糖尿病系

2017年6月 3日 土曜日

糖尿病診療のピットフォール 柳瀬敏彦先生

2017年5月30日 
演題「糖尿病診療のピットフォール:内分泌からみた視点」
演者:福岡大学医学部 内分泌・糖尿病内科教授 柳瀬 敏彦 先生
場所: 横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ
内容及び補足「

糖尿病治療のトレンドは
1. 血糖変動が少ない=食後高血糖、低血糖を起こさない
2. インスリンをあまり出させない
3. 太らせない
である。これらの要求を満たす薬剤としてDPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬がある。
テネリアの投与で最高血糖値が206→191、最低血糖値88→101、平均血糖値141→135と変化しており、上記条件1を満たしている。
カナグルの投与で体重減少し、内臓脂肪も減少している。
作用機序的に見て近位尿細管近位部のSGLT2に作用するだけでなく、効果は弱いが近位尿細管遠位部のSGLT1にも阻害作用を有する。

https://medical.mt-pharma.co.jp/intro/can/action.shtml

小腸におけるグルコースの吸収は以下のステップがある。
1. 小腸上皮細胞の基底膜に存在するNaK-ATPaseが働き、一時的に小腸上皮細胞内のNa+濃度が低下する。
2. 小腸上皮細胞内のNa+濃度の不足を補うために非撹拌水層に存在するNa+が細胞内に入る。Na+が細胞内に入ると同時にグルコースが一緒に細胞内に入る(Na+/グルコース共輸送体)。この刷子縁膜側で働くトランスポーターSGLT1である。
3. 細胞内に入ったグルコースは基底膜側を促進拡散で透過する。ここで働くトランスポーターがGLUT1、GLUT2である。

http://www.yakushinkai.co.jp/member/wp-content/uploads/Y%E3%83%88%E3%83%94%E3%83%83%E3%82%AF%E2%91%A1SGLT%EF%BC%91%E3%83%BB%EF%BC%92.pdf#search=%27SGLT1%E3%81%AE%E5%88%86%E5%B8%83+%E8%85%B8%E7%AE%A1%27

カナグルのSGLT1阻害作用により、小腸における糖の吸収が遅くなり、小腸末端まで糖が吸収されずに運ばれると商業下部にあるL細胞からGLP-1が分泌され血糖値の低下に一役買うことになると考えられる。
実際人においてカナグルの投与により血中のGLP-1濃度の上昇を認めている。

http://images.biomedsearch.com/23412078/2154.pdf?AWSAccessKeyId=AKIAIBOKHYOLP4MBMRGQ&Expires=1496361600&Signature=TZiYh2QvfQvc3Ql5Yx%2Bi5XLWRZo%3D#search=%27Diabetes+Care+36+215461+2013%27
テネリアとカナグルの併用でどうなるかを見た研究もある。
テネリア0.3mg/kgとカナグル3㎎/㎏、10㎎/kgの併用において著明にGLP-1の上昇を認めているが、カナグルの量による変化は見られていない。

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1347861315000687

自験例でも平均血糖値150→134、最高血糖値230→180、最低血糖値67→87と理想的な変化をきたしている。
テネリアとカナグルの合剤であるカナリアの発売後のデータに注目したい。

希少疾患は必ずしも希少疾患に非ず!?
17α-水酸化酵素欠損症:第10染色体にあるステロイド合成酵素のP450c17の先天的な障害により、ミネラルコルチコイド過剰による高血圧と性ステロイドの欠乏による性腺機能不全をきたす常染色体劣性遺伝性疾患。症例報告数としては世界中で約120余例。先天性副腎過形成の中で占める頻度は国内で2.6%(講演でのスライド:ステロイド産生異常症の推定患者数1.9%)と報告されている。
臨床症状
主症状:
1. 高血圧:低レニンACTH高値
デオキシコルチコステロンやコルチコステロンの過剰産生による若年性高血圧(まれに高血圧が認められない症例もある)
2. 性腺機能低下症(軽症例46XY症例で外性器の男性化を認める症例や軽症46XX症例で月経を認める例もある)
外陰部は女性型。原発性無月経、乳房発育不全などの二次性徴の欠落。男女とも性毛(腋毛、恥毛)の欠如。
副症状:ミネラルコルチコイド過剰による低K血症に伴い、筋力低下を認めることがある。
高血圧があり不妊症に悩んでいる人に軽症の17α-水酸化酵素欠損症の患者が紛れ込んでいる可能性がある。
症例:38歳女性 低レニン活性の精査
生理はほぼ順調で、血圧130/84、156/80-90程度の白衣高血圧があり血清レニンを測定したところ0.1㎎/ml/hと低値であり精査依頼され来院。不妊も認めていたが、陰毛や乳房の発達は良好であった。
17α-水酸化酵素活性が30%程度しかなかった。

http://www.nanbyou.or.jp/entry/185

軽度の高血圧があり、体毛が薄かったり、不妊や生理不順の有る症例においては17α-水酸化酵素欠損症の軽症例が紛れ込んでいる可能性があるので、一度この疾患の可能性について考えてみよう。

糖尿病症例の40-60%に高血圧合併がある。機序としては、高インスリン血症によりNa貯留が起こること、腎症の進行や動脈硬化の進行が血圧上昇に関与しているとされている。
アルドステロンは骨格筋におけるインスリンシグナルやグルコースの取り込みを阻害し、インスリン抵抗性を惹起する。一方、高インスリン血症はアルドステロン合成を刺激する。
したがって、アルドステロン過剰は糖尿病における治療抵抗性高血圧の原因となる。Reinckeらは23%の糖尿病患者にPAを認めたとする報告や
https://www.thieme-connect.com/products/ejournals/abstract/10.1055/s-0029-1246189

非糖尿行患者との間に差は認めなかったとする報告などがあるが、少なくとも原発性アルドステロン症(PA)の患者は糖尿病患者において少ないものではないことがいえる。
http://hyper.ahajournals.org/content/53/4/605

自験例で調べてみると糖尿病合併高血圧124例中14例でPAと確定でき11%の頻度であり、同様の結果であった。原発性アルドステロン症患者とそうでない人たちの違いは、糖尿病歴はPA群で5.21±6.51年、非PA群で13.73±11.42年、高血圧歴はPA群で12.29±11.51年、非PA群で10.15±11.90年と糖尿病歴に差が認められた。
PA例43例において糖尿病がある患者とそうでない患者の比較をしてみると、年齢はDM例で66.45歳、非DM例で55.07歳、高血圧の治療期間はDM例で17.44年に対して、非DM例では7.55年と糖尿病患者においてPAの診断が遅くなっている可能性が示唆される結果となった。
高血圧合併例の糖尿病患者で治療抵抗性の場合にはPAの可能性を考え、血液検査を行ってみよう。

サブクリニカルクッシング症候群
副腎性クッシング症候群は、副腎皮質から糖質コルチコイドが過剰に分泌される病態で特徴的な身体所見を有し、糖尿病、高血圧、骨粗鬆症などの重篤な疾患を併存する。サブクリニカルクッシング症候群は、クッシング症候群特有の身体的特徴はないが、クッシング症候群同様の併存疾患を有する。
クッシング症候群の身体的特徴としては、中心性肥満、満月様顔貌、皮膚線状、バッファロー様型、細い四肢などがある。

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/nyusen/sick/adrenal/a_sick_kind1.html

オステオカルシン:骨の非コラーゲン性蛋白質として25%を占める49個のアミノ酸からなる分子量約5500の蛋白質である。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%AA%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%83%B3
骨芽細胞で合成された後、分子中に含まれる3個のグルタミン酸残基がビタミンK依存的にγ-カルボキシル化され、Ca2+に対する親和性が大きく亢進して、ヒドロキシアパタイトと強固に結合し骨に埋め込まれるが、僅かな量は血中を循環する。血中オステオカルシンは、非あるいは低カルボキシル化状態のオステオカルシン(GluOC)と三つのグルタミン酸残基すべてがカルボキシル化されたGlaOCの二つの形態で存在している。ホルモン活性を持つのはGluOCである。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/145/4/145_201/_pdf

