎型であるが、脊髄炎症状が顕著な脊髄炎型の症例もある。
症状:数日間の38~40℃の高熱と、頭痛、悪心、嘔吐、めまいなどで発症。小児では腹痛、下痢を伴うことも多い。これらの症状に引き続いて、急激に項部硬直、光線過敏、意識障害とともに神経系の障害を示唆する症状(筋強直、脳神経症状、不随意運動、振戦、麻痺、病的反射など)が現れる。感覚障害は稀で、麻痺は上肢に起こることが多く、脊髄障害や球麻痺症状の症例もある。痙攣は小児で多く、成人では10%以下である。
検査所見:末梢血白血球数の軽度上昇があり、急性期には無菌性膿尿、顕微鏡的血尿、蛋白尿などの尿路系所見が良く見られる。髄液圧は上昇し、髄液細胞数は初期には多核球優位で、その後リンパ球優位となり10~500程度に上昇することが多く、蛋白は50~100mg/dL程度の軽度上昇がみられる。死亡率は20~40%で、幼少児や老人では死亡率は高くなる。精神神経学的後遺症は生存者の45~70%に残り、小児では特に重度の障害を残すことが多い。

診断:血清抗体価を調べる。赤血球凝集抑制(HI)試験、補体結合(CF)試験、ELISA法、中和試験などがある。HI、CF抗体で確定診断する場合、単一血清ではそれぞれ1:640、1:32以上の抗体価であることが必要である。急性期と回復期のペア結成で抗体価が4倍以上上昇していれば、感染はほぼ確実と言える。剖検あるいは鼻腔からの脳低穿刺による脳材料が得られた場合は、ウイルス分離、ウイルス抗原の検出、あるいはRT-PCR法によるウイルスRNAの検出により確実な診断となる。血液や髄液からのウイルス検出は非常に困難。

治療:特異的な治療法はなく、対症療法が中心となる。高熱と痙攣の管理が重要。脳浮腫対策も重要で、大量ステロイド療法は一時的に症状を改善することはあっても、予後、死亡率、後遺症などの改善は期待できない。
不活化ワクチンが予防に有効であることは証明されています。
 平成7~18年度日本脳炎ワクチンの定期予防接種実施者数
積極的勧奨が差し控えられる前の実施者数は、初回接種(生後6~90 ヵ月未満、標準的な接種年齢:3 歳で2 回、4 歳で1 回):約280 万人/年
2期接種(9~13 歳未満、標準的な接種年齢9 歳):約80 万人/年
3期接種(14~15 歳、標準的な接種年齢14 歳):約60 万人/年
平成17年5月に積極的勧奨の差し控えることになった為、平成17年7月に、3期接種は中止になったため、実施者数はそれぞれ、
初回接種(生後6~90 ヵ月未満、標準的な接種年齢:3 歳で2 回、4 歳で1 回):約63 万人/平成17 年度 ・約12 万人/平成18 年度
2 期接種(9~13 歳未満、標準的な接種年齢9 歳):約19 万人/平成17 年度 ・約2 万人/平成18 年度
3 期接種(14~15 歳、標準的な接種年齢14 歳):約13 万人/平成17 年度・平成18 年度は中止
と報告されている。

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2016年11月28日 月曜日

多発性硬化症 山口 滋紀先生

2016年11月03ALS日 
演題「多発性硬化症」
演者: 横浜市立市民病院神経内科部長 山口 滋紀先生
場所:神奈川県総合医療会館
内容及び補足「
中枢神経の髄鞘が炎症機転により一次性に障害され、軸索が比較的保たれている病態である脱髄性疾患で、限局した非化膿性非炎症性脱髄巣が中枢神経系に次々と反復して生じる自己免疫性疾患。

20~30歳代で好発し、女性に多く、緯度の高い北ヨーロッパ、カナダ、アメリカ北部などで有病率が高い。

世界には250万人の患者がいると推計されており、有病率は北欧では10万人当たり50~100人、日本では数人前後(旭川10.2、弘前5.7、米子5.5、熊本1.3)
日本での患者数は現在約2万人といわれており、昨今増加の一途にあり、2040年代には患者数が5万人を突破すると推計されている。

多発性硬化症は、脱髄の特徴として「空間的多発性」と「時間的多発性」を認めるもので、空間的多発性:中枢神経系の複数の箇所に脱髄が生じること
時間的多発性:再発性に脱髄が生じること
平均的な多発性硬化症は、20歳代で発症し、その後不定期に再発を繰り返す。発症後5~10年程度は再発しても数か月以内に症状がほとんど消失(寛解)しますが、再発と寛解を繰り返すうちに次第に後遺症が蓄積するようになり、40歳代以降になると歩行が困難となってくる(二次性進行型)。
二次性進行型に移行すると、再発の有無によらず症状が持続的に悪化するようになり、50歳代で杖歩行、60歳代で車いす生活となり、最終的には寝たきりとなる。
全体の少なくとも20%程度は二次性進行型には移行せず(良性型)、独立歩行が可能な状態で過ごせることが判明している。適切な病態就職薬を早期から使用することで二次性進行型への移行を遅らせ、また良性型の患者を増やすことが可能であると期待されている。