2007年に、Karsentyらのグループにより、オステオカルシンノックアウトマウスでは糖負荷の際のインスリン分泌低下、血糖値の上昇、インスリン投与時の血糖値の低下の減少がみられ、インスリン感受性の低下も認められ、糖代謝異常を呈することが示された。

また、ラットβ細胞由来細胞株INS-1やマウス単離ラ氏島、あるいは脂肪細胞をGluOCで刺激すると、インスリンあるいはアディポネクチンの発現が誘導されることも示され、GluOCによる直接作用であること、GlaOCにはそのような効果が認められないことが示され、GluOCが活性型であると考えられている。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17693256

骨芽細胞におけるインスリンシグナリングは、1.骨芽細胞の分化を阻害する転写因子twist2の発現を抑制し、骨芽細胞の分化を促進させ、その結果オステオカルシンの合成が促進される。2.転写因子FoxO1の活性を抑制して、破骨細胞の分化を抑制するオステオプロテジェリンの発現を抑制する。その結果破骨細胞が活性化して骨吸収が亢進する。骨吸収窩の産生環境(pH4.5程度)はGlaOCを脱カルボキシル化し、ホルモン活性を持つGluOCへと変換させる。すなわち、インスリンは骨に作用して骨形成・骨吸収の両面からGluOCの産生を促し、そのGluOCは膵臓に働きかけてさらにインスリンの合成・分泌を促進する。その一方で、GluOCじゃ脂肪細胞のインスリン感受性を高め、エネルギー源の利用効率を亢進するため「骨の代謝回転→インスリンシグナリングの活性化→エネルギー代謝活性化→骨代謝活性化」というポジティブサイクルが成立する。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/145/4/145_201/_pdf

糖質コルチコイドによる耐糖能低下の機序としては、1.肝臓での糖新生、亢進2.骨格筋における糖取り込みの低下、3.高グルカゴン血症(ラ氏島過形成、グルカゴン産生細胞の増加と増大)が関与している。

現在サブクリニカルクッシング症候群の厚生省の診断基準は以下のものが採用されている。
1.副腎腫瘍の存在(副腎偶発腫)
2.臨床症状:クッシング症候群の特徴的な身体徴候の欠如(注 1)
3.検査所見
    1)血中コルチゾールの基礎値(早朝時)が正常範囲内(注 2)
    2)コルチゾール分泌の自律性:
    オーバーナイト・デキサメサゾン抑制試験の場合、スクリーニング
    に 1mg の抑制試験を行い、血中コルチゾール値 3μg/dl 以上の時、本疾患の可能性が考えられる。
    ついで 8mg の抑制試験を行いその時の血中コルチゾール値が 1μg/dl以上の時、本疾患を考える。
    3)ACTH分泌の抑制:
    ACTH 基礎値が正常以下(<10pg/ml)あるいは ACTH 分泌刺激試験の低反応。
    4)副腎シンチグラフィーでの患側の取り込みと健側の抑制
    5)日内リズムの消失
    6)血中 DHEA-S 値の低値(注 5)
    7)副腎腫瘍摘出後、一過性の副腎不全症状があった場合、あるいは付着皮質組織の萎縮を 認めた場合
検査所見の判定:1)2)は必須、さらに 3) - 6)のうち 1 つ以上の所見、あるいは7)がある時、陽性と判定する。
1、2 および 3 の検査結果陽性をもって本症と診断する。

ホルモン濃度が高い場合、組織の正常のfeedback機構から逸脱した結果によるものかを判定するため、DEX負荷試験はACTH分泌を抑制した際のcortisol分泌抑制を見るものである。
デキサメサゾンは糖質コルチコイド活性が極めて強い合成ステロイドホルモンである。
デキサメサゾンの投与によって糖質コルチコイドが過剰だと誤解した脳下垂体系は、正常ならばCRHやACTHの分泌を抑制して、糖質コルチコイドの合成は抑制されて、その代謝産物である尿中17-OHCSも減る。
抑制されない場合はfeedback経路のどこかに異常があると考えられる。大半の健常者ではこの薬物が朝の血漿コルチゾールを1.8μg/mL以下に抑制するが,対するクッシング症候群患者では事実上常にこれよりも高値となる。
したがって下垂体腺腫に基づくクッシング病ではACTHおよびコルチゾールの分泌が抑制されるが、 異所性ACTH症候群と副腎腫瘍の場合にはこれらの分泌が抑制されない。
就寝時にデキサメサゾンを服用し、翌朝に血漿中のコルチゾールが3μg/dL以下まで抑制されていれば 抑制試験陽性とされる。


32歳女性でデキサメサゾン(1㎎)の抑制試験で5.2→1.0μgと抑制された患者さんで、0.5㎎で抑制されなかった人がいた。静脈サンプリングを行うと右副腎でACTHが244.4(左5.8)と明らかな左右差があり、右副腎摘出を行った。手術により、血圧は140/100が130/80と改善し、耐糖能障害も消失した。

内臓脂肪が多い人と少ない人でコルチゾールの日内変動を見た研究がある。日内変動はほぼ同じような変化ではあるが、内臓脂肪が多い人の方がほぼ一日通してコルチゾールが高値である。

Mean ± SE plasma total cortisol levels sampled every 30 min over 24 h in the subjects with the least amount of IAF (1st tertile, ○; n = 7) and the subjects with the greatest amount of IAF (3rd tertile, ●; n = 7).(IAF:intra-abdominal fat)
http://ajpendo.physiology.org/content/296/2/E351

副腎疾患を予想せずに施行された腹部CT検査で副腎に腫瘍が発見される確率は0.35~4.36%とされ、剖検での発見率はその4倍と言われている。全国200勝以上の医療機関1014施設を対象に行われた疫学調査で、平成11年度から14年度までの4年間で3239例の検討した報告がある。男性1662例51.3%、女性1512例1512例46.7%(性別記載ない症例65例2%)、平均年齢は58.0±13.0(男性58.2±12.5、女性57.8±13.5)で、50歳代後半が多く、右44.4%、左48.7%、両側6.9%で左右差は認めなかった。腫瘍径は平均で3.0±2.2㎝で1.1~2.0cmが34.9%、2.1~3.0cmが26.5%であった。
発見の契機は、健康診断が31.5%、腹部症状の精査が17.1%、高血圧精査が12.0%であった。

副腎偶発腫における病院別頻度は、ホルモン非産生腫瘍が51.0%、サブクリニカルクッシング症候群を含むコルチゾール産生腫が11.7%、褐色細胞腫8.7%、アルドステロン産生腺腫4.3%、副腎癌は1.4%であった。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/95/4/95_4_629/_pdf

:1994年~2008年までの15年間の東北大学泌尿器科で腹腔鏡手術を行った副腎性クッシング症候群114例(男性29例、女性85例、クッシング症候群59例、サブクリニカルクッシング症候群55例)のデータを表にした。
酢部クリニカルクッシング症候群は、発見が困難なためか、クッシング症候群よりも高齢である。また、男性が多い傾向にあるが、発見腫瘍径には大きな差がなかった。
併存疾患は、両者とも高血圧、糖尿病が多いが、骨粗鬆症や骨折はクッシング症候群で圧倒的に多くみられた。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjsts/31/3/31_171/_pdf

クッシング症候群とサブクリニカルクッシング症候群を区別するためには、1㎎のデキサメサゾン抑制試験でコルチゾール濃度が1.8μg/dLが必須である。ACTH基礎値が10pg/ml未満、CRTでのACTH低反応、深夜血中のコルチゾール濃度が5μg/dL以上(通常は15μg/dL以下)も有用である。



まとめると、以下のような診断基準が推奨される。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/endocrj/60/7/60_EJ12-0458/_pdf