多発性硬化症(MS)の病型
潜伏期:病状が内部で進行しているが症状が出ない時期
再発:1ヶ月以上症状が消失していた後に新たな症状が発生して24時間以上持続
再発寛解型(Relapsing Remitting MS:RR-MS型):再発と寛解が繰り返す型
(二次進行型;Secondary Progressive MS:SP-MS型):再発と寛解を繰り返しながら徐々に病状が進行し、寛解期が短くなり寛解期でも種々の神経疾患が混在する病状
一次性進行型(Primary Progressive MS:PP-MS型):初期から長期にわたり病状が持続進行する病状
治療に訪れる患者の過半数(55%)がRR-MSの患者で、ついでSP-MSの病状を示す患者(35%)、PP-MS病状の患者(10%)となっています。

http://www.yakuji.co.jp/entry9607.html

病態:

https://nurse-like.com/多発性硬化症/
遺伝的な要因にウイルス感染などにより活性化されたT細胞が神経細胞の髄鞘を傷害するために起こる自己免疫説が有力である。
多発性硬化症における神経病理は脱髄が特徴的で、神経の軸索は保存されるとされてきたが、近年軸索も早期より障害されることが明らかになった。 軸索障害の原因は明らかではない。
これまで主流である説は、障害の対象はミエリン:myelin (myelinopathy)か、あるいはミエリン形成細胞である乏突起膠細胞:オリゴデンドロサイト oligodendrocytes (oligodendrogliopathy)であり、ミエリンに包まれている軸索は、ミエリンの障害によって二次的に変性するというもの。
この仮説では、神経線維を覆っているミエリンを障害し脱髄病変が生じ、むき出しになった軸索には、炎症の継続で障害されるとい説である("Outside-In" model)。 ところが、病理学的検索や放射線学的検索(MRIやMRSなどの画像診断)によると、多発性硬化症の病変によっては、軸索変性が脱髄病変のないところに生じているものもあり、この説に疑義が呈されている。
ウイルスモデルのタイラーウイルス感染症や犬ジステンパーウイルスモデルでは軸索障害が脱髄に先行しておこる。また、自己免疫モデルのEAEでも 動物を軸索に対する抗原:neurofilament light protein、contactin-2/transiently expressed axonal glycoprotein 1 (TAG-1)などで免疫すると軸索障害が先行する多発性硬化症類似の病変が生ずる("Inside-Out" model)。この病態の仮説は、まず軸索が傷害され、これがオリゴデンドロサイトのアポトーシスを誘導し、二次的に脱髄にいたるという機序である。

http://www.med.kindai.ac.jp/microbio/img/Insideout.jpg

症状
視神経:視力低下、失明、目を動かす際の目の奥の痛み(球後視神経炎)
脳幹部:会話の障害、嚥下障害、複視、眼振、めまい
大脳半球:集中力低下、物忘れ、片側の手足の麻痺
小脳:会話の障害、歩行不安定、手足の震え
脊髄:異常感覚、筋肉のこわばり、痛みを伴うシビレ、有痛性強直性けいれん歩行障害、便秘、排尿困難
ウートフ徴候:入浴などで体温が上昇すると一過性にMS症状が悪くなること

MSのマクドナルド診断基準(2010)
空間的多発性:以下の4か所のうち2か所以上にT2延長病変がみられる
・脳室周囲、皮質下、テント下、脊髄
時間的多発性:以下のいずれかがみられる
・造影病変と非造影病変が同時にみられる
・新規のT2延長病変が出現する
画像所見
Ovoid lesion(Dawson's finger):
側脳室壁と垂直の方向に長い、卵円型の深部白質病変。髄質静脈周囲の炎症を反映している、よく見られるが特異性はそれほど高くない(虚血性病変などでも見られ得る)

http://www.radiologyassistant.nl/en/p4556dea65db62/multiple-sclerosis.html

http://www.jikeirad.jp/syourei/kensyui/201112up/Re201112_1.pdf

T1 black hole:
軸索消失や脱髄の程度が強い病変はT1強調像にて低信号を呈する。臨床症状とよく相関する。acute lesionは浮腫のため一時的に低信号を呈することがある。真のT1 black hokeは6ヶ月以上低信号が続く病変をいう。
T2WIで高信号を示すプラークの約20%に見られる。T1WI低信号は細胞浸潤を伴う急性期病変と慢性期病変があり、このうち慢性期病変T1-block holeをいう。

http://www.jikeirad.jp/syourei/kensyui/201112up/Re201112_1.pdf



https://radiopaedia.org/articles/t1-black-holes-1

Enhancing lesion:
新しい病変や増大しつつある病変(active lesion)は血液脳関門の破綻を反映して、Gdにて高率に造影される。均一な結節性、またはリング状に造営される。灰白質に接した部分が途切れることがある(open-ring sign)。脱髄疾患に割と特徴的。

http://www.jikeirad.jp/syourei/kensyui/201112up/Re201112_1.pdf

Callosal-septal interface lesion:MSに特徴的。
脳室壁と垂直方向に広がる脳梁内病変。
血管走行に沿い、炎症を反映すると考えられる。
感度、特異度ともに高い。
薄いスライスの矢状断FLAIR像がMSの早期診断に役立つ。

http://www.jikeirad.jp/syourei/kensyui/201112up/Re201112_1.pdf

Juxtacortical lesion:
皮質~皮質下のUfiber領域沿って広がる病変。約半数のMS患者で少なくとも1個見られる。Subcortical dementiaの一因と考えられている。
MSに比較的特異的な病変であることが認められ、新診断基準のMRI criteriaに採用された。

http://www.jikeirad.jp/syourei/kensyui/201112up/Re201112_1.pdf


Tumefactive MS lesion:
一見したところ脳腫瘍(glioblastoma)の様に見えるMS病変。Glioblastomaよりはmass effectに乏しい。リング状造影効果を呈しうるが、リングが途切れていることがある(open ring sign)のが特徴的。

http://www.radiologyassistant.nl/en/p4556dea65db62/multiple-sclerosis.html


視神経炎
STIR、FST2WIで高信号。活動期には造影効果がみられる。

NMO視神経脊髄炎の画像所見
視神経炎、3椎体以上にわたる脊髄病変、急性期には著明な腫脹、脳室、中脳水道、視床下部、視索、延髄背側、延髄中心部などにAQ4(アクアポリン4分子:星状グリアの細胞突起が血管内皮細胞や脳軟膜へ接する部分に多く存在し、免疫的攻撃の対象となっている)抗体が分布
男女比1:9と女性に多く、発症年齢が平均40歳とやや高い。
アクアポリン-4分子の発現が多い脊髄の中心部(灰白質)に病巣が出やすい。
脊髄、視神経の症状で初発が多く、再発回数が多い
頑固なしゃっくり、嘔吐、呼吸障害が多く、失明、両下肢に強い麻痺が出ることも多い