治療として手術が選択されたときに合併症がどうなるかを見てみると、糖尿病:改善36例、不変27例、悪化1例、IGT:改善40例、不変31例、悪化4例、肥満:改善29例、不変36例、悪化4例、高血圧:改善48例、不変31例、悪化2例であった。
副腎癌の症例はおおむね腫瘍径が3㎝以上であった。

参考までに副腎皮質腫瘍(原発性アルドステロン症、クッシング症候群/サブクリニカルクッシング症候群、非機能性腺腫)の外科的治療の長期予後は以下の表のように報告されている。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjsts/29/1/29_26/_pdf
手術により必ずしも前例がよくなるわけではないと言える。

ターナー症候群:女性のうち4000人に一人の頻度で生じる染色体異常(45XO)で、低身長、性腺機能低下、翼状頚、外反肘などの身体的特徴を示す疾患で自然流産の原因の一つである。成人後の平均身長は139㎝と低い。女性ホルモンが正常に分泌されないので、二次性徴が起こらず、胸の発達や恥毛、わき毛の発育がなく、卵巣が発達しないので、卵子が産生されず、月経の発来もない。まれに卵子が産生されて排卵があり、受精しても(妊娠率1%程度)、妊娠維持のために必要なホルモンが不足するので、ほとんどが流産され

顎が小さく、耳介が尖っている。

http://plaza.umin.ac.jp/p-genet/atlas/06-2.html


翼状頚:首の周りの皮膚がたるんで、首から肩にかけてひだができている状態。

http://plaza.umin.ac.jp/p-genet/atlas/03-4.html


外反肘:手のひらを上に向けて手を伸ばした時、5~15度ほどやや外側に曲がって緩やかな「く」の字を呈するのが正常であるが、この角度を越えて極端に外側に曲がっている状態。

http://blog.livedoor.jp/cheers2010/archives/65416997.html

aromatase欠損マウスにおいて認められるエストロゲン欠乏状態は肝臓にSteatohepatitisを起こすが、エストロゲンの投与により肝機能が改善する。
https://www.jci.org/articles/view/9575/pdf

テストステロン
テストステロンの疫学

2型糖尿病患者におけるテストステロン値を測定したメタ解析結果を見てみると健常人よりも低値を示している。

JAMA 2006;295:1288-1299

テストステロンは、女性ホルモンのように動脈硬化の予防には働かず、むしろ悪化させるという考えがあったが、近年の疫学調査では、低テストステロンの方がむしろ有害であるという報告が出てきている。
J Clin Endocrinol Metab, January 2008, 93(1):32-33

IDDMの少なくとも25%においては低ゴナドトロピンのため、4%においては、高ゴナドトロピンのためにFree Teststeronが低値であった。
J Clin Endocrinol Metab. 2011 Sep;96(9):2643-51


Multivariate-adjusted survival by quartile group of endogenous testosterone concentrations (1 is lowest, 4 is highest) in 2314 men 42 to 78 years old in EPIC-Norfolk 1993 to 2003.
Circulation. 2007;116:2694-2701


アンドロゲン受容体ノックアウトマウスは、エネルギー代謝の低下により晩発性肥満をきたす。Diabetes 54,1000-8,2005

CT-based body composition analysis of 40-week-old ARL−/Y and ARX/Y mice. A: CT-estimated amounts of visceral fat, subcutaneous fat, and muscle in the abdominal area of L2-L4. B: Representative CT images of ARX/Y (left) and ARL−/Y (right) mice at the L3 level. The pink and yellow areas represent the visceral and subcutaneous fat, respectively. *P < 0.01 compared with ARL−/Y, n = 4.
http://diabetes.diabetesjournals.org/content/54/4/1000

アンドロゲン受容体ノックアウトマウスでは、レプチンの血中濃度は増加しているが、食事摂取量は正常であったことから、レプチン抵抗性が存在する。
睾丸摘出による内因性アンドロゲンの供給遮断により、レプチンの脳室内投与による食事摂取抑制効果と体重減少効果の減少を認め、動脈硬化の促進と内臓脂肪の増加を認めた。
702例の中年男性を11年間追いかけると147例がメタボリックシンドロームに、57例が糖尿病に移行した。Total testosterone、Free testosterone、sex hormone-binding globulin(SHBG)の濃度で比較検討するとTotal testosterone(<15.6nmol/L)とSHBGが低値であることがメタボリックシンドロームや糖尿病になる独立した危険因子であった。

Diabetes Care 27 1036 2004

20人のAndrogen-deprivation therapy(ADT)を行った前立腺がん患者でを含む58名の男性で検討したところ、ADT群で明らかにBMIが上昇し、Total testosteroneとfree testosterone濃度が低下し、メタボリックシンドロームと内臓脂肪、高血糖がADT群で多く認められた。

http://ascopubs.org/doi/full/10.1200/jco.2006.05.9741

みちのく泌尿器癌研究グループによる103例の前立腺癌に対する一年間の内分泌治療により、体重は平均で3.8%、腹囲は4.1%、BMIは3.8%増加し、総コレステロールは9%、中性脂肪は21%、LDLコレステロールは10.8%、HDLコレステロールは5%、空腹時血糖値は4.6%、HbA1cは1.7%増加した。CTで調べた内臓脂肪は32.4%、皮下脂肪は35.4%増加し、筋肉量は臍レベルで腸腰筋の面積が7.9%(40例のデータ)減少していた。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/gakkai/sp/jua2014/201404/536167.html

メタボリックシンドロームになるマーカーとして、free testosterone よりもTotal testosteroneと相関が高い理由は、SHBGの値がTotal testosteroneの数値に反映されるからである。
Women's Health Studyの参加者のうち、ホルモン諜報を受けていない閉経後女性を対象にコホート調査を行った(新規2型糖尿病患者359例、対359例)SHBGが高値であれば2型糖尿病になるリスクは女性においては、1:0.16:0.04: 0.09とであった。Physicians' Health Study 2に参加した男性のコホート研究(新規2型糖尿病患者170例、対170例)では、0.10:0.03と減少した。


脂肪肝が改善すると、SHBGは増加し,LipogenesisはSHBGを低下させ、インスリン抵抗性の原因となる可能性がある。
また、インスリンは、肝臓のSHBG産生を抑制するので、インスリン抵抗性に伴う高インスリン血症がSHBG低値の原因である可能性もある。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa0804381#t=articleResults

Myostatin:骨格筋形成抑制因子
1997年に新しいTGFβファミリーに属するペプチド性増殖因子の一つとしてGDF8(Grouth and differentiation factor 8)が発見され、遺伝子破壊マウスが作成された。その表現型は全身の骨格筋が著しく肥大する今までにないものであった。GDF8はMyostationと呼ばれるようになった。


ロンドン大学のBullough博士は、特定の組織から産生され、その組織の大きさを制御する物質の存在を想定し、「カローン」と名付けたが、マイオスタチンは「骨格筋カローン」と言えるホルモンである。農学的には健康志向に即した高品質肉の創生への応用が、医学的には、筋ジストロフィーの治療への応用が期待される。


活性型マイオスタチンが体内にない動物や人が存在し、Belgian Blue種では牛マイオスタチン遺伝子の937番目から947番目までの11塩基の欠失によるフレームシフトで、成熟体領域の欠損が生じ、Piedmontese種では、牛マイオスタチン遺伝子の1056番目のグアニンがアデニンに点突然変異した結果、成熟体領域内の313番目のシステインがチロシンに置換されている。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/45/3/45_3_186/_pdf

人においてもドイツで報告された。この男児は、申請時のころより、手足の筋肉が発達しており、5歳にして3㎏のダンベルを軽々と持ち上げた。マイオスタチン遺伝子のイントロン部の点変異のため、素早い対応、丁寧な梱包ありがとうございました。プライシング以上によって、体内で成熟型マイオスタチンが作られないことがわかっている。現在までにこの男児には精神発達遅滞や心筋の異常はみられていない。母親はヘテロ変異とされ、運動選手として活躍していた。
Myostatin Mutation Associated with Gross Muscle Hypertrophy in a Child