http://www.jikeirad.jp/syourei/kensyui/201112up/Re201112_1.pdf


Spinal cord lesion:
脊髄の炎症・脱髄疾患の中で最多。
2/3で頭蓋内病変を伴い1/3で脊髄のみに病変を認める。頸髄に多い(脊髄病変の2/3)。
感覚障害、筋力低下、膀胱直腸障害などが主な臨床症状となる。
30-40歳代の女性に多い。

MSによる脊髄症の画像所見
剖検では99%に脊髄病変を認める。頚髄側索が最好発部位。側索、後索に多い。2椎体以下。横断像の半分以下。急性期では軽度腫大、造影効果があることがある。
画像所見はT2WI高信号、T1WIで等〜低信号を呈する。
造影で活動性病変は造影効果を伴う。
長さは2椎体以下、断面積は脊髄の半分以下とされる。やや背側優位(後索44%、側索25%)に分布する。
脱髄性病変であるため、髄鞘が存在する白質優位(=辺縁優位)に存在するが、限局するものは少なく中心部の灰白質も含むことが多い。
半数以上で多発性の病変。
脊髄および視神経に病変の主座をおくタイプのMSが近年注目され、NMOとして区別される。
臨床経過と画像所見の関係:30%は症状の改善もしくは不変があるのに、画像所見は進行。症状が進行した患者の多くは、画像は不変。60%で画像の進行と症状の進行が一致。治療後1ヶ月以上経過しても腫大のある脊髄病変は他の疾患を考慮して検索。


治療
急性期にはステロイド以外に、血漿交換療法、大量免疫グロブリン療法などが行われる場合がある。
再発予防のためにインターフェロンβの自己注射、免疫抑制剤が使用されている。
生命予後は、呼吸器や尿路などの感染症に影響されることが多い。
急性期の治療
メチルプレドニンパルス療法:
ソルメドロール500~1000㎎点滴し、これを3~5日間、1~3クール行う。
短期ステロイド内服療法
1日30~60㎎から服用開始し、症状に合わせて漸減していく。
血漿交換療法:関与している抗体を取り除く治療

再発予防・進行抑制の治療
インターフェロン・β1b(ベタフェロン)
再発回数を減らす効果と、再発した際に症状を軽くする効果がある。
隔日または週一回皮下注射。発熱、抑うつ、注射部位の壊死などの副作用に注意。人により効果に差がある。
免疫抑制剤
エンドキサン(シクロフォスファミド)、イムラン(アザチオプリン)

フィンゴモリド塩酸塩(イムセラ・ジレニア):再発予防薬
2次リンパ組織からのリンパ球の移出を抑制し、末梢血中のリンパ球を減少させる。
神経細胞を攻撃する自己反応性リンパ球の中枢神経系への浸潤を阻止することで、神経の炎症を抑える作用により、多発性硬化症の再発が減り身体的障害の進行が抑えられる。
服用中は、感染症、黄斑浮腫、肝機能異常などへの注意が必要。
http://www.mscabin.org/fingolimod

http://medical.radionikkei.jp/suzuken/final/120301html/


ナタリズマブ(タイサブリ)
ヒトインテグリンα4サブユニットに特異的に結合しα4β1インテグリンとVCAM-1との相互作用を阻害することにより炎症組織への免疫細胞の動員を阻害して、多発性硬化症の病巣形成を阻止し、病巣で進行している炎症反応を抑制する。

http://www.ms-supportnavi.com/med/tys/products/09.html

グラチラマー酢酸塩(コパキソン注)
抗原提示細胞であるT細胞活性化に影響を与える。制御性T細胞やTh2細胞の分化を促進し、Th1、Th17細胞の分化を抑制する。
Th1細胞はマクロファージやミクログリアなどの抗原提示細胞上のMHCクラス2抗原に結合したペプチド抗原を認識し、活性化する。また抗原提示細胞が産生するIL-12はTh1細胞の分化誘導に必須なサイトカインである。IFNβはMHCクラス2抗原の発現およびIL-12の産生を抑制することによりTh1細胞の活性化及び増殖を抑制する。
Th1細胞が中枢神経系に侵入するためにはTh1細胞上の接着分子very late antigen-4(VLA-4)と血管内皮細胞上のリガンドvascular cell adhesion molecule-1(VCAM-1)との結合が重要であると考えられている。IFNβはVLA-4の発現レベルを低下させ、VCAM-1を分離遊出させてTh1細胞の血管内皮への接着を抑制する。また、Th1細胞によるBBB基底膜細胞外貴室分解酵素matrix metalloproteinase-9(MMP-9)の産生を抑制し、Th1細胞がBBBを通過するのを阻止する。
活性化Th1細胞はIFNγ、TNFなどのTh1サイトカインを産生する。IFNγはMHCくらす2抗原提示の増強やB細胞の分化・増殖などにかかわる因子であり、TNFは炎症増強因子である。IFNβはTh1サイトカイン産生を抑制し、その結果、細胞障害性マクロファージの活性化を抑制する。また、IFNβは炎症性サイトカインであるIL-10の産生を誘導する。
多発性硬化症の臨床経過に大きな影響を及ぼす可能性があるウイルス感染をINFβに対して抗ウイルス作用を発現する。

http://www.ms-supportnavi.com/med/avx/products/09.html

慶應義塾大学医学部神経内科 神経免疫グループ 多発性硬化症/視神経脊髄炎について

難病情報センター
日本多発性硬化症協会
日本神経学会 多発性硬化症治療ガイドライン2010
多発性硬化症サポートナビ

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2016年11月28日 月曜日

重症筋無力症 山口 滋紀先生

2016年11月03日 
演題「重症筋無力症」
演者: 横浜市立市民病院神経内科部長 山口 滋紀先生
場所:神奈川県総合医療会館
内容及び補足「
概念:筋肉の力が弱くなり目が明けづらい、疲れやすい、喋りにくいなどの症状が生じる自己免疫性疾患である。
日本での推定患者数は2006年のデータで約2万人(内眼筋型20%)、有病率は人口10万人当たり11.8人、男女比は、およそ1:2(1:1.7)で女性に多く、男性では10歳以下と50歳代に、女性では10歳以下と30歳代に発症年齢のピークがあり、胸選手の合併率は20~30%である。

まぶたが下がる(眼瞼下垂)、物が二重に見えるなどの目の周りの筋肉に症状が現れる眼筋型(幼・若年層に多い)と全身に症状が現れる全身型(中年層に多い)に分けられる。
関節リウマチ、甲状腺機能障害などの他の自己免疫疾患が合併する場合が少なくない。
病因:
脳からの指令によって神経終末より遊離される情報伝達物質(アセチルコリン)の筋肉側の受け皿(アセチルコリン受容体)が、十分に機能できなくなることによっておこる。アセチルコリン受容体の働きを妨げる物質(アセチルコリン受容体抗体)が体内で作られて、指令が筋肉に伝わりにくくなることが原因(抗谷アセチルコリン受容体抗体が検出されない例が23.9%存在)。
重症筋無力症の患者さんでは胸腺に異常がみられる場合があり胸腺が発症原因にかかわっていると考えられている。

神経筋接合部において、アセチルコリンが神経終末から筋肉に向けて放出され、脳からの指令を伝える。重症筋無力症では、その指令を受け取るアセチルコリン受容体抗体とアセチルコリン受容体の集合に重要な働きをする筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(マスク)に対する抗体が陽性である。
 


臨床的特徴
運動の反復に伴い骨格筋の筋力が低下し(易疲労性)、休息により改善する。午前中は症状が軽く夕方に悪化する(日内変動)、日によって症状が変動する(日差変動)がある。

初発症状としては、眼瞼下垂や眼球運動障害による複視などの眼症状が多い。
四肢の筋力低下は近位筋に目立ち、嚥下障害、構音障害、呼吸障害をきたすことがある。
症状には左右差を認めることが多い。
検査:
筋電図:末梢神経(正中神経、顔面神経など)の連続刺激(1~20Hz)を行い振幅の減衰を確認する。

抗アセチルコリン抗体測定:MGに特異的であり正常は0.2nM以下である。抗体値とMGの重症度や病勢は必ずしも一致しない。全身型重症筋無力症の患者の80~90%で検出されるが、眼筋型の患者では陽性率は低くなる。抗マスク抗体:抗アセチルコリン受容体抗体の陰性の場合、薬20%の患者にマスク抗体がみられる。
テンシロン試験:エドロホニウム(アンチレックス)を使用し、静注後すぐに眼瞼下垂などの症状が改善することを確認する。静注の効果は1分以内に現れ、3~5分持続する。

アイスパック試験:冷凍したアイスパック(冷蔵庫では効果が不十分)をガーゼなどで包み、3~5分間上まぶたに強く押しあて、まぶたが下がる症状が改善すれば陽性。
胸腺異常の有無をCTやMRIで確認する。
自己免疫疾患の有無も血液検査などで確認する。

治療
近年の治療方針
1. 早期から強力な治療を行い、症状をなるべく早く改善する
2. 胸腺摘出の適応は一部の患者に限られる(抗マスク抗体陽性の患者は胸腺摘出で改善しない)
3. カルシニューリン阻害薬などの面影記帳節約を上手に用い、副腎皮質ステロイドは少量にとどめる

+症状に応じて追加する治療。組み合わせは患者によって異なる。
1) 症状によっては胸腺摘出術前にステロイド、免疫抑制薬、免疫グロブリン、血液浄化療法などの治療を行うことがある
2) 早期発症とは概ね40歳代までの発症をいう。このうち胸腺の肥大(過形成)が疑われる場合胸腺摘出術が考慮される
3) 眼瞼下垂に有効であるが、効果は個人差がある

高コリンエステラーゼ薬:神経筋接合部でのアセチルコリンの分解を抑え、神経筋伝達を一時的に改善する。
メスチノン(30分以内に効果が発現し、2~4時間持続する)、マイテラーゼ(4~8時間持続)などが用いられる。
効果には個人差があり、副作用として下痢などの消化器症状がある。
副腎皮質ステロイド:自己免疫反応を抑える目的で使用される。プレドニゾロンが多い。
初期増悪を避けるため、漸増法が用いられ、連日または隔日投与で使用される。一日量で最大60㎎(または1㎎/体重1㎏)まで増量し、十分な効果が出るまで維持し(1~3か月)、時間をかけて漸減していく。5㎎連日(10㎎隔日)を目標に減量する。
最近は他の治療を早期から併用し、ステロイド量を少量にとどめる方向に変化している。
ステロイドパルス療法:
メチルプレドニゾロン静脈内大量投与であり、軽症から中等症の全身型や眼症状のみの例にも使用される。
改善が速く、副作用も比較的少ないが、初期増悪を伴うために、投与量、投与タイミングの判断が重要である。
免疫抑制剤:シクロスポリン(ネオーラル)、タクロリムス(プログラフ)が保険適応になっている。
リンパ球(T細胞)の活性化、増殖を阻止する。症状の改善、ステロイドの減量が期待できる。効果に個人差があり、30%で有効性が期待できない。
シクロスポリンでは高血圧、腎機能障害、タクロリムスでは糖尿病発症に注意が必要であり、血中濃度をモニタリングして投与量を調節する。
血液浄化療法:血中に含まれるアセチルコリン受容体抗体などの自己抗体を除去する。体外循環による免疫調節機能も有していると考えられている。
症状改善効果が強く、血液浄化療法と直後の強力な免疫治療を組み合わせることで有効性が高まり、重症の全身型に対して積極的に行われる。
血液製剤の補充が不要な免疫吸着法が多くおこなわれるが、抗体院生例では反応に乏しい例があり、その場合には、単純血漿交換または二重膜濾過法が用いられる。