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa040933

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2016年5月30日 月曜日

CKDを考慮した血糖管理  豊田雅夫 先生

2016年5月26日 
演題「CKDを考慮した血糖管理」
演者: 東海大学医学部 腎内分泌代謝内科助教授 豊田雅夫 先生
場所:横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ
内容及び補足「
CKD慢性腎臓病があると心血管疾患や死亡リスクが高いことがわかっている。1120295人の成人(平均年齢52歳、女性55%)をeGFRに着目して、2.84年経過を見た研究がある。
eGFRが45よりも低下したころから死亡や心血管イベントが増加しているのがわかる。


http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa041031

日本人の心血管疾患(CVD)、脳卒中(stroke)、死亡の相対危険度はCKDの基礎疾患によって変わってくる。
脳卒中や死亡リスクは、高血圧性腎疾患が高いが、心血管疾患は糖尿病性腎症の群で危険度が高い。

http://www.nature.com/hr/journal/v34/n10/full/hr201196a.html


2004年1月から2005年6月にかけて慢性心不全の増悪により日本循環器学会認定研究施設164病院に入院した患者2675例の背景や治療内容、予後データを解析したJCARE-CARD試験は平均年齢71歳、心不全患者の一年死亡率は7.3%、心不全増悪による再入院率は、半年以内で27%、一年後は35%であり、高い再入院率は欧米の報告と同様であった。これらの症例を対象に、CKDが長期予後に与える影響について解析が行われたが、eGFRが60以上の患者に比較して、30未満や透析が行われている患者の全死亡あるいは心不全増悪による再入院リスクは2.57倍に上昇することが明らかになった。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/73/8/73_CJ-09-0062/_pdf
http://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse492.pdf
以上をまとめると、糖尿病患者のCKDの治療が患者予後を改善させるために重要であることがわかるが、臨床上幾つかの問題点がある。
1 経口糖尿病薬は遷延性低血糖を起こす危険性がある
2 代謝排泄経路が腎臓である薬は禁忌となることが多い
3 インスリン導入しても透析による血液中の濃度の変化や透析による食事時間のずれによる血糖値の変動が生じる→透析日、非透析日でインスリンの単位数の打ち分けが必要である
積極的に血糖値を下げたために却って死亡率が増加した研究が幾つか報告され、低血糖、体重を増加させない薬剤が望まれるようになり、DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬に期待がもたれ、実際よく使われるようになってきた。


DPP-4阻害薬の比較を表にしてみた。
CKD患者に安心して使える薬としてはリナグリプチンが挙げられる。


SGLT2阻害薬であるトホリフロジンの投与で腎保護効果の可能性が井口らにより報告されている(医薬ジャーナル 50(9), 170-181, 2014)。
SGLT2阻害薬投与により、血糖値の低下ばかりでなく、体重、血圧も低下し、脂質異常も改善している。
Canagliflozinの100㎎を低下した症例でのeGFR値は投与初期においては一時的に低下するが、52週間投与ではPlaceboとの差は消失している。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/dom.12348/full

1週間後にはDapagliflozin 5㎎、10㎎投与群で血清クレアチニン値がそれぞれ+0.13mg/dL、+0.18mg/dL上昇したが104週目には差が消失した。

http://www.kidney-international.org/article/S0085-2538(15)56274-1/pdf

SGLT2阻害薬の腎臓保護効果の機序については現在いろいろと研究されている。
ナトリウム/グルコース共輸送体(sodium/glucose cotransporter:SGLT)は細胞内外のナトリウムイオンの濃度差を駆動力として糖を細胞内へと取り込む能動輸送を行う。
腎層の尿細管曲部(S1セグメント)には低親和性でグルコース輸送能が大きいSGLT2が、尿細管直部(S3セグメント)には高親和性でグルコース輸送能が小さいSGLT1が存在し、腎臓の糸球体でろ過されたグルコースを再吸収している。
腎臓におけるグルコースの糸球体濾過量は一日当たり180gにも達するが、正常人ではそのほとんどが近位尿細管で再吸収される。血糖値の上昇とともに糸球体でろ過されるグルコース量も増加してくるが、近位尿細管におけるグルコースの再吸収量には限界があり、糖再吸収極量といわれ、健常男性では薬375mg/分であり、糸球体でのグルコース濾過量がこの値を超えると尿糖が出現する。
しかし、尿糖が出現する血糖値の排泄閾値は、個々のネフロンにおける再吸収量のばらつきなどの影響により、糖再吸収極量に達する前に尿糖が出現し、およそ180㎎/dL程度と考えられている。
2型糖尿病患者では、正常者と比較すると近位尿細管でSGLT2が高発現し、糖再吸収極量が上昇していることから、SGLT2の機能亢進が高血糖の維持に関与すると考えられている。
このSGLT2発現亢進がナトリウムの再吸収も亢進させている。そのため、マクラデンサへのNaClの輸送が減少し、輸入細動脈が拡張することで糸球体内圧が亢進していると考えられる。
SGLT2阻害薬を投与すると、近位尿細管での糖およびナトリウムの再吸収が抑制=ナトリウムの排泄が促進され、マクラデンサへのNaCl輸送が増加し、輸入細動脈が収縮し、糸球体内圧が低下(糸球体過剰濾過が抑制)することにより、腎保護効果がみられると考えられている。

http://igaku.co.jp/pdf/1507_tonyobyo-03.pdf
肥満2型糖尿病患者に対して低糖質食(1000Kcal、蛋白:炭水化物:脂質=25:65:10)と高糖質食(1000kcal、蛋白:炭水化物:脂質=25:40:35)の食事療法を行った11人の研究結果では、両群ともに体重や血糖値、総コレステロール値、中性脂肪値は減少した。しかし、低糖質将軍では、空腹時インスリン値は低値を示し、HDLコレステロール値はより上昇し、内臓脂肪の減少が顕著であった。






http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15331203

file:///C:/Users/PCUser/Downloads/miyashita-2004.pdf
しかし、CKDが合併していると、脂質摂取量の増加に伴い、総コレステロール値やLDLコレステロール値の増加や蛋白の摂取量の増加によるGFRの低下、蛋白脂質摂取量の増加による尿の酸性化などが懸念される。
従って、糖質の摂取量を減らしつつ、脂肪や蛋白質の増加を来さない対応が望ましく、そうした変化を実現できそうな薬剤としてSGLT2阻害薬が注目される。
2型糖尿病で心血管リスクの高い7020例にSGLT2阻害薬のEmpagliflozinの10㎎および11㎎投与を行った臨床試験(主要複合転帰:心血管系死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)が行われた。
主要転帰は、Empagliflozin投与群では4687例中490例(10.5%)、プラセボ群の2333例中282例(12.1%)で統計上有意差は認めなかったが、心血管系の死亡(3.7%:5.9% 38%の相対リスク減少)や心不全による入院率(2.7%:4.1% 35%の相対リスクの減少)、全死亡率(5.7%:8.3% 32%の相対リスクの減少)で有意差を認めた。




http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1504720
一人の患者の有害事象を減少させるために何人を治療する必要があるかを示すNNTは、4Sとして有名なScandinavian Simbastatin Survival StudyでNNTが30、HOPE研究のラミプリルが26であるが、これらの薬が使われている現状で、Empagliflozin投与でのNNTが39という数字であることは、ある意味驚異的な数字と考えることができる。

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2016年3月22日 火曜日

膵β細胞目線で考えたインクレチン薬 吉田昌史先生

2016年3月10日 
演題「膵β細胞目線で考えたインクレチン薬の効果的な使用法」
演者: 自治医科大学付属埼玉医療センター 内分泌代謝科 助教 吉田昌史先生
内容及び補足「
今回の吉田先生の講演は、リズムの良いウイットのある講演内容だったのですが、その会話を再現することが困難なので、基礎知識をはじめに記載し、後半に講演の用紙を記載しました。

参:
インスリンの分泌顆粒:電子顕微鏡的研究によると、各β細胞には10,000~13,000この顆粒があり、そのうち約600個が細胞膜にdockしている(Olofssonら、2002)。約1500個は細胞膜内側表面から0.2μm以下のところにあるL-type Ca2+チャンネルの周りに分泌顆粒は集積している(Wiserら、1999)。
http://physiology.jp/wp-content/uploads/2014/01/071010006.pdf

インクレチン:1906年に腸粘膜の抽出物が尿糖を減少させる働きがあることが明らかになり、1932年La Barreによってインクレチンと名付けられた。1962年にグルコースを経口投与した場合に静脈投与に比べてインスリン分泌が促進されることが報告され、その原因因子としてインクレチンが注目された。

http://www.igaku.co.jp/pdf/1108_tonyobyo-4.pdf

糖負荷後の総インスリン分泌の半分以上は、インクレチンによるインスリン促進作用といわれており、食後血糖維持に大きく働いている。(J Clin Endocrinol Metab 1986;63:492-8)
GIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)は、1971年にBrownによって同定された、豚の腸管から単離された42個のアミノ酸からなる一本鎖のポリペプチドで、胃酸分泌を抑制する作用がありgastric inhibitory polypeptideと名付けられたが、人の胃酸分泌の抑制作用がほとんどなく、グルコース依存性にインスリン分泌を強力に促進することが見いだされ、GIPと呼ばれるようになった。人においては十二指腸、上部小腸に局在するK細胞から活性型GIP(1-42)として分泌され、N末端2残基がDPP-4により切断されて、不活型GIP(3-42)に分解される。この半減期は欧米健常者で約5分とされている。
GLP-1(glucagon-like peptide 1)は、1987年にインクレチンであることが証明された。下部小腸に存在するL細胞から分泌され、膵β細胞からのインスリン分泌の促進、グルカゴンの分泌抑制、腸管運動を抑制し、食物の吸収速度を抑え、脳に働き満腹感を惹起する作用が認められているが、DPP-4により約2分で分解され効果を失う。

http://www.igaku.co.jp/pdf/1108_tonyobyo-4.pdf


http://plaza.umin.ac.jp/~y-dm/npo-image/h22kouen%20slide.pdf

GLP-1とGIPの作用を比較すると以下のようになる。

http://medical.nikkeibp.co.jp/all/special/novo/vic/3-1.html

インスリンの分泌機構は、グルコースがβ細胞に取り込まれ、代謝によりATPが産生され、ATP/ADP比が増大し、ATP感受性カリウム(KATP)チャンネルを閉じ、細胞膜の脱分極が生じ、電位依存性カルシウムチャンネル(voltage-dependent calcium channels:VDCC)が開口による細胞内Ca2+濃度の上昇によって、インスリン顆粒の開口放出が起こる(グルコース代謝依存性経路:惹起経路)。
SU薬は、このKATPチャンネルに作用する。
炭水化物や蛋白質、脂質を摂取することでGIPとGLP-1は分泌され、特にGIPはGLP-1に比較し、脂質に対する刺激によりか分泌する。分泌されたGIPとGLP-1は血行性に運ばれ、膵β細胞膜上にあるGIP受容体とGLP-1受容体に結合する。
GIP受容体とGLP-1受容体は7回膜貫通型Gタンパク共役受容体でGs蛋白と共役したアデニル酸シクラーゼ(adenylate cyclase:AC)を活性化し、細胞内cAMP濃度を上昇させる。細胞内のcAMP濃度の上昇はprotein kinase A(PKA)の活性化を介して、細胞内のカルシウムの有効性を高め、グルコース代謝によるインスリン分泌を増強する(増幅経路)。
また、exchange protein activated by cAMP(Epac2)を介した低分子GTP結合蛋白Rap1などの活性化によるインスリン顆粒の開口放出促進も報告されている。
欧州人を対象とした2型糖尿病患者において、インクレチン効果は健常人に対して低下しており、2型糖尿病患者において、経静脈的にインクレチンを投与した報告では、GLP-1投与に対するインスリン分泌反応は認められたが、GIPに対するインスリン分泌促進作用は消失していた。(J Clin Invest. 1993;93:301-7)
膵β細胞でのGIPに対する反応性低下の原因として、GIP受容体発現量の低下が考えられており、高血糖の改善した状態では、膵β細胞のGIPに対するインスリン分泌促進効果が回復していることから、この反応は可逆的なものと考えられている。
http://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse1215.pdf


http://terra58.hatenablog.com/entry/2015/03/22/190000

今回の講演の趣旨:
GLP-1の生理的濃度は10~100pMであるのに、これまでのGLP-1関連の研究で使用されているGLP-1濃度は、ほぼすべての研究において10nM以上の生理的濃度が使用されているので、今まで得られた結果の臨床的価値は低いと考えられる。
生理的濃度のGLP-1が、膵β細胞の背景電流の一種であるtransmembrane receptor potential melastatin 2 (Trmp2)チャンネルを直接刺激し、インスリン分泌を増強することを発見した。GLP-1はcAMP-EPAC2を介してTrmp2チャンネルを直接制御し、静止膜電位を脱分極させることで、グルコース感受性を改善していると考えられた。
Trmp2チャンネルは背景電流の一種で、非選択的陽イオンチャンネルで、Na+、K+、Ca2+などが通過することが分かった。
GLP-1作動薬であるexendin-4を生理的濃度である10~100pMで刺激した際に、容量依存性に有意な背景電流の増加を観察した。また、native GLP-1、liraglutideでも同濃度で背景電流は増加した。
これらの変化はTrmp2チャンネルインヒビタ―である2-Aminoethyl diphenylborinate(2-APB)同時投与にて消失し、Trpm2チャネルノックアウトマウスから採取された膵β細胞に手も消失したため、exendin-4刺激により増加する背景電流はTrmp2チャネル電流であると考えられた。
この電流の増加はGLP-1受容体アンタゴニストであるexendin9-39存在下にて消失したため、GLP-1受容体を介した反応であるといえる。
膜透過性cAMPであるdibutyril cAMP投与にても同様にTrmp2電流の有意な増加が観察されたが、protein kinase A(PKA)インヒビタ―であるH89存在下でも同様の結果が得られ、PKAエンハンサーである6-phe-cAMPや6-Bnz-cAMP投与では電流の増加が観察されなかったため、PKAの関与は否定的である。
PKAと同じくcAMPの下流にあるEPAC2エンハンサーである8-pCPTにて同様の有意な電流増加が得られたため、exendin-4によるTrmp2電流の増加は、EPAC2型によると考えられる。

背景電流に対してグルコース濃度が2.8mM(50.4 mg/dL)と16.6mM(298.8 mg/dL)の差を検討したところ、高濃度で背景電流は有意に増加した。低濃度グルコースに13.8 mMスクロースで浸透圧を補正した場合には、背景電流の増加は生じなかったため浸透圧の影響は否定的である。この電流変化は、電子伝達系ブロッカーおよびEPACインヒビタ―により消失したため、糖代謝がEPACを介して背景電流を制御していることが明らかとなった。
これらの変化はTrpm2インヒビタ―(2-APB)同時投与にて消失し、Trmp2ノックアウトマウスから採取された膵β細胞にても消失したため、Trmp電流であると考えられる。
Exendin-4刺激によるTrmp2電流変化はグルコース濃度依存性であるが、EPAC2アクティベータ(8-pCPT-AM)投与では、Trpm2は2.8mMグルコース中においても最大反応を示した。
これらの結果より、グルコース代謝およびGLP-1は、両者ともEPAC2を介して膵β細胞Trpm2電流を増加させ、インスリン分泌を促進することが示された。
グルコース代謝は、K-ATP(外向き電流)を減少させるだけでなく、EPAC2を介してTrpm2電流(内向電流)を増加させることでインスリン分泌を促進し、GLP-1はそのTrpm2経路を増強する。
https://kaken.nii.ac.jp/pdf/2013/seika/CFZ19_11/32202/24890219seika.pdf