免疫グロブリン大量静注法
:免疫グロブリン製剤を1日量(400㎎/体重1㎏)を5日間点滴静注する。
血液浄化法とほぼ同等な効果を期待できる。

胸腺摘出術:胸腺腫のある場合は絶対手術適応となる。
胸腺腫がない場合も若年発症、アセチルコリン受容体抗体陽性で全身型の患者では過形成と呼ばれる胸腺異常が約半数例に見られ、胸腺摘除が考慮される。
胸腺腫を有していない非若年(50歳以上)発症例に対する胸腺摘出術の有効性は不明である。
従来の胸骨正中切開に加えて、美容的にも優れ侵襲の少ない胸腔鏡や縦隔鏡を用いた術式も用いられている。
 

重症筋無力症クリーゼ:重症筋無力症では、症状が急激に悪化して呼吸困難を起こす場合があり、この状態をクリーゼという。感染や過労などをきっかけとして引き起こされることが多く、緊急処置が必要となる。
人工呼吸管理を施し、血液浄化療法を行う。またクリーゼの治療とともに、免疫治療などの根治療法を行う必要がある。

予後:
治療薬や治療法の進歩によって生命時予後は著しく向上している。
特異的自己抗体が測定可能になったことによる早期診断と治療により80%の症例は軽快又は寛解する。約半数の患者は、日常生活や仕事上、支障のない生活を送ることができる。さらに、完全寛解する患者は6%程度である。一方で、治療によってもあまり症状の改善がみられない患者が10%程度存在する。

重症筋無力症情報サイトMGスクエア
日本神経学会:重症筋無力症診療ガイドライン2014
難病情報センター:重症筋無力症
全国筋無力症友の会

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2016年11月28日 月曜日

筋萎縮性側索硬化症  山口 滋紀先生

2016年11月03日 
演題「筋萎縮性側索硬化症」
演者: 横浜市立市民病院神経内科部長 山口 滋紀先生
場所:神奈川県総合医療会館
内容及び補足「
運動ニューロンとは
骨格筋を支配する神経細胞であり、細胞体は主に大脳皮質の運動野、脳幹と脊髄前角にある。
上位運動ニューロン:大脳皮質運動野や脳幹から脊髄前角細胞まで。
下位運動ニューロン:脊髄前角細胞。以下

http://nannet.org/als/kisotisiki.html

肩に何か触れるとその感覚情報が第1ランナーの感覚神経を介して脊髄に入る。
その情報は脊髄で第2ランナーのニューロンにバトンタッチされ、脊髄の反対側に交差した後、脳に向かって上昇する。間脳の視床で第3ランナーにバトンタッチして大脳皮質の体性感覚野に情報が伝達される。
運動野の部位によって動かす筋肉が決まっており、その部位のニューロンから運動指令が出ると、途中、延髄の錐体で反対側に交差した後、脊髄の中を下行する。脊髄の筋肉を動かす第2ランナーにバトンタッチして、筋肉に動かす指令を出す。


 
https://www.kango-roo.com/sn/k/view/1989

http://www.als.gr.jp/public/als_about/sickstate/sickstate_02.html

運動ニューロン疾患(Motor Neuron Disease)
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis)
孤発性
家族性(常染色体性優性、劣性)
脊髄性進行性筋萎縮症(Spinal Progressive Muscular Atrophy)
球脊髄性筋萎縮症(Spinal and Bulbar Muscular Atrophy:Kennefy-Alter-Sung症候群)伴性劣性遺伝
疫学
1年間に人口10万人当たり1.1~2.5名が発症し、有病率は7~11人/10万人と推計される。
家族歴のある患者の割合は約5%である。

最大のリスクは年齢であり、50後半から~70歳代で最も発症率が高い。
男性の発症が女性に比べ1.3~1.4倍高い。

孤発例では、発症から死亡または侵襲的換気(intensive ventilation:IV)が必要となるまでの期間の中央値は、20~48ヶ月と報告されているが個人差が大きい。
日本では和歌山県・奈良県の紀南地方に多く(認知症、パーキンソニズムを伴う特殊な病型が多い)、高齢化とともに有病率は増えており、10万人当たり数人~10人前後に達する。
海外ではグアムのチャモロ族に日本の紀南地方と同様な特殊な病型のALSの発症が多い。
筋肉が委縮し、脊髄の側索が硬化する病気である。

 

1869年フランスの脳神経内科医シャルコーによって初めて報告された疾患。
ヨーロッパではシャルコー病ともいわれるが、アメリカではヤンキースの往年の打撃王ルー・ゲーリックがこの病気であったことから、ルー・ゲーリック病といわれている。

上位運動ニューロン障害による症状
痙性(ツッパリ)
深部腱反射亢進
病的反射陽性

下位運動ニューロン障害による症状
筋力低下
筋萎縮

筋線維束攣縮(筋肉のぴくつき):Fasciculation
https://www.youtube.com/watch?v=AhI5U5KWvRI

球麻痺:延髄の運動神経核(9,10,12)の麻痺によって生じる。
嚥下障害(ものが飲み込みにくい、むせる)
構音障害(呂律が回らない、声が鼻に抜ける)
舌の運動障害(筋力低下、筋萎縮)