インクレチン効果は、インスリン分泌促進増強ではなく、血糖上昇時のインスリン分泌反応を良くしているといえる。インクレチンの最大効果は、空腹時血糖値を低下させるときではなく、食後血糖値の上昇を下げるときに見られる。その効果は、血糖値が100前後の時が強いといえる。


http://diabetes.diabetesjournals.org/content/63/10/3394

参:
Trpm2チャンネル:Trpm2チャンネルは膵臓β細胞に強く発現しているcADP-riboseが室温ではTrpm2受容体を活性化しないが、体温近傍の温度ではTrpm2受容体と結合して活性化する温度受容体であることが分かった。

http://www.nips.ac.jp/biomol/Res_TRPM2.html

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2014年11月25日 火曜日

グルカゴンからみた2型DMの薬物療法の考え方 北村教授

2014年11月12日 崎陽軒本店
演題「グルカゴンからみた2型糖尿病の薬物療法の考え方」
演者:群馬大学生体調節研究所教授 北村忠弘先生
内容及び補足「
糖尿病及びその疑い患者は1980年代には日本人の100人に一人ぐらいの割合であったが、2010年には6人に一人となっている。1960年からの50年間で50倍にもなっている。これだけ急増した疾患は人類史上他にはない。

糖尿病の原因としては肝臓、筋肉、脂肪組織におけるインスリン抵抗性と、唯一のインスリン低下作用を持つインスリンを分泌するβ細胞障害、血糖上昇作用を有するグルカゴンを分泌するα細胞障害がある。
2003年に行われたヒトゲノムワイド解析の結果わかったことは、糖尿病感受性遺伝子と考えられるものが100個以上存在するが、その8割以上が膵ラ氏島関連遺伝子であり、今まで積極的に研究されたり、対応策が打ち出されてきたインスリン抵抗性に関するものが2割にも満たないことは少し意外であった。
研修医になりたての頃の糖尿病治療薬はSU薬とビグアナイドのみであり、乳酸アシドーシスの副作用のためビグアナイドはほとんど使用されておらず、SU薬療法とインスリン治療が主流であった。
1995年ごろからαGIやチアゾリジン誘導体などが発売され、2010年には、ビグアナイド系が見直され、メトグルコが発売され、翌年インスリン分泌促進薬であるシュアポストも発売された。その後GLP-1受容体作動薬や、DPP-Ⅳ阻害薬、SGLT2(sodium-dependent glucose transporter2)が発売され、治療薬に幅が出てきた。


Roger H. UngerとAlan D. Cherringtonが2012年に以下のように述べている。
1921年インスリンが発見され、インスリン投与によりIDDM患者の血糖値が速やかに改善し、患者予後が改善されることより、糖尿病の病態は、インスリンが中心であるというinsulinocentric説が翌年に唱えられた。
1923年にグルカゴンが発見されたが、測定系もないことからほとんど注目されてこなかった。
1959年にRIA法による測定系が開発されたが、精度に問題があるため、グルカゴンの研究はほとんど進展をみなかった。
1975年にRoger H. Ungerらが、糖尿病の病態は、インスリンだけでなく、グルカゴンも影響しているというBi-hormonal説を提唱したが、ほとんど注目されなかった。
しかし、2011年に、Roger H. Ungerは糖尿病の病態の中心的な役割をなしているのは、グルカゴンであるというGlucagonocentric説を唱え、グルカゴンが注目を浴びるようになってきた。日本糖尿病学会においても、2013年に初めて、グルカゴンルネッサンスというタイトルでシンポジウムを開催し、本年度も同様のタイトルでシンポジウムを開催し、多数の方に参加してもらえた。
http://www.jci.org/articles/view/60016
Roger H. UngerがGlucagonocentric説を唱える根拠となった実験を見ていこう。
① Aidan S. Honcockらは、通常マウス(control)とα-cell transcription factor欠損マウス(Arx)の二群に 糖尿病マウスを作製する際によく用いられる薬剤streptozotocin(STZ)を投与して、血糖値の変化を見た。Control群は徐々に血糖値が上昇してくるが、Arx群では血糖値の上昇がみられなかった。このことは、グルカゴンが存在しないときには、インスリンの欠乏のみで血糖値の上昇が来ないことを示唆しているといえる。

http://press.endocrine.org/doi/full/10.1210/me.2010-0120
② Lee Yらはα細胞欠損マウスではなく、グルカゴン受容体欠損マウス(Gcgr-)を作製して同様の実験を試みている。
下図のCのように、グルカゴン受容体欠損マウスGcgr-では、STZを投与してインスリンの分泌がなくなっても、血糖値が上昇してこなかった。このことは、グルカゴンが存在していても、肝臓にグルカゴン受容体が存在しない=肝臓にグルカゴンが作用しないと、血糖値が上昇してこないことを示している。

A: Comparison of food intake in nondiabetic and STZ-treated Gcgr+/+ (■) and Gcgr−/− (□) mice (n = 6). B: Comparison of body weight in Gcgr+/+ (■) and Gcgr−/− (□) before and after STZ induction of β-cell destruction. C: Comparisons of weekly nonfasting glucose levels in Gcgr+/+ (●) and Gcgr−/− (□) after STZ-induced β-cell destruction, and overnight fasting glucose levels for Gcgr+/+ (♦) and Gcgr−/− (◇) at the end of the study (n = 6). D: Glucose values for oral glucose tolerance test (OGTT) (2 g/kg) performed after a 16-h fast in normal Gcgr+/+ (●), Gcgr−/− (☐), and STZ-treated Gcgr−/− (▲) mice (n = 4). E: Insulin levels for OGTT in normal Gcgr+/+ (●), Gcgr−/− (☐), and STZ-treated Gcgr−/− (▲) mice (n = 4).
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21270251
③ さらにLee Yらはアデノウイルスルを用いて、このグルカゴン受容体欠損マウスGcgr-にグルカゴン受容体の遺伝子を導入して、血糖値の推移をみている。下図DのようにAdv-GcrR感染群は血糖値の上昇が、アデノウイルス感染の効果が持続している8日目までは高血糖が持続し、遺伝子発現が消失する8日目以降においては、速やかにグルカゴン受容体欠損マウスと同じ血糖値にまで低下している。

このことは、グルカゴンが肝臓に作用している期間においてのみ、血糖値の上昇がみられ、糖尿病の病態が発現していることを示唆している。

The effects of transient transgenic expression of GcgR in the liver of insulin-deficient GcgR-null mice upon markers of glucagon action and upon blood glucose levels. (A) Pattern of liver GcgR mRNA expression before and after injecting Adv-GcgR into insulin-deficient GcgR−/− mice. (B) Densitometric measurements of CREB, a transducer of glucagon action, in GcgR−/− mice before, during, and after expression of adenovirally delivered GcgR cDNA (P < 0.01). (See Fig. S1 for a representative immunoblot). (C) PEPCK mRNA in intact WT (open column) and in streptozotocinized GcgR−/− mice (solid column) before and at 5 and 10 d after the administration of adenovirus containing the GcgR cDNA (*P < 0.01; **P < 0.001). (D) Blood glucose levels (mean ± SEM) in GcgR−/− mice injected adv-β-gal (○) and Adv-GcgR (■) after destruction of β-cells by high-dose STZ (**P < 0.001).
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22891336
これらの実験から見えてくることは、インスリン分泌や作用がなくなっても、それだけでは血糖値の上昇はなく、インスリンの分泌や作用がなくなったことに加えて、グルカゴンの作用が存在して、はじめて血糖値が上昇するということである。

メトホルミンなどのビグアナイド系薬剤は、50年ほど前から肝の糖産生を抑制する血糖降下薬として使われてきたがその作用機序の詳細は不明であった。
10年ほど前に、メトホルミンの血糖降下作用は、ATP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化して肝臓の糖放出の抑制と筋肉のグルコース取り込みの更新による機序が示された。

しかし、2010年にAMPKやその上流のLKB1の欠損した肝臓や肝細胞でもメトホルミンの血糖降下作用が認められるので、それ以外の作用が存在することが想定されていた。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20577053
肝細胞において、グルカゴンは、グルカゴン受容体を刺激してATPをcAMPに変換し、このcAMPがPKA介して、肝臓における糖新生を促進している。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23292513
2013年にRussell A. Millerらにより、メトホルミンが容量依存的に、この糖新生を抑制することにより、血糖値を低下させているということが示された。

Biguanides inhibit cAMP production
A. Primary hepatocytes were incubated with the indicated phenformin concentrations for 2 hours, 5 nM glucagon for 15 minutes, lysed, and assayed for total cellular cAMP and protein. N=4 for each point. B. Primary hepatocytes incubated with the indicated concentration of phenformin for 2 hours were extracted with perchloric acid and cellular nucleotides quantified by HPLC. N=4 for each point. C-D. Primary hepatocytes were incubated with the indicated concentration of phenformin (C) or metformin (D) for 24 hours, treated with 5 nM glucagon, lysed, and assayed for total cellular cAMP. N=4 for each point. E. Primary hepatocytes were incubated with the indicated concentrations of phenformin for 2 hours, treated with 5 nM glucagon, lysed, and PKA kinase activity determined. N=6 for 0 and 1000 μM phenformin groups, N=4 for 100 and 300 μM phenformin groups. F. Primary hepatocytes were incubated with phenformin for 2 hours, then glucagon, and protein was analyzed by western blot with the phospho-PKA substrate motif antibody, total and phospho-PFKFB1 antibodies, and total and phospho IP3R antibodies. Error bars represent standard error.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3573218/figure/F1/
メトホルミンの低用量は肝細胞や骨格筋での糖の取り込みを促進し、高容量では肝細胞でのグルカゴンによる糖新生をブロックして、より血糖値を低下させていることが示唆された。

グルカゴンの詳細な研究が近年まで、積極的に行われてこなかった理由には、下記のようなものが考えられている。
① グルカゴン分泌細胞数が少ないこと(膵ラ氏島の細胞のうちβ細胞が約80%、α細胞が約10%)
② グルカゴンの分解が早く不安定
③ グルカゴン分泌細胞であるα細胞の良い培養細胞株がないこと
④ グルカゴン測定系が信頼できない
グルカゴンはプログルカゴンからプロセッシングを受けて小さくなるが、様々な切れた田があり、それによりいろいろな物質が産出され、複数のものを、グルカゴンとして測定していたため、正確な測定が困難であった。
アミノ酸配列をもとにプログルカゴンから作られるものを並べてみると下のようになる。
以前は、グルカゴンの抗体はGlicentinやOxytomodulinなどの複数のものを同時に測定していた。その後に開発されたいくつかのキットでも、グルカゴンのC末端に対する抗体で測定すると、グルカゴンの他にGlicentin1-61も測定されるし、N末端に対する抗体測定ではOxytomodulinも測定されてしまう。

GLP:glucagon-like peptide、IP:insulinotropic polypeptide
http://books.google.co.jp/books?id=1W2M1lnHeccC&pg=PA191&lpg=PA191&dq=proglucagon+%E3%81%A8Glicentin1-69&source=bl&ots=wDHAf56k-z&sig=79tz7zM4QrHMEe0oP6hGqmilw5I&hl=ja&sa=X&ei=VMFyVOWLGce2mwWc-oKACA&ved=0CB8Q6AEwAA#v=onepage&q=proglucagon%20%E3%81%A8Glicentin1-69&f=false
現在、Glucagonの両末端をサンドイッチで測定するキットを開発中である。

現在開発されている糖尿病の治療薬は、たくさんあり、近年開発されている糖尿病治療薬は多数に上る。
① グルコキナーゼ活性化薬:肝臓での糖の取り込みおよび膵臓からのインスリン分泌を促進して血糖を低下する薬剤。
② GPR119受容体アゴニスト:消化管と膵臓に存在する受容体であるG蛋白質共役型受容体119は、生物活性脂質と相互作用して、グルコース依存性インクレチンおよびインスリンの分泌を促進する。膵臓のβ細胞からのインスリン分泌を促進し、小腸からのインクレチンGLP-1の分泌を促して血糖値を低下する薬剤。
など














と、多数にのぼり、糖尿病専門医でも対応困難となる可能性もある。種々のデーターを入力し、最適な治療薬をコンピュータで判断するような時代になるかもしれない。
http://www.phrma.org/sites/default/files/pdf/diabetes2014.pdf

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

2014年10月20日 月曜日

食事と食後高血糖 太田明雄先生

2014年10月14日 横浜ベイシェラトン
演題「食事と食後高血糖 -DPP-4阻害薬・SGLT2阻害薬のポジショニング-」
演者:聖マリアンナ医科大学 代謝・内分泌内科 太田明雄先生
内容及び補足「
食事から摂取された糖質のうち肝臓で50%ほど取り込まれグリコーゲンとして100g ほど蓄積される。残りの多くは筋肉で取り込まれ、グリコーゲンとして400gが貯蔵される。
過剰に摂取された糖質は、中性脂肪に変換されて脂肪組織に蓄積される。
しかし、2型糖尿病患者においては、肝臓を通り過ぎた糖の筋肉への取り込み量が減少してしまうため、食後高血糖が生じる。

38人のインスリン非依存型糖尿病患者(標準体重)と年齢を合わせた33人の健常者にグルコースクランプ試験を実施した結果から解析。(DeFronzo RA:Diabetes 37(6):667-687, 1988)
この原因として、筋肉におけるインスリン抵抗性と、インスリン初期追加分泌の影響がある。

参:糖代謝に異常がないとされるボランティア健常成人26例の75gOGTT検査で5時間血糖値とインスリン値を追いかけた研究がある。平均値をプロットすると特に問題はない。

初期インスリン分泌能が低下していると、食後に高血糖となり、1時間値は、200mg/dl超えている。遅れて分泌されたインスリンにより180分後には血糖値は44mg/dlにまで低下していて血糖発作を起こしている。

インスリンの初期分泌能の低下がないが、長時間インスリンがたくさんでないと食後の血糖値を安定させることができない方もいて、この場合にはインスリン抵抗性が内在している可能性があります。240分立った後に55mg/dl血糖値は低下し、この時に低血糖症状を認めています。

通常は、食事負荷に際し初期インスリンの追加分泌がしっかりあれば、食後血糖値の上昇を抑えることができるため、インスリンの後記追加分泌は少なくて済む。

http://www5f.biglobe.ne.jp/~osame/shiminn-igaku-kouza/tounyobyo/3-tonyoubyo/3-tonyobyo-final.html
インスリンの分泌パターンも、インスリン抵抗性のみの耐糖能異常者では、初期の追加分泌能は低下しておらず、立ち上がりは健常人とはあまり変わらないが、血糖を下げることができないため、長時間にわたりインスリンが多く分泌されることになる。
血糖値のピークは正常耐糖能→耐糖能異常→糖尿病となるに従い食後の血糖値は上昇し、そのピーク時間が後方にずれていく。

日本人と西洋人を比較してみると、正常耐糖能症例でもインスリンの分泌量が少なく、耐糖能異常の症例では既に初期の追加分泌能が低下していることがわかる。

糖尿病発症時においては、膵臓のβ細胞の機能は半分程度に低下していると考えられている。

過食や運動不足、生活習慣の乱れ→高インスリン血症→
① 内臓脂肪の蓄積、脂肪肝、脂肪筋
② 膵臓の疲弊:‐%/年→インスリ初期追加分泌能の低下(食事由来の血糖上昇↑)、グルカゴン分泌抑制能の低下(肝臓における糖新生抑制↓)
→インスリン抵抗性:肝臓・筋・脂肪組織での糖の取り込みの低下、肝糖新生・糖放出の抑制低下、アディポサイトカインの分泌亢進が起こる。

血糖のコントロール状態の把握としてHBA1cが良く用いられているが、HBA1cが7.4%の上段の女性の血糖値はおおむね100~150㎎/dlの間で推移し、1~2日に一回200mg/dlを超えるスパイク上昇を認めているのに対し、HBA1cが7.3%の下段の男性は、50~250mg/dlの範囲で変動している。