仮性球麻痺:9,10,12神経核より上位の皮質延髄路の障害によって生じる。
実際には延髄は障害されていないのに、似たような症状が出現する。
両側の障害によって生じる。

呼吸筋麻痺
安静時、吸気時(外肋間筋、横隔膜)、呼気時(下がった横隔膜がもとの位置に戻ることによって息が吐かれる)。
努力呼吸時

http://www.geocities.jp/zgenboku/chapter1.html
⇒呼吸筋麻痺が生じると:労作時の息切れ、肺活量の低下、呼吸困難が生じる

ALSの臨床経過
人工呼吸器開発(1970年代)前では呼吸筋麻痺の出現=死であり、平均約3年の経過で死に至る病であった。No Cause, No Cure, No Hopeとも言われていた。
医療父権主義(Medical Paternalism):患者の最善の利益の決定権は医師側にある。患者も病気のことがわからないために医師に依存する。
ポータブル呼吸器の出現(1980年代)以降では、呼吸筋麻痺≠死となり、医療機関においてのみならず、自宅において人工呼吸器の装着も可能となり、10年以上の生存者も出てきた。
患者主権主義(Patient Sovereignty):患者は医療に関することであっても、自分のこと、自分の健康にかかわることは自分で決める権利を有する。情報提供の義務も技術提供の義務も医師側にあるが、それを決定するのは患者側である。自己決定(autonomy)


ALSと認知症(前頭側頭型認知症)の合併
前頭側頭型認知症を合併する場合がある
1. 遂行機能障害:順序立てた行動がとれない
2. 行動異常:問題行動、常同行動など
3. 言語障害:失語など
前頭側頭型認知症(Pick病またはFTD:Frontotemporal dementia)は、人格変化や行動異常に特徴づけられる症候群。50~60歳代を中心に発症する。タウ蛋白質、TDP-43(Transactive response DNA binding of 43kD)、FUS(Fused in sarcoma)などの蛋白質の蓄積がみられる。経過は緩徐進行型で、平均約8年で寝たきり状態になり死亡する。

https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%89%8D%E9%A0%AD%E5%81%B4%E9%A0%AD%E5%9E%8B%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E7%97%87

ALSの病型分類(代表的な3型)
通常型(Alan Duchenne type):上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示す上肢型
進行性球麻痺型(PBP:Pseudo Bulbar Palsy):言語障害、嚥下障害など球症状が主体となる球型
偽多発神経型:下肢から発症し、下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ、二次運動入論の障害が前面に出る下肢型。
他にも、呼吸筋麻痺が初期から生じる例や、体幹筋障害が主体となる例などもあり多様性がみられる。

ALSの症状:初期症状
手や指、足の筋肉が弱くなりやせ細る
ALSの患者さんの約3/4の人が手足の動きに異常を感じて病院を訪れる。
箸が持ちにくい、重いものを持てない、手や足が上がらない、筋肉がぴくつく、筋肉の痛みやツッパリなどの自覚症状があるなど。
話しにくくなったり食べ物を飲みにくくなる(球症状)
舌、ノドの筋肉が弱くなる。ALSの患者さんの約1/4が、球症状を最初に訴える。
舌の動きが思い通りにならず、言語が不明瞭になる(コミュニケーション障害)
食べ物や唾液を飲み込みにくくなり、むせることが多くなる(嚥下障害)

ALSの症状:進行すると
全身の筋力が弱くなる
運動、コミュニケーション、嚥下、呼吸などの障害が進行する
次第に手足の筋肉が痩せてきて、力が入らず歩いたり動いたりすることが困難になる。
言葉を発することが困難になる。
食べ物を飲み込めなくなり、チューブを通した栄養が必要になる(経管栄養)
呼吸筋の筋力低下により呼吸困難を生じる。初期には夜間十分眠った気がしない、頭重感などの症状だが、徐々に進行すると呼吸器の補助が必要となる。

ALSでは現れ難い4つの症状
1. 眼球運動障害:目の動きは障害されないことが多い。『瞬きワープロ』を使って瞼と眼球の動きで意思表示が可能である。
2. 膀胱直腸障害:膀胱直腸障害はほとんどない。尿意・便意の感覚も正常である。
3. 感覚障害:視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚などの知覚神経は正常である。
4. 床ずれ:褥瘡になりにくい。皮膚のコラーゲンの変化が生じていると考えられている。


ALS診断手順と診断の困難さ
緩徐進行性の上位および下位運動ニューロン障害を示唆する所見を確認し、他の疾患を除外する。
約20%の患者さんで類似の神経疾患(頸椎症、筋疾患、末梢神経障害など)との鑑別が問題になる。
MRI等の画像診断、針筋電図、神経電速度検査等の諸検査を施行する。
ALSの初期症状を自覚した時に受診した診療科は、整形外科30%、一般医28%、脳外科10%耳鼻科4%と多岐にわたっている。

初発症状を自覚してからALSの確定診断を得るまでにかかった時間は、岩崎氏の調査では、日本で平均12.9ヶ月を要しており、スペインでは15.3ヶ月、イタリアでは21.9ヶ月かかっている。



検査所見
筋電図

神経原性電位:神経変性のため脱神経状態になった後、残存する運動単位MU(Motor Unit)の側がより再生が生じ、一つのMUが支配する筋線維数が増大するために、高振幅で持続時間の長いMUP (Motor unit action potential)となり、MU数は減少する。


運動単位電位(Motor Unit Potential)
弱随意収縮による運動単位の評価:ここのMUが分離されて記録されるように、針の位置、収縮の力などを加減する。
正常波形:3相程度、振幅:0.4~1.0mV程度、持続時間:4~15msec程度

異常
神経原性:High amplitude(Giant Spike)高振幅電位:3mV以上、Long duration持続時間が長い:20msec以上、Polyphasic 多相性電位:5相以上

筋原性:Low amplitude低振幅電位:0.2~0.3mV以下、Short duration持続時間は長くならない、Polyphasic 多相性電位:5相以上


安静時正常筋電図:振幅のレンジは200μV/div

神経変性が脱神経状態になった後、残存するMUの側がより上図のように再生が起こり、再生が完成すると、一つのMUが支配する筋線維数が増大するため、高振幅で持続時間の長いMUPとなるが、MU数は減少する。

線維束攣縮(Fasciculation):一つのMUPの自発性放電で、筋萎縮性側索硬化症では四肢筋でよく観察されるが、正常でも見られる。

ビギナーのための筋電図(EMG)入門
http://www2.oninet.ne.jp/ts0905/emg/emgsemi.htm

干渉波:随意収縮時に複数のMUAPが重合して生じる電気的筋活動。
正常では、筋出力が増大すると干渉波が筋電計のモニターが画面上を埋め尽くす「完全干渉」に到る。神経疾患で運動単位の脱落が著しい場合、最大随意収縮時においても干渉波の形成が不十分となる(減少動員:poor recruitment)。


ALS診断のための検査:MRI
ALSでは通常MRIでは異常所見は見られないが、他疾患の鑑別が主な役割。
時にFLARIRやT2強調画像で、皮質脊髄路にそって高信号が認められることがある。
内包後脚および大脳脚に淡いT2高信号が認められる。

大脳脚レベル以下や中心前回皮質下まで続く高信号はALSの病的変化と考えられる。
T2強調像や磁化率強調像で中心前回皮質の信号がみられる頻度が高い。
 
http://radbeginner.blog.fc2.com/blog-entry-134.html

ALS早期診断によるメリット
患者さんの不安を取り除き、ALSに対する理解を深め、早期に「受容」のプロセスへ導くことができる。
薬物療法や理学療法などのリハビリテーションを早期から開始できる。
将来出現してくる症状を事前に知ることにより、新たな生活や環境を整えるための時間を多く確保できる。
各種支援制度への申請・受給を早くおこなえる。

ALSの治療
薬物療法:根本的な治療法は現時点では存在しない。
リルゾール(リルテック):欧米で施行された1994年の155例に投与された臨床試験でALS患者の生存期間が延長し、特に球型でより明らかであった、筋力低下の進行速度が遅延したとの知見も得られた。日本人を195人対象にした臨床試験が1997年におこなわれたが、実薬群とプラセボ群では差がなく、有意な効果を認めなかった。
https://neurology-jp.org/guidelinem/pdf/als_10.pdf

エダラボン(ラジカット)
ALS137名に対して、二重盲検並行群間比較により、ラジカット60㎎を6クール投与した時の臨床研究でALSFRS-Rスコアの低下が緩やかであった。

https://medical.mt-pharma.co.jp/intro/rct/als/test.shtml
ALSFRS-R(ALS機能評価スケール)

人工呼吸器による呼吸管理
呼吸筋の麻痺が強く、気管切開では呼吸が維持できない場合、希望があれば人工呼吸器の使用を行う。
栄養・食事
少量で十分な栄養が取れるよう高栄養の食事を主体とする。

(Lancet 2014;383:2075-72)
適度なトロミ、粘度、水分を持った食品
嚥下障害が強く口から食べられない場合は、経鼻経管栄養、胃瘻増設を考慮する
http://www.nanbyou.or.jp/entry/52

参:
座談会:ALSの早期確定診断
日本ALS協会

すべてがわかるALS・運動ニューロン疾患
人工呼吸器装着中の在宅ALS患者の療養支援 訪問看護従事者マニュアル
医療ニーズの高い難病患者支援の手引き~筋委縮性束察硬化症患者への支援~
日本神経学会 筋委縮性硬化症診療ガイドライン2013

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2016年11月21日 月曜日

脊髄小脳変性症 山口滋紀 先生

2016年11月03日 
演題「脊髄小脳変性症
演者: 横浜市立市民病院神経内科部長 山口 滋紀先生
場所:神奈川県総合医療会館
内容及び補足「
概念:歩行時のふらつきや手の震え、呂律が回らないなどの小脳性運動失調(動かすことはできるが、上手に動かすことができない)を主症状とし、病理学的に小脳あるいはその連絡路に主座を持つ原因不明の変性疾患の総称。
有病率は10万人当たり5~10人。
遺伝性と孤発性に分けられる。
病変部位によって小脳求心路障害と遠心路障害に分けられる。
小脳は大脳の後下方、脳幹の後ろ側に位置する臓器である。

脊髄小脳変性症は以下のように分類される。

https://medicalnote.jp/contents/160428-002-EJ

小脳性運動失調:
歩行障害:歩行時のふらつき、転倒が多くなる。
四肢失調:手足を思い通りに動かせない。(箸を使えない、字が上手くかけないなど)構音障害:呂律が回らなくなる。
眼球運動障害(眼振):姿勢を変えたりした時やある方向を中止した時に眼振がみられる。
姿勢反射失調:姿勢がうまく保てず倒れたり傾いたりする。
自律神経症状・不随意運動:
起立性低血圧:急に起きあがった時に血圧が低下し、めまいや失神が生じる
睡眠時無呼吸
発汗障害
排尿障害(神経因性膀胱):排尿困難や頻尿がみられる。尿路感染症を併発しやすい。
ミオクローヌス、舞踏病、ジストニアなどの不随意運動がみられる。

皮質性小脳萎縮症CCA:Cortical Cerebellar Atrophy
中年期以降に発症し、小脳性運動失調症状が主体で、パーキンソニズムや自律神経症状は認めない。
進行は緩徐で生命予後も良好である。
アルコール、薬物など二次的な小脳萎縮症との鑑別が重要である。
小脳の上極に萎縮が強い