つまりHBA1cのみで血糖値のコントロール状態、とりわけ食後高血糖の状態を把握することは困難である。
DEODE研究で示されたように、空腹時高血糖よりも食後2時間血糖の高値のほうが死亡リスクが上昇することがわかっている。

HBA1c以外にグリコアルブミン(GA)、1,5-anhydroglucitol(1,5-AG)がある。

GAはアルブミンに糖が結合した割合を見たもので、アルブミンの代謝の時間から2~3週間の血糖値の変動見ていることになる。
HBA1cとの相関関係は、GA/3=HBA1cと考えられているが、血糖変動が反映される時間差やHBA1cとアルブミンの代謝の違いから、この関係式からずれがある場合、以下のような状況が推察される。
GA/3>HBA1c:食後高血糖や最近の血糖コントロールの悪化、甲状腺機能低下症、肝硬変、低栄養
GA/3<HBA1c:アルブミンの半減期が短くなっている状況、甲状腺機能亢進症、ネフローゼ症候群、高インスリン血症を伴う肥満

1,5-AGは食品に含まれている物質で栄養素ではないので、そのままの状態で尿から排泄される。その際に腎尿細管で再吸収されるが、この再吸収の機構で糖と競合する。
したがって、血糖値が高いと尿から排泄される糖が多くなり、1,5-AGの再吸収量が減少し、血中の1,5-AG値は低下することになる。
血糖値と1,5-AGの相関関係を見てみると下図のようになる。

1,5-AG値を評価する際には、1,5-AG値が低下する腎性糖尿、妊娠後期、腎不全、胃切除患者(食後に高血糖となる)、SGLT2投与例では、測定値を評価する際に、注意が必要である。
http://www.dm-net.co.jp/ga-file/kensa/ga01.php

こういった特殊な状況を排除すると、HBA1cと1,5-AGの測定結果から、血糖コントロールの状況をより細かく判定することができうる。

この結果を加味すると、1,5-AG値とHBA1c値の組み合わせで判定することにより、治療のターゲットが決まり、より効果的な薬剤の選定がやりやすくなる。

いろいろな栄養素を食べた際の血糖値の食事開始からの時間変化を見てみると、
単糖類の血糖上昇のピークが30分後ぐらいで、一番急峻で血糖値の上昇も高値となる。
炭水化物接種の場合には、30分~2時間までに上昇し摂取カロリーの90~100%が糖質として摂取される。
蛋白質の場合には、摂取カロリーの約半分程度が糖質となり、食後3~5時間後がピークとなる。
脂質の場合には、10%程度が糖質となり、5~8時間後にピークとなる。

こういった変化を理解していないと、食事をして低血糖を起こすことにもなりかねない。『焼き肉低血糖』といわれる病態がその一つである。特にインスリン依存性糖尿病患者においては、食事のカロリー配分からインスリンの投与量が決まっていることが多く、蛋白質や野菜ばかりを最初に食べることになる焼肉の場合、食事開始3~5時間たってから血糖値の上昇が起こるため、食前に打ったインスリンが効き過ぎて低血糖になる危険がある。
こういった人には、カーボカウントの食事指導が有効である。
http://www.med.osaka-cu.ac.jp/pediat/pdf/reserch13.pdf

食後高血糖を改善するためには、以下のことを患者さんに確認することが有用と考えられる。
① 一週間の献立の確認
② 食事内容:特にラーメン・ライスといった炭水化物同士の食事を避ける
③ 食事時間:朝抜きや、遅い夕食、追加の夜食が悪化要因
④ 間食:単純糖質の過剰摂取を避ける
⑤ 野菜摂取の有無
これらの確認により、自分自身の食事内容の認識ができ、過食の抑制ができ、体重減少につながる。
特に夜遅い食事は、インスリン分泌能が低下していることに加え、カテコラミンやコルチゾールというインスリン抵抗性を惹起するホルモンの分泌が増加しているので、避けることが望ましい。
実際にある糖尿病患者で実際に測定してみたが、21時の夕食で、ご飯150g、野菜スープ、ゴボウ、水餃子で合計560kcalの食事をした翌朝の血糖値が119mg/dlであったのに、別の日の21時に寿司12貫600kcalを接種した際の翌朝の血糖値は190mg/dlと大きく異なる。

朝食後に比べ昼食後は血糖値が上昇しにくく、Second meal effectと呼ばれている。
肥満のある糖尿病患者の食事負荷の検討で、1)朝食ありと2)朝食なし、で昼食後の血糖値の変化を比較すると朝食なしの群で血糖値の上昇が著明であることが示されており、遊離脂肪酸(FFA)が高値であるとインスリンの感受性が低下することもわかっている。
朝食を摂ると、FFAは低下するので、インスリンの感受性が良く、食後の血糖値が上がりにくい。
朝食なしの群でも、アルギニンを静注してFFAを抑えておくと、昼食後の血糖値の上昇が抑えられることが示された。

http://care.diabetesjournals.org/content/32/7/1199.full.pdf+html

食後高血糖を是正するための食品の指標としてGlycemic Index:GI値というものがある。
食品の炭水化物50gの摂取の際にブドウ糖50g摂取に対する血糖変化の比を見るものである。
GI値=食品摂取時の血糖値上昇曲線の面積/ブドウ糖摂取時の血糖値上昇曲線面積×100
一般的には60以下の食品が薦められる。
低GI値食品:大豆16、インゲン24、牛乳39、チョコ40、スパゲッティ49、オレンジ飲料50、バナナ51、アイスクリーム51、トウモロコシ52、うどん55、ポテトチップ56
高GI値食品:せんべい87、コーンフレーク81、粥78、スイカ76、パン75、米飯73、ゆでじゃが73
しかし、ここで注意しておかなければいけないことは、GI値は一つの目安でしかなく、インスリンの分泌能やインスリンの抵抗性の状態により、血糖値の変化が異なってくることである。

食事の順番も大事で、野菜を先に食べることにより血糖値の上昇を抑えることもできる。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000015823.pdf

米国で実施された長期にわたる女性85168名、男性44548名で、食事の内容と死亡率の関係を検討したものが発表された。Ann Intern Med 2010;153:289-298。
この結果を見ると、高炭水化物食のほうが低炭水化物食よりも死亡率が低いことが示されている。
低炭水化物食を動物性の脂肪や蛋白質が多い群と、植物性脂肪や蛋白質が多い群に分けて評価してみると、大きな違いが出た。低炭水化物食を実践する際には、動物性脂肪や蛋白質が多いとよくなく、一緒に摂る食事の種類により、寿命への効果が異なる可能性が示唆される結果となっている。

71346人の糖尿病女性患者に対してフルーツジュースの摂取による影響を見たものがある。
摂取する量が多くなるに従い死亡リスクが増加していることがわかる。

http://care.diabetesjournals.org/content/31/7/1311.full.pdf+html

食後高血糖の状態に対しては、αGI薬やグリニド薬が、推奨される。
DPP-Ⅳ阻害薬ではインスリンの分泌量の変化なく食後血糖値の上昇を抑えることが確認されており、グルカゴン分泌抑制の効果と考えられている。
実際自分たちのデータでは、DPP-Ⅳ阻害薬投与で、空腹時血糖値の変化なく、GAが19.1%から17.0%に1,5-AGが9.8μg/mlから12.9μg/mlに変化しており、この状態を裏付けている。
SGLT2阻害薬単回投与で血糖値の低下は尿糖排泄に依存していると考えられている。しかし、食後血糖値の変化に対して尿糖排泄量には限界がある。
SGLT2阻害薬を単回投与したものと慢性期の血糖値やインスリン値、インスリンとグルカゴンの比を見てみるとInsulin/Glucagon ratioの増加がみらており、慢性的な尿糖排泄により、肝臓においての糖新生が増加している可能性が示唆されている。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3904627/pdf/JCI72227.pdf

投稿者 川村内科診療所 | 記事URL

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