多系統萎縮症MSA:Multiple System Atrophy
主に、歩行時にふらつく、腕や手がうまく使えない、言葉が不明瞭になるなどの症状が出る「オリーブ橋小脳萎縮症」、筋肉が固くなり、動きが遅くなるなどの症状が出る「線状体黒質変性症」、排尿障害や立ちくらみ、発汗障害などの自律神経にかかわる症状が主な「シャイドレーガー症候群」の三つの総称。
小脳系、大脳基底核、脊髄、自律神経系など複数の系統が障害される。

www.kamagaya-hp.jp/center/kc_mind/pdf/120123_01.pdf

オリーブ橋小脳萎縮症OPCA:Olivo-pontio-cerebellar Atrophy(MSA-C)
中年以降に発症する孤発性疾患であり、遺伝性はない。初発・早期症状として、小脳性運動失調が前景に現れ、経過とともにパーキンソニズム、自律神経症状を呈する。小脳・橋(特に底部)の萎縮を認める。
MSAの約70%を占める。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11960896

病因は不明である。病理は小脳全層の細胞変性、胸核ニューロンの消失、黒質メラニン含有細胞の脱落を認める。
広範囲にリン酸化αシヌクレイン陽性となる封入体がみられる。αシヌクレオパチーと呼ばれる。
MSAの病理は進行するとMSA-C(小脳症状優位のもの)、MSA-P(パーキンソン症状優位のもの)ともに共通の病理像を呈する。

https://www.nichirei.co.jp/bio/tamatebako/pdf/diag_06_dr_haga.pdf

症状:発症年齢は40~60歳代で小脳症状から発症する。
失調性歩行を呈し、進行とともに上司の失調、眼振、緩徐言語、断綴(だんてつ)言語(発語が爆発的であり、急に速度が落ちたり途切れたりする、急に調子が変わり音節が不明瞭で聞きにくく酔っぱらいのような話し方)を呈する。
小脳症状発症から2~5年後にパーキンソニズムや自律神経症状が加わる。
進行すると仮性球麻痺による嚥下障害や喉頭喘鳴(声門開大不全)を認める。

診断
問診・臨床経過、CT/MRIなどの画像診断によって行う。
小脳失調があって家族内発症がなく、CTやMRIで胸底部の著明な萎縮を認める。
症候性小脳萎縮症(アルコール中毒、癌性、フェニトイン中毒、甲状腺機能低下)との鑑別が必要。

治療
著効を占めるものはないが、プロチレリン(注射、内服)がある程度有効である。
画像では脳幹中心部に十字サイン(Hot Cross burn sign)を認め、脳幹・小脳客の萎縮を反映し第四脳室の拡大を認める。


線状体黒質変性症(MSA-P)SND:Striato-nigral Degeneration
疫学・概念:
線状体(特に被殻)の神経細胞変性によりパーキンソニズムを呈する。
パーキンソニズム優位の多系統萎縮症(MSA-P)とも呼ばれる。
発症は平均約58(35~79)歳。本邦では、特定疾患のうちMSAとして約1万1千件のうち約30%が本性と思われる。有病率は10万人当たり1~3人。

症候:
筋固縮、無動(動作緩慢、動作の減少)、姿勢反射障害などのパーキンソニズムが中心。
安静時振戦は少ない。進行とともに歩行時のふらつき、構音障害など小脳失調症状や排尿障害、起立性低血圧などの自律神経症状や錘体路徴候が加わる。
夜間の喘鳴や睡眠時無呼吸などが早期から認められることがあり突然死の原因となる。

診断:
初期はパーキンソン病との区別は困難
徐々に後パーキンソン病薬の危機が悪くなり、小脳失調症状や自律神経障害が加わってくる。
MRI所見で、線状体の被殻の萎縮、T2低信号、外側の線条の高信号に加えて、小脳や橋の萎縮、T2強調画像での橋の十字の高信号(Hot Cross burn sign)、中小脳脚の高信号(中小脳脚サイン)、錘体路病変を示唆する内包、放線冠、運動野直下のT2高信号などが見られればより積極的な診断が可能。
MIBG心筋シンチグラムではほぼ正常の取り込みがある。

線状体の異常信号http://www.kawazoe-nshp.or.jp/info0211/q&a/biyou/02parkin.html

治療
抗パーキンソン病薬は、初期にはある程度有効であることがおおい。
自律神経症状や小脳失調に対しては対症療法が中心となる。
呼吸障害には非侵襲性陽圧換気法などの補助療法。
嚥下障害が高度な場合、胃瘻などの経管栄養が必要となることも多い。
リハビリテーションは残っている運動機能の維持に有効であり、積極的に行う。
寝たきりになることを少しでも遅らせることが大切である。
予後
抗パーキンソン病薬は、その標的である線状体の神経細胞が障害されてしまうため、パーキンソン病に比べると聞きが悪い。
小脳症状や自律神経障害も加わってくるため全体として進行性に増悪する。
発症後平均約5年で車椅子使用、10年で臥床状態になり死に至ることが多い。
睡眠中に呼吸が止まることがあり、突然死の可能性がある。

覚醒時の吸気時には、声帯は横に広がり(A)、呼気時には狭くなる(B)。麻酔薬で寝た状態では、吸気時に声帯の隙間がスリット状に狭くなり(C;矢印)、息を吸いにくい状態となる。この状態を声帯開大不全と呼ぶ。息をはく時には少し声帯の隙間が広がる(D)。
http://www.bri.niigata-u.ac.jp/~neuroweb/laboratory/research_clinic_001.html
MSA発症にかかわる遺伝子としてコエンザイムQ10合成酵素遺伝子COQ2が発見され、コエンザイムQ10大量投与療法に期待が寄せられている。
https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/054120969.pdf

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